「もし、あんたといて本当に強くなるなら…俺、あんたの弟子になってやってもいいぜ」
「俺は行きます!あいつのこと、よろしく頼んます!」
概要
齢9歳にして天涯孤独の身となり、ひょんなことから人間とは対を成した存在であるバケモノの熊徹と出会い、彼と切磋琢磨し合いながら武芸の修行に励む。
バケモノと人間の狭間で自分の有るべき姿についてを思い悩みつつも、周囲の者たちの支えによってその弱さを克服し、渋天街で過ごす9年を通して熊徹と共に一人前の武人として成長して行く。
物語開始時の年齢は9歳と、監督の過去三作の主人公の中では事実上の最年少だったが、次作『未来のミライ』にてこれを更に下回る4歳に更新された。
本名、及び人間界に於ける名前は「蓮」であり、本項では彼の意識がバケモノ界に向いている際は「九太」、人間界に向いている際は「蓮」と使い分けながら記述する。
人物像
壮絶な苦労に見舞われ人格が荒んだ影響から、年齢に見合わない乱暴な振る舞いをして誰に対しても心を開こうとはしなかったが、熊徹という自身と同じ「独りぼっち」である境遇を持つ者と出会い共に暮らすようになってからは次第に他者に心を開くようになる。
熊徹と触れ合う際は乱暴な態度が目立つがそれは飽くまで彼に対してのみであり、それ以外の他者には比較的穏和で礼儀正しく謙虚に振舞っている。後述のような高い能力を持ちながらも、それを誇示せず周囲には物腰柔らかに接するその姿勢は、奇しくも猪王山に共通する。 不良に袋叩きに遭いそうになっていた見ず知らずの少女を助けるなど、正義感強い一面もある。
潜在能力や物事の呑み込みも早く、熊徹の動作を真似することで武芸を身に付けたり(ただし彼の武術を継承したというよりは、熊徹のものを参考に独自の武術を確立したと見られる)、青年期では小3程度の学力から数ヶ月の勉強で大学受験に挑戦出来るほどの急成長ぶりを見せた。もっとも、9歳の時点で誰の助けも借りずに数日間屋外で一人放浪生活をしていたことから、元来ずば抜けた才覚の持ち主だったのかも知れない。
好物はハム入りオムレツで、幼少期は生卵が苦手だったが、青年期では卵かけご飯を難なく食べるシーンがあることから克服したと思われる。
正確な身長は不明だが、アートブックを参考にすると青年期は180cm以上あることは確実である(百秋坊や実父、同年代の男子よりも長身)。ただし小説版の多々良の台詞曰く、青年時の一郎彦よりは若干低いらしい。
来歴
幼少期
幼い頃、都心に複数の不動産を所有する母親の実家である名家の人間たちによって両親を強引に離婚させられ、以降は母親と二人で暮らしていたが、9歳のときにその母親が交通事故によって他界。その後は母親の実家に引き取られることになるも、彼らの余りに冷淡かつ無神経な態度や、自分が苦境に立たされているにも拘らず一向に自分の前に現れようとしない父親に反発し出奔。その際に持ち出した数枚の万札と小銭を頼りに食い繋ぎながら以降渋谷を彷徨う放浪児となる。
その最中に謎の生き物・チコと出会い、行動をともにすることにしたチコと一緒に高架下の駐輪場で夜を明かそうとしたところ、謎の二人組が通りかかりそのうちの一人である大柄で屈強な男が彼の前に立ち止まる。そしてその男から「おめぇ…俺と一緒に来るか?」と声をかけられ、それが気になり彼らの後を付いて行った結果、人間とは対を成す存在であるバケモノの街・『渋天街』へ迷い込んでしまう。
そして狼のバケモノ3人に捕まってしまい彼らから蛮行を受けそうになるが、豚のバケモノである僧侶の百秋坊の介入によって事なきを得た直後、素顔を露わにした例の二人組の男、熊のバケモノ・熊徹と猿のバケモノ・多々良と再会。そして熊徹から彼の自宅(熊徹庵)を案内され、彼から名前を尋ねられるも、個人情報を理由に教えるのを渋った結果、その時の年齢(9歳)に因んで新たに『九太』と名付けられる。
