「命のやり取りをした気分はどう?」
「怖い人だけには、ならないでね……ウッソ」
概要
before | after |
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地球の中央ヨーロッパ、チェコ共和国のプラハに設けられた特別居住区ウーイッグに住む17歳の少女。この頃の地球は自然保護の名目によって居住が厳しく制限されており、カサレリアに違法居住するウッソ達とは違い、地球連邦政府に正式に居住を認められた特権階級のアースノイドである。
主人公であるウッソ・エヴィンとは文通友達であり、彼が強い好意を寄せるほど美しい容姿をしている。特別居住区ウーイッグでは豪商として馳せているルース商会の一人娘として何ら苦労のない生活をしていた。
しかし、家庭環境は決して満たされたものではなく、母は家の外に男を作って度々家を空け、父はそれを知りながらも仕事に邁進するふりをして目を背け、あまつさえ近郊地域に進出してきた敵組織ベスパとの取引を持とうとするなど、手本にできる大人とは言えなかった。そしてまた、ウーイッグという特別区において、既得権益にしがみついて地球の資源を浪費しながら生きながらえる人々の有様に対しても、思春期の少女らしい(感情的な潔癖さに起因する)嫌悪感を抱きながら暮らしていた。
宇宙世紀0153年4月5日の夜、ベスパによる空襲行為によってウーイッグが火の海と化し、それまでの生活は一転。激動の運命の中、自らの意志で進むべき道を選択していく事となる。
人物
結論となってしまうが、カテジナ・ルースと云うキャラクターの心理は誰にも理解できないのである。
1994年5月発行の『ラポートデラックス 機動戦士Vガンダム大事典』に収載されている『総監督 富野由悠季インタビュー』において、アニメック編集者・小牧雅伸氏からの「他のキャラクターには無理矢理にも感情移入することができないことはないのですが、カテジナだけは理解することができませんでした。…あれ何だったんです?」との質問に対し、富野監督はこう答えている。
「それは分かるはずないよ。ラストシーンの必殺兵器ですから。別に心変わりしたわけじゃないよ。だって心変わりするモーメントってないんだもん。もともと何も考えてない女だから、あれは心変わりでもなんでもないんです。」
「だってクロノクル程度の男にケロッと行っちゃうようなつまんない女だったんだよ。それだけでしょ。それで何故いけないの?そういう人だっているでしょ、いいたかないけど。ただ、そういう時に一つ重要なことがあるんだけど、書いてもらうと困るのよね。」
「クロノクルがいい男だったら好きになっても誰も文句言わないのよ。クロノクルがいい男を演じていれば、カテジナがクロノクルに惚れて何故悪いって言えますよ、僕も。やっぱりプランニングが深すぎたんだよね。」
上記のインタビューで富野監督がコメントした内容の通り、『機動戦士Vガンダム』の劇中においてカテジナは最初から最後まで、特に何も考えていないのだ。
今や『ガンダムシリーズ三大悪女の代名詞』という盤石的地位を築いたカテジナさんであるが、物語序盤からこのように凶暴でヒステリックな性格だった訳でもなければ、急におかしくなった訳でもない。
では実際はどんなだったのかというと、全51話という長い話数を使って、それはそれは丁寧なまでに段階を踏んで狂っていったのである。
地球連邦政府の庇護の下で不自由なく暮らしながら、その政治体制には嫌悪を抱き、しかし何かしらの活動を起こす勇気も行動力も持ち合わせてはおらず、現実的な解決策を示し活動している大人達には文句を言う。
そもそも、彼女の豊かな暮らしは父(テングラシー・ルース)の働きによるものであり、父がベスパとのパイプを築こうとしていたのも、一人娘である彼女の安全を考えてこそであったのだが、その愛情すら理解せず「現実から逃げている」と軽蔑するのみであった。
しかし、己の優れた容姿と学の高さに自覚があるため「自分には何かができるはずだ」と夢見てただ日々を浪費し、その浪費を自覚しているが故に無性な苛立ちを常に抱えて生きていた。
ウーイッグの空襲によって住処を失った所をリガ・ミリティアに救助され、ザンスカール帝国という「復讐すべき敵」という目前の目的と、帝国に抵抗する勢力であるリガ・ミリティアという味方を得たが、そこでは自分から見てただ“鬱陶しい理想を押し付ける子供”でしかないウッソがもてはやされ、また戦地司令であったオイ・ニュング伯爵の「いかなる犠牲を払ってでも目的を遂行する固い意志力」は、彼女の期待していた変化と充実をもたらすものではなかった。
しかしそれからわずか5日後の4月10日。またも偶然によって出会ったザンスカール帝国の尉官クロノクル・アシャーは、『女王の実弟』という特別な立場にあり、カテジナが望めばラゲーン基地での身分の確保、サイド2(ザンスカール帝国本国)への同行、彼の秘書官(もどき)としての立場、あまつさえモビルスーツすら与えてくれる「白馬の王子様」であった。
更にクロノクルは、姉(女王)マリアと姪(女王の実子)シャクティの再会を映像に収めるなど、“自身の派閥”を形成する野心すら披露し、カテジナにとって彼は「あるいは将来的に自らこそが帝国の『女王』となれるのではないか」と云う夢想すら抱かせる男に映ったのだ。
このため、元々何ら主義主張を有していなかったカテジナは、クロノクルという恵まれた存在のパートナーとなる道を選択した。
カテジナの最初の変化の兆しが表面化したのがザンスカールに攫われたカテジナとウッソが再会する第9話。
この時からクロノクルになびき始めた事を表明し、ウッソ最初の「おかしいですよ!」が出る。
だが、カテジナはこの頃はまだザンスカールに完全には靡いていなかったため置き手紙を残していた。
「ザンスカールの動向を探るスパイとして活動する」と…。
次に動きが見えたのが、ジブラルタルでウッソと再会した第14話。
第9話で残した置き手紙の内容が判明したのは実はこの話なのだが、この時彼女は「リガ・ミリティアも立派な軍隊じゃない…」とウッソを完全に見限る姿勢を見せている。
