「ジークドゥガチ!ジークジュピター!」
概要
宇宙世紀の時代ではミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉を主なエネルギー源としているが、核融合に必要なヘリウム3は主に木星で採集されていた。その為、木星圏のスペースコロニーに移住した人々によってヘリウム3が採集され、「木星船団公社」と呼ばれるNGO(非政府組織)の宇宙貨物船団が地球圏と木星圏の往復によって地球圏の経済は成立していた。
地球連邦からの支援が不十分な状況においてもクラックス・ドゥガチ達によるコロニー建設や木星開拓など、70年以上に渡る努力と労力の結果、地球圏でのサイド1基分にも満たないものの小国レベルの自治体が構築され、人類の最先端とも称されていた木星コロニーは地球連邦の一組織である「木星公社」の管理下にあるのが建前で在った。しかし連邦の目が届かず、あらゆる資源に限りの在る過酷な環境である木星では、いつしか住み易い環境で在る地球への羨望意識と、指導者と為ったドゥガチの命令を絶対のものとする独裁体制が成立。自分達を辺境の地に追いやった地球圏の人々から地球を取り戻す大義の下、軍事国家と成っていた。いつ頃から木星帝国が発生したのかは不明だが、103年には既に裏で帝国を名乗りだしていた様だ。尚、110年代には地球の良家であるブリエット家との縁談が持ち出された……のだが、この政略結婚が結果的にドゥガチの暴走を招く切っ掛けと為った。
コスモ・バビロニア建国戦争時代の頃から地球侵略の準備を行っており、秘密裏に地球圏で戦乱を起こそうとする者に武器の供与や経済援助を行っていたらしい。
帝国の階級についてはかなり厳しい階級制が取られており、軍人と工作員は手の甲にナンバーが刻印されていて、その階級差、権限は絶対である。一般市民で在っても水や空気の割り当てが決まっていて、例え瀕死の病人で在ったとしても割り当てを超えた消費は許されず、他者への譲渡も禁止されている。
また軍規を犯した者の銃殺刑を映像で公開したり、捕虜と為ったトビア・アロナクスの処刑(しかも、生身のトビアを鹵獲したガンダムで握り潰そうとする内容)を政治ショーにする等、恐怖政治によって市民を統制する手法は、後の機動戦士Vガンダムに登場するザンスカール帝国を彷彿させる面がある(尚、ザンスカール帝国宰相で帝国の事実上の支配者だったフォンセ・カガチはヘリウム3船団に長期間所属しており、幾度も地球圏と木星圏を行き来していた)。
但し、帝国に潜入したトビア・アロナクスやキンケドゥ・ナウを匿った者がいたり、少数ではあるがレジスタンスが存在していた実状からも、表向きは忠誠を誓っていても木星圏の市民全てがドゥガチを支持している訳では無い。
帝国の動向
木星戦役
木星帝国は建国以来、連邦の一組織でしかない「木星公社」として活動していたが、前述の通りそれは連邦の目を欺く仮の姿で在り虎視眈々と地球へ攻め込む策とその備えを進めていた。公社の活動のみならず木星と地球間の学生交換なども実施(その裏で毒ガスを密輸していた)し、連邦の信頼を得るべく行動していた。帝国の野望を知る海賊軍クロスボーン・バンガードの存在を、世界には「野蛮な海賊軍」と広報し連邦軍との協力関係も維持していた。
帝国軍総統クラックス・ドゥガチのいる中枢部は衛星イオの基地に在ったが、そこで指揮を執っていたのはドゥガチのコピーであるバイオ脳で在った。そこが海賊軍の襲撃を受けた直後に、旗艦ジュピトリス9を中心とした主力部隊が地球圏に向けて出発、そして地球に親善訪問と称してやって来た。更に帝国へ寝返ってきたザビーネ・シャルを利用し、連邦軍に海賊軍を攻撃させる計略にも成功。結果として連邦軍を利用し、邪魔者の排除に成功した。
