ネタバレ注意
本項は劇中の重大なネタバレを含みます。
また、さまざまな編集者の推測や深読み、独自解釈が入り混じっており、初めて人類補完計画の核心に触れると言う人は、公式が意図的に言葉を濁していること、ファンがそれをどのように読むかは自由だと言う事を頭の隅に留めておいてください。
未だに全容の掴めない、そもそも本編において本当に意味のある用語だったのかも理解しにくい事から、一部の視聴者の間では“大風呂敷” “マクガフィン” “人類ポカン計画” “ゴルゴムの仕業”などのスラングで揶揄されることもある。
概要
碇ゲンドウが立案し、特務機関NERVが遂行を担っている謎の計画。作中序盤から提示されているキーワードであると同時に作中最大の謎でもあり、その実態を知る者はゲンドウと冬月コウゾウ、赤木リツコ、綾波レイ、人類補完委員会(ゼーレ)のメンバーなどごく僅かな者に限られる。
人型汎用決戦兵器エヴァンゲリオンの建造、使徒の迎撃といった作中の出来事の多くは、この人類補完計画を発動するためのプロセスに過ぎない。また、ゼーレが予言書「裏死海文書」に基づいて推進している人類補完計画と、ゲンドウや冬月の思惑で進められた人類補完計画には、目的や手段などに若干の差異があり、それが原因で両者が対立していく様子も描かれた。
TV版終盤(弐拾五話、最終話)では人類補完計画の発動によって碇シンジの心が救われる様子が表現されたが、その描写が難解、あるいは意味不明だったため多くの視聴者が困惑した。
続く旧劇場版では計画の目的や手段がある程度明かされたものの、依然難解な描写が多かったため、納得出来た観客は少なかった。また、現在も公式による詳細な解説は為されていない為、計画が行われた経緯については関連書籍やゲーム『新世紀エヴァンゲリオン2』で明かされた用語等から推測するしかない部分が多い。
それゆえ視聴者による解釈も様々であり、放映当時は同人誌、非公式書籍、個人サイトなどで人類補完計画や最終話にまつわる独自の考察を発表する者も多かった。こうした二次創作活動自体が作品知名度を更に押し上げたという一面もある。
計画の概要
葛城ミサトの発言を基に一言で説明すると「出来損ないの群体として既に行き詰まった人類を、完全な単体としての生物へ人工進化させる計画」である。
ゲーム『新世紀エヴァンゲリオン2』では「人類を不死にする計画」「人類を神(あるいはそれに近いもの)に人工進化させる計画」とも説明されている。
計画の背景
以下の説明はある程度公式のアナウンスを元に記しています。
かつて第一始祖民族と呼ばれる高度に進化した生命体がいた。彼等は何らかの理由で母星を捨て、7つの月(キャリアー)と呼ばれる天体の中に、まるで卵の中身のような生命の原始状態に還元した形と魂の二つの状態で収まり、封印装置であるロンギヌスの槍と共に宇宙を漂流し、行く先々の星で様々な生命体を発現させる予定であった。この時、アダムやリリスはこの生命を無事にその星に定着させる使命があった。
先に地球に漂流してきたのは白き月=アダムであり、完全単一生命体=使徒を生み出したが、本来一つの星には一つの月(キャリアー)しか移住しない予定であったにもかかわらず、そこに二つ目の月(キャリアー)である黒き月=リリスまで漂流、地球に激突しファーストインパクト(ジャイアントインパクト)が発生する。
これによって白き月の民である使徒たちは眠りに付き、その時の衝撃で舞い上がった破片は大気圏外に飛ばされて月となった。こうして地球に残ったリリスと黒き月=ジオフロントからあらゆる生命体が生み出され、その最果てにリリン=人類が生まれた。やがて人類はアダム(第一始祖民族)の計画マニュアルである死海文書を入手し、そこに書かれた真実を知ることになる。そして高度に科学を発展させた人類は、完全単一生命体である使徒とこの地球の支配権を掛けて戦い合う運命にあると知った。
1999年南極大陸にて第一使徒アダムを発見した人類は、他の使徒たちが目覚める前にアダムをロンギヌスの槍で胎児の段階までに還元し、使徒新生を防ごうとしたが失敗。これがセカンドインパクトである。