しかし、ウッソに対する気遣いが全く無かった訳ではなく、ウッソに「あなたが本当に守るべき人間はシャクティ(だからこそ自分にはもう構わないで)」と本心を見抜いた指摘をしている。
そして、物語は宇宙に移行。
衛星軌道上から地球上を狙い撃ち出来るビッグキャノンである戦略機動要塞カイラスギリーを巡り、ザンスカール帝国軍とリガ・ミリティアによる激しい艦隊戦が繰り広げられる中、宇宙に投げ出され漂流していたところをザンスカール軍の艦に救助され保護されていたシャクティとカテジナが再会した第21話。
この頃になるとカテジナは完全にザンスカール側になっていたものの、戦火の飛び交う中わざわざ生身で宇宙に赴き、コニー・フランシスが乗る戦闘中のガンイージにワイヤーによる接触回線で「シャクティ達が無事であること」を伝えに行くなど、ウッソに心の救いを与えるくらいの優しさはまだ残っていた。
だが第26~27話で自らもクロノクルの力となるため(白馬の王子と対等とならんとする、戦乙女を夢見て)「モビルスーツに乗って戦う身」になるとそれすらも揺らぎ始める。
自分も武力を振るう側に立ったことで今まで以上に感情をむき出しにした性格となり、マリア主義やギロチンの全肯定という危険思想に徐々に染まっていく。だが戦場に出る度、自分が“鬱陶しい少年”と断じたウッソが彼女の行動の過ちを正そうとするかのように立ち塞がる。
「これがあなたの顔、これがウッソの顔なのよね…。思い出というものは、遠くなってしまうから宝にもなるというのに!あなたという人は、ピーチャカと動きまわって!」
今まで「私のことは構うな」程度だったウッソへの感情は「私の眼の前に現れてはマリア主義の邪魔をする排除すべき敵」へと変化したことで焦り、怒り、そしてなお満たされない苛立ちを叩きつけるようにしたものへと変化していく。これまでカテジナを追う側だったウッソは、逆にその場その場でただ自身を肯定するためだけの、支離滅裂な主張を繰り返すカテジナに執拗に追われる側になってしまう。
「ギロチンは、あなたたちのような人を黙らせるための、必要悪だということもわからずに!」
「カテジナさんおかしいよ!おかしいですよ!!」
ただしウッソを殺すか殺さないかに関してはまだ迷いがあり、初陣ではウッソを平然と殺そうとしていた一方、次の第28話ではいざ本人を目の前にすると殺すのを躊躇い「ニュータイプ」としてザンスカールに保護を促そうとしていた。
しかし第31話にモトラッド艦隊旗艦となるバイク戦艦アドラステアが完成した事で、第34話から「地球クリーン作戦」が執行されると、彼女自身もアインラッドでヒトを轢殺する戦列に加わるという、引き返す事の出来ない場所にまで来てしまっていた。
上述した通り、確固たる信念も主張も彼女は持ち合わせていないのだから、『マリア主義=カガチのプロパガンダ』にあっさり染まってしまうのも当然と言えば当然の帰結である。
ついでに言えば、マリア主義は「女性優生思想」なので、もともとその傾向と虚栄心が強かった彼女にとってはこの上なく都合の良い、居心地の良い思想であったのだろう。
「腐らすものは腐らせ、焼くものは焼く!地球クリーン作戦の意味もわからずに!」
とどめに、第36話で自分が生け捕りにしたウッソの母親であるミューラ・ミゲルが、ラステオ艦隊司令であるアルベオ・ピピニーデンが策謀した非人道的で破廉恥極まりない人質作戦に利用され不慮の事故により死亡してしまったことで彼女の精神は崩壊の一途を辿り始める(ただし、その直後のクロノクルとの会話では母親が押しつぶされる瞬間を目撃してしまったであろうウッソの心情を慮り、彼に同情し、救出を執拗に妨害した自らの行いを悔いているような複雑な表情を浮かべてはいるのだが…)。
「たとえ人質が死んでも、渡すわけにはいかない!」
「おかしいですよ!カテジナさん!!」
そこから暫く間を置いて再登場した第46話、クロノクルとともに最早何の根拠もなくザンスカール帝国の最終兵器である巨大リング・サイコミュシステムのエンジェル・ハイロゥの存在をひたすら正当化するだけの傀儡同然の存在となり、自分達の考えを正しに来たシャクティ・カリンに対して 「とうにおかしくなっている!」 と本人もその自覚がある発言をしている。
「カテジナさんまで、カガチに取り憑かれておかしくなっているんですか!?」
「とうにおかしくなっている!」
「エンジェル・ハイロゥのおかげだとは思いませんか!?」
「お前たちのせいだよ!お前たちのような子供がっ!私の目の前でチョロチョロしなければ!!」
さらにシャクティが叔父であるクロノクルに銃を向け発砲までしたことに対し、愛する男を傷つけられた腹いせから怒りの腹パンをシャクティに喰らわせて気絶させるほどにまで苛立ちがむき出しになっていた。
同時に『モトラッド艦隊司令』という立場から踏み出す事が無く、“姉の庇護”にあってなお自己保身に戦々恐々とするだけのクロノクルには、自身の渇望を満たすポテンシャルが無い事実にこの時気付きつつあったが、ウーイッグやリガ・ミリティアといった選択肢の多い環境ですら能動的にアクションを起こせなかったカテジナには、今さらクロノクルから離れるという選択肢を選ぶには時すでに遅しの状態。
「そうだよ…そそっかしさではなく、真の強さを私に見せて欲しいのよ!」
それでも、この時点ではまだカテジナは「真面目系クズ」の範疇ではあったのだが、これらの暴力的でヒステリックな行動は元々戦場では高揚しがちな危険な性格から察するに、次に戦場に立てば間違いなく彼女は「完全に壊れる」と云う予兆でもあった。
天使の輪の上で
第49話、ザンスカール帝国の本懐である最終兵器エンジェル・ハイロゥを巡る攻防戦において、最新型試作モビルスーツであるゴトラタンを与えられ、とうとう自らの内面に潜んでいた狂気を臆面もなしに全開にして残虐行為をしては喜んで開き直る我々のよく知る「カテジナさん」が降臨する。
そして、なおも自分のこれまでの選択が正しかったことを証明すべく、悪鬼か阿修羅のごとく戦場を駆け抜ける。
