本格的VTOL戦闘機
Yak-141はヤコブレフ設計局が開発した世界初の超音速VTOL戦闘機である。こちらは型番が奇数となっており、VTOL戦闘機として期待がかけられていた事を窺わせる。実戦配備こそされたものの、能力不足甚だしかったYak-38の後継として開発され、キエフ級重航空巡洋艦に搭載される予定だった。
目指したのは本格的な超音速VTOL戦闘機であり、Yak-38では搭載が見送られたレーダーを装備してMiG-29にも匹敵する戦闘力を目指していた。更にGSh-30-1 30㎜機関砲を固定装備しており、レーダー誘導ミサイルも使用できる。
だが、開発途中で冷戦が終結し、キエフ級の退役や事故による試作2号機の損失、ソ連崩壊に伴う財政難などによりYak-141はそのまま放棄され、同時期に並行して開発されていた艦上戦闘機のMiG-29KやSu-33が優先された。
そのヤコブレフではあるが、どうやら新型V/STOL機を開発しているらしい。全くの新型となるとのことだが、ここでYak-141の成果が活きてくる...のかもしれない。
141番目?
もちろん違う。本来ならば「Yak-41」となるはずなのだが、西側に存在が知られた時、機首に描かれていた番号が「141」(試作1号機・Yak-41の意)だった事から誤解されたのである。
ソ連は軍事優先の「国家総力戦体制」を続けていた事が有名だが、中央政府は「開発中の兵器も完全に把握している」という訳では無かったのだ。そのような紆余曲折を経て、この機体は「Yak-141」として名が知れることとなり、後に型番がそちらに合わせて修正された。
派生型としてはステルス性能を取り入れたエンジンを換装して高性能化したYak-143(Yak-43とも)が計画されていた。Yak-43を更に発展させたYak-201も計画されたが、いずれも冷戦終結に伴う混乱により、放棄されている。
ちなみに・・・
「世界の傑作機No.168 Yak-38」によると、開発はYak-41として進められていたものが飛行記録をFAAに申請するため、仮に考えられた型番がYak-141なのだとしている。
真実のYak-141
wikipediaのYak-141の記事ではF-35にも匹敵する錚々たるスペックが並んでいるが、なにしろテスト段階で開発が中断された機体のため、一部に計画値が混じっているようで、実際に試作された実機のそれとは大きく異なっている可能性が高い。これを実現した機体が現実に存在するならば、開発が放棄されるはずが無いだろう。簡潔ながら比較できる性能を下記に列挙する。
- Yak-141の性能
最大速度:1800km/h(マッハ約1.47)
重量(空虚重量):11650kg
航続距離:1400km(VTOL時)
エンジン出力:15500kgf(他に出力4260kgfの垂直エンジンが2基)
- F-35B(STOVL型)の性能
最大速度:マッハ1.6
重量(空虚重量):13888kg
航続距離:1670km
エンジン出力:18144kgf
いくらYak-38よりも発展しているとはいえ、これは少々不自然だと考えられる。F-35Bと違い、Yak-141は水平から垂直方向に偏向する主エンジン1基と垂直離陸専用の補助エンジン2基からなる3発機である。
何とか形になりつつあるF-35もエンジンの偏向装置の軽量化に四苦八苦しているというのに、水平飛行時にはお荷物にしかならない垂直エンジンを積み込んでいるのだから実際にはこれだけの性能は発揮できなかったのではないか、と考えられる。
ただ、よくよく見ると余計なエンジンが付いているとはいえ、それでもF-35よりは軽量であり、改良のやり様によっては超音速VTOL戦闘機の歴史をがらりと変えていたかもしれない。まあF-35が実用化までにどれだけの資金を費やしたかを考えると、当時のロシアには到底無理だったのかもしれないが。
空虚重量について
機体構造・エンジン・固定装備、冷却水や作動油などの合計重量のことで、パイロットや燃料は含んでおらず、この重量では作戦できない。ひとつの参考値である。
Yak-141とF-35Bの関係
エンジンノズル
「F-35BのエンジンノズルにYak-141の技術が応用された」と一般的には認識されているが、ロッキード公式Code Oneマガジンにおいて「Yak-141の設計データを買ったのは事実だが、設計データの購入時には既にX-35に同様の機構のエンジンノズルが装備されていた」というのが公的見解なので、「技術を応用した」というよりは「今後の参考のためにYak-141の設計データと技術を購入した」というのが現実に近いようだ。
脱出装置
エンジンノズル以外には、「AES(Automatic Ejection SystemまたはAutomatic Ejection Seat)」と呼ばれる自動脱出システムがヤコヴレフ設計局から購入されている。ハリアーのように一つのエンジンから推力を分配するVTOL機であれば、VTOL時にエンジンが停止した際でも十分に脱出する余裕がある(機体が均等に沈む)のだが、本機のようにリフトエンジン(ファン)を別に搭載するVTOL機の場合はそうはいかない。
片方のみが停止した場合は制御不能となるが、墜落までにパイロットが反応してベイルアウトすることはほぼ不可能といえるほどに難しく、姿勢変化の異常を感知して自動的に射出座席を作動させるシステムを搭載する必要がある。実際に初期のYak-38が垂直着陸時にリフトエンジンが停止して墜落した際には脱出が間に合わず、パイロットが負傷するという事例が発生しており、AES搭載以降のYak-38では今までに行われた全19回の脱出全てにおいて作動に成功しているという実績がある。
リフトファンのダクトカバー
もう一つの類似点は、リフトジェット(F-35Bでは“リフトファン”)のダクトカバーである。F-35Bの初期試作型、および原型のX-35では左右分割式のカバーだったところが、後の実用型ではYak-38/141に類似した後方ヒンジ式に改められている。後方ヒンジ式は重量が増すが、リフトファンへの気流は安定するらしい。ただし、こちらについてはYak-141のデータがどれほど参考となったかは明らかではない。収斂進化とも言えるだろうが……