「メッチェ…優しいな、貴公は…」
概要
物語の序盤ではザンスカール帝国のラゲーン基地の司令官として登場した。
階級は中佐で、年齢は22歳。
ギロチン処刑執行人の家系出身で、自らもギロチンによる処刑を行っていた。
常に乗馬用の鞭を携帯している。
序盤での搭乗機はモビルアーマーのリカールで、操縦は部下のメッチェ・ルーベンスに任せ、ファラは指揮のみ行っていた。(第5~14話)
終盤で再登場した際にはタシロ艦隊所属のモビルスーツのパイロットとなり、ザンネック(第40~43話)とゲンガオゾ(第44~47話)といった2機の強力なニュータイプ専用マシンを乗り継いで戦場を駆け抜けた。
そのパイロットとしての研ぎ澄まされた技量は、主人公のウッソ・エヴィンが駆るV2ガンダムを撃墜寸前まで追い詰め、マーベット・フィンガーハットの捨て身の援護がなければ突破出来なかった程の腕前を誇る。
人物像
ザンスカール帝国の軍事組織『ベスパ』に所属する女性士官。
軍人らしく勝ち気な性格で、古よりギロチンの処刑執行人としての血を引く家系であり、オイ・ニュング伯爵の拷問時には両目にテープを貼って無理矢理に目蓋を開かせて卓上ライトを当て、口には閉口出来ないようにマウスピースを固定して喉を渇かさせてリガ・ミリティアの情報を吐き出させようとするなど、非情でドSな人物である。
しかし、本人もまだ22歳と若いため、敵対組織の挑発にあっさり乗っかってしまう短気な面がある。
その一方で、普段は面倒見の良い部分も持っている。
不祥事を起こしたクロノクル・アシャーを諭してチャンスを与えたり、気晴らしに私用で休暇を取って旧バルセロナ市内の港町を訪れた時に、パブで呑んでいる自分を「ラゲーンの空襲で死んだ姉」と間違えたスージィ・リレーンに対しては優しく接し、彼女にチョコレートパフェをご馳走したりした。
ウッソ達にも戦場になるから街から逃げるようにと警告する等、子供を戦争に巻き込む事を嫌うなど、司令官らしい冷静さを持ちつつも、良識的で慈愛の精神を持つ一面も存在した。
腹心の部下であるメッチェ・ルーベンス(CV:森川智之)とは公私ともに最高のパートナーとも呼ぶべき間柄で、彼は序盤でファラの乗るリカールのパイロットを務めた。
そんな彼女も愛するメッチェの戦死、そして上官であるタシロ・ヴァゴ大佐の下した宇宙漂流刑を経て人格が変貌して行くことになる。
劇中での活躍
ギロチンの音
物語には第1話から登場しているが、時系列的な初登場で言えば第3話となる。
序盤は、同じくラゲーン基地へ配属となったクロノクル・アシャー中尉がテストパイロットを務めていたシャッコーを試験飛行中にリガ・ミリティアに鹵獲されてしまう大失態をやらかしてしまった件に振り回される羽目になり、常に気苦労の絶えない人物だった。
そんな中、部下のガリー・タンが戦友のライオール・サバトの敵討ちにと独断で持ち出した試作MSゴッゾーラがリガ・ミリティアの秘密工場を強襲したドサクサでクロノクルがカテジナ・ルースと伯爵の拉致に成功する。
民間人のカテジナはベスパに協力の意思を示して見逃された一方、伯爵はリガ・ミリティアのカミオン隊リーダーとして抵抗分子の拠点を吐かせるべく拷問にかける。
「私はジトジトと苦しめるようなやり方は嫌いでね、伯爵」
「すまない…私もそうだ。私の寿命はもう終わったよ。私をギロチンにかけるがいい。しかし、そんな事をすれば、レジスタンスやリガ・ミリティアのスタッフを更に強固に結束させるだけだぞ?」
「スペースコロニーでギロチンを使った事で、ザンスカール帝国はあっというまに新国家の建設ができたのだよ?その意味を、伯爵は読み違えていらっしゃる…」
「なら、やってみるがいい…!」
ファラが伯爵の挑発に乗った事で、彼をザンスカール本国へ通達することもなく無断でギロチンの刑に掛け、見せしめに処刑内容をテレビで放送までしてしまう。
これはザンスカール軍上層部に事後報告され、早々に問題となった。
その後は気晴らしに休暇を取り、一般人を装い旧バルセロナの街を放浪し、上述の通りリガ・ミリティアの子供達と邂逅するなどしていたが、アーティ・ジブラルタルでリガ・ミリティアと運悪く鉢合わせしてしまい、自らの素性が子供達にばれてしまう。
その後、再びリカールに乗り戦火を交えることとなるが、オリファー・イノエとマーベット・フィンガーハットの乗るVガンダムとの交戦に敗れ、メッチェの気遣いによって脱出ポッドで自分だけは逃がされクロノクルのトムリアットに回収されるのだが、墜落したリカールの機体は爆散してメッチェは戦死してしまう。
