概要
この言葉は石橋を叩いて渡るような堅実な仕事ぶりとは対極に位置するもので、機転が利いてちょっとした仕事を得意とする人物を hacker と呼んだ。
それゆえにこの言葉は、大規模な開発プロジェクトを何年にも渡って指揮してきた優秀なソフトウェア技術者に対して使用されるものではないし、使用するべきではない。
ハッカーとは極めて個人的な属性に基づいた呼称であり、その人物のアイデアや閃きを重視した言葉である。この意味では現在ではlifehack(仕事術)が用いられている。
電話回線、特にアメリカ合衆国の回線網や、初期のパソコン通信やインターネットのごく初期など昔のネットワークでは、あえてセキュリティを突破し、侵入した証拠を残すなどの方法で相手にセキュリティーホールを知らせるなど、互助精神的文化が存在していた。
この事もあり、当初ハッカーが行うことは、技術的知識を利用しネットワークのセキュリティを突破することやコンピュータウイルスを作成したりすることなども含まれていた。
しかしながら情報化社会の急速な進展に従い、悪意のためにそれらの行為を行う者が増え、社会的に問題とされるに至った今日では、この様な行為をする者を「ハッカー」と呼ぶのは誤用とされ、コンピュータやネットワークを用い悪事を行うものをクラッカーと呼んで区別することによりハッカーという呼称を中立的な意味で再定義しようとする試みが行われたことがある。
しかし、クラッカーと呼ぶにふさわしいネットワーク犯罪者が、新聞などマスメディアにおいてハッカーと表記されてしまうことが現在の状況であり、またこのような試みを行う者自身がハッカーではない点、さらにそれらの人々が自分の主観のみにおいてハッカー像を語る場合が多いため、再定義に成功しているとは言えず、逆に「ホワイトハッカー」なる造語が(クラッカーとは言えないハッカーを指すものとして)生まれるまでに至っている。
※なお日本で「ハッカー」という表記が誤った意味で定着したきっかけは、1985年にNHKがNewsWeekの"The Night of the Hackers"という記事をモチーフに作った特集「侵入者の夜」であり、制作がhackerという英語をどう日本語訳していいのかわからなかったので、番組では「ハッカー」とそのまま使い、タイトルでは「侵入者」と訳したのである。
中国においては日本からの意味と英語の音声を訳したもの「黒客」という漢字が一般的に使われている。
クラッキングの元祖は、1970年代にアメリカの公衆電話回線網の内部保守システムに介入する方法を発見した「キャプテン・クランチ」ことジョン・T・ドレーパーであると言われているが、正確にはコンピュータへのクラッキングではなく、フリーキングと呼ばれるものである(この手法は、「特定の周波数により公衆電話の課金信号をごまかす」というものであり、彼は「シリアルのおまけの笛がその周波数の音を出すことを突き止め、電話をただで掛ける方法を編み出した」人物である)。
しかし、回線網の所有者である電話会社に無断で電話通話料を払わずに公衆電話回線を利用することは、セキュリティの意識が低い所有者自身にも問題があるとはいえ、このようなクラッキング行為自体は不法であるとの解釈もある。
なお、前述の「キャプテン・クランチ」は逮捕され収監された。が、ワルの吹き溜まりのイメージが根強いアメリカの刑務所において彼の身を守った処世術もまた電話回線クラッキングの手法であった。これは麻薬密売人が多く収監されていた刑務所であった事から、当局から追跡されにくい連絡手段である「公衆電話を利用したタダ掛けの仕組み」が密売人達にとっては魔法のような手法だった為、いつしか刑務所内では「キャプテン・クランチの電話回線クラッキング学校」と呼ばれた講座が密やかに開かれていたという。しかも本格的なセミナーで文字が読めるか怪しい囚人もいたが、わかりやすい図解を用いて教授したり、知識をマスターした生徒には卒業制度まで用意されていた。こういった事により囚人達の間では一目も二目も置かれ、この講座を看守などに密告しようとした囚人は闇に消えたとも言われている。まさに芸は身を助けるとはこの事だろうか。
また、この電話クラッキングには若き日のスティーブ・ウォズニアック(スティーブ・ジョブズの相方)も手を染めているが、それでやったことは「ローマ教皇に国務長官を騙っていたずら電話をする」という意味不明のもの。
彼らが作り上げた電話タダ掛けシステム「Blue box」は当時のフリーク達に広まったが、これが裏社会の人物である麻薬密売人達に「電話先が特定されにくい」等の部分が注目されており、もはやイタズラの道具の範疇を越えてしまっていた。時に銃を突きつけられた中での商談もあったという。