概要
土星の衛星のうち最大のもの。太陽系の衛星の中でも、木星の衛星ガニメデに次ぐ大きさであり、地球の衛星である月はもとより、準惑星の冥王星や惑星である水星より大きい。
太陽系の天体の中では、金星、地球、火星とならんで一定量・濃度の大気におおわれているという特徴があり、この点衛星としては唯一の存在(後述)。
「寒い地球のような星」
太陽からの距離が約10天文単位、すなわち地球と太陽の距離の10倍ほど離れた土星軌道上にあるため、タイタンの地表は-180℃前後の極低温の世界であり、水は氷の岩盤となって地表面をおおっている。
タイタンの大気は大半が窒素、残りがメタン、水素その他から成る。気圧は地球の大気より高く、約1.5気圧。メタンの1気圧での融点は-183℃、沸点は-161℃であるので、タイタンの両極付近ではメタンは液体となる。このように、タイタンは地表面に一定量の液体が存在する、太陽系では数少ない天体でもある(他は地球のみ)。なお真空あるいは希薄な大気のもとでは、融点に達した物質は液体の状態を保てず、直接気化(昇華)する(地球の1気圧でのドライアイスと同じ状況)。
タイタンではちょうど地球での水の循環のように、液体のメタンが気体となって上空で雲となり、雨として再び地上に降り注ぐ。2004年にタイタンを観測したカッシーニと、これから分離してタイタンに着陸したホイヘンスは、液体のメタンがつくる川、谷、海、湖などの地形、丸みをおびた氷の岩石が並ぶ河原のような風景を撮影し送ってきた。極低温の世界ではあるものの、太陽系の天体では、かつて液体の水があったと推測される火星とならんで、地球人によってはなじみのある風景が広がる場所のようである。