概要
電磁相互作用 (Electromagnetic interaction) とは、自然界に存在する4つの基本相互作用の内の1つであり、電磁力、電磁気力とも呼ばれる。重力相互作用に次いで最も身近な基本相互作用である。
電磁相互作用は、クーロン力 (電気力、静電力、静電気力、静電引力) と磁気力 (磁力) を統合した相互作用であり、両者は一見すると異なって見えるが、実際には同じ相互作用を別の視点から見ているのであり、同じ相互作用である。電磁相互作用自体の存在は、人類はかなり早くから気付いていたにもかかわらず、統合できると気付いたのはかなり最近になってからである。電気に関する最古の記録は紀元前2750年のエジプト文明でデンキウナギに関する記述が、磁力に関する最古の記録は紀元前1000年のオルメカ文明でコンパスに使用したとみられる赤鉄鉱部品の発見がある。また、化石の琥珀は摩擦すると静電気が発生する事は古代ギリシャの時代から気付かれており、ギリシャ語で電気を意味する "ἤλεκτρον" と名付けられている。同じく鉱物の磁鉄鉱は磁力がある事からギリシャ語で磁力の石を意味する "μαγνῆτις λίθος" と名付けられている。磁力について (現存する) 最初の理論は1269年のペトルス・ペレグリヌスの論文『磁気書簡』、静電力についての最初の理論は1600年にウィリアム・ギルバートの著書 "De Magnete" が最初である。
クーロン力と磁気力が統合できると初めに気付いたのは1773年のヘンリー・キャヴェンディッシュであるが、これは1879年にジェームズ・マクスウェルがキャヴェンディッシュの遺構をまとめるまで日の目を見ず、その間に1875年にシャルル・ド・クーロンが全く異なるアプローチから法則をまとめた為、今日ではこの法則をクーロンの法則と呼ぶ。また、電磁相互作用が働く電磁場については、1874年にマクスウェルが発表したマクスウェル方程式によって記述され、これによって電磁相互作用は電磁波によって伝わる事が記述できるようになった。このように、これら電磁力学が近代科学に登場したのは、主に18世紀から19世紀にかけて、多くの科学者が関わっていた為である。
電磁相互作用を媒介するゲージ粒子は光子であり、アルベルト・アインシュタインが1905年に光量子仮説を提唱したのがその始まりである。現在の電磁相互作用は、1927年にポール・ディラックがマクロの電磁力学をミクロの量子力学に組み込んだ量子電磁力学を提唱し、それが発展した形となっている。
電磁相互作用のステータス
名称 | 電磁相互作用 |
---|---|
ゲージ粒子 | 光子 |
理論 | 量子電磁力学 |
標準模型 | 記述される |
チャージ | 電荷 |
斥力 | あり |
結合定数 | 微細構造定数 |
到達範囲 | 無限大 |
距離当たりの強さ | 2乗に反比例 |
働く素粒子 | 荷電粒子 |
束縛状態 | 原子及びその集合体 |
最初の理論化 (磁力) | 1269年 / 磁気書簡 |
最初の理論化 (静電力) | 1600年 / De Magnete |
最初の理論化 (電磁力) | 1773年 / クーロンの法則 |
現在の理論 | 1927年 / 量子電磁力学 |
他の基本相互作用との統一 | 1961年 / GWS理論 (弱い相互作用) |
性質
電磁相互作用は、重力相互作用に次いで身近な相互作用である。それは何も、電気の力でこのピクシブ百科事典を見ているなどの話に留まらない。今目の前にある物体が目に見える形で存在する事の根源は、突き詰めると電磁相互作用に端を発する。原子核の周囲を電子が巡って原子を形作っている事、原子同士が結合して分子や結晶を形作る事は、電子のやり取りで原子同士が相互作用している為で、電磁相互作用なしに実現し得ない。また、物体がその形を保つ事、物体同士が接触する事、摩擦や抵抗力を感じる事、運動エネルギーを伝えるのに押したり引っ張ったりする事は、原子や分子が接触する事で相互作用をする為で、電磁相互作用が無ければ物体が形を保つ事や接触する事は出来ない (ただし、原子同士が接触して反発するのは、電磁相互作用だけでなく、電子がフェルミ粒子である為にパウリの排他性原理が働く事も関連している。) 。また、化学やその発展形である生命活動も、電磁相互作用で電子のやり取りをしている為に実現している。電磁相互作用は身近に感じにくいだけで、実は最も根幹的な部分に関わっているのである。
これ程身近であるにもかかわらず、私たちが電磁相互作用を電力くらいでしか意識しないのは、電磁相互作用が重力相互作用と比べて表に出にくい為である。電磁相互作用のチャージは1種類の電荷であるが、電荷には正 (プラス) と負 (マイナス) の相反する二極が存在し、異極同士では引き合う引力となるが、同極同士では反発する斥力となる。通常原子や分子は、局所的には正負どちらかに偏っていたとしても、全体として中性 (ゼロ) になるように安定化する。中性ならば電磁相互作用は働かない為、見た目には気付かない事になる。重力相互作用には引力しか存在しない為、チャージである質量が増えれば幾らでも相互作用が増大するのに対し、電磁相互作用はミクロスケールでは原子核と電子のように偏っている状況もあるが、マクロスケールでは正負どちらか片方のチャージに偏る事は稀な為、表に出にくいのである。
しかしながら、電磁相互作用は極めて力の強い基本相互作用であり、基本相互作用の中では強い相互作用に次いで2番目である。数gの磁石や、下敷きで摩擦した程度の静電気でさえ、地球の重力相互作用に逆らって浮かび上がるのは誰しも目にした事はあるだろう。4リットルの水を入れた容器を1mの距離だけ離して2個配置すると、水分子の中にある全ての電子が互いに反発する力は、同じ距離に配置した2個の地球同士が受ける重力相互作用より大きいのである。しかしながら、その力は同じ数だけある陽子の電磁相互作用に相殺されるので、水入り容器が引き合う事はないのである。
4つの基本相互作用は、低いエネルギーベースでは4つの相互作用として分かれている物の、初期宇宙のような高エネルギーの場では1つの力に統一される可能性が示唆されている。基本相互作用の統一では、電磁相互作用と弱い相互作用が唯一成功している。1961年にシェルドン・グラショウが基礎理論を、1967年にスティーヴン・ワインバーグとアブドゥッサラームがその洗練された発展形を発表し、今日ではグラショウ=ワインバーグ=サラム理論 (GWS理論) と呼ばれる電弱統一理論として確立している。GWS理論では、およそ1000兆ケルビンのエネルギースケール、宇宙誕生から10億分の1秒以下の時代では、電磁相互作用と弱い相互作用は互いに区別できなかったとされている。