消費税
付加価値税の一種(付加価値とは売上-仕入。事業者が仕入に付加した価値)。
国内における製造から小売りに至る多段階の取引の事業者の販売行為=売上に課され、販売相手が国外、つまり輸出取引および訪日外国人への国外持ち出しを前提とした販売に該当するもの(輸出免税店での輸出物品の販売)は、付加価値税を採用している国同士の「仕向け地主義」ルールにより消費税(売上税)が免除され(消費税率0%扱い)、輸出先の輸入国で輸入品となった際に課される(国境調整と呼ばれる)。
財務省は同省サイトで「消費税は間接税」と説明しており、国民の一般的理解も間接税としての認知であろう。
財務省の説明は、消費者への販売価格に売上税額(税そのものではなく金額のみ)が価格転嫁(値上げ)されることを前提としている。消費税は事業者の売上への課税であるから(ただし納付時には、後述する通り、売上税額を100%納付する前提の仕組みではない)、売上時に即、売上税額を算出でき、それがレシートに「消費税」として記載されるため、消費者たる国民側も代金支払時に「自分が消費税を払っている」という感覚を抱きやすい。
しかし消費税法を参照すれば分かるとおり、課税の対象(第4条)が「事業者の販売行為(売上)」、納税義務者(第5条)が事業者との規定はあるが、財務省が前提とする「価格転嫁」については規定はおろか「消費者」という文言すら、法文中には存在していない。
本来、間接税とは、税法で納税義務者(課税対象者)と納付義務者の二者が規定されている税である。国税には該当する税は無いが、地方税に入湯税、ゴルフ場利用税、軽油引取税がある。
・入湯税(間接税) 納税義務者=入湯客、徴収義務者 兼 納付義務者=温泉経営者(預り金)
・消費税(直接税) 納税義務者 兼 納付義務者=事業者
なお、税法の「納税義務者」とは「課税対象者(負債者)」である。税とは一般的にイメージされているような「代金」ではなく「負債」であり、憲法30条の「納税の義務」は「支払う義務」ではなく「負債者になる義務」である。なぜなら、税は滞納すると「延滞税」という利息相当の税が加算されるからだ。代金に利息は付かない。利息が付くのは負債(借金)である(利息は借金の利用料)。
税という「負債」を「担う(引き受ける)」から「税負担」者であり「納税義務」を負っているが故に「納付義務」をも負っている。「納税(負債)」と「納付(支払)」は法的意味が異なるので、注意されたい。税の債権者は「国」である(地方税の債権者は地方自治体)。
税法に依らず、財務省の「説明」による税区分が罷り通っている現状は、法治国家として非常に大きな問題である。財務省の「消費税は間接税」という説明が通るのであれば、事業者が納付する法人税や固定資産税等も「販売価格にその金額が含まれている」ので、間接税になる。違いは買手への販売時に即、税額を算出できるか、決算が確定しないと算出できないかの違いだけである(実際には、消費税も決算が確定しないと、売上税額から差し引く「仕入税額(後述)」を確定できない)。
さて、消費税の課税ベースは売上だが、それだけだと多段階取引の商流においては、後段の事業者ほど納税額が大きくなる。そこで、前の事業者の売上税額=自分が仕入先に支払った支払金額から算出する仕入税額を差し引いて(控除して)納付するという仕組みが、前提になっている。この仕入税額控除こそが、売上税を「売上-仕入=付加価値」税にしている重要な仕組みである。なお、付加価値は粗利(大雑把な利益)とも呼ばれる。
非課税について(仕入税額の還付無し)
保険、医療福祉教育など一部のサービスは非課税とされているほか、物品では、切手のみ非課税となっている。ただし、医療サービス事業者が事業を行うための備品購入や光熱費等の支払は課税仕入であり、仕入先による価格転嫁があると、利益圧迫要因になる。
それとは別に、事業者は原則として新規法人の設立から2年間と、基準期間の課税売上高1,000万円以下の事業者は納税義務が免除される。「納税義務の免除」とは「納付」の免除ではなく、売上に消費税を課されないという事なので、実質、非課税である。
非課税では「売上税額が存在しない」ので、仕入税額が有っても、その分の還付はされない。
日本の消費税の歴史
日本では竹下登政権下の1989年4月に消費税率3%として初めて導入(国税3%)。消費税率3%時代は「定価○○円(本体価格○○円)」等のように外税表記が主流であった。
国税庁はこの時期「消費税は消費者が負担する(預り金)」であるという告知を行った。
