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第1部1章 堤防と風の対岸
エピグラフに関しては以下より引用しました(ゲーテの『詩と真実』は拙訳になります)。他の参考文献は後述します。 ・Johan Wolfgang Goethe: "Aus meinem Leben. Dichtung und Wahrheit." In: "Sämtliche Werke. Briefe, Tagebücher und Gespräche. Abt. I. Bd. 14." Frankfurt am Main (Deutsche Klassiker Verlag) 1986. S. 421-422. ・フョードル・ドストエーフスキイ、米川正夫訳:『カラマーゾフの兄弟』(第四巻)〔改版〕岩波書店、1957年、402-403頁。 ----- 2020年2月中旬に、大学院生が研究や仕事に疲れ、都市郊外の河川敷を一人で散策するだけの章です。 純粋数学を専攻する青年の思考フレームをスケッチするために「意識の流れ」に似た文体を採用した、稀に見る悪文です。 大雑把な認識として、主人公の意識は「…………」と「__」の間に表され、これらに挟まれていない箇所は地の文と思っていただければ鑑賞し易いかと思います。 悪文について言い訳をするならば、本作品がモチーフとして瞑想やデフォルトモード・ネットワークを用いるための必要悪でもあります。仏陀自身が瞑想をした時代、言葉には「句読点」という書式が十分に備わっていませんでした。現代の言葉と現代人には、書く前の意識の中にも在って当然である「区切り」の類が。 (しかし近年にも次のような著作が出版され、「句読点」が教育で普及している現代でもマインドフルネスが話題になっていることに鑑みれば、頭の中の言葉というのは単純な事柄ではないに違いありません。 イーサン・クロス、鬼澤忍訳:『Chatter:「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』東洋経済新報社、2022年。) また2020年の、他者と会って話す機会が最も少なかった世界で、「頭の中の独り言」に呪縛されなかった人間が地球にどれだけいたのかを思えば、この時期を素材とする文学が関わることになるのも必然的な悪(文)ではないかと思います。 また「共感」が台頭し始めていた時期でした。稀少な会話の機会に、他者と思考の共通点を見つけて安堵と喜びを覚える裏で、本当は他者と理解し合うことが難しいということを、少なからぬ人が都度実感していた側面もあったものだと思います。そのような時期を素材とするにあたり、格別に「分かり難い」人間の抽象的な思念をスケッチするのも、また避け難い悪(文)の所以(ゆえん)だったのではないかと思います。 そのような一章目ですが、どう言い繕っても2020年を素材にする章の内で最も読み辛く、退屈で倦む方が少なくない章であろうと思います。仮に退屈よりも関心を覚えてくださる方々がいるとすれば、ここに記した説明の一切を無視して、独自の仕方で本文を鑑賞されることと思います。 (最後に、「2020年を素材にする」と書いてきましたが、決して「扱う」ことはありません。この作品全体が、一種の観念的な関心を表すべく構想された、徹頭徹尾そのために都合のいい虚構話であり、決して現実世界の写実を目的としてはいないからです。) ----- 参考文献 ・Thomas Mann: "Gesammelte Werke in 13 Bänden." Frankfurt am Main (Fischer Verlag) 1960/1974. Bes. "Versuch über Schiller". ・Thomas Mann: "Große kommentierte Frankfurter Ausgabe. Hg. von Heinrich Detering u. a." Frankfurt am Main (Fischer Verlag) 2002ff. ・アレクサンドル・グロタンディーク、辻雄一訳:『数学者の孤独な冒険——数学と自己発見への旅(新装版)』現代数学社、2015年。 ・アレクサンドル・グロタンディーク、辻雄一訳:『ある夢と数学の埋葬——陰 (イン) と陽 (ヤン) の鍵(新装版)』現代数学社、2016年。 ・マーティン・J・ブレイザー、山本太郎訳:『失われてゆく、我々の内なる細菌』みすず書房、2015年。 ・ヘルマン・ヘッセ、渡辺勝訳(日本ヘルマン・ヘッセ友の会・研究会編・訳):『ガラス玉遊戯』臨川書店、2007年。 ・岡潔:『春宵十話』光文社、2006年。 ・高橋昌一郎:『ゲーデルの哲学——不完全性定理と神の存在論』(講談社現代新書)講談社、1999年。15,453文字pixiv小説作品