直後に木星帝国は地球侵攻作戦を実施。連邦軍の地上施設へ破壊工作を仕掛け、ジュピトリス9からの核ミサイル攻撃で連邦政府、強いてはアースノイドもろとも地球環境を破壊しようと目論んだ。
作戦が進みつつある時、戦力をまとめた海賊軍が帝国軍へ奇襲攻撃を開始。この攻撃でジュピトリス9が大破し、帝国軍は混乱状態に陥る。
業を煮やしたドゥガチは、最終兵器である巨大モビルアーマー『ディビニダド』に自ら乗り込み出撃。自身のバイオユニット体の機体を含む8機のディビニダドが出撃したが、全ての機体は海賊軍と連邦軍の決死の抵抗、更に地球滅亡まで動かないと思われていたコロニー軍の突然の参戦により1機残らず破壊された。
指導者ドゥガチの戦死に合わせ、戦力の多くを消耗した木星帝国軍は降伏し、こうして木星戦役は終結した。そして木星圏に地球連邦の査察が入るものの、過酷な生活環境が改善された訳では無く、その後も貧困や人命軽視は変わりはしなかった。
神(ゼウス)の雷作戦
後の時代にも木星軍残党によるテロが散発し、連邦軍や海賊軍と小競り合いをしていた。そして戦役から3年後、サイキッカーとして能力とドゥガチの後妻の弟の地位から、新総統と為ったカリスト兄弟が木星帝国を密かに再建し、ドゥガチが生前計画しながらも「完成させる時間が無い」として放棄したコロニーレーザー『シンヴァツ』による地球殲滅作戦「神(ゼウス)の雷作戦」を発動する。こんな策を実行しても国力の少ない木星帝国には地球制圧など不可能では在ったが、カリスト兄弟は初めから地球を制圧する気は全く無かった。それ所か彼らは地球を「汚い惑星」と見なしており、実行理由は「地球連邦に大ダメージを与えて、木星に手出し出来ない様にして、その後に木星が発展する様に為る」意図で在った。
邪魔な海賊軍への攻撃やサナリィ襲撃などを行い、当初こそ計画は順調に進んでいたが、発射前に鋼鉄の7人の決死の攻撃によりシンヴァツは破壊され、カリスト兄弟も戦死する。
そしてそこに隙を突いてレジスタンスが指揮系統を掌握、遂に帝国は事実上崩壊した。
帝政から共和政へ
戦いの後、鋼鉄の7人の生き残りであるミノル・スズキとローズマリー・ラズベリーが査察官に就任し、残存勢力の掃討・監視に当たった。またドゥガチの政治団体は解体されたが、資産の一部をドゥガチの娘で有ったテテニスが引き継ぎ『ユピテル財団』を新設、そして木星帝国は共和制国家へと移行し、テテニスが女王を務める木星共和国へと名を変えた。
ミノルの死去およびローズマリーの地球圏帰還後は、政治と監視をテテニス女王と彼女の関係者が担い、カーティス・ロスコ率いる木星の諜報機関と特殊部隊である『蛇の脚(セルピエンテ・タコーン)』が裏からそれを支えていた。
またユピテル財団の資産とそれを使うテテニスの手腕により、ザンスカール戦争の頃にはそれまで貧困と疲弊に満ちていた木星の生活環境も大幅に改善され、食料などの生産も安定、配給制無しでも国民の生活は成り立つ程の水準に成っており、またテテニス主導で土星等の他惑星探査も行われている。
しかし、その一方で木星の生活が良く成っていても、旧帝国時代のドゥガチを支持するタカ派も現存しており、また軍部でも地球侵攻を未だに考えている者がそれを視野に入れた新兵器を開発している等と、一枚岩ではない内情は変わっていない。
上述の通りカガチは木星船団出身で在った為、テテニスは彼がザンスカール帝国宰相としてサイド2の有力者と為った時点から、友好関係を結ぼうとしていた。