「えぇい!モビルスーツが邪魔をする!……!?戦場に静止している部隊がいる!?何がいるんだ…?判るんだよ!私には!!」
ウッソ達リーンホースJr.のモビルスーツ部隊の気配を感じ取ったカテジナはゴトラタンのメガビームキャノンで威嚇し、急襲を仕掛ける。
「正義をふりかざしているつもりの子供などっ!消えろっ!!」
カテジナはエンジェル・ハイロゥを防衛する近衛師団を率いて、要塞に侵入せんとするウッソのV2アサルトバスターガンダムに迫るが、そこにシュラク隊のユカ・マイラスが駆るVダッシュガンダムヘキサが援護に現れる。
「特攻する気か!?ゲートには近づけるな!墜ちろ!!」
「マーベットが私たちの子供を産んでくれるってことの意味!アンタらには解らないよっ!!先に逝った連中に、このことを伝えに行かなきゃならないんでね!!」
「ユカさんっ!ダメだぁ!!」
『坊や!ぼやぼやしていないでリングに突入しなさい!!』
ユカの犠牲によって血路を開いたウッソはついにエンジェル・ハイロゥの要塞内部へと進攻する。
これを防げなかったザンスカール近衛師団のネネカ隊に対し、カテジナは罰と称して裸同然の格好をさせて「捨て駒」として使う事で、ウッソを精神的に動揺させる非人道的な作戦を企てるのだった。
「自分の隊の者が全員女だから、こんな格好にさせたのでありますか?」
「リングの中なら左右の部屋には数万のサイキッカーが祈りをあげているのだ。身体の痛みを感じつつ戦わなければ、サイキッカー達を殺す様な戦い方しかしないだろう?」
「──確かに…」
「それにネネカたちは、身体を張ってエンジェル・ハイロゥを守るとも言ったのだ…」
「…分かりましたっ」
「この戦法は、絶対に白いヤツに勝てる!」
「絶対に…で、ありますか?」
「ネネカたちのその美しい姿は、白いヤツのパイロットを幻惑させる効果があるんだよ……ことに、あの坊やにはね……」
カテジナの目論見は的中し、際どい水着の女性たちが武装して乱舞する異様な光景と、生身の女性をモビルスーツで殺してしまう残酷極まりない状況にウッソは精神が疲弊して行く。
更にカテジナは「ダメ押し」として鹵獲したガンイージを使って襲いかかる。
「ウッソ!!」
「カテジナぁ!パイロットのやることじゃないっ!!」
「少しは迷ったか?信念を貫く子供など、薄気味が悪い!」
「こんな…こんなにも汚い手を使う人に、僕は恋などしませんよ!」
「じゃあ、私を殺してごらぁん?坊や!」
「そんなの汚い!卑怯ですよ!!消えて…消えてくださいっ!!」
余りのカテジナの極悪非道な仕打ちに対して、ついに堪忍袋の緒が切れてV2ガンダムのビームサーベルを振り下ろしたウッソの行為にカテジナは驚愕するも、寸前のところでガンイージのコックピットから脱出した彼女はビームサーベルのメガ粒子により傷付きながらも一瞬だけ寂しげな表情を浮かべ、そして満足げに狂気の笑い声をあげるのだった。
「私を殺そうとした…!?幻を振り切って、私のことまで振り切ったか……ふふっ、あははははははははは!!」
憎しみが呼ぶ対決
続く第50話、カテジナはエンジェル・ハイロゥから聴こえてくる「シャクティの歌声」に対して苛立ち、あろうことか腹いせとばかりに自軍のエンジェル・ハイロゥに向けて砲撃を仕掛ける。
「戦場で歌が聴こえるだと!?ふざけたことを…!くっ…黙れぇっ!カガチのリングめっ!!」
これを見たシュラク隊のフランチェスカ・オハラは謀叛行為だと勘違いして同盟を求めようとゴトラタンに接近してしまうが…。
「そこの!味方をするつもりのキャノン!……何っ!?ケ…」
不意にゴトラタンのメガビームキャノンの砲身で殴り飛ばされたフラニーのVダッシュガンダムヘキサは爆散してしまう。
「フラニーを殺ったね!!」
「遅いんだよっ!!」
フラニーの仇討ちとばかりに突撃してきたミリエラ・カタンのVダッシュガンダムヘキサをも易々とゴトラタンの頭部ビームカッターで貫き、こうしてカテジナは手練れのシュラク隊メンバー二人を呆気なく惨殺してしまうのだった。
「ええいっ!歌声がますます強くなるっ!!この胸を抉る様な煩さはっ!…シ、シャクティ!?そうか、お前がやってるのかっ!!どこまでもどこまでも私をバカにしてぇっ!!!」
怒りが頂点に達し、キールームにいるシャクティの殺害を決意したカテジナの前に、彼女の幻影が現れる。
『カテジナさん』
「あぁっ?」
『貴女が還るところは此処ではありません』
「…ウッソ!?」
こうして、エンジェル・ハイロゥの内部に潜入していたウッソと対面し、彼に有り余る憎しみをぶつけるのだった。
「ハロ!この人は撃っちゃいけない!カテジナさん!貴女はカガチのやることが本当は正しいと思ってるわけじゃあないんでしょ!?」
「そうだよ坊や!私はね、クロノクルという巣を見つけたんだ!なのにお前とシャクティは、それを嗤った!チビのくせにっ!!」
「ウーイッグのカテジナ・ルースさんが、そんな誤解をするなんて!」
「クロノクルは私に優しかったんだ!それをっ!!」
「だったら!僕のようなチビは放っておけばいいんです!!」
この「天使の輪」の上で、徹底的に叩きのめし打ちのめしても、まだ自分への未練を示すウッソを利用して、今度こそ“自分の女としての価値”を証明するため、カテジナは戦場でウッソのV2ガンダムと対峙したうえでクロノクルを呼び出した。
「クロノクルっ!!来いっ!!!」
まるで、「この戦争が全て自分のための争いだ」と言わんばかりに、クロノクルにウッソとの一騎打ちをけしかけるのだった。
カテジナの「優しさに包まれた深い悪意」の思念によって、ウッソのV2ガンダムとクロノクルのリグ・コンティオは互いに憎しみをぶつけ合うように激戦を繰り広げるのだったが…そこにコニー・フランシスのVダッシュガンダムヘキサがウッソに加勢すべく戦闘に割って入った。
「ウッソ、手を貸すよぉ!お前を守ってやれるシュラク隊は、あたし一人になってしまったよっ!!逃がすかぁっ!!……うっ!何ぃ!?ううっ…こ…こいつ!女だとぉ!?」
