概要
『ゆうえんち -バキ外伝-』は、板垣恵介による漫画作品刃牙シリーズの公式外伝小説。
作者は、数多くの格闘小説を手掛け、特に『餓狼伝』で板垣とのコラボ経験もある夢枕獏。挿絵は『ミドリノユーグレ』の藤田勇利亜が担当している。
2018年より、現行の本編『バキ道』と同じく、週刊少年チャンピオンで連載中。週刊少年漫画誌上での小説連載という異例の形式で展開されている。
タイトルが示す通り第2部『バキ』との関係が深く、「最凶死刑囚編」の前日譚に当たる。
主人公の葛城無門をはじめ、新キャラながら刃牙シリーズのメインキャラと密接な関わりを持つ人物が多く登場し、刃牙シリーズの世界を大きく深く広げる物語となっている。
さらに、夢枕作品である『餓狼伝』『獅子の門』のキャラクターもゲスト出演しており、両方を追っているファンにはなお楽しめる夢のコラボ作品である。
また、漫画誌での連載というフォーマットのためか、通常の小説作品と比べて挿絵が非常に多い。
著者の夢枕は、小説でもなくマンガでもなく、かといって絵物語でもない新しいフォーマットを志向しており、今作独自の形態としての「コミック・ノベル」を標榜している。
あらすじ
類まれなる身体能力と格闘の才能を持ち、誰よりも強くなりたいと願う少年、葛城無門。
寄る辺もなく放浪していた彼は、かつてあの地下闘技場で戦っていた経験を持つ松本太山に見いだされ、たくましいグラップラーとして鍛えられた。
しかし鍛錬の日々からの「卒業式」の日、無門の前に現れた太山は、胸を深くえぐられて致命傷を負っていた。
卒業式──自らが鍛えぬいた弟子との初めての真剣勝負をかろうじてやり遂げた後、彼は無門の目の前で息を引き取った。
わずかな手掛かりを頼りに、太山の死の真相を追う無門。マスター国松や久我重明といった闇の住人達をたぐるうちに、師を取り巻いていた謎の正体が徐々に明らかになっていく。
東京ドームの地下とは別に存在する闇の闘技場、「ゆうえんち」。
師の胸に空けられた穴とよく似た傷跡を残す殺法、「空掌」。
そしてその無二の使い手である最凶の殺法家、柳龍光……。
登場人物
葛城無門
主人公。
あるサーカス団の花形スターの子供として生まれ、類まれな運動能力と観察眼、格闘センスを生まれながらに備える。
9歳の頃にサーカスを出奔し、その後ホームレス同然の生活を送っていたが、太山と出会い、彼の格闘技術を叩き込まれたことで一流のグラップラーへと成長する。
太山の死後は、彼の死の謎を解き明かすべく奔走する。
実は愚地克巳の兄にあたる人物。本編では「ライオンによる獣害事故によって父・正介(今作にて義父と判明)と共に命を落とした」とだけ説明されていたが、実は愚地独歩が克巳に会いに来る前の時点で出奔していたことが今作で明らかにされた。またサーカス団員によれば、独歩が聞きつけた天才少年の噂も、実は克巳ではなく無門のものであったという。
松本太山
無門を見出して鍛えたグラップラー。娘の名前を冠した屋台「ラーメンこずえ」の店主。
身長190cmを超え、肩幅と同じ厚さの胸板を持つ、規格外のマッチョマン。格闘技術も一級品で、あの地下闘技場に選手として参戦していた過去がある。
一方、その見た目とは裏腹に非常に家族思いで子供好き。屋台で無銭飲食した無門に対しても、怒るどころかその境遇に同情し、食事の世話をするとともに格闘技を伝授して、彼の師匠となった。
本編で一度だけ言及があったきり容姿さえ不明のままで、長らくファンの考察の的となっていた、松本梢江の父親その人。病気に侵されていた娘の治療費を稼ぐべく「ゆうえんち」へと参加したが、何とか目的の金額は稼ぎ出したものの致命傷を負い、無門の目の前で息を引き取った。
柳龍光
後に本編の「最凶死刑囚編」にその一角を担う凶悪犯として登場する、殺法家。
本作時点ではまだ死刑囚になっておらず、市井で活動中。「ゆうえんち」に参加したことや、そこで太山と対決し致命傷を負わせたことなどが示唆されている。
著者のまえがきによれば、本作は、後に「敗北を知りたい」とのたまうほどの無敵を誇った柳がなぜ一度は虜囚の身になったのか、を描く物語になるとのこと。
ゲストキャラ
久我重明
夢枕作品『獅子の門』からゲスト出演。かつて板垣版『餓狼伝』にもゲスト出演し、その独特の存在感と強さで人気を博したが、三度作品をまたいでの登場となった。
原典では萩尾流古武術の達人にして「暗器の重明」の異名を持つ男で、『餓狼伝』では凄腕の空手家。今作ではその戦闘スタイルは明らかにされていないもののやはり凄まじい実力の持ち主で、「ゆうえんち」の存在についても知っており、その秘密を無門に与える。
マスター国松
大日本武術道場の当主を務める殺法家。柳の師。「最凶死刑囚編」でも語られた通り、かつて柳に敗れて左腕を失っている。
本編のほか以前ゲスト出演した『疵面』でも、もっぱら解説役・インタビュイーとしての登場だったが、本作では初めて本格的な戦闘を披露。猛禽類のようだと評された爪で花崗岩をえぐりとるわ、空掌を足で実現するわと、柳の師匠という肩書に恥じぬ凶悪性で無門を追い詰めた。