計画の目的、内容、方法
個体として群れ、互いに争い、妬み傷つき、自らを滅ぼさんとする人類は非常に脆弱な生き物だった。これに対して使徒は一切の他者を持たずに永遠に生きられる生命の実を与えられた生き物であり、知恵の実を手にした人類とは正反対ながらも、肉体を構成する物質はほぼ同じだった。
平たく言うのであれば、人類補完計画とは知恵の実を持ったヒトに生命の実を与え、使徒と同等の完全単一生命体、いわゆる神に進化させる事である。個体である事を捨て一つになった人類。そこには争いも諍いも老いによる死もなく、すべての魂がやすらぎの元に包まれるはずであった。
その為にはロンギヌスの槍と一体となりヨリシロへと至ったエヴァ(劇中では初号機)によってアンチATフィールドを展開し、ヒトを人たらしめる心の壁=ATフィールドを取り払い、全人類の肉体を生命の根源であるL.C.Lへと変換(サードインパクト)。魂を還るべきガフの部屋であり元々の器である黒き月(元は白き月の予定だったが、アラエル戦でロンギヌスの槍が失われたため変更された)にガフの扉となったリリス(もしくはアダム?)によって誘導させる必要がある。
これが本来の人類補完計画、死と新生の儀式であるが、碇ゲンドウはEVA初号機のコアに取り込まれた妻・碇ユイとの再会という目的の為に計画を私物化した為、NERVとゼーレは対立を始めてしまう。新世紀エヴァンゲリオンとは、ゼーレとゲンドウが人類補完計画という出来レースをどのようにして己の望む形に歪曲させるかという策謀の物語でもある。
展望と結果
全使徒の殲滅後、ゼーレは第三新東京市へ戦略自衛隊とEVA量産機を出撃させ、NERV本部への制裁と初号機による計画発動を試みる。同じ頃ゲンドウは自らの右手にアダムを移植し、リリスのコアにして碇ユイのクローン=綾波レイとの禁断の融合を果たそうとしていたが、レイが碇シンジを主体とする補完を望んだためにゲンドウは拒絶され、アダムを右手ごと奪われてしまう。更にアダム・リリスの融合体と化したレイが月からロンギヌスの槍を帰還させ、初号機及び量産機と共にサードインパクトを発動したためゼーレの計画も破綻する。ただ、ロンギヌスの槍の帰還とサードインパクト発動はゼーレの思惑通りであり、その過程でゲンドウはユイと再会出来たので、結果的に両者の目的は達成されたかに見えた。
しかし、碇シンジが精神世界で綾波レイ=リリスや渚カヲル=アダムと対話し、「他者との触れ合いで傷ついても構わない」「もう一度みんなに会いたい」という補完を拒絶する考えに至った為にリリスが自壊。リリスの体内から解放されたエヴァ初号機とロンギヌスの槍、黒い月は宇宙のどこかへ旅立っていき、ゼーレ側の計画は不完全なままに終わった。
その後、旧劇場版は地上に残された碇シンジと惣流・アスカ・ラングレーが再会し、二人が互いに傷つけあいながら生きていくことを示唆して終わる。彼らの眼前には毒々しい赤い海と巨大な綾波レイ(リリス)の死体が広がっており、L.C.Lと化した他の人間たちが還ってくる様子もないため、二人がその後どうなったかは定かではない。
一方、漫画版では補完が拒絶された数千~数万年後に人類の文明が復興。そこにシンジたちが転生し、平穏だが新しい日常を過ごし始めるという形で幕を閉じている。
新劇場版
使徒の数、エヴァシリーズの個体、ゼーレとゲンドウの関係、何よりも反ネルフ組織ヴィレと新たなるカシウスの槍、ネブカドネザルの鍵なる存在により、旧劇場版で描かれていた人類補完計画がどのような形になっているかは未だに明確な答えが出ていない。「Q」でのカヲル曰く、「人類を強制的に進化させた結果」「人ではなく世界の方を変えようとした結果」ということで荒廃した赤い大地という結果のことを指している。
具体的な惨状としては、大地全てがコア化し、大地の上には首の無いエヴァこと「インフィニティの成り損ない」がそこら中に存在し、月が異常レベルなまでに近づき、まともなリリン(人類)では存在することが難しいL結界密度が高い世界と化した。エヴァとエヴァの呪縛を受けたエヴァパイロット以外がL結界密度が高い場所で活動しようものなら、コア化が進行してしまう。封印柱を復元させれば、一定範囲は元の世界へと戻ることは可能。