(参考:全国商工新聞 2006年9月4日付)
橋本龍太郎政権下の1997年4月に5%に引き上げられた(国税4%+地方消費税1%)。
この時に閣議決定された「赤字国債削減目標」および小泉純一郎政権下での「プライマリーバランス黒字化目標」と相まって1997年度以降の経済成長の停滞を招いた(3%時代は経済成長していたので、停滞の真因はPB黒字化目標の継続による緊縮財政と断じて良いだろう)。
2012年3月末に野田佳彦政権下で提出された消費税増税法案について、景気回復後、具体的には2011年度から2020年度までの平均で「名目3%かつ実質2%の経済成長」を前提とした景気弾力条項を盛り込んだ民主党、自民党、公明党の三党合意で、8%、10%への引上げ方針が決定された。
しかし後を受けた第二次安倍晋三政権は、2014年4月1日にこの条項を達成せぬまま(名目GDPは2012年度が底で僅かに回復はしていたが)8%への増税を行なった。(国税6.3%+地方消費税1.7%)。
更に2019年10月には景気条項を破棄し、二度の増税延期を経て10%へと増税された。この結果、2020年初からのコロナ禍もあって、日本経済に更なる深刻な打撃を与えた。コロナ禍では100カ国以上が付加価値税を含めて減税を実施したが、日本は消費税減税を実施していない。
なお、10%増税時に軽減税率が導入され、外食と酒類を除く飲食料品と宅配の新聞が8%に据え置かれた(標準で国税7.8%+地方消費税2.2%、軽減で国税6.24%+地方消費税1.76%)。
日本における税率(単一から複数へ)
諸外国の付加価値税は生活必需品や教育福祉文化関連の物品およびサービスには減免がなされている国が多いが(※)、日本の消費税は単一税率であるのが特徴だった。これは、日本では所得税等の申告のために事業者が「帳簿」を作成する商習慣が存在し(諸外国にはこれが無かった)、帳簿から売上税額と仕入税額を算出する「帳簿方式」が合理的であり、これを採用した為である。消費税導入時の1989年にはPCもインターネットも無く、紙と鉛筆ベースの帳簿では複数税率に対応出来なかったからでもあるが、それらの普及で2019年10月からの複数税率に問題なく対応できている。
消費税(付加価値税)導入による、人材派遣の拡大
付加価値=利益+人件費等であるから、付加価値への課税は人件費が大きいほど納税額が増える事を意味しており、事業者が正規従業員を個人事業主や派遣社員にする外注化で、人件費を減らして課税仕入化する事が節税となり、消費税導入時から人材派遣の拡大が進んだ。
1986年 労働者派遣法施行 13⇒16業務
1989年 消費税施行(3%)
1996年 26業務に拡大
1997年 消費税率5%増税
1999年 原則自由化 政令26業種は3年、新規業務は1年
2004年 政令26業種は無期限、自由化業務は3年(製造派遣は1年)
2006年 医療関係業務の一部で派遣解禁
2007年 製造派遣を3年に延長
2012年 派遣法改定 政令26業務が28業務に整頓、派遣事業の規制強化
2014年 消費税率8%増税
2015年 派遣法改定 業務に関わらず派遣原則3年、派遣事業を許可制
2019年 消費税率10%増税
2020年 同一労働同一賃金
仕組み
第4条:課税物件の規定(事業者の販売行為=売上) 納税義務者の規定ではない
第5条:納税義務者(課税対象者)の規定(事業者)
第9条:第5条の例外規定(免税事業者)
第30条:仕入れに係る消費税額の控除
第4,5,9条については、下記裁判で判決確定済(免税事業者の売上に課されるべき消費税が存在するかが争われた。原告は「存在する」、被告の税務署は「存在しない」と主張。判決は被告の主張を全面的に認めた)
原審 東京地方裁判所 平成9年(行ウ)第121号 平成11年1月29日 請求棄却※
控訴審 東京高等裁判所 平成11(行コ)52 平成12年1月13日 控訴棄却
上告審 最高裁判所第三小法廷 平成12(行ヒ)126 平成17年2月1日 上告棄却
※『国と国民との間の課税関係(納税義務の発生)は、納税義務者につき課税物件(課税の対象とされる物、行為又は事実)が帰属したときに成立するものである』
上記判決の通り、納税義務者の課税事業者の売上にのみ、消費税は発生する。消費者等の買手は国と消費税の課税関係が成立しないため、買手の支払代金に消費税は存在し得ず、両者間で消費税の授受は不可能。