その翌日の朝、熊徹から朝食に誘われるも苦手な食材を食べるよう強要されたことから言い争いとなり、その場から逃走する。しかし広場で彼を弟子に取るか否かで熊徹が同じ次期宗師候補の一人・猪王山と対決になると、周囲が熊徹を応援しない様子を見て彼が自分と同じ「一人ぼっち」であることを悟る。熊徹はその対決に敗北するも、自らと同じ境遇を持つ彼にシンパシーを持ち、弟子入りを決意。こうして彼はバケモノの子・「九太」として生まれ変わり、渋天街での新たな生活が始まった。
しかし熊徹は師事や指導の経験が皆無であるために、その教えは非常に大雑把かつ漠然としたものであり、また商店街に買い出しに行った際に彼が猪王山と比べると余りに威厳や品格がなさすぎるのを悟ったり、さらに猪王山の息子である一郎彦と二郎丸からは弱い者呼ばわりされるなど、当初は周囲から全く期待の念を持たれていなかった。
しかし宗師の手引きによって強さとは何かを知るための渋天街以外の各地の宗師を訪ねる旅によって強さは人それぞれで違うことを見出し、帰省後には母親(の幻影)から「なりきる、なったつもりで」というアドバイスを受け、熊徹の動作を日常的に観察し真似をし続けた結果、足捌き程度なら熊徹をあしらえる程の身のこなしが身に付く。さらにその後の修行によって剣技や格闘技も習得し、街の子供達と互角に渡り合えるほどの実力が身に付く。それを機に二郎丸を始めとした子供達と親しくなり、やがて彼と熊徹の驚異的な成長ぶりは周囲を驚かせ、次第に期待の目を向けられるようになる。
かくして九太は「熊徹の一番弟子」として渋天街で名の知れた存在となり、また最初は次期宗師として全く期待されていなかった熊徹も、九太と共に成長することによって猪王山と肩を並べ、彼を次期宗師に支持する声も次第に現れ始めた。
青年期
熊徹と共に修行すること8年、すっかり真っ当な次期宗師候補者の一人として世間から期待されるようになっていた熊徹は猪王山に匹敵するほどの弟子を抱えるようになり、彼の一番弟子である九太も渋天街のバケモノの間では憧れの的となっていた。
しかし成長するに従って自尊心が芽生え、「自分の稽古は自分で決める」と熊徹に自主トレを希望するも、未だに九太を半端者扱いする彼はそれを全く聞き入れなかった。
そんなある日、いつものように些細な張り合いから熊徹と追いかけっこになった際に、逃げ込んだ路地裏を通じて意図せずして8年ぶりに人間界の街・渋谷に舞い戻る。
そしてふと立ち寄った図書館で手に取った白鯨を読んでいた際、「鯨(くじら)」という文字の読み方が分からず、偶然隣にいた進学校に通う自分と同い年の女子高生・楓にそれを尋ねたことで彼女と出会う。
その後、楓を図書館でのマナーの悪さを指摘されたことを逆恨みしリンチしようとした不良達から救い出したことを機に彼女から慕われるようになり、楓に自身が小3以降一切教養を受けていないことを打ち明けると、彼女から勉強を教わることを提案され、それに同意する。その際自らの名前を名乗ることになり、少々悩んだのち本名である「蓮」を名乗ったことから、彼女からは「蓮くん」と呼ばれるようになる。
以降、渋天街で武芸修行に励む傍、熊徹には内緒にしながら渋谷で楓に勉強を教わるという生活を送る。結果蓮は自分の知らない分野を学びたいという好奇心や持ち前の物分かりの良さ、楓の卓越した指導力によって楓が驚くほど短期間で着々と学力を身につけていく。これによって人間界で初めて触れた本である「白鯨」の内容を理解するうちに、鯨を自らの心の闇を表した存在として認識する様になる(ちなみに彼がこの時使用した図鑑は実在する図鑑を模写したもの)。
やがて学力が年相応のレベルにまで達した際、楓から大学進学を勧められ、そのために新たな住民票が必要になり、それを取得する過程でそれまで行方知れずであった父親の居場所を知る。そしてその住所を辿って実父の住むマンションの付近を訪れた結果、念願の実父との再会を果たす。
しかしそれによって今後人間界とバケモノ界、どちらで暮らせばよいか悩むことになり、それを熊徹に相談しに熊徹庵へ帰宅するも、一向に自分を一人前と認めようとしない彼に失望してしまい、一方的に熊徹に別れを告げて渋天街を出奔してしまう。