また、旧版ではその名前と存在を知ることはなかったシンジだが、ここにきて初めて人類補完計画のことを知ることになる。ゼーレにとっては「Q」の時点で目標を達成していたため、以後の人類補完計画はゲンドウへと一任した。
ただ、計画の詳細については完結編「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」にて。
新劇場版において、計画立案したのは碇ユイではなくある人物の父親だと明かされ、そのある人物本人はこんなことを立案した父親の世迷言だと唾棄していた。
そしてゲンドウが起こしたモノはヴィレが想定していたものとは全く異なるインパクトであった。
ANIMA
小説『エヴァンゲリオンANIMA』では、大まかな展開自体は同じだがこの計画の裏に創造主、あるいは神と言える存在がおり、計画自体がそれによって仕組まれていたことが発覚。
創造主は補完計画が簡単に成功するとは思っていなかったらしく補完計画の実験地である惑星エデンや補完計画失敗時に地球と月を物理的に入れ替える事で世界をリセットする黒の巨人、黒の巨人の本体であり補完計画の舞台裏である世界樹など失敗に備えた保険が用意されている。
また補完計画の方式そのものも試行錯誤が続けられており旧作のような依代となるエヴァ、ロンギヌスの槍、量産機によって生命の樹を出現させる方式の他に、ANIMA世界の前の世界では数百体のエヴァによるエヴァ同士の殺し合いによって生命の樹への到達を目指すという方式も実施されている。
編集者による独自解釈のひとつ
明確な説明を避け、謎を含ませた展開をつき通す事で社会現象を巻き起こしたエヴァは、90年代に考察本が多数発行された。劇中用語でエノク教、旧約聖書、精神分析、バナナ型神話等をふんだんに使い回したおかげで多方面からのアプローチを受けて、考察本は日に日に難解になってゆき、これがまた新たなるファンを引き付けた。
下記は考察本ではなく、このページの以前の版から抜粋。当時これぐらいの深読みは序の口だった。
概要
人類の歴史における原初は神が作ったアダムであり、さらにそのアダムからはイヴ=エヴァが作られた。二人は禁断の実とされる二つの実のうちのひとつである知恵の実を食べてしまった。知恵の実によってなまじ知恵を獲得した二人は個人というものを認識し始め、自分自身のことや他人のことを意識し始めるようになる。そして、裸であった二人はイチジクの葉で体を隠すようになった。しかし、禁断の実を食べてしまったその時点から二人は罪(原罪)を負うことになる。もう一つの禁断の実である生命の実もあわせて獲得すると神と等しい存在になることができるとされていたため、アダムとエヴァが生命の実も手に入れてしまうことを恐れた神は、二人が住んでいた楽園を追放し、禁断の実がなっている樹である生命の樹に二人が近づけないようにと、その近くに化物を置くようになった。
以上は旧約聖書創世記の一部分の要約である。「新世紀エヴァンゲリオン」の物語はこの記述をベースにしており、人類は全員がアダムおよびエヴァの負った原罪を現代にまで負っているとしている。その原罪を負った状態から人類全体が逃れようとするための計画が、秘密結社ゼーレのメンバーや特務機関NERV総指令の碇ゲンドウが目指す人類補完計画である。
現実の1947年、死海付近で非常に古い書物が発見された。これは現存する最も古い聖書であるとされ、キリストの生きた時代とほぼ時を同じくして作られたものであるとされている。この聖書は死海文書と名づけられたが、その一部分が欠けていることが分かっている。
劇中でゼーレはその死海文書の失われた部分(裏死海文書と呼ばれている)を入手することに成功した。それによれば、原罪を負う人類が現代で言う科学を押し進め、生命の神秘(生命の実)に至ろうとすると、そこに生命の実だけを獲得している使徒が現れて人類に破滅的な損害を与えるというものであった。実際に劇中で描かれるように、使徒に対して人類が持ちうる有効な手段は皆無と言ってよい。そこでゼーレが導きだした答えはそもそも人類全体が負っている原罪をまず贖罪し、生命が発生するより以前の状態にまで戻って新生し、やり直すというものだった。
