概要
宇宙世紀0153年に、ザンスカール帝国が建造した巨大な移動サイコミュ兵器。
その名は天使の光輪を意味する。
戦艦のような形状のコアユニットを、最大直径20㎞もの巨大な5重のリングが取り囲んでいるという女性器のような構造をしており、中心部のキールームには祭壇を思わせるサイコ・システムが設置されている。
リングの内側にはマリア主義を信奉する2万人ものサイキッカーが冷凍睡眠状態でカプセルに格納されており、中心部のキールームでコア・ユニットとなる強力な感応力を有するサイキッカーが祈りを捧げると、このコア・ユニット・サイキッカーの思念を増幅して強力なサイコウェーブを放射する。
本編初登場は41話だが、この頃はユニットリングを展開していなかったため巨大なコインのような形状で、44話から我々のよく知る形態になった。
建造経緯
ザンスカール帝国の宰相であり、実質的な指導者であるフォンセ・カガチは、エンジェル・ハイロゥの機能を「争い無く地球圏を平定させるため」と真実の一面のみを語り、コア・ユニットとして見初めた強力なサイキッカーであるマリア・ピァ・アーモニアに協力させていたが、その真なる機能はサイコウェーブによって地球圏の人間たちから闘争心を忘れさせるに留まらず、強制的な眠りに陥らせ、退化(あるいは幼児化)を経て、最終的には衰弱死に追いやるきわめて非人道的なものであった。
また、小説版によれば、最終目的としてエンジェル・ハイロゥが最大威力を発動することで人類の全てを眠りに陥らせその波動の中で、カガチとムッターマ・ズガン将軍自身もこれ以上の老醜を晒すことなく終わる事が最上だと考えていた。木星から地球圏を観察すれば、この狭い領域で300億もの人類が永遠に生きる事は不可能であり、その事実を歴史から学ばない人類は全て消滅させて第二の進化の道を開くのは自然に対する人類の節度というのである。
この理想を知ったウッソは、「たった一人の老人が絶望しただけで、人類全てが全滅するなんて!」と、カガチの視野の狭さを糾弾し、「生物は親を超えていくものです。親は子を産んで死んでいくものなんです」と、カガチとは異なる答えを示している(ちなみに偶然にもムバラク・スターンも同様の考えを持っていた)。
規格外に強大な本要塞であるが、若き日のカガチはいかなる勢力にも属さない木星船団(地球圏と木星を行き来し、モビルスーツの燃料であるヘリウム3を輸送する)に所属しており、この時代の人脈を用いて、あくまでも中立のジュピトリス級超大型輸送艦によって資材を地球圏に運び込んだため、地球連邦軍がその存在に気付けたのは、作戦決行直前であった。
エンジェル・ハイロゥ露見前の地球クリーン作戦によってザンスカール帝国とは連邦政府が停戦協定を結んでしまっており、リガ・ミリティアに合流したのは連邦軍は上層部の和平に逆らい独自に行動を起こしたムバラク・スターン率いる艦隊(及び同調して集まった各地の部隊)のみという有様であった。
もっとも、エンジェル・ハイロゥの存在を知らされていなかったのは、ザンスカール内ですらごく一部の上層部を除き同様である。
この停戦協定自体が本来の地球クリーン作戦の意図に反するものであったため、同作戦の企画者ドゥカー・イクを指揮官とする元ガッダール隊出身のモトラッド艦隊からは強く反発されており、停戦協定を無視して地球に残りリガ・ミリティアのホワイトアークを襲撃する独断行動を取っている(結果的にガッダール隊はエンジェル・ハイロゥの完成を待たずしていち早く上層部が戦死・投降するという形で全滅している)。そして、これはドゥカーの「地球をバイク乗りの楽園にする」という夢すら、エンジェル・ハイロゥというカガチの真の野望を果たす踏み台に利用されていたに過ぎなかったという証拠である。
