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クォーク(素粒子)の編集履歴

2019-04-22 23:42:46 バージョン

クォーク(素粒子)

くぉーく

クォークとは、素粒子のグループの1つ。標準模型においてレプトンと共に物質そのものを形作るフェルミ粒子である。

概要

クォーク (Quark) とは、標準模型における素粒子のグループの1つであり、レプトンと共に物質を形作る最も基本的な構成要素である。例えば我々が普通目にする物質のほぼ全ては118種類の元素のいずれかに分類される原子で構成されているが、その全てはクォークであるアップクォークとダウンクォーク、及びレプトンである電子の3種類の組み合わせで全てが構成されている。


クォークは全部で6種類の存在が予言されており、1995年までに全てが発見されている。クォークはそれぞれが3つの世代で分けられ、持つ電荷によって2つのグループに分けられる。クォークの種類はフレーバーと呼称される。


グループ\世代第1世代第2世代第3世代
アップ型クォークアップクォークチャームクォークトップクォーク
ダウン型クォークダウンクォークストレンジクォークボトムクォーク

歴史

1950年代からの物理学の発展では、100種類を超える非常に多数の粒子が発見されるに至って行き詰まりを見せた。当初、物質の根幹である原子は、電子と陽子、及び中性子で構成されている事までは理解されていた為、この3種類こそ物質の根幹である素粒子ではないかと予測されていた。しかしながら、陽子や中性子と似た性質を持つ粒子が多数発見されるに至り、この「粒子の動物園」を飼い慣らすには更に基本的な素粒子の存在が必要な事は誰の目にも明らかであった。


この更なる素粒子の探索は紆余曲折を経て、マレー・ゲルマンとジョージ・ツワイクが1964年に発表したクォークモデルをもって解決を観た。クォークモデルではアップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジクォークの3種類のクォークによって多数のバリオン及びメソンが構成されるとし、またクォークモデルが正しいならば、ストレンジクォーク3つで構成されたΩ粒子が発見されるとした。Ω粒子はその年中に発見されるものの、クォークの存在そのものはまだ未知であった。クォークが実際に発見されるのは、1968年になってからの事で、陽子の内部に非常に小さな点粒子が存在する事で初めて証明された。


クォークモデルが発表されてすぐの1965年には、シェルドン・グラショーとジェームス・ビョルケンによって4種類目のクォークであるチャームクォークの存在が予言された。またCP対称性の破れの発見とその論理的説明の関係から、1973年には小林誠と益川敏英によってクォークの3世代が予言され、同時にトップクォークとボトムクォークの存在が予言された。これら追加の3種類のクォークは1995年までにすべて発見されている。


性質

全てのクォークはスピン1/2を持つフェルミ粒子であり、従ってパウリの排他性原理によって同じ量子状態を取らない。もう少し平たく言えば、クォーク同士は同じ場所に重なり得ない事を意味し、これが物質同士が重なったり幽霊のようにすり抜けない理由の1つとなっている。クォークはアップ型クォークが+1/3e、ダウン型クォークが-2/3eを持ち、これは発見されている中では唯一の非整数の電荷である。またクォークは色荷を有し、電磁相互作用に逆らって強い相互作用で互いに結合している。また色荷の関係で、後述するようにカラーの閉じ込めの制約を受ける。より質量の重いクォークは軽いクォークへと崩壊し得るが、クォークのフレーバーの変更には弱い相互作用が関与する。また、クォークはいずれも質量を有する。クォークは4つの基本相互作用の全てが作用する唯一の素粒子のグループである。クォークは電荷と色荷を有する為、従って各々のクォークは2種類の電荷と3種類の色荷で区別される6種類に細分化され、全部で36種類存在するとも言える。


クォークは素粒子の為、標準模型の範疇では大きさがゼロの点粒子であると予測されている。複合粒子でのみ観測が可能なクォークの直径を求めるのには困難が付きまとうが、現在の所は陽子の直径の1万分の1以下、10^-19m以下なのが判明している。一方、点粒子である事は自己エネルギーが無限大になってしまうなどの理論的な矛盾を生じる他、超弦理論などでは非常に小さいが有限の大きさを有する可能性が示唆されている。


クォークの質量は種類によって大幅に異なる。最も軽いアップクォークの質量は2.2MeV/c^2と電子の4倍程度であるが、最も重いトップクォークは173.21GeV/c^2とほぼ原子に匹敵する。トップクォークの質量は発見されている全ての素粒子の中で最も重い値であり、2番目に重いヒッグス粒子より1.4倍も重い。また、クォークを単独で取り出せない以上、特に軽いアップクォークとダウンクォークの質量はよくわかっていない。更にクォークの複合粒子は、グルーオンによる強い相互作用による結合エネルギーが膨大であり、クォーク自身が関与する複合粒子の質量は1%以下でしかない。