原罪から解放されるためには
キリスト教の伝説によれば、禁断の実がなっている生命の樹に神の子を磔にして処刑し(ロンギヌスの槍で刺し)、そこから流れた血が大地に落ちることでアダムの罪は償われる、とされる。つまり現代に生きる人類であっても、これら生命の樹、神の子、ロンギヌスの槍、などのさまざまなものが揃った上で必要な手順を踏めば原罪から解放されることが出来るということになる。またその際、神に死を与える13という数字を作り出すために神の子に従う12人の使徒(神の子+12使徒=13)が必要でもある。
元々宗教団体だったゼーレはこの伝説をもとに活動しているようだ。このうちロンギヌスの槍については所在が記されており、裏死海文書の解読後に入手することに成功した。生命の樹については、それを守る化け物である使徒のことや、使徒を全て倒すことによって生命の樹に辿りつけるという具体的なプロセスについて記述されていた。また裏死海文書によると、上記の儀式を行うだけでは贖罪を行うことは可能であっても、生命が発生するより以前の状態にまで戻ることは出来ないとされる。どういうことかというと、人類が新生するためには贖罪とともに人類の魂が、元々すべての魂が生まれた場所であるガフの部屋と呼ばれる場所に還る必要があるということである。
このガフの部屋というのはすなわち全ての源であるアダムとリリスの更なる源、つまりアダムとリリスそれぞれの卵こそがガフの部屋となる。また、アダムの卵は「白き月」、リリスの卵は「黒き月」とも呼ばれる。ガフの部屋は二つあることになるのだが、このうち人類の魂が生み出されたのはリリスの卵である黒き月からである。リリスは魔女とも見なされる説、およびそこから生み出された魂を擁する人類はリリン(=悪魔)とされる説があることから、ゼーレは二つあるガフの部屋のうち、アダムの卵である白き月に人類の魂を還らせようと試みる。
よってゼーレがその目的である人類の新生を行うためには、
- 人類を脅かす使徒を全て倒す(=生命の樹を出現させる)
- アダムを発見、またこの卵を作ることによって白き月を作り出す
- 神の子とそれに付随する12の(人間を脅かさない)使徒を用意し、贖罪の儀式を行う
といった準備が必要となった。
人類補完計画の進行
まずゼーレは人類を脅かす使徒を全て倒すために行動を始めた。人間の魂が黒き月によるガフの部屋から生み出されるように、使徒の魂は白き月によるガフの部屋から生み出される。ということは、このアダムの卵によるガフの部屋の中身を処理してしまえば、使徒が生まれる前にその魂ごと倒すことが出来るはずである。
ゼーレの構成員である葛城博士率いる葛城調査隊は南極において第一使徒アダムを発見、これを卵にまで還元し、ガフの部屋を開かせようと試みた。
フロイトによれば、人間の精神にはリビドー(生きること・性への欲望)とデストルドー(死ぬこと・攻撃・破壊への欲望)という相反する二つの根本的な本能とも言うべき欲望が存在するとされている。ここでのデストルドーによる死への欲望とは、単純に死ぬための欲望ではなく、生命が生まれる前の状態にまで遡りたいというニュアンスを持つことに注意。
また前述したように、知恵の実を手に入れた人類は個々という認識を持ち始め、自分の体をイチジクの葉で隠すようになった。これは言い換えれば自分と他人とを分ける境界であり、新世紀エヴァンゲリオン劇中では「ATフィールド」と呼ばれるものに相当する。これはつまり、逆に言えばATフィールドを持たないもの同士は自分と他人との境目が曖昧になり、自分と他人が混然一体となった状態、生命が生まれる前の混沌とした状態(=生命のスープ、L.C.L)になってしまうことを意味する。