その後、人間界に戻ると父親と鉢合わせ、彼から「お世話になった人」に挨拶をして二人で暮らすことを持ち掛けられるも、それまでの自身の身の上を一切知らなかったにもかかわらず一方的に話を切り出された上、自身の心境を決め付けられたと感じたためにこれを拒絶してしまう。
結果として不本意のまま二人の父と決別し行き場を失ってしまった彼。ふと渋谷の繁華街に立ち寄った際、幼少期に見かけた自身の不穏な影を目にし、それが自らの後ろに回り込むと自分の胸に巨大な得体の知れない”穴”が空いているのを知り、恐怖に駆られ一目散にその場から逃走する。
その後、事前に図書館で待ち合わせしていた楓と落ち合うと、彼女に「俺は一体、何なんだ?」と威圧しながら詰め寄る。自らが何者なのか、どこで生きればいいのか、そして今後どうすればいいのか完全に分からなくなってしまった彼は情緒不安定となり、その鬱憤を楓にぶつけてしまうも、彼女の意を決した渾身の平手打ちと慰めによって平常心を取り戻す。そして楓から励ましとして右の手首に付けていた御守りを手渡されると、改めて熊徹と話を付けるべく渋天街へ向かう。
そして渋天街へ戻ると、街の様子がいつもより華やかで慌ただしくなっており、偶然出くわした二郎丸から自宅に招かれたのち、漸く宗師が神への転生を決意しもうじき次期宗師を正式に決定するための闘技試合が行われることを聞かされる。唐突な報せに動揺するも、二郎丸から「どちらになってもおいら達は友達だ」と激励され、彼と握手を交わす。その時、一郎彦が九太の見送りに表れ、彼に案内されるまま玄関近くの庭に着くと、突然一郎彦が豹変し彼から暴行を受け、去り際に一郎彦の胸から自身と同じ不審な”穴”が空いているのを目にする。
その後、熊徹を見守るために密かに試合会場である闘技場へ訪れるも、九太と喧嘩別れしたことに対する動揺から自暴自棄になっていた熊徹は、試合開始早々から無茶な攻撃を繰り返した結果、形勢は徐々に猪王山に傾いていき遂にはダウンを奪われてしまう。それを見て居ても立ってもいられなくなった九太は試合に乱入して熊徹を喝破し、それによって戦意を取り戻した熊徹は猪王山に怒涛のラッシュを仕掛ける。それに合わせるかのように九太は熊徹に掛け声をかけ続け、遂に隙を突いた熊徹の渾身の右ストレートが猪王山の顔面に直撃。そのまま猪王山は倒れ立ち上がらず、勝負は熊徹の勝利。かくして、次期宗師は熊徹に決まったのであった。
試合終了後、熊徹は一目散に九太の元に駆け寄り喜びのハイタッチを交わし、周囲はその光景を暖かく見つめる。
しかしその時、試合の結果に納得のいかなかった一郎彦が、謎の念動力を用いて鞘の抜かれた猪王山の剣を熊徹に突き刺し重傷を負わせ昏倒させてしまう。それによって激しく激昂した九太は、あの不穏な”穴”を再び解放させ自らも念動力によって自身の剣の鞘を引き抜き、そのまま一郎彦目掛けて剣を突進させる。だが、その時チコが自身の頭に噛み付きふと楓の御守りが目に入ったことによって間一髪のところで我に帰り穴が収束し、剣も一郎彦に突き刺さる寸前で静止したため彼を殺さずに済む。殺し合いという最悪の事態は免れたものの、激しい疲労に駆られた九太はその場に倒れ込んでしまい、一郎彦も九太に対する怨嗟の念を唱えながらその場から姿を消してしまった。
その後、瀕死の熊徹と共に身柄を宗師庵に移されそこで目を覚ますと、虫の息となっていた熊徹を目にし激しい動揺と哀しみの念に駆られる。そして猪王山の口から、一郎彦が自分と同じ”バケモノに育てられた人間の子供”であることと、自身と一郎彦に宿っていた不穏な力の正体が人間の”闇”から生み出されるものということを知ると、彼を"闇"から助けられるのは同じくバケモノに育てられた人間である自分しかいないと悟り、”闇”に侵された一郎彦と闘うことを決心。
出立の際、一郎彦に復讐すると思い込んだ百秋坊から叱責されるも、自身の心情を確りと多々良と百秋坊に伝えると、それまでの感謝の念を二人に述べ、それに感激した多々良に激励されながらその場を後にした。