【ケース1】消費者が110円の水を購入した時(消費税10%とする)。
誤:100円の水を買って、消費税10円を払った。
正:110円の水を買った
この場合、事業者の税込売上110円に消費税10円が発生して、税抜売上は100円になる。
【ケース2】消費者が「消費税10円の値下げ」を要求し、事業者が100円で販売した場合。
誤:事業者の売上100円
正:事業者の税込売上100円に消費税9円が発生し、税抜売上91円。
このように、事業者が幾らで販売しようが、国は「消費税率通りに値上げしたという前提」で、売上税額を下記計算式で算出させる。
売上税額=税込売上*消費税率/(消費税率+100)
レシート表記の「消費税」とは、この計算式で算出した、一取引単位での売上税額である。
さて、消費税納付時には、事業者は自身の売上税額から、前段階の事業者の売上税額=仕入税額を差し引く(控除する)。仕入税額の計算式は、売上税額と同様の計算式で算出する。
仕入税額=税込仕入*消費税率/(消費税率+100)
ただし、この仕入税額の対象となる「課税仕入=消費税込み仕入」と、対象外の「非課税仕入=消費税無し仕入(支払)」の区別(仕訳)が難しい。消費税はほとんどの取引への課税であるため、課税と非課税の区分については、消費税法だけでなく、消費税法基本通達や、Q&A、更には裁判判決までも含めて判断しなければならないからである(税理士曰く『素人には無理』)。
そうして、最終的に売上税額と仕入税額が確定したのち、下記計算式で算出する。
消費税納税額=売上税額-仕入税額
消費税はベースが事業者の売上への課税であり、まず事業者の利益が消費税納税額分、減少する。利益を元に戻すためには、売上税額分を価格転嫁(値上げ)する必要がある。しかし、日本が30年以上も経済成長していない状況では、
・価格転嫁する⇒消費者の可処分所得が減り、消費=売上が落ちる
・価格転嫁しない⇒事業者の利益が減って、労働者(消費者)の所得が減り、消費=売上が落ちる
の違いでしかなく「消費=売上が低迷し、経済に悪影響を与える」という結果は同じである。
価格転嫁(値上げ)について
経済環境が好景気、つまり経済成長していれば、売上税額分を価格転嫁(値上げ)することで、課税事業者は利益を維持することが可能だが、それが出来なければ、利益維持のため下請けや外注からの仕入を安く買い叩く弊害が加速することになる(消費税が無くても利益最大化のため、下請けや外注への値下げ圧力は常に生じているが、消費税によりこの傾向がさらに顕著となる)。
消費税は価格転嫁を前提とした税法であるため、十分な価格転嫁が出来ない場合、価格設定時に想定される事業の継続に必要な付加価値からの納税のみならず、最悪の場合は原価分からの納税を強いられる「損税」状態となる。
担税力を失っても納税額が発生
消費税(付加価値税)は、売上>仕入である限り、担税力を失った赤字(※)という状態においても納税額が発生する、応能負担の原則を無視した、悪税にも劣る、存在してはならない残酷税である(国税庁に財産を差し押さえられて、自ら命を絶った事業者が存在する。合掌)。
5%増税の1997年度以降、もっとも新規発生滞納額が多い税であり、翌1998年度以降は新規発生滞納額の50%を下回ったことが無く、公平な税とはほど遠い状態が20年以上続いている。
なお、国税庁の新規発生滞納額のグラフは国税分の滞納額のみで作図されているが、5%以降は地方消費税が含まれており、地方消費税分まで含めると、消費税滞納額は1.25倍以上になる。
※課税事業者の赤字とは、何か。消費税は粗利に課せられるが、売上-仕入=粗利なので、
税込売上-税込仕入(課税仕入れ)
=税込粗利(税込付加価値)
=消費税納税額+消費税抜き利益+人件費等(非課税仕入れ) であるから、
消費税抜き利益がゼロで、絶対に支払が必要な人件費等(非課税仕入れ)を食い潰さなければ、
消費税を納付できない「払いたくても払えないのに払わなければならない」無理筋状態である。
売上<仕入で、例外的に国内取引で消費税の還付が発生するのは、巨額の設備投資等を行った時
くらいである。
問題点
財務省の説明に起因する「国民に生じている誤解」を始めとする、消費税の問題点は、ここで挙げている論点すらごく一部であるほど多い。
誤解は税法の専門家である税理士にまで及んでおり、また、その誤解に基づくマスコミの報道が繰り返された結果、通説として定着してしまっている。
以下にそれらを列挙する。
消費税収は社会福祉の財源?