脱出しながらメッチェに託された命をどうするべきか考えながら宇宙へ向かうが、上司のカイラスギリー艦隊司令官であるタシロ・ヴァゴ大佐により独断によるギロチン処刑の件を咎められ、宇宙漂流刑に処されてしまった。
「くっそぉおおおおおおおおおお!!!」
この話が『機動戦士Vガンダム』の舞台が地球から宇宙へと切り替わる第2クールの序盤(第15話)であり、彼女もそのまま劇中から退場になるかと思われたのだが…。
超高空攻撃の下
物語も終盤に入った第40話。
故郷のカサレリアに戻ったウッソ達ホワイトアーク隊とハイランドの家族達の休息も束の間、不穏な鈴の音とともに、超高空からお皿に乗った謎のモビルスーツがラゲーン地区を攻撃。
ホワイトアーク隊とリーンホースJr.のMS部隊が交戦し、一度は大気圏外へ追い払うことには成功する。
この時点ではパイロットは誰なのかは分からなかったが、シャクティ・カリンはウッソの自宅の地下にあるコンピューター・ルームへと向かいワード検索により「鈴はギロチンの家系の者が身につける風習がある」という情報を得る。
その情報から謎のMSに乗っていたのは「あの女」ではないかという疑惑をかけながら、謎のモビルスーツ迎撃のためリガ・ミリティアは再び宇宙に上がり、物語は第41話へと続く。
戦場の彗星 ファラ
ラゲーン基地から宇宙へと上がったリーンホースJr.とホワイトアークは大気圏離脱早々に、あの謎のモビルスーツ率いるMS部隊と戦闘状態になる。
「んっふふふ…寄って来る寄って来る。蜂が蜜に寄るように上がってくる。ギロチンの家系が着けなければならない鈴がザンネックの鈴になる。その鈴がマシーンの動きの周波数に連動して私の頭の中に敵の姿を感じさせるんだよ…」
やっぱり、ファラ・グリフォン中佐でした…。
あの宇宙漂流刑から2日目に、すでに精神的限界まで疲弊していたファラは「気が狂うくらいなら」と所持していたナイフで自殺を図ろうとした寸前の所で、秘かにタシロが送った救出部隊により保護されていた。
実はタシロは元からファラを救助する予定で、いずれザンスカール帝国の宰相フォンセ・カガチから組織のトップの座を奪うために行った芝居だったのである。
タシロ艦隊により救出されたばかりの頃はまだそれなりに正気を保っていたのだが、「周りの大人達の都合ごときに自分は宇宙漂流刑にかけられた」理不尽な事実から性格が完全に破綻してしまい、顔も大分老け込み、さながら狂人のように変貌してしまう(スーパーサイコ研究所により“強化”された説もあり)。
復帰後はタシロ直属の部下となり、全身に「ギロチンの家系の者であることを示す鈴」を付けるようになる。
そんな彼女の狂いっぷりを列挙すると以下の通り。
- 宇宙漂流刑前はまずしなかった顔芸を連発する。※彼女は22歳です
- ラステオ艦隊司令のアルベオ・ピピニーデンを『若造』呼ばわりし、ピピニーデンがリガ・ミリティアを倒したら、その後は明確に「叩く」とまで宣言する。
- ザンネックキャノンの射軸に味方兵もいるにもかかわらずキル・タンドンに撃てと強要。
- キルをザンネックのビームを細く絞りすぎた(「メガ粒子砲は粒子一つに直撃されても人間は即死(=味方だって簡単に死ぬ)だから」という至極当然な理由なのだが)のを理由に 「お前はメッチェの代わりにもならん」 と射殺。 ※そもそもファラの要求自体が滅茶苦茶であり、生前のメッチェどころか漂流刑前のファラ本人でも多分やらないだろう。
- キスハールのリグ・シャッコーが顕在なのを見て安堵するカリンガに 「白いやつは何でも使ってくるんだ。敵のモビルスーツを使うなど得意なところなんだよ」 と対立煽りに持ち込む。
- ウッソに対して「可愛い坊や」と執拗に追い回し、戦慄させた(本人によれば遊んでやっているとのこと)。
- 油断していたシャクティを高笑いしながら誘拐する。
- シャクティをアドラステアに連れていくシーンも中々に狂気。 「んふふ…姫様…姫さんか…姫さんや…あははははは!」
この様に、後のカテジナ・ルース※にも匹敵する程の「狂人」となり、その暴れっぷりは『機動戦士Vガンダム』に登場する「エキセントリックな女性キャラ像」というものを強烈に視聴者に対して印象付けさせたのである。
※カテジナが我々の良く知るカテジナさんになるのはファラの退場後である。
