概要
広義には、ミノフスキー粒子に静電入力を行った際に発生する、立方格子状の不可視のフィールド(力場)を指す。名前のIの由来は、開発者のイヨネスコ博士の名前から取ったという説と、イオノクラフトから取ったという説がある。
ミノフスキー物理学の根幹を成す現象であり、ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉のプラズマおよび放射線遮断や、ミノフスキークラフトの浮遊原理、更にビームライフルで射出するためのミノフスキー粒子の縮退および収束にも関連している。
更にIフィールドは縮退状態のミノフスキー粒子(=メガ粒子)に対して斥力を働かせるため、あらかじめ限定範囲に線状、あるいは面状のIフィールドの『型枠』を形成し、そこにメガ粒子を流し込んだものがビームサーベル、ビームシールドとなる。
狭義には、上述のメガ粒子に対する斥力を用いた偏向場を、機体周囲に張り巡らせる事で形成する対ビームバリアを指す。
本項ではこちらについて詳細な説明を行う。
なお、以下ではバリア機能についての説明を明確化するため、「Iフィールド・バリア」で統一する。
Iフィールド・バリアの特徴
メガ粒子がIフィールド形成面に沿って偏向、拡散するという特性から、このフィールドを機体の全周囲に展開する事ができれば、戦艦の主砲の直撃にも耐える堅牢さと、死角からの攻撃でも防御を可能とする高機能を両立した、理想的な対ビームバリアとして機能する。
Iフィールドそのものは、MS開発の黎明期から存在していたが、斥力場として発現させるほどの強度を、更に機体全周囲に常時展開するためには莫大なエネルギーが必要であり、Iフィールド・バリア発生機自体も大型で、機体容積を大きく占有する事になるなど、実現には多くのハードルが存在していた。
加えて根本的に、斥力が発現するのはあくまでもメガ粒子に対してのみであり、炸薬により射出される実体弾や爆炎は素通りしてしまう事から、そもそもにしてこれらに対して充分な装甲厚を確保しなければ、大きなメリットが得られないという問題をも抱えていた。
このため、長らくは大出力ジェネレーターと重装甲を搭載できるが、機動性(運動性)に難があり、かつ死角が大きいため射撃ビームの被弾が避けられない大型MAに搭載されるのが常であった。
その他に明確な“弱点”となるのは、エネルギー消費が多大となるため、例え大型機であったとしても多用すれば稼働時間に制限がかかってしまう事から、継戦能力を低下させてしまう点、展開したフィールドの内側に入り込まれるとビームバリアとしての機能を果たさない点がある。
ただし後者に関しては、大型MAは同時に大推力スラスターと大容量のプロペラントを有している事がほとんどなため、MSの推力では物理的に追い付くのが不可能に近く、あるいはMAが旋回等を理由にして速度を落としていたとしても、大火力・広範囲のメガ粒子砲の雨を掻い潜り肉薄する行為は特攻に等しいと、相対するのが高性能機と熟練パイロットの組み合わせでなければ、弱点として露呈しないのが現実である。
なお、これら以外の弱点として、大きく取り上げられる事は少ないが、エネルギーを限定範囲のみに拡散させるビームシールドと異なり、“全方位拡散”させるため、飛散した超高熱のメガ粒子が周囲の建造物や味方機に想定外の被害を与える点が存在する。(Iフィールド・バリア搭載機の多くは宇宙戦専用のため、この問題は表面化しにくい。)
技術的推移
宇宙世紀0079年~0087年
Iフィールド・バリアが搭載された初の機体である、ビグ・ザム(全高60m、ジェネレーター出力140,000kW)が実戦に投入された。本機は水平360°に配置された多数メガ粒子砲の影響もあったとはいえ、稼働時間はわずか20分であり、バリア技術の未成熟さが特に見て取られる。
