概要
ダウンクォーク (Down quark) とは、フェルミ粒子に分類される素粒子の1つであり、クォークの1種でもある。標準模型においてストレンジクォークとボトムクォークと共にダウン型クォークに分類される。レプトンと同じく三世代構造を形成し、アップクォークと共に第1世代に分類される。ダウンクォークはアップクォーク及び電子と共に原子を構成する身近な存在の素粒子である。
名称 | ダウンクォーク |
---|---|
記号 | d |
組成 | 素粒子 |
粒子統計 | フェルミ粒子 |
グループ / 世代 | ダウン型クォーク / 第1世代 |
電磁相互作用 | 作用する |
弱い相互作用 | 作用する |
強い相互作用 | 作用する |
重力相互作用 | 作用する |
質量 | 4.7 (+0.5/-0.4) MeV/c^2 (4.79(16) MeV/c^2) |
湯川結合 | 0.00003(2) |
平均寿命 | 安定 (崩壊する場合、最大で880.2±1.0秒) |
スピン | 1/2 |
フレーバー量子数 | アイソスピン: -1/2 |
電荷 | -1/3e |
色荷 | 3種類 |
超電荷 | +1/3 |
弱アイソスピン | LH: -1/2 / RH: 0 |
弱超電荷 | LH: +1/3 / RH: -2/3 |
X荷 | LH: +1 / RH: +3 |
B - L | +1/3 |
パリティ | +1 |
反粒子 | 反ダウンクォーク (d―) |
超対称性粒子 | スダウンスクォーク (d~) |
理論化 / 発見 | 1964年 / 1968年 |
歴史
- クォーク全体の歴史はクォーク(素粒子)を参照
ダウンクォークは、マレー・ゲルマンとジョージ・ツワイクが1964年に発表したクォークモデルによって、アップクォークとストレンジクォークその存在が予言された。1950年代の物理学の発展では、非常に多くの粒子が発見された為、「粒子の動物園」と揶揄される状況に陥っていた。これらの粒子は更なる基本粒子によって構成されているという考えが生じ、その中で提唱されたのがクォークモデルである。1968年になり、陽子の内部に非常に小さな点粒子が存在する事で、ダウンクォークの存在は初めて証明された。
ダウンクォークの名称は、意図的にアップクォークとの対関係になるように名付けられている。これは他のクォークもそうであり、同じ世代のクォークは対の名称となる関係になっている。
性質
ダウンクォークはスピン1/2のフェルミ粒子であり、電荷は-1/3eである。電荷で細分化されたクォークのグループの内ダウン型クォークに属し、その代表名となっている。ダウンクォークは3種類の色荷を有し、グルーオンをやり取りして強い相互作用によって電磁相互作用に逆らって他のクォークと結びついている。ダウンクォークは他のクォーク及びグルーオンと同じく、カラーの閉じ込めの制約により単独で取り出す事が不可能である。
ダウンクォークはアップクォーク及び電子と共に非常に身近な素粒子である。ダウンクォーク1個とアップクォーク2個で陽子となり、ダウンクォーク2個とアップクォーク1個で中性子となる。これらのバリオンは電子と結合する事で原子となる。例えば1個の軽水素原子は、細分化すれば1個のダウンクォーク、2個のアップクォーク、1個の電子で構成されている事になる。
ダウンクォークは全てのクォークの中で2番目に軽い質量を持ち、電子の8倍、アップクォークの2倍、トップクォークの約4万分の1しかない。ダウンクォークは弱い相互作用によってアップクォーク、電子、反電子ニュートリノに崩壊する場合がある。その場合の平均寿命は、最も長いものでは880.2秒となる。これは中性子が陽子に崩壊する場合の平均寿命である。バリオン数保存則の関係上、陽子の内部にあるダウンクォークは安定の為、この場合のダウンクォークは安定である。ダウンクォークの平均寿命はその結合状態に左右される為、一意的に平均寿命を定める事は出来ない。
ただし、ダウンクォークの静止質量には、良く知られた素粒子の割に大きな推定幅がある。4.7MeV/c^2を中心に、下限は4.3MeV/c^2、上限は5.3MeV/c^2となっている。推定体重50kgの人が、下限は46kg、上限は55kgと言うくらいには大幅な誤差がある。理論計算では4.79±0.16MeV/c^2ともう少し幅は小さくなる。これは、ダウンクォークがカラーの閉じ込めにより単独で取り出せず、かつ複合粒子の形では質量に影響を及ぼすエネルギーの値が大きすぎる為である。実際、陽子の中にあるダウンクォークは、平均して光速の99.995%で運動しており、その結果質量が100倍ほど増大していると推定されている。逆に言えば、ダウンクォーク自身の質量が陽子に及ぼす質量の影響はわずか1%でしかない事になる。