女たちの戦場
ファラはその圧倒的なプレッシャーと技量でウッソを苦しめるが、エンジェル・ハイロゥ攻防戦に於いてゲンガオゾでウッソのV2ガンダムと交戦中に、彼の援護に駆けつけたマーベットのお腹にオリファーが授けた「新たな生命」を宿していることを察知して動揺する。
「みんなギロチンで、一刀両断にしてやる!…何ぃ!?.…なんだぁ?ひとつの命の中に、ふたつの命があるというのか!?なぜだ!!」
マーベットのVガンダムからブーツとハンガーを受け取ったウッソは、V2ガンダムのコックピットから接触回線でV1のハンガーをサブコンソロールパネルからのマニュアル入力によるプログラミング操作を行い、リーチを伸ばしたビームサーベルによる奇襲攻撃を仕掛けた。
予想外の方向から反撃を喰らったゲンガオゾはダメージを負い、徐々に追い詰められて行く。
「はっはははははっ!私が隙を見せたって言うのかい坊や!!首を落とせば、命も消えるっ!!そうすれば命の輝きに脅かされる事もなぁーい!!!」
「ギロチンの鈴など捨てれば楽になるんですよ!ファラさん!!」
立て続けにV1のブーツによるミサイルポッドでの爆撃を喰らい、ファラは一瞬怯んで後退した隙にV2ガンダムのビームサーベルをゲンガオゾのコックピット付近に突き立てられたのだった。
こうして、ついにゲンガオゾは撃墜された。
「あれも光…命も光…ギロチンの刃も光る……!タシロぉーっ!!後はお前一人でやってみなぁあああ!!」
漸く、彼女も愛するメッチェが待つ処へと行くことが出来たのである。
「メッチェ…今、行くからね…」
死に損ないのファラ
終盤の狂いっぷりが何かと目につくファラであるが、彼女が特に悪意ある態度を見せたのは以下の4人である。
- 『最高のパートナー』だったメッチェには到底及ばない、新たなパートナーのキル
- ウッソと生命線のような関係にあるシャクティ
- ピピニーデンと最良の腹心とされているルペ・シノ(実際は違ったが…)
- 戦後に結婚する予定だったカリンガとキスハール
この様に「仲睦まじく見えている男女」にまつわるものばかりで、いずれも「二人の間柄を壊そうとしている」ような意図が見られる。
それら言動からは「メッチェがもうこの世にはいない喪失感」の裏返しの感情が読み取れ、どこか物悲しさを感じさせる。
実際の所、ファラが狂ったのは宇宙漂流刑によるいざこざだけではなく「メッチェを失い自身の存在意義を失ったからではないか?」という説も濃厚になっている。
刑から生き延びた彼女は「死に損ない」と陰口を叩かれていたが、本人こそが死に損ないである自覚があったからこそ、自分の都合だけで宇宙漂流刑にかけたタシロに恨みもしなかったのかもしれない。
そのような一人の女としての複雑な感情をウッソから 「貴女は“女性”でありすぎたんです!」 と看破され、死の間際には「ギロチンの鈴の音」から開放されて元の理性的な人格に戻る描写があるなど、他のエキセントリックな女性キャラ達よりは幾分か救いのある最期を迎えた(いかんせんこの『機動戦士Vガンダム』という作品は女性であろうがビームで全身を蒸発させられたり、全身を強打して命を落とすという、「女」としてどころか「人」として扱われないような末路のキャラが非常に多い)。
その最期の言葉は 「メッチェ…今、行くからね…」 と終盤の苛烈な性格とは裏腹に穏やかな口調であった。
小話
- TVアニメ本編では明言されていないが、復帰後の狂いっぷりやサイコミュ兵器搭載型のザンネックやゲンガオゾといったMSを乗りこなす描写から、小説版やゲーム等では強化人間として扱われることが多い。
- さらには小説版では明確にタシロの愛人として書かれているなどさらにおぞましいことになっている。
- 演じる折笠愛氏は、リガ・ミリティアの一員であるネス・ハッシャーも演じている。
- 後番組への出演はなかったが、新機動戦記ガンダムWでは主人公の一人であるカトル・ラバーバ・ウィナーを演じている。まるで正反対の人物のように見えるが、慕っている人物の中にメッチェと同じ中の人のアブドルがいたり、劇中で戦略兵器を携えて闇堕ちした姿で再登場するなど意外と共通点も多い。
関連イラスト
←漂流刑前 漂流刑後→
←ゲンガオゾ ザンネック→
関連項目
マシュマー・セロ、キャラ・スーン:物語前半に登場し、中盤出てこなくなるが、後半再登場した際に強化人間化され、性格も一変した先達。