ATフィールドは誰もが持つ「心の壁」であると劇中で表現されるのだが、これを失うような事態というものは前述したデストルドーによる欲望が強まったときに現れる。また、デストルドーによる欲望が尋常でない強まり方をすると、自分のATフィールドだけでなく、自分の周囲の生物のATフィールドさえも消滅させてしまう「アンチATフィールド」を広域にわたって発生させることとなる。
これらを踏まえ、葛城調査隊は生命の実を獲得しているアダムという使徒を卵にまで還元するためのエネルギーを得るため、知恵の実を獲得している人間をアダムに融合させ、神を作り出そうと考えた。南極で行われた実験では見事に人間の遺伝子をアダムにダイブさせて融合し、神の力を作り出すことに成功。そこにすかさずロンギヌスの槍を突き刺すことによって神の力によるデストルドーの欲望を生みださせ、アダムを卵にまで還元しガフの部屋を開いた。葛城調査隊はガフの部屋の内部を熱滅却処理することによって完全に使徒の魂を焼却し、これ以降の使徒は生み出されなくなった(つまりこの時点、ガフの部屋を開いた日に生まれた渚カヲルが最後の使徒となった)。しかし神の力によるデストルドーは葛城調査隊の予想をはるかに上回るものであり、通常では考えられないほどのアンチATフィールドが展開されてしまう。これと同時に予め用意してあった大量の爆薬機材によってアダムを直接爆破しようと試みるも、巨大なアンチATフィールドの展開は南極とその周辺にはバクテリア一匹存在しない、死の世界へと変貌させてしまうまでに至った(セカンドインパクト)。
アダムを失ったゼーレは、セカンドインパクト直前(直後?)に採取したアダムの生体のサンプルから、アダムのクローンを再生する計画を企てる。また、贖罪の儀式には神の子の他に12使徒も必要であることから、これら使徒を調達するためにもアダムのクローンを量産して使うという方針がとられた。しかしオリジナルであるアダムの魂は一つしかなく、使徒の魂の供給源となっていた白き月のガフの部屋にはもう魂は存在しない。これでは肉体だけの使徒が出来上がってしまい12使徒としての役割を果たすことはできないため、代わりに人間の魂を宿らせて、更にそれを逆手にとって人間に使徒を制御できるようにして贖罪の儀式のために用意しようと考えられた。そのための技術は赤木ナオコらによって先行的に行われた、リリスを用いて作られたクローン実験での技術を応用して用いられた。またこれらの贖罪の儀式のための使徒らは「エヴァンゲリオン」として、人類が生命の樹へと到達するのを阻むために襲いかかってくる使徒たちを殲滅するための兵器としても運用されることになっていく。
零号機、初号機とリリスベースで作ったエヴァンゲリオンに加え、アダムベースで作った弐号機、3号機と順調に人類補完計画が進められているかに見えたが、3号機が使徒に浸食されたため3号機ごとこれを殲滅、またアメリカ支部において4号機が爆発事故によって消滅するなどのアクシデントが発生する。運用可能なエヴァンゲリオンを使って第3新東京市に襲い来る使徒を迎撃しつつも、その裏では贖罪の儀式に必要な残りのエヴァンゲリオンの製造を進めていた。この際、パイロットが搭乗しなくてもエヴァンゲリオンを運用できるようにするためのシステムである「ダミープラグ」の実験も平行して行われ、最終的にはダミープラグによるエヴァンゲリオンを量産し、贖罪の儀式の際の12使徒として充てる計画であった。
神の子の用意については、パイロットによって知恵の実だけを獲得しているエヴァンゲリオンに使徒の持つ生命の実(S2機関と呼ばれる永久機関)を取りこませることによって神としての力を持つ存在を作り出そうという計画であったが、その計画は予定よりも大幅に早く初号機によって成し遂げられてしまうこととなった。
碇ゲンドウによる人類補完計画
一方、碇ゲンドウはゼーレとはまた違った目的によって人類補完計画の進行にかかわっていた。
ゲンドウは、人間は誰しもがその心の内に欠けた部分を持っており、人類は全体として不完全な個体からなる群体であると考えていた。ゲンドウ自身の内面においても「自分が人から愛されるとは信じられない。私にそんな資格は無い」といった考えを持っており、自分の方から他人を拒絶するような性格(欠けた心)を持っていた。
