概要
寒冷・外傷・精神的ショックなどによって起こる緊張や、生体内の非特異的な防衛反応のことである。
カナダの分泌学者ハンス・セリエが初めて「ストレス」という言葉を初めて用い、生体が外部から寒冷、外傷、疾病、あるいは怒りや不安などの精神的緊張(ストレッサー)を受けたとき、これらの刺激に適応しようとして生体に一定の反応が起こることを発見した。
主に精神的ストレスのことを指し、本記事でもそれについて解説する。
最大の注意
「現代はストレス社会」と言われて久しく、うつなどの精神的疾患についての理解は高まりつつある。しかし、まだまだ世間のストレスに対する認識は甘い。
我々が生きる上で最も必要なのは何だろうか。
金や人間関係も大切だが一番は「健康」だろう。
そして肉体的な健康こそ世間では重要視されているが、精神的な健康については軽視されることが多い。
「人間なら誰しも精神が落ち込むことはある。でもそのうち治る」くらいの認識でしかない。落ち込んでいる人間や精神的な話というのは軽く扱われ、敬遠される傾向もある。
しかし、精神的なストレスは肉体的な傷病と同じくらいの健康リスクがある。
実際に重いうつになり何十年、あるいは一生涯を寝たきりで過ごすというのももう珍しい話ではない。統合失調症が深刻になると現実の世界に永遠に帰ってこられない危険性もある。もちろん、自殺とメンタルヘルスには大きな関係がある。自殺に失敗して重い障害を負うことも多い。
つまり精神的な傷は肉体の傷に直結するのである。
これは上に挙げたようなわかりやすい精神病に限った話ではなく、緊張や憂鬱が腹痛や頭痛、自律神経の不調に繋がるなんてのは日々誰しにも起こっていることである。
そして精神を病むリスクは誰にでもある。精神的に強いと思っていてもなった人が山ほどいるのである。また、スペックが高ければ病まないわけでもなく、有名人、金持ち、アスリートが精神病になることも普通にある。例えばサイコパスのような感受性が薄い人間以外は、全員がなり得るのだ。
また、心の傷は体の傷のように目に見えない。これは他者から見てもそうであるし、自分でも気が付きにくいということでもある。加えて、(昔に比べれば多少改善したが)世間は俗物的で具体的なものを重視するためメンタルの問題は「甘え」や「考えすぎ」だと一蹴されやすい。この他、重いものでなくてもストレスは集中力や判断力を鈍らせる他、脳の損傷によって衝動や感情の抑制機能を弱めることにも繋がっている。これは、血中でホルモンの一種であるコルチゾール濃度が上昇し、記憶力や思考力が一時的に低下している事が影響している。
つまり、自分のメンタルは自分でモニタリングする必要がある。本気で苦しくなって精神病院に駆け込んだ際には、すでに病状が悪化していることもあるのだ。
まとめると、
- 人間にとって一番重要なのは健康
- 精神的な健康は肉体的な健康と同じ
- 誰しもが精神を害する可能性が高い
- 目に見えないから自分で常に気を配るべき
ということである。
快ストレスと不快ストレス
一般に「ストレス」と聞くと、マイナスのイメージが思い浮かぶ人が多いのではないだろうか。実はストレスには、受け入れやすいストレス(快ストレス)と、受け入れにくいストレス(不快ストレス)の2種類がある。つまり、ストレスには有害な物ばかりではなく、体や心に受け入れやすい(健康にとって有益な)ストレスもあるのである。
また、ある人にとっては快ストレスであっても、別の人にとっては不快ストレスとなることもある。更に「一見ストレスが軽減されたように見えても、見方を変えれば別のストレスが発生している」ということもある。
(例1)会社で昇進することは、一般的には地位が上がってやりがいも生じると言える(快ストレス)。
↔人によっては責任や仕事の量が増えてしまう(不快ストレス)。
(例2)定年後に仕事から完全に離れてストレスがまったくなくなったように見えても(快ストレス)、生活リズムが乱れて心身の不調を来しやすくなる(不快ストレス)。
つまるところ、ストレスとは「(質的にも量的にも)その人の心の受け止め方」なのである。
ストレスの対処法
では、実際にどのようにストレスを自覚し、病まないように対処すれば良いのか。
まず段階ごとに分けよう。
①モニタリング :ストレスの発生源と、対する自分の反応に気付く
②リフレーミング :ストレスによって発生した自分の認知を再構成する
③コーピング :ストレス解消できるようなことを行う
この三つがストレスが発生した際に行うべき基本的なケアの流れとなる。
また、そもそも気をつけておくべきことして「⓪生活習慣」についても解説していく、
①モニタリング
ストレスとは
❶ストレス源(ストレッサー)→❷自分の感情 and ❸身体の反応
の流れで発生する。
