概要
Home(家)less(なし)、つまり定まった住居を持てないまま暮らしている人のこと。
「ハウジングプア」とも。
ホームレスといえば路上や高架下、公園、駅舎などに寝泊まり(段ボールで作った寝床を持っていることも多い)する野宿者がイメージされることが多いが、決まった住所を持たないという意味では自宅を持たず自家用車(※)を寝床にしている車上生活者、ネットカフェ(漫画喫茶)で寝泊まりを続けているネットカフェ難民、友人・知人の家を転々としている人、家族や交際相手からのDVなどの事情があって支援施設(シェルター)に入っている人もホームレスである。
※アメリカでは地理的な都合からキャンピングカー(トレーラーハウス)で各地を転々とする人も多く、またモーテルで暮らすような人もいる。
ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法によれば、ホームレスとは「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」と定義されている。つまり、一般に住居とされるような場所以外で(比較的長期にわたって)生活している人のことを指すといえる。
また、2018年に行われた厚生労働省の実態調査によれば、公園や駅舎などに段ボールハウスを作り生活する「定住型」、昼間は仕事をしたり、公共施設などで過ごしたりして各地を転々とし、夜になると雨風を凌げる場所に移動する「移動型」、都市間を移動して暮らす「漂泊型」(行旅人)といった類型が確認されている。
ホームレスになるきっかけはさまざまあるが、例えば失業や破産により家賃やローンが払えなくなった(寮や社宅、官舎などに住んでいる場合、会社の倒産や急な解雇で次の家を探せないまま出ることになった)、借金などを理由とした夜逃げ、家族や交際相手による虐待から逃れるためなどが挙げられ、いずれも経済的な事情が大きく関係するといえる。
バブル崩壊時には、かつて大金を手にし勝ち組を謳歌した社長なども、倒産によって全てを失いホームレスとなってしまう例があった。
その後の不景気により、ホームレスの数も一時期増加したが、景気回復やホームレス自身の高齢化、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」施行により行政の支援体制が整ったこともあって、現在は減少傾向にある。しかし、ネットカフェ難民やドヤに寝泊まりする日雇い労働者のように「路上にはいない(場合によってはある程度決まった仕事もある)が、定住地がない」というケースも存在するため、実態は不明である。
仕事が見つからない、金銭的な余裕がないという不安から犯罪を起こしてしまう人はもちろん、「ホームレス狩り」など被害者として巻き込まれてしまう危険性も非常に高い。特に女性や高齢者の場合、力が弱いことや体が小さいことから暴力の標的になりやすいと見られる。
さらに、暴力団や半グレといった反社会的な組織がホームレスに少額の金を握らせて手先として扱い、犯罪の片棒を担がせる事もある。
なお、ホームレスには戸籍はあるが、住民票がない場合がとても多い。
出生後、ちゃんと届出がされていれば戸籍自体は存在するが、登録されている住所に実際に住んでいないと判断されると、市役所が住民登録を抹消してしまい、「戸籍はあるのに、どこにも住んでいない」という宙ぶらりんの状態、いわゆる「住所不定」となる。当然選挙権なども存在せず、2019年10月には台風によって開設された東京都内の避難所が「住民票がない(本人確認が取れない)」という理由でホームレスの受け入れを拒否した、という事例が報道され、時の総理大臣であった安倍晋三や厚生労働省が「すべての人を受け入れるように」とコメントをしている。
住民票取り消しとなってしまった場合でも、然るべき手続きを踏めば住民票を復活できるが、当然ながら時間が経つほど手続きが煩雑になる。過去には大阪府大阪市西成区の釜ヶ崎(あいりん)にて、居住実態がないにもかかわらず住居登録を行なっていた相当数の日雇い労働者の存在が明らかとなり、登録抹消に至った。さらに、これを受けて関係団体による反対活動が行われている。
各種支援団体や行政によって支援活動も行われており、公園などでの炊き出しや路上生活で体調を崩してしまった人の保護や治療、就職のためのサポート(自立支援)などが行われている。有名な活動の一つとして、ホームレス自身が販売者となって収入を得られるようにしたストリート新聞「ビッグイシュー」が挙げられる。
しかし、保護の伝手がないではないのに「転落した惨めな自分の姿を家族に知られたくない」「家族の支援(または生活保護)を受けるくらいならホームレスの方がマシ」などと考えてホームレスのまま頑なに過ごしたり、初めから敢えてホームレスとなる道を選ぶ人も多い。新しい住居やホームレス向けのシェルターなどの環境が合わず、ホームレス→保護→脱走して再び路上生活というサイクルを繰り返す人や、悪質な団体による「貧困ビジネス」で搾取され、仕方なくホームレスに戻った、という人も少なからずいると考えられる。
野宿者は見方によっては自由で気楽なように見えるが、野宿者の世界には野宿者のしきたりがあるらしく、特に過去を聞くのは野暮だとタブー視されているという。
近年では、バブル崩壊の煽りを受け就職が困難であった、派遣やアルバイトなどで不安定な雇用状態が続いている人が多い「就職氷河期」世代(※2008年、2009年には、いわゆる「派遣切り」で無職・ホームレスとなった若い世代に向けて、年末に「年越し派遣村」が開設されていた)ホームレス化も多いとされ、比較的若い世代であることも相まって、特に同世代や上の世代から「自己責任」と立場を軽視されているのではないか、と懸念されている。
かつては「浮浪者」「乞食」「宿無し」「ルンペン」などとも呼ばれていたが、差別的であるとして放送禁止用語に指定され、以後はホームレスという呼び名が使われるようになった。
迷惑行為
上記のような書き方だと可哀想な社会的弱者に見えるが、ホームレスが街の治安や環境に悪影響を与える問題が全国で発生しているのも事実である。
最も一般的な問題が寝床である。
雨風をしのげて、かつ排泄が出来るということで、駅や地下道、屋外だと橋の下が寝床とされることが多く、夜になると決まった位置にホームレスが「帰ってくる」。
当然ながらホームレスは風呂や歯磨きといった最低限の身だしなみすら整えていないので強烈な体臭をまき散らす上、公共のスペースを占領するため通行の邪魔になる。当然ながら景観も良いものではない。
また、都会では住宅地に現れたり、一般市民に絡んでは食料や金銭を要求するなどの乞食行為もよく行われている。
乞食自体は軽犯罪にあたるものの警察が動くことは少なく、余程悪質でない限りは解決が難しい。
そのことを表すエピソードとして、1980年代に横浜市で未成年によるホームレスを狙った連続殺人事件(ホームレス狩り)が発生した際、日ごろからホームレスに頭を悩ませていた地域住民が加害者たちに同情的だったという話すらある。
犯罪者が逃亡し、身を隠すためホームレスになるという事例も起こっている。例として、2007年に千葉県で起こった「市川市福栄における英国人女性殺人・死体遺棄事件」(リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件)において、犯人が全国各地を転々とし、ホームレス生活を送っていたことが明らかとなっている。