CV:広瀬すず
「忘れないで…私たち、いつだってたった一人で戦っているわけじゃないんだよ」
概要
都内の進学校に通う女子高生で、蓮(九太)が再び人間界に戻ってきたときに訪れた図書館で出会う。
幼い頃から両親に言われるがまま勉強に明け暮れ周囲とは距離を置いており一部ではそんな彼女に軽蔑感を抱く輩もいるが、実は両親の言いなりになっている訳ではなく、その真意は一流の大学に入学して独り立ちしそこで特待生となって卒業し自分の思うがままの人生を送ろうと考えているためであった。そのためそんな辛い現状を受け入れているも、生きがいを見出せていないことから自分の気持ちには素直になれないでいた。
そんな中、人間とは対を成すバケモノの世界で育った蓮と出会い、彼に人間界の勉学を教え込むうちに次第にそれが彼女の生きがいとなり、それまで目を背けていた自分の気持ちにも素直に向き合うようになり、周囲との付き合いも増えていった。
右の手首にはお守りとして幼少期に読んでいた本のしおりとして使っていた赤い紐を付けており、中盤で蓮がとあることから情緒不安定になった際には励ましとしてそれを手渡している。また勤勉の賜物か、判断力と推察力に長けている節があり、終盤ではそれを活用して一郎彦と戦う九太をサポートした。勉強時は赤い額縁の眼鏡を着用している。
劇中で本格的に関わるのは中盤だが、物語冒頭でも多数のモブに混じって幼少時の彼女と思われる少女が母親と思われる人物に手を引かれる形で登場している。
なお、モブを除いた登場人物の中では唯一の女性キャラである関係上事実上の本作のヒロインポジションと言える立ち位置だが、劇中では九太を大いに慕ってはいるものの彼に恋愛的な好意を抱いている明確な描写はなく、寧ろパートナーとしての役回りが強い。
劇中での役割と存在意義について
彼女と出会うまでバケモノ界のことしか知らなかった九太に、人間界の知識を教え込んで彼にバケモノ界での目標達成後の新たな生きがいを見出させたことで九太にとって掛け替えのない人物の一人となった楓だが、実は観客の間では彼女に不振感や嫌悪感を抱き、その存在を不必要と説く意見が多く散見されている。
賛否両論が多いことで知られる本作であるが、この否定的意見は否定派は勿論、肯定派ですらこの意見を提唱・賛同・同感するものが少なくないため、いかに彼女の存在が観客の間で物議を醸しているかが伺える。
再度記述するが、楓は意図せずして人間界に迷い込んだ九太に人間界の勉強を教えて彼に新たな価値観と目標を持たせるという劇中でも重要な役割を担うわけだが、そのきっかけとなるシーンを起承転結にまとめると…
「楓が帰路についた際に、彼女を嫌う不良高校生達が因縁を付けて楓を集団リンチしようとする→その場に遭遇した九太が彼らを成敗し彼女を助ける→駐車場で二人は会話するうちに、九太は自身が無学であることを楓に打ち明ける→そんな彼に楓は自身が勉強を教えることを提案し、九太がそれに同意する」
…というのが大まかな流れである。
しかしそれまでの話の流れを見れば分かるが楓と九太はこの時点まで一切面識がなく、それを踏まえると彼女のこの行為は冷静に考えて不可解である(上記の通り冒頭では幼少の姿でモブとして登場しているが、ここでは両者に一切交流はない)。そもそも九太が無学と聞いて勉強を教えるという発想を思い付く楓の思考も疑問である。第一それまでバケモノ界で暮らしていた九太が、人間界に戻った途端彼女に勉強を教わりながら人間界の知識を身に付けていくという展開自体に不自然を感じられなくもない。
これだけならまだしも、恐らく観客が彼女に悪印象を抱かせた決定打となったのは、クライマックスでの九太と一郎彦の死闘に巻き込まれた際の行動であろう。
九太が自らの心の闇に侵され狂暴化した一郎彦を鎮静させるための闘いの準備の最終段階として、渋谷のセンター街で楓と待ち合わせ彼女に白鯨を手渡すと、意図せずして自分を追ってきた一郎彦と対峙。楓に危機が及ぶことを恐れた彼は彼女にすぐさまこの場から逃げるよう訴えかけるも、当の楓は一体何を考えたのか九太の手を掴んで離そうとしないという側から見たら妨害行為としか言いようのない行動に出たのである(おまけにこの時「離さないから」と言っている)。
その後紆余曲折あり代々木体育館で再戦となった際も九太は楓に逃げるよう促したが、寧ろ彼女は(世界を滅ぼすほどの強大な力を持って暴走する)一郎彦の前に出て叱咤するという謎行動に出た。自殺志願者かお前は…。また彼女は一郎彦が暴走するに至るまでの経緯や苦悩を一切知らないにも関わらずこの行動に出ているため、彼に同情していた観客は何も知らないにも関わらず辛辣な言葉を言う楓に、それまで抱いていた不審さも相まってより一層嫌悪感を持ってしまうだろう。
その他にも、小説版では日頃から同じ服しか着ていない九太に対し、「衣替えしなよ」と称して彼に自腹でおニューの服を購入させている。余計なお世話だ。
このように彼女は第三者目線から見れば不審かつ不可解と捉えようがない行動を連発している。これでは肯定派否定派問わずいらない子呼ばわりされるのも無理はない。正に近年ネットで騒がれている『嫌われるヒロイン像』の典型的な例と言えよう(『ヒロイン』の記事も参照)。
しかしこれは脚本の実力不足や、尺の関係上楓に劇中での焦点が当てられた時間があまりに少なくなってしまったが故の弊害であり、決して彼女自身に落ち度があるわけではない。