そしてそれは妻である碇ユイを失うことによって決定的となる。
ユイはエヴァ初号機に人間を搭乗させる実験の被験者として選ばれていた。その実験の過程において事故が発生し、ユイは初号機と融合してしまい、ユイという人間は永遠に失われることとなってしまった。この事故はユイがかねてから願っていた「(エヴァと融合して)永遠に生きること」を実現するためにユイ自身の望みによって引き起こされたことでもあった。しかしユイを失ったゲンドウはその精神に決定的な変化をきたし、以前にも増して人類全体が欠けた心を補うこと、群体である人類を全て統合して、完全な一つの生命体へと進化することを目指すようになる。また、そこには人類全体が一つの生命体へと進化する過程の中で、ゲンドウがユイの魂に再会するということも含まれていた。
ゼーレが、知恵の実を食べてしまったという人類の原罪を自らの手で贖罪し、全ての生命が生み出される前の状態にまで回帰することを目的としているのに対し、ゲンドウは、人間がすでに手に入れている知恵の実(科学)を最大限に活用して、原罪による人類の欠陥を自らの手によって補い、新たな生物(神)となって生きることを選択した。両者の目指すところは全くの正反対であるが、そのためにはどちらの目的を目指す場合であっても生命の樹やロンギヌスの槍、全使徒の殲滅などが必要である。そのためゼーレとゲンドウはまず協力関係を築き、互いに牽制しあいながらも各々の目的を達するための準備を整えた。
人類補完計画の終結
最後の使徒である渚カヲルを倒し計画が最終段階に入ると、ゼーレとゲンドウは完全なる敵対関係に入った。生命の樹をめぐる争奪戦が始まったのである。ゲンドウはそれに先駆けてゼーレの補完計画遂行に必須とされるアダムを独占し、ロンギヌスの槍をすでに回収不可能な月の衛星軌道へと投棄していた。12使徒として必要なエヴァもその内の2体が不慮の事故で失われている上、その他のEVA量産機もまだ必要数が揃う前であった。この時点でゼーレの補完計画は遂行不可能であると思われていたが、ゼーレはアダムによる贖罪の道を破棄、リリスによる黒き月を使った贖罪を行う方針に転換した。
以前からNERVのことを良く思っていなかった戦略自衛隊をNERV本部へと侵攻させ、贖罪の儀式でもあるサードインパクトを起こそうとしたのである。予め渚カヲルを殺させることで自我崩壊寸前にまで追い込んでいる碇シンジをデストルドーの欲望の源にし、すでに生命の実(S2機関)を取り込んでいる初号機と融合させることによってゼーレは神の子を作り出すことに成功。その際、神の子となったシンジの強力なデストルドーに呼応したロンギヌスの槍が月の衛星軌道から飛来し、そのまま9体のエヴァ量産機を使って生命の樹に初号機を磔にし、贖罪の儀式を行った。
それにより神の力による強大なアンチATフィールドが発生し、全人類はそれぞれのATフィールドを失ってL.C.Lへと還元されていく。その一方でゲンドウはリリスの魂を移植していた綾波レイに融合することによって神の力を獲得し、全人類をひとつの生命体へと進化させようとした。しかしどちらの計画にとっても「魂を導く」という役割を担わされたリリス(レイ)は、そのどちらの役割も果たすことなく、シンジへの接触を試みた。それまでデストルドーによる欲望しか持たなかったシンジは、リリスの対話の中で次第にリビドーを取り戻してゆき、他人という存在と傷つけあうことになっても、他者との関係に不安を抱きながら生きていくことになっても、または、かつて父親に捨てられたときのように他人に裏切られるようなことになっても、その他人との共存を望むようになった。
神の子によるデストルドーが弱まったため、ゼーレの計画である全ての人間の魂の回帰は成し遂げられることなく、またゲンドウの目的の一つである人類全体の進化という結末も迎えることもなかった。
TV版における人類補完計画の解釈のひとつ
あくまでも一つの考え方です。
以下、第25話の台詞の一部
ゲンドウ「虚無へ帰るわけではない。全てを始まりに戻すに過ぎない。この世界に失われている母へと帰るだけだ。全ての心が一つとなり、永遠の安らぎを得る。ただそれだけの事に過ぎない」
