曖昧さ回避
- イザボー・ド・バヴィエール(Isabeau de Bavière, 1370年頃 - 1435年9月24日):フランス王妃。シャルル7世の母親で、伴侶であるシャルル6世が存命の頃から別の王族や貴族と姦計を企て(たと噂される)、パリ追放後後はフランスを捨ててイングランド側に転向、更に後年実子シャルル7世を「不義によって生まれた息子」と断じてフランス王の正当性を否定して完全にイングランド側に立った。後に「売国妃」「淫乱王妃」の別名で呼ばれる歴史的に有名な悪女である。
- 枡狐と蛙空による漫画『魔法少女たると☆マギカ The Legend of "Jeanne d'Arc"』に登場するキャラクター。1.をモデルにしている。現在のところpixiv上にはこちらのイラストしかない。本項で解説。
概要
連合イングランド軍に所属する仮面の魔法少女三姉妹(ラピヌ・コルボー・ミヌゥ)の母親であり、王太子シャルル(後のフランス国王シャルル7世)の実母。フランスを滅ぼそうとした張本人であり、本作の黒幕に当たる存在。
人物像
何者かに操られているかのような虚ろな目をした女性。三姉妹が絶対的な忠誠を誓っている女主人で、フランスのどこかに潜伏しながら仮面の魔法少女に指示を出す。
魔女を放ったり、グリーフシードを大量に所持していたり、侍女に無理やり自分のためになるような願いを叶えさせ魔法少女にしたりとかなり行いが外道である。ちなみに、侍女に願いを叶えさせるシーンにキューブ(キュゥべえ)の存在は確認できず、むしろバヴィエールが叶えているように見えることから、彼女自身も魔法少女に見えたのだが……。
以下、ネタバレ注意
その正体は、最悪の魔女『女王(ラ・レーヌ)の黄昏』。
キューブが明かしたところによると、イザボーはキューブの目的(この時代、科学用語としての「エントロピー」はまだ無いので、別の表現で説明したのだろう)や出自まで根掘り葉掘り聞き出し、ついには「あなた(キューブ)の全て」を手にすることが最善の願いと判断し、「あなたの全てが欲しい」という願いでキューブと契約し、魔法少女となった。
これによって、新たな魔法少女を生み出す力と、何度倒されても身代わりで復活できる不滅の肉体を手に入れた彼女は、自分の手足となる魔法少女を好き勝手に作り始めたのである。権力で。つまり、彼女の配下の魔法少女達がキューブの存在を知らなかったのは、そもそもキューブではなくイザボーと契約して作り出された存在だからである。
しかし、たとえ肉体が不滅でも、ソウルジェムは他の魔法少女と変わりなかったため、魔女化を逃れることはできなかった。
さらに、魔女化する刹那、娘(ラピヌ)の「お母様をもとに戻してっ!!」という願いを中途半端な形で叶えたため、魔女と化しながらも人間(魔法少女)としての自我を保ち、より歪んだ形で野望に邁進するようになったのである。
イザボーは魔法少女の契約に際して、実の娘を除き意志も心も奪っている。これでは魔女化しても絶望エネルギーを回収できないため、キューブにとって深刻な脅威と受け止められた。キューブがタルトたちを勧誘したのは、イザボーの打倒を急務と判断したためであった。
最期
終盤、魔女としての正体を現してフランス軍を襲撃。前述のミヌゥの願いで魔法少女の攻撃を全て無効化していたが、魔女に近い存在となったタルトによって完全に倒される。
イザボーの死後、彼女の力で魔法少女になったミヌゥはその魔法が切れ、力を失った。その後は抜け殻としてミヌゥに寄り添われたままその生涯を閉じたことが示唆されている。
女、イザベル、その生涯
おそらくミュンヘンの出身。バイエルン公(バイエルン=インゴルシュタット公)シュテファン3世の長女。
当のイザボー自体は僅か14歳でシャルル6世に娶られ、その後も結婚して間もなく跡継ぎの出産を強要され、産んだ子供は殆どが取り上げられて別の者が育てるという中世王族らしい女は子を産むことだけが存在価値という生活が待っていた。しかも相手をするのは発狂王の異名を持つシャルル6世(彼の血筋には精神疾患を併発する家系が混じっていた。後世の歴史家は、シャルル6世の症状は統合失調症と推測している)、そして周囲は王位継承権を巡って同国内で血の争いを繰り返す事しか頭にない貴族王族ばかりで、一部は自分との関係を利用しようと企んでいる。
