概要
憂鬱である、気持ちが落ち込むなどの「抑うつ(うつ状態)」の症状があり、なおかつそれが比較的重症で、継続し、日常生活に支障をきたしている場合に診断されることが多い。DSM-Ⅳという診断基準において、精神疾患(精神障害)の中の気分障害(気分の変調による障害)に分類される。
精神疾患の中でも最もありふれたものであり、全世界での有病者数は3.5億人と、珍しい病気ではない。すべての人の中で7人から15人に一人は、生涯に少なくとも1度はうつ病に罹患するとも言われている。
発症の経緯や経過は人により大きく異なり、再発率は高い。また、希死念慮(「死にたい」という気持ちや死への具体的な計画を含む考え)を抱えることも多く、自殺を企図・実行し、亡くなってしまうという患者も一定数存在する。
うつに近い状態を引き起こす精神疾患は複数存在し、代表的なものでは、躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害(躁うつ病)や、不安な気持ちが抑えられなくなる不安障害などがある。
また、本項で扱ううつ病(うつ病エピソード)のほかにも、DSM-IIIで分類が提唱された「うつ病性障害」に含まれる「別種のうつ」とも言えるものがある。具体的には、比較的軽度に近いが長期的な気分の変調を起こしている気分変調障害(気分変調症)がある。
特徴
症状としては気持ちの落ち込み(抑うつ)、不安、焦燥感、精神活動の停滞、感情の機敏の鈍化、食欲、性欲など生活意欲の低下、不眠症などが挙げられる。
身体の症状としては、重い肩こりや頭痛、手足の痺れなどがある。身体症状が強い人が、理由がはっきりせず、内科や神経内科、整形外科などを転々としたあと、精神科や心療内科を紹介されて発覚するという場合もある。
また、症状が比較的軽度な患者の中には、抑うつと表裏一体の関係である「攻撃性」が強く出たことで、些細なことで他者に暴力をふるったり、自傷したりする人もいる。
抑うつなどの症状だけでは「うつ病」と明確に診断されることはなく、基本的には長期間(少なくとも2〜3週間以上)続いており、これらの症状により日常生活に著しい障害が発生しているときに扱われる。
例えば、ショックな出来事があり2、3日気持ちが落ち込んでいるが、普段の生活は問題なく過ごせている、ような場合は「抑うつ」ではあるが「うつ病」ではないと判断される。
分類方法はいくつか存在し、日本でよく用いられていた、古典的な分類方法である「原因から分類する」ものの場合、以下の通りに分けられる。
- 身体因性(外因性)…アルツハイマー型認知症や、脳への外傷、病気などが原因のもの
- 内因性…はっきりとした原因は不明だが、主に脳神経機能の障害が原因と考えられるもの
- 心因性…ショックな出来事や、過ごしている環境などによる強い精神的なストレスや疲労が関係するもの
このうち、典型的なうつ病とされる内因性は、ある程度なりやすい性格の傾向があり、「勤勉、几帳面」といった特徴が(極端に)強い「執着気質」や、「秩序志向、調和重視」といった特徴の「メランコリー親和型」がなりやすい性格傾向とされる。
ときおり、「真面目で完璧主義な人がうつ病になりやすい」と言われるのは、この「執着気質」的な人が該当すると言える。
ただし、うつ病そのものの原因や発病のメカニズムがはっきりしないため、これらの分類も変化してきている。そもそも内因性という概念が発達したのは、抗うつ剤が開発されてからである。
機序(発病のメカニズム)としては、感情をコントロールするセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の関与が強く疑われているが、未だ正確な機序はわかっていない。
器質的疾患によってうつ症状が起こる場合もある。(先述の「身体因性」にあたる)
具体的には、甲状腺機能障害の一種である橋本病(甲状腺のホルモンの分泌異常で、全身の代謝が低下するためうつに似た症状を起こす)などがある。