それだけに留まらず長らく存在を伏せていたのが裏目に出て、後述のシュバッテン艦隊やアルベオ・ピピニーデン率いるラステオ艦隊など複数の部下からこのエンジェル・ハイロゥを巡ってクーデターを起こされる大規模の内ゲバが発生する原因を作ってしまった。他のガンダムシリーズならここから物語が複雑化してややこしくなるところだがそこはVガンダム、最終的に全員戦死という末路を辿って分かりやすくしている。
実際の所、地球クリーン作戦の段階では開始前にミューラ・ミゲルを人質に取ることに成功したお陰でザンスカール帝国側は最小限の被害に抑えたまま、LM側にV2コアファイター消失、貴重なエースパイロットの戦死、タンピコの核爆発被害、そしてミューラの死亡と自らが取らざるを得なかった行動含め多大な損害を与える事に成功しており、ザンスカール帝国の圧勝に終わっている。そのまま地球クリーン作戦を続行し停戦協定を結ばなければこのザンスカール戦争はザンスカール帝国が勝利していた可能性も十分あったのだ。
そんな一方的優位に傾いていたはずの戦局が、かえってこの長年の計画の一環だったはずのエンジェル・ハイロゥとその準備のための停戦協定によってLMにも逆転の機転を与えてしまい、最終的に覆ってしまったのだから、何とも皮肉な結末である(意図するところは少々違うがウッソからも「この作戦は最初から敗れるもの」と一蹴されている)。
天使の輪の上で
女王マリアがキールームに入り祈りを捧げた事で起動し、地球のみならず、月や他のコロニー(サイド)の住民全てを対象とすべく稼働(小説版では連邦評議会が存在する月のフォン・ブラウン・シティが最初の標的となり、数千万人規模の犠牲者が生じた)。地球圏全体を影響下に置くべく、名実ともにその中心にある地球(月もコロニーも全て地球を周回している)への降下を開始する。
リガ・ミリティアと地球連邦軍第一艦隊の決死の抵抗、そしてタシロ・ヴァゴ大佐の叛乱により、周辺宙域は混迷を深め、マリア女王はタシロ艦隊旗艦・シュバッテンによって連れ去られてしまう。
それでもなおカガチは、己の理想を達成せんがために、女王マリアの娘であるシャクティ・カリンをキールームへと立たせるのだった。
天使たちの昇天
地球の成層圏上層において、リガ・ミリティアと地球連邦軍の連合軍とザンスカールの最終決戦の舞台となり、シュラク隊やオデロ・ヘンリーク、マリアやクロノクル・アシャー、ルペ・シノ、アルベオ・ピピニーデンやタシロ・ヴァゴ、ネネカ隊、そしてついにはカガチなど敵味方数多くの命が散っていった。
最後はキールームのシャクティの「人が次代のために成すべきは、生命を育むに相応しい『場』を作りだす事でありましょう」という祈りに2万人のサイキッカーが自分たちの生命を顧みることなく賛同、あらゆるセンサーをもってしても検知出来ない――物理的には存在していないが、人間には「暖かな黄金の粒子」として確かに知覚できる未知なる粒子『ウォーム・バイブレーション』を発生させながら、エンジェル・ハイロゥはリングが分解、両軍の兵器を巻き込みながらそれぞれが故郷とすべき場所――地球であり、コロニーであり、あるいは第一宇宙速度をはるかに突破して他の銀河の地球型惑星へと飛翔していった。
これらについては、相応の犠牲を出しつつも内部の人類を抱えたまま、別の銀河系に辿り着いたブロックも存在している。
アニメ本編では分解したエンジェル・ハイロゥが両軍を巻き込みながら飛び去って行く描写のみで、それが何処に行くのかは語られる事も描写される事もなかった。上述の詳細な経緯は小説版で触れられている。
最後まで祈りを続けたシャクティは、キールームそのものには生命を維持する機能が無かったため、成層圏上層で死にゆく運命にあった。
しかし、ウッソの呼びかけに応えるかのように、暖かな輝きに包まれV2ガンダムの手のひらへと帰り着いたのだった。
漫画『クロスボーン・ゴースト』
宇宙世紀0153年を描いた漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダムゴースト』では、元はかつての木星帝国の支配者クラックス・ドゥガチと親交があったカガチが木星共和国の代表者であるテテニス・ドゥガチと共に巨大移民船として共同開発したもので、サイコ・ウェーブも本来は大量殺人用の武器では無く無血の暴徒鎮圧用の武器であったと語られている。
