日系移民の「勝ち組」
「勝ち組」/「負け組」という言葉は、第二次世界大戦直後の南アメリカの日系人社会において、日本の敗戦の事実を認めない人が多数いたことに由来する。
「勝ったと思っている側」が勝ち組(戦勝派)と呼ばれ、「負けたと思っている側」が負け組(認識派)と呼ばれていた。
戦時中〜戦後直後のブラジルやペルーでは、情報統制の関係から良質のニュースがあまり入って来なかった。多くの人が現地の言語に堪能ではなく、日本語で手に入る情報が限られていたことから、日本の勝利を確信している人が多数いた。また、多少は現地のポルトガル語やスペイン語に通じていても、連合国側に都合のよいデマ宣伝と考え信じなかった人も多かった。
日本のポツダム宣言受諾を伝える日本語の放送はブラジルでも聞くことができたが、少し時間が経つと日本人の中から敗戦はデマであり、実は日本が勝ったのだと言い出す者が出てきた。勝利した日本から使節団が軍艦でやって来るという噂も流れ、新円切替えで紙くずとなった円紙幣を「勝ち組」に売りつける詐欺事件も頻発。だまされた日系移民たちの間で自殺や一家離散などの悲劇も相次いだ。
これらに危機感を抱いた現地日本人社会の指導者層は、敗戦の事実を日系人たちに伝えようと、天皇の詔書や日本政府からのメッセージの写しを配布するなどの時局認識運動(略して認識運動)を起こした。しかし、これらの行為がかえって「勝ち組」たちの憤激を呼び、国粋主義団体が認識派を「天誅」と称して襲撃する騒乱が横行した。
これら「勝ち組」のテロにより、ブラジル社会の日系移民への感情は、著しく悪化した。ブラジル当局は「勝ち組」の日本人たちを事件に関与していない人たちも含めて一斉検挙し、事態の鎮静化を図った。その後、日本政府・GHQ、戦勝国のアメリカ国務省、戦争中立国であるスウェーデンなどの協力も受けて認識運動が大々的に展開され、日本の親類・友人から敗戦の事実を伝える葉書が送られた。大規模な騒乱は1947年を最後に消えていったが、田舎の奥地に住んでいた日系人の中には敗戦の事実を認められない人も多く、「勝ち組」と「負け組」の対立は長く後を引いた。このため1952年4月の国交回復時にも日本政府の派遣した特命全権大使が改めて敗戦の説明をしなければならない事態になった。
特にブラジルにおいて騒動が巻き起こった要因として、当時のヴァルガス政権による日系移民を敵性国民として圧迫する政策により、かえって異郷の地で祖国を思う人々の愛国心を肥大化させ、暴発させる結果を招いたという説がある。日本とブラジルの国交断絶に伴い日本領事館や日系企業も閉鎖され、日本語新聞の発行も禁止されるなど日系移民たちの統率もとれなくなり、移動の制限もされたことから、日系人たちは入植地でバラバラの状態で孤立してしまい、外部社会への不安と不信を募らせた。また「負け組」が現地で有力者としての立場を築いていた人が多かったのに対し、「勝ち組」は、元から情報が手に入りにくい立場だったことが多く、その辺りの階層差も事件の要因にあった。
「格差社会の成功者」という意味の「勝ち組」
上記の戦勝派・認識派とはまた別に、バブル経済崩壊による不景気が続き「一億総中流社会」という意識が歪みを見せ始めた1990年代後半ごろから「格差社会化が目立つ中、社会的な成功を収める、巨額の金を手に入れるなどした実業家や投資家」のこと、つまり競争社会において勝利した人のことを「勝ち組」と呼ぶ例が出始めた。
この用法が広まったことにより、現在では一般に「勝ち組」と言えば「富裕層」「社会的成功者」を指す。
しかし、いっとき裕福であったり、事業がうまくいっていたりしていても、堀江貴文や村上世彰のようにあっさり逮捕され没落してしまうこともあるため、勝ち組が必ずしも長期的な成功者となるとは限らない。
いわゆる「上級国民」は、その人の「生まれ」(親やそれより上の世代から引き継いだ資本)が既に「上級」である、というニュアンスが含まれるため、勝ち組とイコールというわけではない。
経済的に安定し、家庭を築く余裕のある人のこと
バブル崩壊後の日本では、結婚できなかったり、あるいは結婚しても離婚していたり、非正規雇用(フリーターや派遣社員)、正社員であっても経営の不安定な中小零細企業勤務で明日をも知れない身、というようなワーキングプア層が増えた。この結果、大企業や中堅企業の正社員あるいは役所や学校などに勤務する公務員で、結婚して子供がいる男性や女性、もしくはそういった夫のいる主婦で、従来であれば「平凡な中流」と見られていたような人までもが「勝ち組」扱いされることがある。
この意味での「勝ち組」は野原ひろしなどがあげられるであろう。ひろしは中堅企業の商社マンという設定で、『クレヨンしんちゃん』の連載が開始されたバブル期当時はごく平均的なサラリーマンであったが、2010年代の感覚では比較的恵まれた身分であるといえる。
pixivにおいて
タグとしては、「勝ち組」と呼ばれるようなキャラクターや、そのようなキャラクターが登場するシチュエーションに関して使われることが大半である。また、どちらかといえば単純に「勝利者」や、現代において一般的な用法である「社会的な成功者」を指す目的で使われている。
いわゆるリア充(この場合は恋人がいてラブラブで楽しい日々を過ごしている、という意味合い)、ハーレム状態なキャラを指す場合も多い。
なお小説『ニンジャスレイヤー』においては(競争社会に疲れ果てた)富裕層を「カチグミ」と称しており、同作品について語る目的で使われることもある。