概要
醤油や酒、みりんなどの混合液に出汁を加えた複合調味料「割り醤油」の1つに分類され、特にざるそばやそうめん、釜揚げうどんで使用される。
構成
製法の一例に挙げる関東式そばつゆでは、醤油に酒、みりん、砂糖を加えた下地をじっくりと煮立たせつつ余分なアクを抜き、厚削りの鰹節をふんだんに使って濃く煮詰めた鰹出汁で割ったものを土中に埋めた甕に移して半月~1ヶ月ほど寝かせて熟成させた「本かえし」を基礎とし、これをさらに「本かえし7:鰹出汁3」で割って1日~2日ほど土湯婆(どたんぽ=素焼きの細長容器)で落ち着かせたものがめんつゆとなる。
ただし、地域特性に基づいて培われた文化、それに伴う食習慣や味覚傾向から改良された調味料、さらには水質の違い(軟水か硬水かで出汁に向く材料も変わる)など様々な要因により、その組み合わせと味わいは極めて多彩。
それ自体では蛋白、且つ素朴なそばやうどんの味を格段に引き立て、本かえしに追加する出汁や水の割合で温麺用の「かけつゆ」、丼もの用の「丼つゆ」、天ぷら用の「天つゆ」などにも転用出来る他、万能調味料として煮物や卵かけご飯などに深味を与える隠し味、または食材の下味付けにも広く利用されている。
そばつゆについて
ざるそばやもりそばを食す際に「そばの尻に少しだけつゆを絡めてすすってこそ、そばの香をも味わう通の楽しみ方」「〆にはそば湯でつゆを割って飲み干し、最後まで味わうのが江戸前の流儀」とする独特の作法のようなものが幾つも語り継がれてこそいるが、これは決して誰が定めたものでもなく、そば文化が根差した東京のそば組合でさえそれを厳密な定義とは認めていない。
そもそも、ざるそばやもりそばの先祖に当たる「皿そば」の頃には生醤油あるいは塩を振りかけるのが常識であり、これが「せいろそば」になった時に醤油が巻き簾の間から垂れ落ちるのを防ぐ目的で現在のつゆ徳利とそば猪口を使う方法が生まれた。しかし、当時の生醤油は比較的高価で提供量が少なかった上、現代に比べれば塩分濃度が遥かに高い事もあってどぼ浸けしてはとても食えたものではなく、従ってそばの尻に塩辛い醤油を少しだけ絡めた食事法が確立された。
そして、時を経るに連れて味の追求と多様化から生醤油が本返しに、本返しがそばつゆに改良された一方、綺麗事と早仕事を美徳とする江戸っ子気質と相まって「粋な食し方」と見なされるようになり、いつからかそれが「そばを楽しむ通人(上級者・熟練者)の食し方」として伝聞されて今に至っているのである。かと言って、そばの場合には殻や実が持つ独特の風味があるのには違いなく、古くからそば食に親しむ地域では「最初の一口は1~2本ほど箸に取ってそのまま食べる」という方法が根付いている。
よって、延々と続く「つゆのつけ具合論争」に対して江戸そば組合では「つゆのつけ具合は個人のお好みで結構」を結論としている。
強いて差別化するなら漫画「そばもん」等でも取り上げられているように、汁が濃く作られていることが多い藪系のそばでは上述したような少しだけつける方が美味しいことが多いとされる。
余談
江戸のそばつゆの経緯については落語にその痕跡が数多く残されており、例えばもりそばを主題に据えた滑稽噺『そば清』(上方落語『蛇含草』の改作)などで使われる古い型の「まくら」(=落語に入る前の雑談、いわゆる「つかみ」)では
「江戸っ子なら、そばなんぞつゆをベタベタ付けて手繰るもんじゃあねぇ。あいつぁヤボだ、野暮天だよってんで。しかし、やっぱりそばってぇのはつゆで食うもんで。ところが、ちょっとつけたくらいじゃあ味が無ぇ。だからと言って、たっぷりつけたら塩辛いなんてもんじゃねぇんで。まぁ、こんな風にああでもねぇこうでもねぇと食ってた江戸っ子が、さぁ臨終てぇ時に『ああ…、一度でいいからつゆをたっぷりつけて食ってみたかったなぁ…』と言い遺した、なんてぇくらいの話があったそうで。」
とある。
夏の風物詩
冷製の麺類に舌鼓を打つ盛夏はめんつゆの晴れ舞台に等しく、来たるべき時に備えて冷蔵庫で待機する家庭は少なくない。しかし、時節柄ゆえに不幸な事故も起こりやすく、その悲しい事故こそ「真夏の暑さに耐え抜いて帰宅し、麦茶と思って一気飲みしたらめんつゆだった」である。
今も昔も、めんつゆを手作りする家庭ではごくありがちな事故であり、原因の大半はドリンクサーバーやネジキャップ式ペットボトルを保存容器に利用する紛らわしさに他ならない。そして、実際にこの事故に遭った体験談を持つ者にゼノン石川和尚(聖飢魔II・ベーシスト)が存在する。
スポーツドリンクとしてのめんつゆ
ところが、近年になって毎年訪れる酷暑による熱中症対策が叫ばれる中、塩分と始めとする各種ミネラルや鰹由来の良質なアミノ酸を効率良く補給し、且つ程良い糖分も併せて摂れる合理的手段の1つとして15~20倍希釈液(2倍濃縮の場合)の飲用が注目されている。
事実、鰹を大量に消費する沖縄県および周辺諸島では伝統料理の1つに列し、厚削りの鰹節に熱湯を注いで作る即席味噌汁「たち汁」(別名「かちゅー湯」)が暑気中り、二日酔い、風邪に効く庶民の薬膳として受け継がれており、鰹由来のアミノ酸が発揮する効能は薬学的にも立証されている。
(※ただし医師や栄養士の間では、上記の15~20倍希釈でも適切な塩分濃度としてはギリギリの濃さである上に希釈後は雑菌繁殖の対策ができない事もあって基本的には推奨されていない。コレに関して見解を述べた記事の中では「スポーツドリンクがあるならそちらを飲むこと」「その場で飲む分だけ作り、すぐに飲み切ること」「大量に飲む飲み方は避けること」と飲用上の注意をまとめている)
夏の風物詩である夏コミ会場でも、「命の水」として重宝されたというニュースが話題となった。これにはヤマサを始めとするメーカーも流石に「想定外の使用法」と困惑したという。