しかしカガチは木星共和国内にいる内通者であるエリン・シュナイダーから宇宙細菌(殺人細菌)エンジェル・コールの存在を知り、確証を得た上でテテニス達を言葉巧みに騙して建造していた。
本来エンジェル・ハイロゥの運用作戦は第1段階で全アースノイドをサイコウェーブで無力化させ、第2段階でエンジェル・コールを散布し、アースノイドを殲滅すると言う予定であった。しかしエンジェル・コールのワクチン自体が作れない事が判明しため、本プランの危険性が露呈、最終的には不採用になる。またエンジェル・ハイロゥも開発過程における機能向上により、当初の予測より強力なサイコ・ウェーブを放射可能になったため、単独でアースノイドを衰弱死させる作戦となった――というアレンジがなされている。
エンジェル・コール
土星宙域を漂流していた木星戦役時のクロスボーン・バンガードの補給船に衝突した外宇宙からやってきた隕石に付着していた未知の宇宙細菌。外宇宙の生命の発見を喜んだテテニスは天使の呼び声として「エンジェル・コール」と命名した。
しかし、この細菌は人体に接触すると1分足らず(キゾの計測によると約46秒)で全身を溶かし尽くしてしまう程の強力な腐食性の猛毒を持っている上に、中性子(核兵器)にも耐える生命力を併せ持っている。クロスボーン輸送船のクルーたちはこの細菌に感染して全滅してしまった。
これをザンスカールに明け渡そうとして強奪したエリン・シュナイダーがこの世のあらゆる手段でワクチン(抗原を弱め、人体に摂取して免疫に抗体の作り方を記憶させるための物。殺菌ができるわけではない)作成を試みたが、作れない事が判明。エリンは辛うじてこれの活動を鈍らせる程度の溶液しか作れなかった。死滅させるには2000度で56秒焼き続けるしかないが、2000度は地球上のあらゆる金属を溶解出来る温度であり、それを1分近く維持するという無茶苦茶なハードルである。
仮に地球にばら撒かれたら地球上の全生命を確実に死滅させる為、殺傷力・危険度は少なくとも『機動戦士ガンダムSEED』のジェネシスと同等で、コロニー落としの比ではない地球の生命と環境への不可逆性の被害も然り。
その後の動向
機動戦士クロスボーン・ガンダムDUST
宇宙0169年を描いた漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダムDUST』では地球の周回軌道上にその残骸がスペースデブリとして漂っており、回収もままならず、自然に地球の重力に引かれ大気圏に突入し摩擦熱で燃え尽きるのを待っている状況で、そのせいで限られたルートでしか地球に降下できないなどの問題が発生している(「Vガンダム」の物語としては、“帰る場所”と成り得ない地球周回軌道に留まる理由は無いので、サイキッカーが入っていない箇所の残骸なのだろう)。
G-SAVIOUR
宇宙世紀0224年冬を描いたPS2用ゲーム『G-SAVIOUR』では、チェコスロバキアにエンジェル・ハイロゥの残骸らしき巨大建造物が存在しており、ザンスカール戦争から70年もの間放置されているが、セツルメント国家議会軍の強硬派はこの内部を秘密のモビルウェポン製造工場にしている。しかしイルミナーティのライトニング部隊の手によって工場は壊滅した。
ゲーム作品での扱い
Gセンチュリー
占領物として登場。廃棄コロニーと同じ扱い。シナリオモードでは、これを地球に落下させる事が勝敗条件となるステージがある。
コロニー落としの様に地球や月に落下させて、大規模広範囲の爆発で範囲内にいる敵味方もろとも撃破する事が出来る。
爆発の起きた範囲は焦土と化し、MAPチップは占領物は占領前に戻り、他の地形は海、水上以外は廃墟、荒地に変わる。
……それで良いのか?