だが、当のカガチはテテニスの好意を利用し、後にザンスカールの最終兵器として使われるエンジェル・ハイロゥを「両国の友好の一環として『10万人を搭乗させる事が出来る木星への巨大移民船』の建造」 を提案、木星側に建造させた後にそれを地球圏に持ち込み兵器利用したものである。
宇宙戦国時代の木星
ザンスカール戦争終結から16年後の0169年には、政治闘争の末に〈オリンポスの下僕〉を筆頭とするタカ派が主導権を握り、敗北したテテニスらハト派は軟禁されている(ハト派の敗因には少なからず「テテニスがカガチの提案を鵜呑みにしてエンジェル・ハイロゥを建造したせいで、木星を戦禍に巻き込み兼ねなかった」事実などもあると考えられる。仮にこの事実が地球連邦に知られれば、地球連邦はあの手この手で責任追及をしていた可能性が極めて高い)。しかし戦国時代が激化している地球圏から圧倒的距離を隔てている地理を利点に、戦乱には表立って介入を避けて非常に安定した立場を得ているが、裏ではムーンムーンの人々を利用して、宇宙に上がりたい者と工作員の入れ替えによる潜入を進めている。
長年の戦乱のせいで地球圏の工業力や開発力が低下しているのに対し、木星圏の資源力により高い技術力を保持しており、個人向けにデチューンした新造MSの販売や、既に地球圏では不可能と成りつつ在るMSのレストアも行っている。
その後「テテニスが解放されハト派が再び活動を開始、それを良しとしないタカ派との争いは続く事態に至った」 と為り、更にカーティスの作戦が功を奏して『地球侵攻』の大義名分を用いて、私腹を肥やそうと企んでいただけに過ぎなかった〈オリンポスの下僕〉は壊滅した。
生活スタイル
生活スタイルは無重力状態を基本とするもので、重力下で生活する時間は長くない。
故に彼らが生活するスペースコロニーには重力空間が存在しない。これは天井や床などの概念を無くし、スペースを有効活用する意図が在る。木星のコロニーは地球圏と比べても数が少なく、可住区域もそれほど多くない為、この様な方法を取らざるを得なかったのである。
そのため、地球の重力について理解していない者も多く、地上用として開発された機体の中には、重力下で運用する際に重力の掛かる方向について考慮していない重大な欠点が在る機体も見受けられる。
先述でも有った様に水も空気も慢性的に不足気味故に、割り当ても厳しく決められており、それが原因か人命と物資の逆転現象が発生、劇中では「貴重なマシンを失った」のを理由に生還した兵士を銃殺すると人命が軽視されている様な所が垣間見える。また貧しい為か家族単位の生活もままならない上に、新生児の出生率も厳しく規定されていたらしい。
しかし、テテニスがそんな生活基盤の改善に取り組み、0150年代にはかなり生活環境は良くなり、配給制も廃止された。コロニーも数基新設されており、移住問題も多少だが解決している。しかし上記のエンジェル・ハイロゥの件もあり、計画されていた数には至らなかった様である。
科学技術
木星帝国は科学の進んだ地球から遠く離れた僻地であり、技術交流など及びも付かない状況であった。そのせいか洗練された科学技術を有しておらず、モビルスーツの完成度も地球圏のそれと比較して劣っており、木星オリジナルの技術と呼べる様なものは殆ど無い。
その代わり、木星のモビルスーツは過酷な環境に適応出来るよう突出した個性を持たされた機体が多く、物資を無駄にしない意図から整備性に優れた設計が成されている。個性的なデザインのモビルスーツが多いが、一方で共有パーツを多用している事情から機体の互換性が高い他、各部位を完全ブロック化し部位パーツだけを製造・換装するメソッドを成立させる等々もあり、効率の良い運用を可能としている。