しかしながら、ソロモン空域に集結した艦艇からの艦砲射撃を防ぎつつ、連邦艦隊を一方的に薙ぎ払うという多大な戦果を上げたことから、長距離狙撃が実質的に不可能なミノフスキー粒子下の戦闘において、「中距離以近において艦砲射撃を受ける事を前提とした上で、重火力を搭載した機動兵器」の有用性が証明された。
その後、ジオン公国軍の敗戦に伴う、連邦の技術接収およびアナハイム社の台頭により、全陣営にIフィールド・バリアの技術が行き渡ったため、各勢力において搭載MAの試作が進んだ。
アナハイム社のガンダム試作3号機(73m(砲身含まず)、38,900kW)、デラーズ・フリートのノイエ・ジール(76.6m、75,800kW)、地球連邦軍(ムラサメ研)のサイコガンダム(40m、33,600kW)などがこれにあたり、いずれも限定戦域において、非常に高い戦術的戦果を残した。
これら機体の内、サイコガンダム系列機はIフィールド・バリアの展開半径が機体本体に比較的近く、肉薄に近い状態からのビーム射撃さえも無効化して見せた。更には変形によってMS形態となる事で、機動力は低下するものの、人型ならではの運動性(旋回・姿勢制御能力)の高さから、敵機の接近そのものを容易ではないものとしており、大型MAとMSの利点をハイレベルで統合してみせてもいる。
しかしながら、MSの性能向上速度も非常に高い時代であったことから、Iフィールド・バリア搭載機に要求される基本性能、メガ粒子砲の多様性、FCS、マン・マシーン・インターフェースの全てが高度となった結果、開発コストが天井知らずに高沸。さらにはパイロットにも熟練の経験と肉体的負荷、あるいは特殊な施術が必要となってしまい、結果的に生産数は非常に少数に留まった。
宇宙世紀0088年~0100年
サイコガンダムの有用性を引き継いで、クィン・マンサ(39.2m、21,370kW)のような大型機が決戦兵器として開発されると同時に、スペリオルガンダム(21.7m、7,180kW)やユニコーンガンダム(19.7m、3,480kW※ユニコーンモード時)といった特殊な目的で建造されたワン・オフ機には、20m級MSサイズでのIフィールド・バリアが実験的に搭載された。しかしながら、同世代では20m級の機体でバリア機能を常時展開させる事は技術的に不可能であり、両機とも限定条件下(被弾が予測される瞬間や、偶発的要因によるサイコフレーム展開時)での使用に留まった。
量産型であるTR-6ウーンドウォート(推定16m程度、出力不明)では携行兵装であるコンポジット・シールドブースターにIフィールド・バリアが搭載されている。また、増設装備となるウェポン・カーゴにIフィールド・バリア及びIフィールド・バリア用ジェネレータが搭載可能となっており、コンポジット・シールドブースターを携行せず、大型の換装ユニットを装着しない形態でもIフィールド・バリアの搭載が可能。(大型MAであるビグ・ザムールやギガッザムなどは常時展開可能)
加えて、同時代の機動兵器開発トレンドから、製造コストや機体性能的を鑑みてIフィールド・バリアの搭載が不可能ではない機体も複数存在していたが、上記の三機を除いては採用されたものは存在しなかった。
これは、そもそもにおいてMSの最大の武器は機動性(運動性)であることから、MSが艦砲射撃の直撃を受けるような状況は、パイロットの練度面の課題に比重が大きく(事実、スペリオル、ユニコーンのパイロットの操縦技術は、(特に搭乗初期は)一般兵レベル未満であった)、更にMSサイズでは実弾に対して充分な装甲厚を確保する事が不可能なため、Iフィールド・バリア搭載のメリットが小さかったためと考えられる。