Gジェネレーションシリーズ
「ZERO」から登場。
「ZERO」、「F」では戦艦系ユニットとして運用できるが、武装はMPダメージのMAP兵器のみで通常武装は一切持たず、当然ながらMSを搭載出来ない為、非常に使い難い。
「NEO」以降ではステージとして登場し、「NEO」と「P」のムービーではフロスト兄弟機のバックを飾っていた。
しかし、「WARS」ではギム・ギンガナムが放ったカイラスギリーの攻撃で崩壊したり、「OVER WORLD」では何とウォン・ユンファの策略によりデビルガンダムに取り込まれてデビル・ハイロゥに変貌したりと散々な目にあっている。
スーパーロボット大戦シリーズ
Vガンダムが参戦する作品では時折登場している。スーパーロボット大戦Dにおいては原作通りのポジションに置かれているが、隠し条件を満たすとエンジェル・ハイロゥ内のシステムにハマーン・カーンが組み込まれていたことが判明する。その後ハマーンはシステムから解放されて、ブルースウェアの一員となった。
一方スーパーロボット大戦αにおいても概ね原作通りであるが、こちらではユーゼス・ゴッツォが密かに関わっており、彼の手によりシャクティ以外のサイキッカーたちが脳髄だけの状態でシステムに文字通り組み込まれるという非道の兵器と化していた。
また、サイコ・ウェーブへの対処は主人公やリュウセイ・ダテ、アヤ・コバヤシの念動力で中和するという手段を取ることが出来、この方法を選ばなかった場合はコントロール艦をフォールドブースターを装備したYF-19とYF-21で奇襲し、サイコ・ウェーブの出力が低下した隙もV2ガンダムとウイングガンダムゼロカスタムが突入、コントロール艦を完全破壊するというオリジナルの展開となる。
更にはその後、地球へ降下した残骸はユーゼスに利用され、ネルフ本部で応戦したEVA弐号機にサイコ・ウェーブを集中させ、惣流・アスカ・ラングレーを廃人に追い込むという最悪の使われ方(原作における第15使徒アラエルの代用)もされた。
スーパーロボット大戦30でも概ね原作通りであるが、こちらでは建造にカギ爪の男が関わっている。また、ゾルタン・アッカネンが駆るⅡネオ・ジオングが発したサイコシャードの力とサイコ・ウェーブが共鳴する事で次元境界線に歪みが生じ、宇宙の色がZシリーズと同じように斑色になるという事態にまで発展した。
SDガンダムフォース 大決戦! 次元海賊デ・スカール!!
次元世界を蹂躙する海賊集団「デ・スカール」が駆る空中要塞「ディメンション・ハイロウ」として登場。
略奪、吸収した次元世界を要塞内にコピーする事ができる。
SDガンダム外伝では
第5作『ナイトガンダム物語』では古代遺跡ドゥームハイロウとしてほぼ全く同じ外見で登場した。
ロゼッタストーンを真奥部で翳すことで、どんな願いもかなえる力があるという。
幻魔皇帝アサルトバスター(本作ではラスボス)により、全てのユニオン族を消滅させたが、ゼロガンダムにより皇帝が倒され、運命を共にした。
本来は、新約SDガンダム外伝 創世超竜譚の時代でスペリオルドラゴン00(勇者ガンダム)が万が一のために覇界神バロックガンの軍勢から人々を守るために天使族と共に作られた天使の輪と呼ばれる緊急避難装置であり人々の姿が消えるのもその為だった。
関連タグ
ザンスカール帝国 マリア・ピァ・アーモニア フォンセ・カガチ
カイラスギリー:同じくザンスカールの巨大兵器でこちらは男性器がモチーフ。
ユニコーンガンダム3号機フェネクス:サイコミュ系装備で人知を超えた力を発揮し、最終的に宇宙へ旅立ったという共通点がある。エンジェル・ハイロゥはある意味「この機体の力を世界規模で利用したらどうなるか」といったところか。
機動戦士ガンダムヴァルプルギス:シロッコ版エンジェル・ハイロゥともいえる「サイコ・フレア」が登場。
エラス:共通する目的(+α)を持つ女神。こちらも全人類を強制的に永遠に眠らせる力を持つ。
人類補完計画:こちらもたった一人の人間が絶望しただけで全人類を巻き添えに進化という名の死を図る計画。このエンジェル・ハイロゥをさらに昇華させたものと言える。