精神疾患としてのうつ病と、器質的疾患によるうつ状態では治療に使う薬が違うので、総合病院などで詳しい検査をする必要がある。
女性の場合、妊娠や出産でホルモンバランスが乱れ、うつ状態になることもある。産後すぐの気持ちの変調は「マタニティーブルー」と呼ばれ、比較的すぐ落ち着くが、これより重度の「産後うつ」だと、数週間以上にわたって強い悲しみや不安などのうつ状態が続く。産後うつはうつ病の病歴がある場合発症しやすいとされる。また、加齢で性ホルモンバランスが乱れることで起こる更年期障害も、うつ状態になることがあり、これは男女どちらでも見られるものである。
治療
他の精神疾患同様、薬物治療と行動療法が並行して行われる。
基本的には「うつ病かな?」と感じたらすぐ精神科や心療内科を受診すべきである。早く治療に取りかかればそれだけ早く治りやすくなる。
また、仮にうつ病でないにしても、別の病気や障害の可能性について調べることができるので、少しでもおかしいと感じたら相談したほうがいい。
精神科へのハードルが高く受診を躊躇っているようなときは、通常の内科や臨床心理学を修めたカウンセラーによるカウンセリングなどに通うのも一つの手である。
重症のうつ症状を患っている患者は、自力で病院にかかることのできない状態にまで陥っていることも多く、家族や友人、職場など、周りの人のサポートも必要である。
治療中も注意が必要である。例えば、治療により落ち込んでいた気分が高揚し、意欲を取り戻した勢いで、自殺を企図し決行してしまう、といった場合も見られる。患者を孤独な状態にせず、周りで暖かく見守る(そして過干渉もしない)ことが重要であるといえる。
患者との関わり
「気分が滅入っている状態(melancholy)=抑うつ状態」と「うつ病(depression)」は、症状が似ていることからしばしば同一のものとして扱われてしまっている。健康な人が自分の気分を表現する「鬱だ〜」、「病む」などは、精神医学的なうつ病及び抑うつ状態ではなく、「憂鬱な気分」とすべきである。
前者はしばらく時間が経つと落ち着くことがほとんどで、後者は自然に寛解する※ことはない精神疾患であり、決して両者を混同してはならない。
※うつ病を含めた精神疾患は再発の可能性も高く、症状が一旦落ち着いてもまた調子が悪くなってしまうことも多いため、一般的な「完治」に相当する言葉として「寛解」が使われる。
また、うつ病に対する理解が低く、身体が思うように動かせない状態を「怠け」と判断して「うつ病は甘え」という考えも持つ人もいるが、間違ってもうつ病を患う人に対してそう発言してはならない。
うつ病に限らず、精神疾患(いわゆる「心の病」)の多くは脳機能に障害が出ている状態であり、単純な「甘え」や「怠け」ではない。むしろ、言われた側が「甘えている」と思われないよう焦って行動を起こした結果、さらに悪化する危険性もある。
また、特定の食材がうつ病を引き起こすと一部では言われているが、2020年現在科学的根拠のあるものはない。一部の栄養が足りなくなると気分が落ち込みやすくなる、という程度である。
バナナのような、トリプトファンなどの物質が含まれている食材を摂ると気分が良くなる※というのはあるが、その食材が絶対にうつ病に効くという保証はない。
うつ病の回復に必須なのはカウンセリングと抗うつ薬などの投薬治療などであり、良質な食事を取るのは身体に良いかもしれないが、それだけを頼りにするのは非常に危険である。
参考URL:どんな栄養素と食材をとったらいいの?
※トリプトファンは精神を安定させるセロトニンや、睡眠の質や生活のリズムをコントロールするメラトニンに代謝されるため。バナナはトリプトファンが豊富で、手軽に入手でき、食べるのも簡単なので、意欲が低下して動きにくいうつ状態(うつ病ではない人も含め)の人でも取り入れやすい食材といえる。