「駄目だよ…クロノクルとウッソの戦いに他人を入れはしない…」
「…声が聞こえる…!女の声が…!」
「この戦いはねぇ…二人の男が私を賭けて戦っているんだ…だから邪魔はさせないんだよ!!」
ウッソを援護すべく駆け付けたコニーのVダッシュガンダムヘキサをもゴトラタンのビームライフルによる狙撃であっさりと撃破し、シュラク隊をついに全滅させたカテジナは高揚し、狂気と憎しみで満たされた戦場に吼える。
「戦え…クロノクル、ウッソ……私の手の中で戦いなさい…勝った者を、私が全身全霊をかけて愛してあげるよ……うふ、うふふ、あはははは!あははははは!!あははははははは!!!」
天使たちの昇天
そして、最終話となる第51話、「勝った方を全力で愛してあげる」と語りながらも、一方的な理由と共にクロノクルを援護してウッソのV2ガンダムを追い詰めるカテジナであった。
「取り合うんなら全力を尽くしてやっておくれよ…」
「カテジナさんかっ!?ううっ?」
エンジェル・ハイロゥが分解を始めた異常な状況も重なり、ここまではカテジナの目論見通りクロノクルが優勢であったが、彼女の身勝手な行為は、ウッソを援護すべくガンブラスターで戦いに割って入ったオデロ・ヘンリークとトマーシュ・マサリクによって阻害される。
「こいつらぁっ!!」
トマーシュとはぐれ、単機で必死にゴトラタンに食い下がるオデロに対して、エンジェル・ハイロゥから発生した「暖かい安らぎの光」であるウォーム・バイブレーションを浴びたカテジナは一瞬だけ動きを止めるも、彼女は精神が安らぐどころか苦痛を感じて吐き気まで催すのであった。
「なぜ離れない!?なんだ?この光は…?うっ…!気持ちが悪ぃ……くっ…なんだ!?」
「う…動きが止まった?やるんなら…今だけど…」
「くっ…くうぅっ…!この光ぃ!人を逆立てるぅっ!!!」
無抵抗の相手を前にして攻撃を躊躇うオデロに対し、カテジナは「シャクティに愚弄された」と感情を逆撫でされて激昂し、怒りに任せてゴトラタンのビームトンファーで目の前のオデロ機を斬り裂き蹴り飛ばして撃墜する。
しかし、そんな精神をオーバーロードさせ鬼神状態とまで化した彼女の願いも虚しく、「自分の人生の全てを捧げた男」であるクロノクルが駆るリグ・コンティオはウッソのV2ガンダムの光の翼によって切り裂かれ、更に束ねた二本のビームサーベルの長大なビーム刃を突き立てられて地に落ちてしまう。
「やったなっ!白いヤツぅっ!!」
「荒んだ心に、武器は危険なんです!クロノクルさん!!」
「バカなっ!?私はこんなところで止まるわけにはいかないのだっ!!」
この連続攻撃によりリグ・コンティオの機体は破壊され、その反動でコックピットから投げ出されて落下し、エンジェル・ハイロゥの外壁に叩きつけられたクロノクルは死亡した。
「クロノクルっ!!!」
「姉さん…マリア姉さん!助けてよ!……マリア姉さん…!」
カテジナの悲痛な叫び声が響くなか、クロノクルが今際の際に助けを求めたのは皮肉にも恋人のカテジナではなく、姉のマリアであった。
クロノクルは死んだが、カテジナのゴトラタンは執拗にウッソのV2ガンダムを追撃してくる。
「何を盾に使ったってっ!私には見える!」
その時、分解し上昇を始めたエンジェル・ハイロゥのリング片の二つがまるで狙ったようにV2ガンダムを挟みこんで身動きを封じてしまい、そこにゴトラタンが突入し組み伏せてきた。
「私が好きなんだろ、ウッソ?ずっと愛していたんだよね?」
「な、なんです…!?」
「私も、君のような少年にこんなに想われて…とっても嬉しいわ…」
「オオオゥ?ニアミスノテキダ!!」
「カテジナさんだ…」
カテジナは観念したかのようにゴトラタンのコックピットハッチを開け、V2ガンダムのウッソの前にその生身の姿を晒した。
「死ぬことなんてありませんよ!もう、戦争は終わったはずなんです!」
「どうしようもないでしょ?こうまで君と戦ってきた私は、クロノクルの処に行くしかないのよ!だったら潔く…君の手で…この私をっ…!」
ウッソに対して自分への殺害を懇願するカテジナだったが、それらは全て彼女の演技であった。
「甘いよねぇ、坊や!!」
抱きついてウッソの脇腹をナイフで刺したカテジナだったが、ナイフの刺傷は奇跡的にウッソの内臓を避けており大事には至らなかった。
「まったく…!」
「ムグウウッ!ウッソ!スピードガアガッテルゾ、イソイデー!」
「しぶといっ!!」
「クロノクルっ!白い奴を手向けにしてやる!そしたらっ!!」
ゴトラタンに戻り「クロノクルへの手向け」とばかりにV2ガンダムをビームライフルで狙撃するカテジナだったが、何故かビームは外れてしまう。
「外れた!?なんでぇっ!!?」
自己肯定と虚栄のための最後の“柱”たる男を失ったカテジナは、最早戦争の勝敗も帝国の興亡など一切が関係なく、ウッソがシャクティを救出するその瞬間、自分を嘲笑ったと敵視する二人の子供を消し飛ばすためにゴトラタンのメガビームキャノンの予備機を手にエンジェル・ハイロゥのセンターブロック真下で待ち伏せる。
「待ち伏せですよ!?カテジナさん!そこまでやるんですか!!」
「来ると思ったよ!甘ちゃん坊やは、この艦が沈めば、この艦もろとも皆が幸せになるんだろぉ!?」
だが、ウッソのV2ガンダムは何かに導かれたかのように、センターブロック対面へと降り立つ。
しかしカテジナにとってもまた、此処に至るまでに味わった苦痛から、ウッソの到着さえも予測の範疇としていた。
メガビームキャノンを頭上、すなわちシャクティが祈りを捧げる位置へ最小出力で射出し、わざと船体の対ビーム・コーティングによって弾かせる事で、ウッソへと【反撃・回避の挙動を見せたならばシャクティを撃つ】という、自爆を前提とした警告を行うカテジナ。
そしてウッソはただ、全てを受け入れるかのように武器を捨て、V2ガンダムをゴトラタンの真正面に直立させる。
「バ、バカにしてっ…!坊主がやること!坊主がっ!!」
さらにV2ガンダムの周りをザンスカール戦争で死んでいったリガ・ミリティアのメンバー達の思念が、まるで走馬灯のように現れては消えていく。
