概要 🍚🍳🥢
茶碗または丼に盛った白飯に調味料で加味した溶き卵を絡める飯物の1つ。
「非加熱状態の鶏卵を炊飯に絡め合わせて生のまますすり込む」という食文化が日本独自のものであるため、分類上では和食の飯物または卵料理に属し、炊飯の摂食を前提とした日本にあっておにぎりやお茶漬けと肩を並べる米飯軽食の大看板。
構成
日本の一般家庭であればほぼ常備されている鶏卵と醤油さえあれば瞬く間に完成し、一食分の費用が極めて安価な割に高い栄養価を誇る高機能栄養食であり、食欲不振時の滋養食として好まれ続ける一方、製法や材料がシンプルであるが故にその味わい方や調味の手法は極めて多岐に渡る。
歴史を紐解けば、飛鳥時代に広がりを見せた仏教における五戒の1つ『不殺生戒』(ふせっしょうかい)を生活の根源に定めた(誤解もあったとされる)日本では、獣肉やそれに類する副産物の摂食に対して消極的で、天武天皇及び聖武天皇の代には『殺生禁断令の詔』も発せられた。また、鶏卵は神道において神前へ供物として祀る神聖なもの(太陽の象徴)とされ、人間が食した場合は「罰が当たる」と考えられた。
一般的に鶏卵を食べられるようになったのは江戸時代からとされ、愛玩用に広く飼われていた鶏の産んだ卵に全く孵化しないもの(無精卵)があったことから、無精卵の場合は食することがタブー視されなくなり、抵抗が薄まって採卵用に鶏が飼われる習慣が根付いていった。
だが、当時はまだ高価な食材とされたため、医療や遊郭遊びにおいて精力剤に、はたまた富裕層の滋養食や好事家の珍味として高値で取引される期間が長く続き、庶民が卵を口に出来る機会はそれほど多くなかった(蕎麦1杯が16文だったのに対して生卵1つで400~500文)。
明治初期の新聞記者である岸田吟香(きしだ ぎんこう)が卵かけご飯を生み出して同業の仲間に広めたとされているが、それでもまだなかなかの高級品であったのには変わらず、昭和30年頃からようやく一般家庭でも気軽に買い求められる常備食材の1つに列するようになり、ここから卵かけご飯が「庶民の味」としてあまねく親しまれるきっかけとなった。
それから半世紀を経た2005年、全国に先駆けて卵かけご飯専用醤油『おたまはん』を製造、販売した地方企業『吉田ふるさと村』が島根県雲南市で主催した『第1回 日本たまごかけごはんシンポジウム』で「10月30日をたまごかけごはんの日とする」という決議声明を発表し、それから程無い2007年には卵かけご飯のみでまとめられた料理本『365日たまごかけごはんの本』が出版され、共同著者の1人である森田明雄の造語「T.K.G.」(Tamago Kake Gohan)が新世代卵かけご飯の代名詞となるなど、著しい進化を続けている。
調理
卵かけご飯には、卵の入れ方に違いがある2つの調理法が存在する。
このうち、卵を別の器に割り入れて調味、撹拌した溶き卵を米飯に流す方法には理由があり、1つは「卵の鮮度を確認してサルモネラ菌由来の食中毒を未然に防ぐ生活の知恵」、1つは「卵が高級食材であった頃に溶き卵を人数分だけ等しく分けていた名残」とされている。
直入れ法
- 茶碗に飯を盛る
- 飯の中央に穴を開ける
- 穴めがけて卵を割り入れる
- 醤油を加えて適宜混ぜ合わせる
流し入れ法
- 茶碗に飯を盛る
- 飯の中央に穴を開ける
- 別の器に割り入れて醤油を加え撹拌した溶き卵を穴に流し込む
- 適宜混ぜ合わせる
アレンジ
卵かけご飯は「飯+卵+醤油」で成立する極めて簡素な料理であり、いかにしてこれを自分好みの美味に昇華させるかで個性が光る。
しかし、卵かけご飯を構成する基礎的な3品だけで見ても「醤油は濃口か薄口か」「卵はどの産地の鶏のものか」「米はどんな特徴を持つ品種にして炊飯に用いる水や道具は何にするか」の時点で膨大な組み合わせが発生し、これに「醤油の代わりに何を使うか」「卵の状態をどうするか」「副材に何を用いるか」が加わればさらに拍車が掛かるため、本人にしてみれば究極であっても他者からすれば邪道に感じる組み合わせも往々にして存在する。
醤油代用品
など
副材
など
卵の状態
- 全卵(卵黄と卵白の区別が付く程度にさっくり溶く or 卵黄と卵白と一体化するまで入念に溶く)