その後、闘いに備えるために楓に白鯨を預けようと渋谷に赴き、待ち合わせ場所であるセンター街で彼女と落ち合うと、白鯨を手渡したのち決着を付けなければならない相手がいること、そして一緒に勉強できて嬉しかったとを伝え、楓にも感謝の念を述べる。
するとその時、自身を追って人間界に襲来した一郎彦と期せずして対峙しその場で彼と交戦になる。一郎彦の凄まじい狂気に翻弄されつつも一時は善戦するが、”闇”の力によって自らの身体を増強させた彼のとてつもないパワーに押され止むなくその場から撤退する。さらに一郎彦は交戦中の際に楓が落とした白鯨を読んだことによって巨大な鯨に姿を変え、各所を破壊しながら街中を暴走する。
その後、楓に誘導される形で逃げ込んだ地下鉄の車内で一郎彦への対抗策を考えていた際、楓から蓮と一緒にいると勇気が出ること、そして自分たちは一人で戦っているわけではないことを打ち明けられると、自らがかつてと違い一人ぼっちではないことを悟り、改めて一郎彦と闘う決意を頑として固める。
やがて地下鉄を降り、対決の場所を例の闘技場と似ていた代々木体育館に定めると、再び二人の前に一郎彦が現れる。そして一郎彦が彼を叱責した楓を命の危機に晒したことから、覚悟を決め一郎彦の前に立つ。そして自らの"穴”を解放させると、そこに一郎彦を取り込み自らの剣で突き刺すという作戦を実行。それは言うまでもなく、自らの命を犠牲にした自殺行為の作戦であった。
しかしその時、目の前に突然炎を滾らせた大太刀が現れる。それは宗師の特権を利用して付喪神に転生した熊徹であった。そして熊徹は、九太の”穴”を埋めるかの如く彼の胸の中へと吸い込まれていく。
するとふと頭の中で熊徹と過ごした日々がよぎり、もう二度と彼と一緒に過ごせないと思い込み号泣する。だがその時、熊徹が胸の中から「何泣いてんだバカ野郎!メソメソしてる奴は嫌いなんだよ!!!」と諭され、それに対し九太も「うるせぇ!泣いてねぇよ!!!」と反論するという、いつもと変わらぬ茶番をその場で繰り広げる。
熊徹と一体化した九太は一郎彦と決着を付けるべく、多々良、百秋坊、楓、チコなど、それまで自身を支えてきた皆が見つめる中態勢を立て直し、剣を構える。そして再び一郎彦が向かってくると、鯨が出現する度に彼本人が姿を現わすことを知り、タイミング良く斬りかかれば鯨を倒すことが出来ると悟りその時をうかがう。
そしてその時が来ると、一郎彦の”闇”に狙いを定め熊徹と共に剣を抜き彼目掛けて突進。そのまま一郎彦の闇を斬り裂くと、鯨は悲鳴の咆哮を挙げながら消滅し、見事一郎彦を”闇”から救ったのであった。同時にこれは九太が楓との交流を通じて抱いた「鯨」という自身にとっての心の闇の象徴を倒したことによって、彼が自らの闇を完全に乗り越えたことを意味する。
直後九太は気を失っている一郎彦に、自分たちはバケモノにはなれず、自らを呪い胸の闇に藻掻くひ弱な人間に過ぎないが、それでも共にバケモノに育てられた「バケモノの子」であることを諭し、楓の御守りを彼の右手首に付けた。
夜が明けると、熊徹が宿った胸に手を当てながら何気ない会話をした後に、「俺のやることを、そこで黙って見てろ」と彼に告げ、熊徹はそれに笑って応えた。
渋天街へ帰ると、街ではバケモノ界を救った英雄となった九太を祝う祝宴が催されていた。住民たちから盛大な歓迎を受けると、多々良の計らいによって渋天街に訪れ祝宴会に参加していた楓から白鯨を返されたのち、高認の願書を提示され受験するか否かを問われる。バケモノ界での目標を達成した彼は、新たな目標を目指すためにそれに「受ける」と答え、その回答に喜んだ楓と手を握り合ったのち、皆と祝宴会を楽しむのであった。
その後九太は渋天街を去り、剣を手放して人間界で父親と共に暮らし受験勉強に明け暮れる日々を送るのであった。しかし彼は剣がなくとも胸の中に"熊徹"という何よりも強い剣を携えているのである。そのため彼が、何があっても挫けることなく成し遂げ乗り越えられる最強の剣士であることは言うまでもない。
関連イラスト
幼少期
青年期
関連タグ
バケモノの子 熊徹 多々良(バケモノの子) 百秋坊 楓(バケモノの子) 一郎彦 二郎丸