概要
派遣元企業(人材派遣会社)に在籍する者が、別の会社の指揮下で就労する雇用形態の一つ。出向との違いは、実際に働いている会社と労働契約を結ばないというところにある。なので派遣社員に給与を支払うのは派遣元企業である。
日本ではアウトソーシングの一形態として1986年に派遣法が施行されてから本格化した。当初はソフトウェア開発や秘書など13業種に限られていたが、次々と解禁され、現在では「湾運運送・建設・警備・医療」以外の全てが対象となっている。2020年代には既に自治体や官公庁ですら派遣社員の利用が当たり前となっている。
派遣先にとっては必要な時に人材を集める手段として重宝されており、労働者にとっては入社試験を受けずに就労できる(履歴書を提出させたり事前面接などをするなどして派遣先が派遣社員を選考するのは、基本違法)ため、就職活動のハードルが格段に低いのがメリットである。紹介予定派遣といって、派遣雇用終了後は派遣先に正社員・契約社員などとして直接雇用されることが前提の派遣もある(この場合は例外的に事前面接が許されている)。
税制上の優遇(後述)を背景に、就職氷河期時代にいわゆる雇用の調整弁として拡大した。一般的に3か月更新(1ヶ月や6ヶ月単位)のの任期制であり、不景気などで人材削減が必要になると真っ先に契約を終了させられる(「派遣切り」)。また、ボーナスは基本的に支払われず、派遣先企業の福利厚生の恩恵にあずかることも基本的にできない(社員食堂の利用禁止など。ただし2020年の労働者派遣法の改正により事情が変化している)。
紹介予定派遣でなくても、「正社員昇格あり」を謳っているものも多く、派遣先企業にとっては「お試し採用」的な側面も併せ持っている。派遣から直接雇用への切り替えは、派遣先企業にとっても派遣会社にマージン(おおよそ3〜4割)を支払わなくても済むというメリットがある反面、健康保険料や厚生年金保険料を自社で負担しなければならない上、経費が外注費から人件費に切り替わるため税制上は不利になる。外注費で支払った消費税は消費税納税額から控除できるが、人件費は消費税が課税されず仕入控除できないのである。
また、正社員ならば休日出勤や深夜などの無理な勤務時間変更を命じたり、(本来は違法ではあるが)サービス残業やみなし残業、有給休暇の不許可を活用するなどして人件費を抑えやすいが、派遣社員の場合はこれが難しくなる(職場によっては派遣社員にもサービス残業をさせるが)。このため、繁忙期や欠員が出たときだけ人員を補充する形で活用している会社も多い。
違法な場合もある
上述のサービス残業や有給休暇を使わせないの時点で労働基準法違反の犯罪である。退職させないことやそれに条件をつけることも違法。労働基準法はアルバイトや契約社員にも適用され、違法な労働契約は署名捺印してあろうが無効である。
相手に黙って従う、言われたことを鵜呑みにすれば過労死か自殺まで使える便利な社畜と自由のないつまらない人生の完成、ブラック企業の仲間入りである。
「うちは労働基準法を採用してない」「派遣に労働基準法は適用されない」なんてとんでもない理論で丸め込もうとする連中や、派遣社員という立場だけで露骨に差別する派遣先もいるため、悪い意味でも良い指標となる。
派遣先雇用
「派遣先企業へ雇用される事を禁止する」といった契約条文が明記されている場合もあるが、法的根拠はなく違法な契約はそもそも無効である。それをされるとピンハネする派遣会社の旨味が無くなってしまい都合が悪いため教えないが。
その他
ワイドショーやドキュメンタリーでワーキングプアの代表格として派遣社員が取り上げられることが多かったため、給料も生活も悲惨というイメージが世間に染みついているが、派遣先や地域によって差はあるものの、派遣社員の給料自体は決して低くなく、むしろ正社員より手取りが多いケースもある。派遣元のマージンを考えると、派遣先企業は、正社員よりはるかに高いコストを派遣社員に支払っていることになる。
2021年にマイナビが派遣社員を対象に行った調査によると、「正社員採用の誘いを受けた内、76.5%の人が断っている」とのこと。主な理由は「人間関係が割り切れなくなる」や「残業が増えるのが嫌」というもので、これは意図的に派遣社員を選択するパターンが一定数存在することを表している。先述の給料事情を証左する、「時給換算すると正社員より稼げる」という理由も存在した。このような事情から、世間で言われるほど一概に憐みの目で見ることは出来ないだろう。