『V2を信じるんだ!』
『ウッソ!』
「まやかすなぁぁぁぁぁ─────!!!」
「ガンダムッ!!」
錯乱したカテジナはビーム砲撃を仕掛けるも、ウッソが咄嗟の判断によりV2ガンダムで発生させた光の翼をビームシールドに取り込んで機体全体を包むように防御をした事によって、ビーム攻撃もろとも彼女の乗るゴトラタンの機体は弾き飛ばされ、その姿を消した。
「テキ、キエタ!ウマクヤッタ、ウッソ!」
少年の無様な命乞いを望んでいた彼女の理性は弾け飛び、瞳に宿した光と共に眩い奔流に消えたのだった。
その年の冬──。
光と共に“己れの全て”を燃やし尽くし、自分自身を含めて何もかもを失ったカテジナ・ルースは、かつて焼き払われ廃墟となった故郷のウーイッグをゆっくりと目指し、雪道を進む。
とめどなく涙を流しながら。
彼女の胸には何が去来していたのか、語られることもなく静かに物語は終わる。
「い、いえね…冬が来ると、訳もなく悲しくなりません?」
「そうですね…」
「ありがとう、お嬢さん」
悪女キャラクターとしてのカテジナ
カテジナ・ルースはガンダムシリーズの中でも屈指の悪女と評されるキャラであり、「ガンダム三大悪女」の話題においては必ずと言って良いほどその名が挙がる。
それゆえ『機動戦士Vガンダム』がTVで放送されていた1993~1994年当時はファンから悪意と軽蔑を込めて「カテ公」と呼ばれたりもしていたのだが、その余りにも突き抜けた狂気とドクズっぷりが一周回って妙なカリスマ性を発揮し、近年では人気悪役キャラとなっている。
畏怖を込めて「(おかしいですよ、)カテジナさん」と呼ばれるほどになった。
Vガン勢の登場人物の中で唯一フィギュア化された点から見ても、その人気の高さが窺える。
1994年5月発行の『ラポートデラックス 機動戦士Vガンダム大事典』のインタビューではカテジナというキャラクターの「不幸」について富野監督が本音を語っている。
富野監督「人間って低い位置にいても相手のグレードが高ければ自分のグレードも上がってくるよね。今回カテジナの不幸があるとすれば、まさにそれです。だから最後はカテジナとウッソの個人技で押し込むしかないと。」
「シャアとララァの関係がいい例でね。2,3本やってみて声が入ってキャラが膨らむのとそうでない2つのケースがあるよね。やっぱりシャアの声がああいうふうに聞こえたって瞬間でキャラが化けたってとこはある。だからカテジナが悪いわけではないけど最後はカテジナ一人が狂ってみせるしかないつらさがあるね。」
小牧氏「それが終盤の変更に関係しますか。」
富野監督「それはしょうがない。あの子は本当に不幸だから最後がコンテでああいう落としになった。本当はね、漠然とあったラストは完全にエンジェル・ハイロゥそのものの大団円。それを結局カテジナで取ったのは、泣かず飛ばずのカテジナの不幸な落としでやらない限りカテジナを救えなくなったっていうのが本音です。」
「スタッフに『カテジナで落とす』と言ったら納得してくれました。どっちにしてもカテジナのレスキューはできなかった。じゃあ、あのラストはいけないかっていうと少し違います。ガンダム物のエンディングらしいエンディングで初期通り落とした方が大名作になるかっていったとき、そうじゃなく映画っていうのは今回の落とし方のほうが正当なのかなと思ってます。」
更に、『月刊アニメージュ』1994年7月号に掲載された、庵野秀明氏の熱望で実現した富野監督との対談収録で語られた内容によれば、カテジナがここまで悪役として徹底した立ち位置にいながら、死亡という最期を迎えず零落した姿で人知れず立ち去るラストを迎える結末は、番組2クール目の制作に入る辺りで既に決まっていたという。
庵野氏「クロノクルは今の若者をそのまま反映しているんですか?」
富野監督「そうじゃない、本当にちゃんとしたロボット物の敵役にしたかったの。だけど、それこそワタリー・ギラのあたりでクロノクルがすっぽぬけてしまった。ワタリーみたいなキャラクターで振りぬけちゃいけない。あれを全部クロノクルに持ってこなくちゃいけなかった。それにまだあの頃、ウッソのことがよくわかっていなかった部分があったために、ウッソに集中したまま、12、13話までいってしまったので、クロノクルが完全に抜け落ちてしまった。」
庵野氏「ピピニーデンも余計でしたね。本来、クロノクルに集中すべきキャラクターが分散しすぎて、結局、若い男はどれも立ちませんでしたね。クロノクルには期待していたので残念です。でもクロノクルがああいう男だったから、カテジナさんがああなってしまったのかな、とも思いますけども。」
富野監督「それに関してはちょっと違うんです。カテジナのあのラストシーンというのは、かなり早い段階で構想があったんです。スタッフにもまだ1話のオンエアが始まる前に、キャンセルするかも知れないけども、といいながら話している。」
「ところが、みんなかなりそのラストを気に入ってしまったのね。ちょっと映画っぽすぎて、いやかなとも思ったんだけれども……。それがずーっとスタッフの間に残っていて、クロノクルはあれでいい、という風になってしまった部分が、どうもあるみたい。」
庵野氏「カテジナの、あのラストシーンのために犠牲になってしまったわけですね。」
富野監督「それで2クールに入ってすぐ、もう最終回をどうするか、決めなくちゃいけないという時に、ぼくが『もうカテジナは盲目にするしかないね』といったら、みんなもそれだけで、『そうですね、落としどころは他にありませんね』って答えて、そのままポンといってしまった。」
庵野氏「カテジナさんの目が見えなくなってしまった理由というのが、ぼくには今ひとつわからないのですが……。」
富野監督「それはカテジナとクロノクルの関係が、あまり上手に描けてないのでわからなかった、ということだと思います。その辺、もうちょっと描けていれば、それはあり得ることなんだ、ということはいえるんですけど、結局その部分を触っていないので何をいってもしょうがない。」