ミサト「それが補完計画?」
リツコ「そうよ。私たちの心には常に空白の部分、喪失した所があるの。人は誰しも心の闇を恐れ、そこから逃げようと、それをなくそうと生き続けているわ。人である以上永久に消えることはないの」
ミサト「だからって人の心を一つにまとめ、お互いに補完し合おうというわけ?それも他人が?大きなお世話だわ!そんなのただのなれ合いじゃない!!」
ゼーレの計画は「生まれ方を間違えた人類をリセットして、生まれる前の状態に還る」。
ゲンドウの計画は「人類がアダム・リリスを取り込み、全く新しい存在へ進化する」。
とまとめられる。
だが、結局は極少数の人間が画策する「理由はご立派な大義名分だが実態は独善的な計画」でしかない。他人の人生を巻き込み、不幸にしてまでも遂行する事が本当に幸せなのか?ゼーレ並びにゲンドウ達が画策した事もまた人間の罪と言えるのかもしれない。
人類補完計画に類似する作品・事柄
「全ての生物を一つにする」という思想
- コスモゾーン(火の鳥)
- ボーグ(スタートレック)
- ゴーデス(ウルトラマングレート)
- イルド(ウルトラマンティガ)
- 宇宙球体スフィア(ウルトラマンダイナ)
- カオスヘッダー(ウルトラマンコスモス)
- ソリチュラ(ウルトラマンメビウス)
- ゾンダーメタル(勇者王ガオガイガー)
- ゲッター線(ゲッターロボ)
- ただし、スパロボではゲッター線は人類補完計画を否定している。
- イデ(伝説巨神イデオン )
- こちらはスパロボでは肯定している。
- EDEN
- メガヘクス(MOVIE大戦フルスロットル)
- ラグナレクの接続(コードギアス反逆のルルーシュR2)
- フェストゥム(蒼穹のファフナー)
- マキナ人間(鉄のラインバレル)
- バジュラ(マクロスF)
- 星の歌(マクロスΔ)
- ジェダ・ドーマ(ヴァンパイアセイヴァー)
- シェム・ハ(戦姫絶唱シンフォギアXV)
- 邪仏(サトリ)(ウソツキ!ゴクオーくん)
- 宇宙浮遊物体スフィア(ウルトラマンデッカー)
- 熊三号(スプラトゥーン3)
人類補完計画を「彷彿とさせる」作品
- 幼年期の終わり
- 文明の限界と、単一生命化による人類の人工進化が描かれた作品。
- 仮面ライダーBlack(漫画)
- 人類の人工進化とそれに伴う世界の破滅が描かれた作品。
- 生命の木
- 生命の実、知恵の実、十字架状の光による昇天など、本作に多大な影響を与えた漫画作品。
- Fate/Apocrypha
- 第三魔法による人類の救済という点が類似している。
- ラーゼフォン
- 崩壊しつつある多元世界を再構成し、新たな世界を創造する計画が描かれた作品。スパロボでは人類補完計画とミックスした多元世界補完計画として描かれた。
- ライブアライブ
- Bloodborne
- 仮面ライダーゴースト
- 物語終盤にてデミアプロジェクトという人類補完計画に酷似する計画が進行し始めた。
- シン・仮面ライダー
- ある人物によって人類全てのプラーナを引き剥がし、「理想郷」へと誘う計画が進行し始めている。
- アリス・ギア・アイギス
- ヴァイス化したアクトレスによって明かされたヴァイスの真の目的がダイナやデッカーのスフィアのそれに酷似する。また、そんなヴァイスに味方し侵略の手引きをするカルトテロ組織「SIN」というものも存在する。根本的なネタバレをも含む詳しい内容は→-
- ハツリバーブ
- 原罪の行動がスフィア+ヴァイスのそれであり、第二の高等原罪「貪欲」に至ってはゾグみたいな行動とともにもろに降伏を迫ってくる。
- 結城友奈は勇者である
関連イラスト
関連動画
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サードインパクト発動時の劇中歌
「Komm, süsser Tod~甘き死よ、来たれ」
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