それでも理論上は、当時猛威をふるったファンネルによるオールレンジ攻撃に対して一定以上の有効性を確保できたが、これらNT専用機と対峙する高性能機を与えられるパイロットは、操縦技術によってファンネルからの攻撃の回避、反撃が可能であったことから、機体の積載容量をIフィールド・バリアに割くよりも、格闘戦に影響するアポジモーターや継戦能力に直結するプロペラントに対するバランスを強く意識していた(代表的な一機であるZZガンダムに搭乗したジュドー・アーシタは、対ビームコーティング装甲で覆われたフルアーマー仕様を目にした際に「重くなる!」と嫌悪感を露わにした)。
宇宙世紀120年以降
MSが15m以下に小型化(本体重量・消費エネルギーの低減)し、ジェネレーターも高出力化した第二期MSが登場し、量産機にも充分な余剰出力が生まれた結果、実弾・ビーム双方に対して高い防御力を誇るビームシールド装備が一般的となったため、Iフィールド・バリアは最早『時代遅れの技術』と成り下がっていた。
特に、同時代のジェネレーターにビームが直撃した際に発する大規模な核爆発の衝撃から機体を保護できないのは致命的であり(防御兵装がIフィールド・バリアのみのラフレシアはビギナ・ギナの誘爆に巻き込まれ、花弁の一枚を失った事で劣勢に追い込まれている)、ジェネレーターに余裕のある大型機ですら搭載されていない機体が散見される。
それでもサナリィを中心に、主に技術的挑戦として試作MSへの搭載が試みられており、F90(14.8m、3,160kW、Iフィールド用のジェネレータ増設無し)のKタイプでは両肩に各3基が搭載され、無力化ではなく逸らすことでの防御を目的に搭載されている。F97(15.9m、5,280kW)の3号機には、ビームシールドに替わって腕部にIフィールド・バリア発生機が搭載された。が、本機のIフィールド・バリアは完全に無防備となるクールタイムが必須であり、開発陣からして「今後、高性能化していくビームシールドによって、消えていく技術である」と認識されており、『無責任』としか解釈できない仕様であった。パイロットであるトビア・アロナクスも、いくつかの局面で掌から発されるIフィールド・バリアによってビームサーベルを“掴む”という特異な戦術により戦況を優位に運んだが、物語終盤では大破することになる。
(次々回作となる鋼鉄の7人まではビームシールドを装備している1号機を使用していたが、中破した事によりサナリィの倉庫の奥深くで眠っていた3号機の腕部を移植する事により再びIフィールドが使用出来るようになった)
後年追加されたフルクロスにおいては、肩部に増加ジェネレーターと共に常時展開可能なIフィールド・バリアが搭載されたが、こちらも『防御兵装』に誘爆の危険性のあるジェネレーターを付設するという、安定性を考慮するとやはり『無責任』の誹りは免れられない設計であった。
最後期に製造されたV2ガンダム(15.5m、7,510kW)は、ジェネレーター負荷の小さいミノフスキードライブの採用と高出力ジェネレーターの搭載により、本体に莫大な余剰出力を残しており、更に実質的な専属パイロットであるウッソ・エヴィンの戦果が特筆すべきレベルにあったことから、戦力劣るリガ・ミリティアがオプションパーツであるアサルト装甲にIフィールド・バリアを搭載させ、当機に更なる戦果を望んだ。
このオプション・Iフィールド・バリアは、15m級のMSに搭載できる小型でありながら、ジェネレーターの増設を必要とせず、しかも稼働時間に制限のない『完成型』といえる仕様となっていた。
しかしながら、ウッソはアサルト装甲をあくまでも二次装甲として用い、Iフィールド・バリアを積極的に稼働させる事は無かった。これもやはり上述の通り、熟練のパイロットほど継戦能力を優先し、エネルギー消費を抑えた運用を心掛けたためと考えられる。
正歴
遠い未来では∀ガンダムやターンX、スモー等に採用されているIフィールドを駆動システムにまで転用した「Iフィールドビーム駆動」が存在する。この機構ではIフィールドはモビルスーツを操作する為に機能し、さながらマリオネットの糸のような役割を成している。