「ただ、こういうことはあります。カテジナは何としても殺したくなかった。では殺さない代償としてどうするか、といったときに、このくらいのペナルティは負ってもらわなければ困るという、作劇上の整理はあった。」
AM編集者「そのペナルティというのは?」
富野監督「あのカサレリアのウッソを勝たせるためのペナルティとして、うそでも敵になってしまったということで、カテジナだって、自分の中で疑問に思っている部分があるわけだから。それがわかるから、原作者としても、そう簡単に『おまえ死んでくれ』といえないシチュエーションにしちゃったんだから、殺しはしない。けれども敵になったんだから、申しわけないけどひとつペナルティ。だけど、それで劇としては飾らせてもらうから、かんべんしてくれと、そういうことです。」
庵野氏「いやあ、いいのかなあ。」
富野監督「『いやあ』というんだったら、教えて下さいよ。」
庵野氏「盲目にする必要はあまり感じなかったんです。逆にそちらの方が目立ってしまって。むしろ生き残った以上は手がないとか、足がないとか……。」
富野監督「それらのことについては、すべてテレビコードに引っかかるから却下したんです。だから、カテジナも見えないかも知れない、という以上の表現はいっさいしていない。」
「もう少し言えば、ウッソたちの側にもペナルティはあるわけだから、ウッソだって手がなくなっているとか、話としては当然そうだったけども、どうせやるんだったら、きちんとした絵を作りたい。でもそれは許されないだろう。他にもいくつかあったんだけど、どれをやっても今の視聴者には生理的に受け入れられないだろう。」
庵野氏「引っかかるでしょうね。」
富野監督「だけど、本来は引っかからせたいんだよね。それがあれば、カテジナがああいう形で出てきても、お互いがそうなら、庵野さんが感じている“カテジナだけああなの?”という違和感は……。」
庵野氏「作為を感じるんですよ。」
富野監督「……スッと受け入れられたんだろうね。だけどそれは、きっとどれをやってもヤバイぞ、というのと、上手にできないだろうというためらいがあって、カテジナだけで収めさせたんです。」
庵野氏「小説ではカテジナが火傷を負いますよね。あれが好きなんです。」
富野監督「本当はそうしたいんだけれども。でもテレビでは絶対にタブーだから。それにクリーンなことが好きな観客に対して、そういう表現がどこまで許されるのかといったときに、ちょっとね。」
AM編集者「マスコミにおける表現のタブーとして問題になる以前に、視聴者側が生理的に、それを受け入れるかどうかということですね。」
富野監督「全くそういうことですね。そういう意味では、確かに折衷案でありすぎたということは事実です。」
庵野氏「やはりそうでしたか。」
上記のように、富野監督は「物語上のキーキャラクターである彼女を殺したくはなかったが、だからといって今までの所業を考えればペナルティ無しというわけにもいかないため(身体欠損などの目に見えるようなペナルティではないのは子供への配慮と放送倫理上の都合)、作劇上の整理としてこのような末路にした。」と述べており、この富野監督の決断に対してスタッフ達は納得済みで、反対の声は出なかったという。
「死よりも重い罰を与えたかった」「頑張って狂ってくれたカテジナを救うにはこれしか無かった」とも言われるが、これらは上記の富野監督と庵野氏との対談内容が長年に渡ってインターネット上で様々な個人的な考察と入り混じって歪んで伝えられたものであり、番組制作時にはかなり早い段階でこうなることは決まっていたようなので、「カテジナは罰を与えられたわけでも救済されたわけでもなかった」というのが真実であろう。
もっとも、視力を失い、戻る故郷のウーイッグもかつての自身が「こうなって良かった」とまで言い放った焼け野原状態と化し、迎えてくれる家族も友達もいないという状況では、彼女にはどう転んでも暗い未来しかないのは明白であり、文字通り生き地獄に落ちたとも言えるだろうが…。
なお、視力とともに記憶も失ったと言われる事があるが、劇中最後の会話のシーンでカルルの名を聞いて何かを思いだしたかのような描写や、助けてくれたシャクティを「お嬢さん」と呼んだり、彼女に涙を見られて気まずそうな表情も見せていたが、真相は未だに不明のままである。
悲劇のヒロインとしてのカテジナ
1994年当時の『月刊アニメージュ』の記事には「ウッソとクロノクルの2人の男の中途半端な優しさと愛情が逆にカテジナを追い詰めていき、そのカテジナの苦しみを2人は自覚出来なかった為に、板挟みになった彼女は狂ってしまった」との見識が書かれている。
これは、第50話でカテジナを巡って憎しみをぶつけ合うウッソとクロノクルに対してシャクティが言った 「2人の優しさが、お互いを敵にしたのです。生きる事は厳しい事と知ってください」 という台詞に集約されている。
皮肉な事に、カテジナの苦しみを最も理解し、唯一救済しようとしていた者が、彼女が心底憎んで忌み嫌っていたシャクティだったのである。
しかし、結果的に見ればカテジナは「悪役キャラ」であったからこそ、物語を盛り上げる事が出来たキャラクターでもある。
戦闘では客観的な目で見れば間違いなくザンスカール軍でスーパーエース的な存在であったと言える。
初陣でなんとウッソやマーベットを敗走させ援護に来たジュンコ機を撃破しビッグキャノンの直撃を阻止している。
続く第2戦ではウッソと一騎討ちを挑みVガンダムを撃破してコアファイターで敗走するウッソを捕虜にしている。
またウッソの母親を捕虜にしたり、ルペ・シノから隊長の座を奪ったりと戦果を挙げている。
劇中ではV2ガンダムに乗り換えたウッソとも何度も戦い引き分けている実績もあり、終盤では女王直属の近衛師団であるネネカ隊に対して戦場で命令を下す程の権限まで与えられている。
恐ろしいのはまともな軍事訓練を受けていないにもかかわらずこれほどの能力を発揮している点で、年表に基づけばカテジナが宇宙に上がってからリグ・シャッコーに搭乗するまでは一ヶ月もない。