例えば「上司に怒られた」がストレッサーとなり、怖い気持ちになる/冷や汗が出る とような流れである。
ストレッサーはこのように外部からの刺激、出来事でも良いし、嫌な出来事のフラッシュバックでも良い。部屋の空調が自分に合わない、といった物理的なことでも、それによって精神的な反応があるのならば含める。世間的、社会的にはそんなに大きな刺激でなくても自分的に大きなものならそれでも良い。とにかく自分の弱い面と向き合い、何に傷つき揺れ動くのかを自覚すること。
ただし必ずストレッサーは「客観的な事実」として抽出する。
❶「客観的な事実」❷「自分の感情」❸「身体の反応」を必ず分ける。
そして事実、感情、肉体反応の他に発生するのが❹「認知」である。
例えば上司に怒られたのが事実、怖いのが感情、肉体反応が冷や汗なら、
「また同じミスをするなんて自分は社会人失格だ」という思考が「認知」である。
このようにス トレス反応の流れを自覚し、4つに流れと反応を分割するのがモニタリングである。どれだけストレスを感じるのか数値化すると、なお解像度が上がるだろう。
②リフレーミング
ストレス源となるのが「客観的な事実」だとすると、認知とは「自動的に浮かぶ主観的な解釈」である。
これが、客観と主観を分ける必要性である。
つまり客観的な出来事は変えられないが、主観的な解釈は変えられるのである。ストレスが発生した際に浮かんでしまう解釈や思考回路を「より自分が気楽になれるように」変えていくのがリフレーミングである。
(よくあるリフレーミングのパターン)
- 白黒思考 勝ちか負けか 生きるか死ぬか➡️グレーゾーンの目標や理想を設置
- 過度な一般化 大きすぎる主義 ➡️多様性や例外に目を向ける 自分の考えた原則をゆるくする
- 心のフィルター マイナスのみ注視 ➡️何でも良いからプラスな面に目を向ける
- 他人の邪推 ➡️蓋を開けてみないと本心など分からない
- 拡大解釈、過小評価 ➡️定量化してみる
- 過度な個人化や他責化 ➡️物事はそんなに単純ではない
- 理屈なき悲観 先読み ➡️世の中何が起こるかは分からない
- 他人ならこの出来事をどう捉えるか考える
- 友達なら、家族なら、好きな人なら、あのキャラなら、
- 時間や空間などの前提をずらす
- タイミングさえ合えば問題なかった、こういう職種なら生かせた、相手が悪かっただけ
などなど。
まあ何をやれば良いかというと、中立的で柔軟な思考を持つ ということである。
例えば「同じミスして上司に怒られた、社会人失格だ」という認知をリフレーミングすると
・同じミスするのがそもそも何が悪い
・上司に怒られたくらいで失格ならみんな社会人失格になる
・そもそも社会人とか失格でも金がもらえるならいいや
・怒られている時間も給料が出るからラッキー
・ミスしても同じくらい成功すればチャラ
・この失敗談は話のネタになる
などいろいろな解釈が生まれる。
そんなことでストレスが変わるものかと思うかもしれないが、実際に変わるのである。(劇的ではないが)
例えば同じ出来事に見舞われても落ち込む人とそうでない人がいる。それは遺伝子的な性格もあるが、思考の部分も大きい。そして根っこの性格を真似するのは難しいが、思考というものは論理である以上再現性があり、学習によって習得できる。
そしてリフレーミングーー自己解釈の再構成をすることで、震える体の反応が止まったり、恐怖の感情が静まる結果になるのだ。
(余談 認知以外の要素は変えられるのか)
認知を変える→リフレーミング が最も楽であるだけで、他の要素を変えることでストレスを低減することもできる。
ストレス源を変える→環境を変える
身体反応を変える→深呼吸をする
など
しかし、浮かんだ感情そのものを自己操作することはできない。
感情を変えるには、環境や身体、認知を変える必要がある。
自分の素直な感情を受容することが大切である。
③コーピング
リフレーミングしてもストレス自体は残る。それを解消するために最後に必要なのはコーピングであり、これはストレスを解消できるような行動や思考全般を指す。
これは「異世界で無双する妄想をする」から「海外旅行に行く」まで幅広く含む。
将来役に立つかとか、人が見てどう思うとか、こんなことしても評価されないとか、そんなことは一切考えず没頭すること。
相手に多少なら迷惑をかけても良い。愚痴を言ったり弱音を吐くこともコーピングである。
しかしその中でも自傷的なコーピングは避けるべきである。
自傷行為というとリストカットなどがわかりやすいが、そうでなくても
「一時的には気持ちいいが、あとから苦痛が強く襲ってくる」ものは全て含む。
例えば、休日にたまに食べ放題に行くのは健全でありコーピングとして成立する。しかし特に食欲もないのにダラダラ過食するのは自傷的である。