何かにすがりたくなっても可笑しくはなかろう。
とはいえ、出来るだけ子供のそばに居ようとしたし、当時の習慣に従って別居させられてからも、仕送りや手紙を欠かさず送り、子供が病気になった時には田舎で療養するよう手配したという、子煩悩な記録が残っている。
最終的に、シャルル6世との間に6男6女を儲けた。何だかんだといって夫婦仲は悪くなかったようだが、夫は発作からしばしばイザボーを認識できなくなったので、その間別居を余儀なくされた。「イザボーが魔法で発狂させた」と生前から非難されていたが、たぶん間違いだろう。……たぶんね。
娘にジャンヌが2人、息子にシャルルが3人いるので紛らわしい。なお、シャルル7世となったのは3人目のシャルル(五男)である。
『たると☆マギカ』の年代に存命していた娘は三女のジャンヌ、四女のマリー、六女のカトリーヌの3人である。ラピヌ、コルボー、ミヌゥのモデルはこの3人なのか、『たるとマギカ』オリジナルの娘なのかは不明である。
長男:シャルル(1386年) 最初の王太子。生後間もなく死去
長女:ジャンヌ(1388年 - 90年)
次女:イザベル(1389年 - 1409年)
三女:ジャンヌ(1391年 - 1433年)
次男:シャルル(1392年 - 1398年) 2人目の王太子
四女:マリー(1393年 - 1438年)
五女:ミシェル(1393年 - 1422年) ブルゴーニュ公フィリップ(フィリップ善良公)と結婚
三男:ルイ(1397年 - 1415年) 3人目の王太子
四男:ジャン(1398年 - 1417年) 4人目の王太子
六女:カトリーヌ(1401年 - 1437年) イングランド王ヘンリー5世妃。ヘンリー6世の母
五男:シャルル(1403年 - 1461年) 5人目の王太子。のちのフランス王シャルル7世
六男:フィリップ(1407年) 生後1日で死去
なお、後世のフランス人に言わせればフランスは女(イザボー)によって破滅し、少女(ジャンヌ)によって救われたらしいが、百年戦争はイザボーが生まれる前から断続的に続いていたし、ジャンヌ・ダルクが英仏の戦争を終結させたわけでもないので、歴史学者たちが単に語呂好く並べただけに過ぎない。
イザボーが病身の夫に代わって政治権力を握ったことは確かで、その過程でオルレアン公ルイと組んだ事から、二人の不倫が疑われた。ルイはブルゴーニュ公ジャン1世との権力闘争で暗殺され、ルイの跡を継いだシャルルは舅のアルマニャック伯ベルナール7世の後見を得た(アルマニャック派)。アルマニャック派とブルゴーニュ派はついに内戦を始め、互いに優位に立とうとそれぞれイングランドの力を借りようとした。その結果、イングランドはフランス征服の好機とみて百年戦争を再開したので、両派の自業自得の色合いが強い。
イザボーは当初はアルマニャック派と結びつつ、両派の和解を仲介していた。しかし相次ぐ兄の死去で3人目のシャルル(シャルル7世)が王太子となると、アルマニャック派はイザボーの身柄を拘束して私財を奪い取った。ブルゴーニュ派がイザボーの釈放に尽力したことから、以降はブルゴーニュ派に鞍替えし、シャルル7世と敵対することになった。
1420年、イングランドとブルゴーニュ派はトロワ条約を結び、シャルル6世の後継にイングランド王ヘンリー5世を指名した。イザボーの娘がヘンリー5世に嫁いでいたので、いずれは二人の子(イザボーにとっては孫)がフランス王になるはずだった。イザボーはフランス側の一人として条約に署名し、後世非難される大きな原因の一つになった。
百年戦争においては、フランスの不利を招いた一人といえるが、イザボー一人が野望を持っていたという訳では無く、その行動は権力闘争と妥協の産物といえそうである。
ただし、「どちらが勝っても自分の血筋がフランスの王になる」方向に持っていったともいえる。
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