現に楓と出会った際の九太は青年に成長し次第に自尊感情が芽生えてきた影響から、バケモノ界以外の知識も知りたいと考えていた矢先であり、そんなバケモノ界とは対を成す人間界の知識を携えた彼女は絶好の人材だったのである。
楓もまた九太と出会うまでは親に勉強を強いられた所為で周囲から疎まれ生きがいを見出せておらず、そんな最中に自身の博学さを必要としてくれる九太と出会ったことによって次第に前向きとなり、ついには学内で友人にも恵まれていたりする(描写がないため九太と出会う以前から親しかった可能性もあるが、登場時の彼女の様子から察するに前向きとなったことによって得たと思われる)。奇しくも境遇が違うとはいえ熊徹に共通した部分が多い。
つまり楓が九太に勉強を教えるのを提案した動機は、直前にリンチから助けてくれたお礼と、彼が人間界の知識を得たいと感じたためである(これ以前にも、九太が彼女に手にした本である『白鯨』に書かれている文字をいくつか彼女に尋ねていた)。
終盤の不可解とみられる行動にもきちんとした理由がある。
センター街での初戦での妨害行為と見られる行動は、後に本人が発言するが自身が側にいることによって九太に孤独感を感じさせないようにする彼女なりの応援である。九太はバケモノ界に住むまでは周囲に理解者がおらず孤独だったものの、熊徹と出会ったのを機に徐々に理解者が増えていった。つまり一郎彦との闘いで楓が九太の側にいるということは、彼が自分という存在を周囲に遺憾なくアピールすることによって己の弱さを乗り切って孤独を克服したことを表し、同時に「人間」というバケモノ界ではマイナスなアイデンティティから逃げ続け「街の人格者の息子」というステータスとそれから来るプライドに執着してしまったがために自身の弱さと向き合おうとせず孤独となった挙句闇堕ちした一郎彦との対比も表してる。また対決直前に自身に生きがいを見出させてくれた恩人である九太から唐突に永久の別れになるかもしれないと告げられたことに対する動揺と、彼を失いたくないという気持ちがあったことも一理あると考えられる。そして終始九太に同行していた動機も、勤勉から身につけたあらゆる知識を活用し上記の通り無関係な人が巻き込まれるのを防ぐべく人通りの少ない閑静な場所へ彼を案内するためである。彼女のこのサポートがなければ多くの人が二人の戦いの巻き添えを喰らい、さらなる惨事へ発展した可能性も十分考えられる。
代々木体育館での再戦で彼女が一郎彦に叱咤したのは、自らの負の感情を爆発させ九太、引いては世界そのものを逆恨みしそれらを滅ぼすために暴走する一郎彦に対する義憤からきている。明記すると、上記でも記した通り彼女は一郎彦のことを一切知らず、一郎彦も暴走する動機は非常に同情できるものだが、だからといって尊敬する父親である猪王山の敗北という試合結果に納得できず対戦相手である熊徹を殺害しようとした挙句、世界を滅ぼそうとするという行動は決して正当化できるものではなく、同時にそれは猪王山の名誉に大きな傷をつけることでもある。現実の凶悪犯が不幸な生い立ち故凶悪犯罪を犯すも、そのしたことは決して許されぬもの故世間では全く同情されていないのと同じく、楓もまた自身の身勝手な動機から凶行を行う一郎彦に怒りを覚え感情的になり叱咤するのもなんら不自然ではない。さらに補足を加えると、一郎彦は自身のステータスやプライドに縋らず、同じ悩みや境遇を持つ九太に相談するなどして自身の弱さときちんと向き合うべきだったと言える。弱さを見せるというのは恥ずべきことで勇気が必要ではあるが、それは周囲に自分のことを理解してもらうための大切な行動なのである。また自分の意思を相手にはっきりと主張する行為は、九太と出会う以前の彼女では行わないと考えられ、いかに九太の存在が楓に自分の意思と真っ当に向き合う素直さと目の前の苦難に屈しない精神的な強さを芽生えさせ成長させたことが伺え、それが強大な相手に対してであれば尚更であろう。そしてこの際の彼女が発した台詞もまた、九太と一郎彦との対比を象徴している。
即ち楓は九太との交流で得た自分なりの方法で彼をサポートしながら共に一郎彦と戦っていたと言える。
また小説版での九太が彼女に言われるがまま服を購入する描写は、彼が熊徹の影響下を離れつつあるのを示唆している(九太のそれまでの普段着は熊徹から支給されたものである上に、彼のキャラクター性を色濃く反映している)。
このように、楓は九太を熊徹から一人立ちさせ自身のアイデンティティを確立させるための重要なキーパーソンであり、本作において言うまでもなく必要不可欠な存在なのである。
しかし劇中では上記の通りこれらに関する描写が希薄であるために結果として観客が彼女に不信感等の悪印象を抱かせる羽目になり、結局のところ楓の存在が本作の賛否両論を生む大きな原因の一つとなっていることもまた事実である。
余談
彼女の家庭環境と両親との関係は、一郎彦と共通した点が多い。一郎彦は孤独のまま成長した場合の九太のIFであると解釈される傾向があるが、影響力の強い親から精神的に自立出来たか否かという点では楓のIFであるとも言える。彼女が代々木体育館の再戦で一郎彦に叱咤したのは、そうしたところも一理絡んでいたのかもしれない。
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