また、上記の技術水準の低さや資材節制も有ってか、木星帝国のエンジニアはMS開発の過程で「何らかの不都合が生じた」場合「この様な状況に成るから必要無いorこう運用すれば良いから問題ない」と即座に切り捨てる、良くも悪くも思い切りの良い思考も持っている。
それらを合わせた結果、地球圏では思いも寄らない様な大胆な発想と、非常に堅実な機体設計こそが木星独自の技術と評価出来る。また新技術に対する欲求も凄まじく、地球圏のMSを鹵獲すると技術データを吸い出し、即座に自陣営のMSに盗用する有様で在った。
但し上記の〈生活スタイル〉の項目で触れた通り、重力下の運用を考慮していない事情に加え、人と資材の主従逆転現象も合わさり、パイロットに過負荷を強いる=人命を軽視した欠陥兵器も幾つか在る。
更に後のサウザンド・カスタムの中にはエンジニアの運用思想だけを鵜呑みに、運用上の問題点の洗い出しもせずに製造されたMSが幾つか有る等、資材節制の観点ではお粗末極まりない杜撰さを持つ(尤も、サウザンド・カスタム自体は『タカ派のガス抜き』の名目も在って致し方ない事情も有るが)。
この点は木星共和国への変遷後も変わっていなかったが、ザンスカール帝国との技術交流を経て技術レベルも底上げされる。更にクロスボーン・ガンダムの完全稼働機の入手も技術レベル向上に役立っており、後述する新型量産機開発計画に取り込むきっかけを作っている。
後の宇宙戦国時代においてはタカ派と穏健派の政争こそ在ったものの、長引く戦乱のせいで技術が衰退した地球圏を差し置いて木星は平和で在った故、皮肉にも最も高度な科学を持った勢力と成っている。
その為、木星圏と地球圏とで一種の逆転現象が発生しており、本来地球圏由来の技術で在る筈のミノフスキードライブすらも、地球圏の技術を盗用して作られたファントムV2を解析し、そのコピー機を作りやっと手に入れる始末である。
但し技術力低下の影響が無かった訳では無い様で、新型量産機開発のベースには「技術力の低下した現在でも生産し易い機体」を理由に、前世代の高性能機たるクロスボーン・ガンダムに白羽の矢が立っている。
主な構成員
木星戦役期
- クラックス・ドゥガチ(総統、最高権力者)
- テテニス・ドゥガチ(ベルナデット・ブリエット、クラックスの娘)
- ザビーネ・シャル(クロスボーン・バンガードから離反し合流)
- ディミアン・カラス(戦闘部隊指揮官 NT兵養成部隊隊長)
- ギリ・ガデューカ・アスピス(『死の旋風隊』のリーダー)
- ローズマリー・ラズベリー(『死の旋風隊』の一員)
- バーンズ・ガーンズバック(『死の旋風隊』の一員)
新総統期
共和国期
主な運用機体
木星戦役期
クロスボーン・ガンダムX-2 → X2改(ザビーネにより持ち込まれたサナリィ製MS、及びその復元機)
新総統期
アマクサ(クロスボーンガンダムX2の性能再現機)
共和国期
クロスボーン・ガンダムX-0(特殊部隊「蛇の足」所属機)
クロスボーン・ガンダムX-13(クロスボーンガンダムX0を基にした量産検討機)
葬儀船レクイエム
その他木星製MS
ウォズモ(木星製作業用MS)
ヌエボ・アラナ
クロスボーン・ガンダムX-11(クロスボーンガンダムX−0の設計に極力忠実なコピー機)
X-12(クロスボーンガンダムと木星の技術との折衷案)
X-14(バタラの設計思想とクロスボーンガンダムの基礎設計を掛け合わせた量産機)
関連項目
ヴェイガン:他のガンダム作品に登場する地球圏外の勢力である火星圏のコロニー国家だが、こちらは火星開拓計画の失敗で置き去りにされた人々の国家。
木連:同じく木星圏の独立国家。こちらも上記のヴェイガンと似たような立場。