概要
互いに熊徹と猪王山という次期宗師候補者を師匠兼親に持つ二人。熊徹と猪王山は跡目を争う者同士ではあるものの、関係自体は良好な上に一郎彦の弟である二郎丸と九太は親友同士であることから、劇中では両者の交流はさほど描かれていないものの九太と一郎彦もまた、それなりの交流があったと思われる。
実は一郎彦は九太と同じく人間であり、それゆえ二人は「バケモノに育てられた人間」という共通した境遇とステータスを以つ者同士であると言える。
しかし九太はそのステータスを渋天街で暮らした9年を通して周囲に積極的にアピールし続け住民達から慕われるようになったのに対して、一郎彦は自らが人間であることを頑なに認めようとせず、周囲にそれを隠しながら「次期宗師候補者の長男」というステータスに執着し続け、九太、延いては人間そのものへの憎悪を日に日に増大させていった。
同じ境遇とステータスを以つ者同士である二人にここまで大きな差が開けてしまった要因としては、九太の場合熊徹が人間に対して蔑視感を全く持っていなかった上に、いつも些細なことでつまらない張り合いを繰り広げていたとはいえ常日頃から触れ合う時間が多かったのに対し、一郎彦の場合は猪王山から存分に愛情を受けていた一方、彼が日頃から武芸修行や議員、見廻組の仕事で多忙な故彼と触れ合う時間が少ない上に、人間を「闇を宿す危険分子」と恐れていた節があったことが大きい。
まさにこの二人は、人が育った環境の影響で性格や価値観などの人間性が大きく左右されることを示していると言える。
ちなみにこの二人の関係性が劇中で最も濃厚である故か、ファンの間では本作唯一にして実質公式のNLカップリングである『蓮楓』よりも人気が高かったりする。
劇中での二人の絡み
九太が渋天街に来訪した翌朝、いがみ合いから熊徹の自宅を逃走した際に街の商店街で二郎丸と一緒にいた一郎彦を目にし、その後熊徹と猪王山が対決になった際に猪王山の弟子の一人によって吊るし上げられてる九太を一郎彦が目にしたことから、この時互いの存在を知る(尚、この際一郎彦は「人間!?あれが…」と呟いていた)。
後日、九太は二郎丸から人間であることをネタに虐めを受けるも、「力は見せびらかすためにあるんじゃない、優しさのためにあるといつも父上が言っているだろう!?」と一郎彦が仲裁に入り謝罪するが、同時にこの時九太のことを「ひ弱なやつ」と言っており、これを聞いた九太は落胆していた。
しかしその後九太は熊徹との修行を経て街の子供達と互角に渡り合えるほどの武芸の実力が身に付き、次第に周囲からの感心も集め二郎丸を始めとした友人も多数できるが、同時にこれは人間であることが激しいコンプレックスになっている一郎彦の心の闇を深める原因になってしまう。
それから8年が過ぎ立派な青年へと成長した二人は、次期宗師候補者の一番弟子にして息子ということで街中から注目を集められる存在になるも、同時に人間というステータスを自らのアイデンティティに定めそれを全面に押し出していた九太に対して、一郎彦は自らが人間であることを更に否定し、表向きは九太に友好的に接していたが、内心では九太を含めた人間に対する憎悪をより募らせていた。
そんなある日現宗師が「決断力の神」に転生することを発表し、ついに熊徹と猪王山の決着の時が訪れることになる。
次期宗師を正式に決める闘技試合の前日、自宅に訪れていた九太を見送りの名目で玄関近くの庭園に呼び出した一郎彦は、そのまでの鬱憤を晴らすかの如く「何が!!いい試合だ!?ふざけるな!!人間のお前や!!熊徹みたいな半端者は!!半端者らしく!!分をわきまえろ!!!」と彼を暴行し、あまりにの一郎彦の豹変ぶりに九太は動揺してしまう。
そして闘技試合当日、開始早々から熊徹は猪王山に果敢に攻め入るが、やがて形勢は猪王山に傾きやがて熊徹はダウンを喫する。しかし九太の激励で息を吹き返すと、再び猪王山に攻め入り両者一進一退の攻防を繰り広げる。そして熊徹の渾身の右ストレートが猪王山の顔面を捉えると猪王山はダウン。彼はそのまま立ち上がることはなく、試合は熊徹の勝利。次期宗師の座は熊徹のものとなったのであった。
しかしこの結果を受け入れられない一郎彦は、念動力を用いて猪王山の剣を熊徹に突き刺し瀕死の重傷を負わせるという凶行に出てしまう。それに激昂した九太は自らも念動力を用いて一郎彦を惨殺しようとするも、チコの決死の行動と楓の御守りが目に入ったことから正気を取り戻すが、一郎彦はその場から姿を消してしまう。
その後九太は宗師庵にて事の全てを猪王山から聞かされ、一郎彦との闘いに備えるべく人間界の渋谷に赴くも、一郎彦もそれを追って渋谷に来襲しセンター街で戦闘になる。しかしそこでは勝負は付かず九太は一時退散を決め込むも、一郎彦は落ちていた白鯨を読んだことで自らの姿を巨鯨に変貌させると、そのまま街で破壊活動を行う。
そして代々木体育館で再び対峙すると、九太は自らの胸に一郎彦を取り込みそこを剣で刺すという自殺行為で彼の暴走を鎮めようとするが、その時付喪神に転生した熊徹が現れる。そのまま熊徹と一体化した九太は、渾身の一振りで一郎彦の胸にある”闇”を斬り裂き彼を救出。鯨は大空に舞い上がり苦しみ悶えながら消滅した。
「人間の…くせ…に…」
九太を含めた人間への恨み言を呟きながら気を失った一郎彦に、九太は語りかける。
「一郎彦、君は俺と同じだよ。」
「バケモノに育てられた、『バケモノの子』だ。」
九太はそう言うと、楓から受け取った御守りを一郎彦の手首に巻いた。
その後九太はバケモノ界を救った功績から渋天街の住民達に盛大な祝宴を受けたのち街を去り人間界で実父と共に暮らし、一郎彦は引き続き猪王山の息子として渋天街で暮らすことを許され、それぞれ新たな生活をスタートさせるのであった。