概要
ベスパが開発した、「地球クリーン作戦」の要となる宇宙世紀史上最高級の傑作サブフライトシステム(以下、SFS)。
スチームパンク作品などに出てくる一輪バイク(モノホイール)をモビルスーツ大にまで大型化したような、SFSとしては特異な外見をもつ(「アインラッド」という名称もドイツ語で「一輪車」を意味する)。
本編登場は第28話でゲドラフ共々各三機がマケドニアコロニーへ投入されたのが最初。地上において二輪車型兵器の運用試験を行っていた、ドゥカー・イク少佐の部隊が持ち帰った、各種データを元に完成へと至った。
機能詳細
外観は巨大なタイヤそのものであり、その内部にモビルスーツを搭乗させる事で運用される。
外輪部には極めて厚い耐ビーム処理がなされているようで、これを高速回転させているため単位時間・面積辺りのメガ粒子接触量は更に小さいものとなっており、前後上下に受けた通常出力のビームライフル程度ならば容易くはじく。当然ながら近接戦闘用のビームサーベル(敵機を爆発させない為の武装)では、全く歯が立たない。漫画作品ではあるが『機動戦士クロスボーン・ガンダムゴースト』において、ジェネレーター内蔵型高出力サーベルの「クジャク」でさえ、外輪部には無効化されている。(例外はV2のビームライフルと『光の翼』で、劇中において前者は第50話でゾリディア搭乗機を一撃で撃墜。後者は1,000mレベルのサイズのビーム刃によって両断した描写が、各話で何度か視られた)。(なお、実弾兵器についての防御力は触れられてないため不明だが、上記の通り高速回転させているためマシンガン程度の小口径の銃なら容易く弾けると思われる。)
搭乗したMSがビームシールドを展開すれば、アインラッドの車軸の様に隙間なく覆い尽くしてしまうため、事実上全方位からの攻撃に耐えることが可能となる。
上記の厚い防御機構に加えて、外輪上部にはビームキャノンとミサイルポッドを備えているため、搭乗MSは、敵機の攻撃に晒されるリスクを負うこと無く、一方的に攻撃が可能となっている。また、タイヤは縦に二分割されるギミックもあり、その隙間から手持ち武器で射撃することも可能。
加えてアインラッドをビームロープで繋いで敵にぶつけるモーニングスターのような使い方も出来るなどその汎用性はあらゆる戦術に対応し、多岐に渡り過ぎている。
さらに、強固なタイヤ外輪部は、移動手段としてのみならず、近接戦における運動エネルギー兵器として機能し、質量と併せた轢殺こそが地球クリーン作戦の本質ともいえる。
当該特徴に関しては、熱核反応炉は直撃により稼働中に反応炉自体が破壊された場合、甚大な核爆発を起こすため、場所によっては『反応炉を爆発させないで行動不能にしなければならない』という、非常に厄介な戦術的制約を全陣営が抱えていた点に対して、アインラッドによる物理破壊であれば比較的安全にMSの撃破が可能であり、地球への核汚染に対する配慮を含めて、ベスパ所属のパイロットは心理面でも大きく優位に立つことができたのである。
宇宙・地上のみならず水中での運用でも効果を発揮する程に汎用性が高く、更に色々な地域で運用されているのを見ると生産性も高い物だと推測でき、また運用を前提として専用開発された機種はゲドラフのみであるが、基本的に15m級であれば機体を選ばず運用可能な点で利便性も優秀だった事もあり、短期決戦を目的とする最前線部隊では、ビームローター搭載機に取って代わり、急速に普及していった。
なお、劇中では各MSが滞空、および空中機動する際には定期的に、外輪部を水平に倒していることから、耐ビーム機構を備えた外輪部を水平回転させることで、ビームローターのようなミノフスキー・エフェクトによる重力下航空効果が得られたのではないかと推察される。このため、成層圏でのエンジェル・ハイロゥ攻防終盤戦においても、多数のベスパ機がアインラッド装備の上で長時間滞空戦闘を行っている。
デメリット