クォークは色荷を有するが、これはクォークに何らかの色がついているという意味ではない (色と認識できる可視光の波長より素粒子ははるかに小さい) く、色荷の制限を、光の三原色に例えた為である。電荷が1種類 (プラスとマイナスの2種類ではなく、互いが反転の組み合わせである事から1種類) なのに対し、色荷は3種類の組み合わせで表される。光の三原色に因み、それらは「」「」「」と表現され、更にそれぞれ反対として「反赤」「反青」「反緑」が存在する。標準模型の枠組みにおいて、色荷を持つ粒子はクォークの他は、強い相互作用を媒介するグルーオンのみである。そして色荷を持つ粒子は、必ず色荷の合計が (又は無色) になる組み合わせでしか取り出せないというカラーの閉じ込めという制約を受ける。クォーク同士はグルーオンを交換して強い相互作用で結合しているが、強い相互作用はゴム紐やバネのような、距離を離すと強さが増すという他の基本相互作用とは逆の性質を持つ。それ以上の力で引き剥がそうとすると、強い相互作用に逆らって距離を離すエネルギーより、真空中からクォークと反クォークの対生成が起こるエネルギーの方が上回ってしまう為、結局のところクォークを単独で取り出す事は出来ない。これはゴム紐やバネが引きちぎれて端が生じる事、"端の部分" のみを取り出す事は不可能である事と似ている。


カラーの閉じ込めの制約の為、クォークはそれぞれ1個は白にならないので単独では取り出せず、「赤・青・緑」という組み合わせや「赤・反赤」という組み合わせは、合計が白になる事から複合粒子として取り出す事が出来る。陽子や中性子などのバリオンは前者、π中間子などのメソンは後者に該当する。白になりさえすればいいので、理屈上複合粒子のクォークの数はいくらでも増やす事が可能であるが、現在の所発見が広く認められているのはクォークが2個のメソンとクォークが3個のバリオンのみである。クォークが4個のテトラクォーク、クォークが5個のペンタクォークは、その発見の主張こそ数多くある物の、完全に確定した物は1つもない。ただし、トップクォークだけは、その平均寿命が強い相互作用が働く時間の20分の1と非常に短命な為、裸のクォークの状態を観測できるのではないかと期待されている。


クォークが単独で取り出せないのは、比較的低エネルギーの環境でのみの話である。人工的な環境では非常に高エネルギーな粒子加速器での衝突、天然環境では中性子星の中心部、宇宙誕生から1マイクロ秒以内の時代などでは、カラーの閉じ込めの制約から解放された裸のクォークがグルーオンと共に混ざり合っているクォーク・グルーオンプラズマになっていると予測されている。実際に加速器で、短時間かつ完全に理論と一致している訳ではないが、ほぼ予測通りの状態が観測されている。このクォーク・グルーオンプラズマは幾分か液体寄りの性質を持つ事から "濃密なスープ" と形容されている。裸のクォークが完全に自由な状態となるには、およそ1兆9000億℃の温度が必要と予想されている。


その他

クォークの名は、クォークモデルの提唱者であるマレー・ゲルマンによって提案された。その由来はジェイムズ・ジョイスによって1939年に書かれた小説『フィネガンズ・ウェイク』の一節に由来する。


  • Three quarks for Muster Mark! (マーク大将のために三唱せよ、くっくっクオーク。)

(日本語訳: 柳瀬尚紀 /『フィネガンズ・ウェイク II』河出文庫より)


quarks自体は、直接には鳥 (カモメと言われている) の鳴き声を指すが、quarksには一杯の酒という意味もある為「マーク大将に酒を三杯」というシャレをかけているとも言われている。いずれにしろ、このフィネガンズ・ウェイクは広辞苑をして「難解な前衛文学」、作者のジョイスのよき理解者とされる詩人のエズラ・パウンドでさえ「意味不明」と言わしめる程、非常に複雑な文体、二重含意、言葉遊びが散りばめられており、クォークの名前の由来についてこの一文のみで説明する事は不可能と言っても良い。辛うじて説明できるのは、クォークモデルが3種類のクォークに由来し、ハドロンが3種類のクォークで構成される事を、クォークを三唱する事にかけて命名している事だけである。


フィネガンズ・ウェイク自体、発表当時から賛否両論があったが、クォークの名前も同様に賛否両論が上がり、物理学の大家であるリチャード・P・ファインマンはこの名称を嫌い、1969年に「パートン (parton)」(部分子とも訳される) を素粒子とするパートン模型を発表したが、これは内容的にはクォークモデルと同一であり、結局のところ今日ではクォークで定着している。ゲルマンとファインマンは共にカリフォルニア工科大学の同僚でライバル関係にあった事で知られ、ゲルマンは素粒子の振る舞いを記述する図であるファインマン・ダイアグラムの事を、ファインマンの名が付く事を嫌いステュッケルベルク図と呼んでいた。


クォークやその他の素粒子が増えた為、再び粒子の動物園を飼い慣らす目的で、クォーク自体も複合粒子であり、更に基本となる素粒子があるとするレプトンモデルが提唱されている。しかしながら、現在ではクォークに内部構造がある証拠は発見されておらず、レプトンの質量はクォークより重くなるという理論的な矛盾が生じている。


関連タグ

素粒子 素粒子擬人化

アップクォーク チャームクォーク トップクォーク

ダウンクォーク ストレンジクォーク ボトムクォーク

電子 陽子 中性子 原子 原子核

グルーオン Wボソン

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