- ゆで卵(温泉卵 or 半熟卵)
- 淡雪卵(メレンゲ状に仕立てた卵白に分けていた卵黄を乗せる)
- 冷凍卵(冷凍によって余分な水分を排出、凍結させて卵の味を濃縮する)
- 卵黄のみ
など
卵かけご飯そのものを二次加工する
など
他国から見た卵かけご飯
日本の食文化に親しんで久しい海外出身者からしても、「卵を生のまま食べる」という行為には強い忌避感を覚える者が多く、卵かけご飯の好き嫌いははっきりとしている。
例えば、韓国のユッケを含むタルタルステーキでは卵黄を盛り付けるなど、ごく一部の地域においては生卵を使用する調理法は存在する。しかし、それは具材の味付けに使うための調味料である側面が大きく、最終的には丁寧に混ぜ合わせた上で大なり小なりの加熱処理が施されるため、生卵そのものの味わいや食感を楽しむものではない。
その点、同じく調味料としての利用を目的としたすき焼きの生卵は、その風味と口当たりを以ってすき焼きの味を一層引き立てるためのものであり、この時点ですでに意識と味覚に大きな差が生じていると言え、この意識の差を如実に表したものにアメリカのボクシング映画『ロッキー』の劇中に登場する「トレーニングの一環としてジョッキに割り入れた大量の生卵を一気に飲み干すシーンの捉え方」が挙げられる。
卵の生食を当然としている日本人の目には、このシーンが「生卵を飲む=精力を付ける=強靭な肉体改造に勤しむための食事」と映るのに対し、そうでない食文化圏出身者の目には「生卵を飲む=異様な行動=勝利のためには手段を選ばない」と映るのである。それもそのはず、卵の生食が当然ではない食文化圏では肉食こそが血肉を作り精力を増強する最善最短の食事であり、たとえ脂肪を控える目的で卵を食べるとしてもゆで卵に加工して口に運ぶのが自然であるため、主役であるロッキー・バルボアを演じたシルベスタ・スタローンですら撮影には強い拒否反応を示したと伝えられている。
もう一つには、海外の鶏卵産業は日本に比べて衛生管理が充分ではなく、従って生卵を食す行為はサルモネラ菌による食中毒にわざわざなろうとしている行為と見なされる。それ故、外国人が卵かけご飯を食する日本人を見ると「あいつ死にたいのか!?」とさえ思うのである。このため、欧米では「検査済み」(生食用)と「未検査」(加熱用)2種類の鶏卵パックが販売されている。
生卵に比べ、同じくズルリとした口当たりと独特の風味を特徴とする納豆やとろろ芋、粘りの強い海藻や野菜のほうがまだ受け入れられているのには、とろろ芋や海藻などは出汁や調味料、調理法で巧みにクセを抑えた立派な一品料理、納豆は強烈な臭気の裏にチーズを髣髴とさせる濃厚な旨味を秘めた発酵食品、つまりどちらも人の手が加わった加工済み食品として成立しているからである。
卵かけご飯を好物と称する人物
実在の人物
「最後の晩餐は卵かけご飯」と公言するほどの愛好家であり、挙句の果てに自身の作詞作曲による『たまごかけごはんの唄』まで発表してしまった。
あまり食事に関心を持たず、そもそも食が細い身にあって数少ない大好物に卵かけご飯を挙げており、本人曰く「心から幸せを感じる一時」。
第二次世界大戦後の食糧難に喘いでいた子ども時分の出来事を題材にし、卵かけご飯の魅力と尊さを赤裸々に語る自伝的小噺『卵かけご飯』を持っていた。
- Tokyo Tanaka:(『MAN WITH A MISSION』ヴォーカル)
究極生命体のリーダーを務める義理人情に厚いオオカミ。好物は卵かけご飯とガリガリ君。
稀代の美食家。食の世界に芸術を追い求め磨き続けた魯山人をして魅了せしめ、研究の末に辿り着いた「自らの掌(たなごころ)で30分温めた卵で作る」を究極とする卵かけご飯に対して「この世で最も美味い食べ物」と絶賛している。
架空の人物
翔陽ファンの間では「日向翔陽=卵かけご飯」の認識で通っており、関連する日時を迎えると3食のうち1食を、剛の者ともなれば3食を3食とも卵かけご飯で祝う。
卵かけご飯に限らず、米であれば分け隔てなく愛する。
家庭の事情により貧乏性で、初めての学食ではおかわり自由で卵かけご飯作り放題という点に興奮し、エリートクラス昇格後最初の学食では卵がより上質になったことに大興奮し、宮田さやかを呆れさせていた。