最大のデメリットは、MSの大きな役割である「歩兵」の価値を大きく下げてしまう点にある。「地球クリーン作戦」は“侵攻”を目的としていたため大きく目立つことは無かったが、南米においてカテジナのゲドラフが“停止”する際、ホイールを停める→横方向に傾く→片足を地面に着く、という三手順を踏んでいたように『人型』を捨ててしまった事によって、MSが本来有する柔軟性が損なわれ、拠点制圧、あるいは防衛といった任務には基本的に対応出来なくなる。これ以外にも、市街戦や狭所潜入作戦といった任務も不可能となるため、指揮官は「全体的にスペックを底上げ出来るから」と、何も考えずに配備・使用する事は許されず、戦術に則した運用を心がけねばならない。
純粋な戦闘面においてもやはり、『人型』でないが故に(特に地上戦において)機動が直線的となってしまい、敵FCSの弾着予測に捕まる可能性が高まってしまう。
そもそもビームローターもまた、無限空中巡航という絶大なメリットを有しているため、一概にアインラッドが優れているとは言い切れない……というのは、あらゆる兵器の基本中の基本である。
上記以外にも、ミサイルポッドの配置が機体の真上にある都合上、攻撃を受けたとき誘爆に巻き込まれる危険性がある、専用の機体として開発されたゲドラフ以外は、サイズの都合上重力下では足関節パーツに負担をかける、それらの機体はビームシールドが一つしか無いので片方は無防備等の欠点もあるが、一番のデメリットは、あまりに汎用性が高く、如何なるMSでも運用可能という長所が、同時に敵軍が奪った際にそのまま運用できてしまうという欠点を招いてもいる。事実、頻度は高くは無いが、アインラッドをリガ・ミリティア機に鹵獲され、モトラッド艦隊自体が被害を被るという事態も散発した(この欠点自体はグリプス戦役以前より続く、SFS運用全般における問題でもあるが、今までのSFSは『航続距離を伸ばすサポートメカ』『同時にメガ粒子砲やミサイル等もついた簡易移動砲台』という側面が強かったため、火力が劇的に向上してる本機では尚更この弱点が悪目立ちしている)。
本件については、ゲドラフと並行開発されたブルッケングにおいて、小型アインラッドを折り畳んで携行する事で解消しようという試みもなされている。……が、今度は折りたたみにしたことによる整備性悪化や小型化によって防御面積が狭まるのみならず、質量減少によって轢殺の威力も低下してしまい、結局は一長一短のジレンマから逃れられなかった。
ツインラッド
MSを2機まで積載が可能なアインラッド。
ドイツ語だったらツヴァイラッドだろとかツッコんではいけない。
まぁ、ツヴァイラッド(二輪車)にしてしまうと今度は「バイクにしなきゃおかしいだろ」とツッコミが出るのも想定出来るが…、
語呂合わせとわかり易さも兼ねてこの名称になったと思われる。
運用機体
専用連携機
一般機
敵勢力機
余談
大河原邦男デザイン
本機はガンダムに登場する兵器としては、かなり思い切ったデザインだが、担当した大河原氏は「僕はやはり“これはロボットアニメなんだ”という意識を忘れてはならないと思っている」「タイヤ形のコンセプトは“ドラグナー”の頃に制作サイドから出てきたものなのですが、そのような意見――悪い言い方をすれば障害かな――も利用することを考えなくては、おもしろいデザインは描けないのではないでしょうか」という、プロフェッショナルらしい非常に大人な言葉を残している。(本作に対しては大人でいられなかった人もいる。)
3人のデザイナー
上記の通り、アインラッドそのものは大河原氏のデザインだが、SFSという設定上、V2ガンダム(カトキハジメ氏デザイン)や、リグ・シャッコー(石垣純哉氏デザイン)が搭乗している。
このようなごった煮感が、『機動戦士Vガンダム』という作品を端的に表していると言える。
R/C ザ・タイヤ!
2023年4月、京商エッグからタイヤだけのRCカー「R/C ザ・タイヤ!」が発売。
リモコンひとつで様々なアクションが可能という事で、ガノタからは「リアルアインラッド」として話題になった。
タイヤが単独で直進する様はまさにアインラッド。おまけにスピン機能まで備えている。
Vガン放送から30年かけてとうとう時代が追いついたのである。