同じくまともな訓練なしでMSに乗ったウッソやオデロ、トマーシュは機械に触れる機会が多かったのに対し、「お嬢様」であるカテジナはそういった経歴など無かったであろうことも特筆に値する。
このことから、Gジェネレーション作品などではファラ・グリフォンと同様に同じく、短期的な強化措置が施されたという設定が加わることが多い。
リガ・ミリティア側を裏切った人物と見られるが、彼女はリガ・ミリティアに保護されただけの民間人であり、戦闘行為に助力はしたものの所属していたわけではない。
マリア主義に同調し彼女自身もそれを望みクロノクルが愛してくれたからこそザンスカールの為に最後まで戦い抜いたと考えると、愛という観点においてはカテジナは義理堅くクロノクルに殉じた人だと言える見方も出来る。
ただし、恋人としてはともかく軍人としては問題行動が多々あり、自国の首都上空でビーム兵器を乱射する(出力を抑えているとする記事もあるが、作中では巻き添えになる市民の映像、もしくはイメージが映る)、月で味方の車両を踏み潰すといった行為を見るに、ザンスカールに忠誠を尽くしたと言っていいかは疑問符が付く。
作中の戦果はこういった無我夢中の戦い方によるところも多く、消耗について兵士から陰口を叩かれるなど味方の人望を失う結果となっていた。
もっともこの点について擁護するのであれば、同じザンスカール軍のルペ・シノですら(人口海洋都市を攻撃するなと忠告されたにもかかわらず)マリア主義の信者ばかりで構成されたザンスカール支配の強いアンダーフックに対してMAドッゴーラで命令を無視しV2ガンダムもろとも攻撃して崩壊させているため、ましてや才能だけで戦っている新兵のカテジナが問題を起こすのは当然である。
そしてウッソもまた問題行動を複数起こしている。だが、ウッソの問題行動は13歳という若さゆえの行動原理によるものが強く基本的にはいい子であった上、オリファーやゴメス艦長からの修正などを経て順応していった。
民間上がりの天才肌の新人&自身が戦争に巻き込んだ負い目と弟子の才能へのベタ惚れが原因で甘やかす師匠のコンビ、と言う形はカミーユ・ビダンとクワトロ・バジーナと言う先例があるが、第三者のウォン・リーにカミーユが手厳しく叱られた事を切っ掛けにクワトロが自らの甘やかし癖を反省、カミーユも後輩のファ・ユイリィやカツ・コバヤシをフォローする自覚が芽生えた事で問題行動は激減していった。
結局ザンスカール帝国におけるマリア主義の「女性優生思想」が女性軍人全般に甘やかしという悪い形で露見したのが一因となっている(ただしLMの情報を吐かせ損ねたまま捕虜をギロチンにかけたファラはさすがに問題視されたが…)。加えてカテジナが暴走していったのは甘やかすばかりで軍人としての教育を施さなかったクロノクルにも非があり、さらにウォンのような「新人の才能を期待しつつも筋を通す事を強要し、師匠にも苦言を呈すことが出来る大人」がカテジナとクロノクルの周りに欠けていた事も不幸だった。
そして何より初恋の相手であるクロノクルがザンスカール帝国のマリア教と云う、所謂「カルト教団」の窓口で、なまじクロノクルの人が良すぎ、かつカルト宗教に対して何の疑いも持たない風見鶏体質だったためにカルト宗教からもそう簡単に抜け出せない底なし沼へとハマってしまったことが最大の悲劇だろう。
さらに死に際になって自身の過ちに気付き、己を取り戻しマリア主義を否定した実姉とは対照的に、クロノクルは姉の死後もマリア主義に囚われ続け、終ぞカルト思想から抜け出すことは出来ず、彼と共依存関係だったカテジナも見事に巻き込まれたオチとなってしまった。
そういう視点から見れば、彼女もまた戦争によって人生を狂わされた悲劇のヒロインでもあるのだ(やらかしがやらかしなのでそうは見られ難いが)。
ウッソとの関係
先述の通り、ウッソからは好意を持たれているが、疎ましく思っている。だが、その一方で、物語序盤における子供たちの年長者的存在、もしくは「年上のお姉さん」として、上記の「怖い人にだけはならないでね」(※)という言葉をウッソにかけたりと、彼の動向を心配して気にかけていたりもした。
また、第1話でウッソが帰還した際、シャクティがウッソを抱きしめるところを見て、ウーイッグの空襲以後ずっとウッソを心配し続けていた気苦労からか、ため息をつきながら「あなたって一体どういう子なの!?」と問い詰めている。
元から問題のある人物だったものの、上述の通り少なくとも物語序盤まではウッソの内面を気遣う優しさは本物だった。
また、ことごとく選択肢を間違えた彼女ではあったが、序盤から何度も言った「あなたが本当に大切な守るべき相手はシャクティなのだから、自分のことなど放っておいてほしい」という指摘はウッソという人間の本質をしっかりと見抜いており、この一点に関しては正しかったといえる。
また、放送当時のアニメ雑誌『アニメディア』1993年10月号では、シュラク隊に囲まれているウッソを見てソッポ向きながらヤキモチを焼いているところを見るあたり、異性として意識している(いた)ようである。
ただし本編でシュラク隊が出てきた時にはすでにカテジナはザンスカール帝国に誘拐されたタイミングだったため、これは劇中ではあり得ない構図である(おまけに、その記事が「バレーボール戦死者続出でシュラクチーム不戦敗」というブラックジョーク極まりないものだった)。
(※)各種媒体は勿論、公式(VHSとLD、及びDVD最終巻に収録の映像特典)でも、キャラクターデザイン担当の逢坂浩司氏から「そう言っていた彼女が(ウッソにとって)一番怖い人になってしまうのは何とも皮肉な話」と突っ込まれまくっている。
搭乗機
- リグ・シャッコー(26~27話)
- ゲドラフ(28~33話)
- ゾリディア(34~36話)
- ゴトラタン(49~51話)
- ザンスパイン(ゲーム作品においての最終搭乗機)
- ガンイージ(49話)※ウッソを仕留める為の罠として搭乗
メディアミックス作品
漫画版
岩村俊哉氏によるコミックボンボンに連載されたコミカライズ作品である。
カテジナはこの作品には一切登場しない。