人によっては線引きが難しいかもしれない。そんな時はコーピングしている時の自分の感情をモニタリングするのもいい。人生が投げやりになっているならそれは自傷である可能性が高い。
(この時間は投げやりになるぞ、などと決めているなら健全)
自分の好きなことや生きがい、落ち着くものをひたすら書き出したり、画像などにまとめることを勧める。
⓪生活習慣
①②③はストレスが発生した際の対処フローであるが、日々常にストレスは多かれ少なかれ発生する訳なので、これらの流れを習慣として生活に組み込むのが大切になる。
そのためにはメンタルに向き合う時間を意図的にとる必要がある。
また、それ以前の問題として、以下の健全な生活習慣をとることがストレスにスムーズに対処する一助となる。健全な精神は健全な肉体に宿るというのは科学的にも証明されている。
(毎日やったほうがいいこと。一部はセロトニン活性にも影響)
- ストレスのモニタリング、リフレーミング、コーピング
- 深呼吸
- 毎日決まった時間に起きる
- 日中は太陽の光を浴びる
- 散歩、筋トレ、運動
- 五感を使う 特に視覚以外
- 糖質を少なめに1日3食
- SNSなどで不快な話題や意見を目に入れない
- ゆっくり湯船に浸かる
- わざとでも口角を上げて笑顔を作る
- 寝る前1時間は液晶を離す
- 瞑想する
また、心の生活習慣として、
「自分の人生は自分が幸せになるためにある」ということを常に意識したい。
家族や周囲の期待、世間の常識やルールのために人生があるわけではない。
特に日本社会では非難される「エゴ」こそがストレスに対抗するのには必要なのだ。
自他を切り離し、自分がどうすれば楽になるのか、何をしていると楽しいのかを毎日考えるといいだろう。
また、どうしても世の中で生きる以上は人目が気になったり、誰かと競争して椅子を奪い合ったり、世の中の理不尽な偏見や差別に遭うことある。自分の無力感や無能感に苛まれる時もあるだろう。
そういう時は、自己の幸福の下限ラインを低く持つ訓練も必要だろう。
どんなに腐った世の中でもどんなに弱い自分でも幸せを発見し、「今もまあ幸せだが、もっとこれから幸せになる」というスタンスを持とう。
最後に それでも死にたい時はある
しかしいくら毎日ストレス対策を習慣化したとことで、精神的に折れそうになる時はある。
これは分からない人間は分からないだろうが、死にたくなる瞬間というのはあるのである。中には、それが長く続くことも。
そんな時はまず諦めよう。
諦めるといっても「生」以外のものを「ひとまず」諦めるのである。
嫌な会社なら休む。
人間関係が辛いなら、一言伝えて連絡をとるのを休む。
何かやるべきことができなくて苦しいなら、一旦別のことをするか怠ける。
寝れないなら、いっそのこと散歩してみる。
生きがいが見つからないなら、とりあえず何か漫画でもゲームでも前欲しかったのを買ってみる。
コツは「ひとまず」休むこと。何かをブチッと永遠に切り離すのはやりたくなるが、やらないこと。あとから後悔する。一言でも伝えていろいろなものを休めばいい。会社も休職すれば金を吸えるし履歴書の空白が埋まる。プライドも信念も義務も全部休んで、ただこの日を生きるために全力で自分を甘やかそう。
そしてもちろん、病院やカウンセリングの手を借りよう。もちろん嫌なやつも多いが、優しい人もいるのが世の中である。ガチャのように引き続けよう。
なぜストレスは「完全な悪者」扱いされているのか?
上述の通り、ハンス・セリエが「ストレス」の概念を生み出し、「ストレッサーが、身体の内的な平衡状態を乱し、その結果として多種多様な病気を引き起こす」という主張をしてきた。このセリエとストレス理論に目を付けたのが、たばこ会社だった。
20世紀の半ば頃、タバコが健康に害を及ぼすという研究が出され始めた風潮に対し、その火消として、タバコの健康の害を科学的に否定するため、タバコ会社は医師や研究者を抱き込もうとし、研究資金などを提供して操ろうとしていたのだ。
1958年に米国のタバコ産業は、タバコに有利な研究に対する資金提供をするための団体(CTR)を作ったことが知られている。タバコ産業がこの研究支援団体を作った頃、セリエとタバコ産業が最初に接触。以降、資金を餌に両者が密接な関係を続けたことで「ストレスは完全悪。タバコはストレスを軽減する」といった概念が広まっていった。
しかし喫煙し続けることは寧ろ、ストレス増加につながる。というのも、ニコチンを摂取し続ける事で、精神安定を保つ物質「セロトニン」を生成しにくくなってイライラしやすくなるからだ。
Yahoo!ニュース:悲報「ストレス」という概念は「タバコ会社」が広めた
外部リンク
なぜかストレスを感じやすい…その原因は性格だった!?(ヤクルト)
関連タグ
リ・デストロ(僕のヒーローアカデミア):ストレスをパワーに変換する異能を持ち、ストレスを感じるほど強くなっていく。