チラ見せどころか存在に関して言及すらない。
児童向け漫画として『機動戦士Vガンダム』をアレンジする際、話を解り易くするためにヒロインをシャクティ1人に絞りたかったという説が濃厚とされているが、単純に作者が「1年間で12話という連載回数と1話につき24ページという制約」の中でカテジナを描くのが面倒臭かっただけである。
これについては作者の岩村氏がYouTubeで語っている。
カテジナの消滅により、ボンボン版は原作アニメ版とは全く異なる独自路線を走ることになり、作劇に余裕が出来たのか編集者のゴリ押しもあって騎士Vガンダムやギンザエフ大尉、そしてセナやプロストにシューマッハまで出てきたという訳である。
アンソロジーコミックス向けに『機動戦士Vガンダム』を題材にしてことぶきつかさ氏が描いたパロディ漫画作品である。
かの有名な『カテ公』の呼称はこの漫画から発生した。
第1話でカミオン隊の男達からのカテジナ人気に嫉妬したマーベット・フィンガーハットから『カテ公』と名付けられた。
第3話では最早アニメとは似ても似つかない凶悪な面構えになり、カテジナが登場するコマにはキャラクター判別のために小さく『カテ公』と注意書がされている。
最終回となる第4話では、自信満々でネネカ隊をウッソにけしかけるが、際どい水着のお姉さん達に興奮したウッソが「幻覚だ」と開き直ってしまい、ネネカ隊を全員虐殺されて敗北。
続くラストシーンで記憶と視力を失ったカテジナはカサレリアで再会したシャクティ・カリンからワッパに「地獄行きのオートコンパス」として時限爆弾を仕掛けられてウーイッグにも帰れず道中で爆殺されるという壮絶な最期を遂げる。
「カ…カテ公!!この野郎あんだけ悪事働いといてまだ生きてたか!」
「そんな事はスタッフが許してもこの私と視聴者が許すもんですか」
この時にシャクティが心の中で叫んだ上記の台詞は古参ファンの間でも語り草になっている程に有名である。
こうして、このカテジナ爆殺シーンは「Vガン視聴者の1年間の鬱憤を晴らしてくれた!」と、多くの読者達からの共感を呼び称賛されたのだった。
スーパーロボット大戦シリーズ
第2次Gではオペレーターとなり、自軍パイロットとして使用できるのはDと30。ちなみに30ではゴトラタンに乗って来るが、同時に仲間になるクロノクルはどういうわけかリグ・コンティオではなくコンティオに乗ってくる。
α外伝では(原作では生き残ったにもかかわらず)死亡してしまう。
ちなみにαでは精神コマンドに「愛」を持っている。(本作では味方にならないので使うことはないが)
本編中の病的な偏執っぷりを指してか攻略本『スーパーロボット大戦α パーフェクトガイド』では紹介欄に『あなたの愛は歪んでますよ』と書かれていたりする。
小説版
戦闘に巻き込まれ全身火傷を負ってしまった所をクロノクルに救出・治療を受ける。
その後、ザンスカール帝国のモビルスーツ操縦研修と並行しスーパーサイコ研究所で強化人間として処置を受けている。
モビルスーツの操作技術を短期間で習得(作中トップクラスのウッソとクロノクルと並ぶ)、精神的な干渉による会話の描写に加え、オールドタイプを見下す発言、ウッソに対する歪んだ執着と嫌悪、目的のために手段を選ばない卑劣な性格など、情緒不安定性や狂気に近い行動がより多くなった。視力を失いながらも生き残ったアニメとは異なり、最後はきっちりウッソによって撃破され、死亡している。
名前
「カテジナ」という名前は「キャサリン」のチェコ語形。ブルーレイ付属のブックレット収録のインタビューによれば、チェコの作家アルノシト・ルスティクの小説『少女カテジナのための祈り』が元ネタ。なお小説中には「収容所での結婚式」という場面もある。ちなみにこちらのカテジナもかなり激しい性格の持ち主であり、その辺りもキャラ設定に反映されている…のかもしれない。
関連タグ
綺麗なカテジナさん←声優つながり
カテレジーナ/レジ公/おかしいですよ、レジーナさん!←中の人ネタ
ワタリー・ギラ…同作に登場するザンスカール帝国の軍人。彼の名言、「こ、子供が戦争をするもんじゃない……。こんな事をしていると、皆おかしくなってしまうぞ……。」と言う台詞は皮肉にもカテジナにピッタリ当て嵌まる事となった。
クインシィ・イッサー…中の人及び同じ監督つながり。劇中のエキセントリックな言動(まあこの作品の主要キャラは大体、どこかエキセントリックだったりはするが)、同じ監督、同じ声なので視聴者は「カテジナさんの再来か!?」と戦々恐々だったが、カテジナさんとは真逆の結末を迎えた。
アグネス・ギーベンラート:映画『機動戦士ガンダムSEEDFREEDOM』に登場する男が原因で寝返った女性パイロット。こちらも最終的に彼女は生存ルートを辿るが、その結末はまだカテジナより軽くこの先改善の余地があると考えられる。
ケロロ軍曹…中の人繋がりでガンダム、ガンプラが大好きな緑色の宇宙人。
J(爆走兄弟レッツ&ゴー!!)…中の人が同じ金髪キャラだが、元々洗脳状態から出てきたのを主人公達によって救われ次第に独立した考えを持って仲間を増やしていくという完全な対極的位置にある人物。こちらも専用マシンの直線攻撃をビクトリーと名の付いたマシンに完全に受け切られて敗北するという偶然が発生している。
母(あたしンち)…中の人が同じ。長男を阪口大助が演じていて、カテジナさんとウッソが親子役として一部で話題になる。カテジナさんほどではないが色々難ありのキャラクターだが、親子仲は良好。
オウム真理教…本作の放映の僅か1~2年後に日本を震撼させることになったカルト宗教団体。満たされない心を抱えた若者がカルト的な組織に自身の居場所を見つけてしまったことで、やがて決定的に引き返せない道を進んでしまう…という構図が現実になってしまった一例である。本作及び製作者の見識の高さが不幸な形で証明されてしまったといえる。ちなみにそのさらに3年後にはオウムとはまた別のカルト案件で、カテジナのように「惚れた相手がカルト教団の窓口だった不幸からカルトから抜け出せなくなってしまった」芸能人が出てきている。