消費税収の用途については、消費税法第1条2項にて下記の通りとなっている。
(1)地方交付税法に定めるところによる(地方消費税分が地方交付税となる)
(2)年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする
だから『消費税は社会福祉の財源として必要』と政府は説明し、多くの国民が『消費税増税やむなし』と思わされているが、実は税収が財源かどうかは、地方自治体と政府では全く異なっている。
・地方自治体 地方税収および国からの地方交付金が財源
・ 政府 通貨発行権があるので、税収を財源としていない
政府の場合、当年度の税収が確定するよりも先に当年度の予算支出を行っている。もっと言えば、前年度の税収が確定するよりも先である。これをスペンディング・ファーストと呼ぶ。
税収が政府の財源でないとすれば、先行する予算支出の財源とは何か? 制約は無いのか?
・金銭面 政府のみが有する通貨発行権に依るので、制約は無い(故に、財政破綻はあり得ない)。
・実務面 国民の供給能力に依るので、制約はある。国民の供給能力こそが真の『財源』である。
上記の事実を踏まえると『消費税は社会福祉の財源として必要』という、政府説明に根拠はない。政府の金銭調達手段としては通貨発行権による「国債発行」が用いられ、無から発行するために、収支面では赤字状態となり、税収の多くはこの赤字の消滅、つまり国債償還に使われる。
通貨発行にあたっては、どこからも誰からも1円たりとも借りていないので、国債償還する必要は全く無く、永遠に借り替え続けて利払いのみ行えば良いのだが、60年償還ルールを設けてこんな意味不明な作業をしているのは日本だけである。
そして赤字消滅に使うにしても「社会福祉」という用途に限定するのであれば、消費税収は使用目的限定の「特別会計」に歳入されなければならない。しかし、実際には用途フリーの「一般会計」に歳入されている。この点で政府の説明は「嘘」に成り果てる。
税収を「政府の財源」と考えて「財源が無いから増税やむなし」と国民が誤認し続けることは、自殺行為である。通貨発行権は政府にしかなく、国民は通貨発行できないのだから。
消費税は間接税か?(実質負担者とは何か?)
財務省は、消費税法に依らずして「消費税は実質負担者が消費者、納税義務者が事業者」と定義して「納税義務者と実質負担者が異なるので間接税」と説明している。定義に偽りはないが、それを理由にした「間接税」という説明は、明らかにミスリードである。
先にも述べたが、税法上の間接税は「納税義務者(課税対象者)」と「納付義務者(兼 徴収義務者)」の2者の規定が必要であるが、消費税に後者の規定は無い。
以下にミスリードの証拠を示す。
消費税の納税義務者については『平成元年(ワ)5194号』裁判において、争われた。
原告:消費税の納税義務者は消費者であり、事業者は単なる徴収義務者と解される(入湯税と同じ)
被告(国および大蔵省(現在の財務省)):消費税の納税義務者は事業者
判決は消費税法第5条に基づき、被告の主張を認めた。納税義務者についての判決文を引用する。
~~~引用ここから~~~
主文 一 原告らの請求をいずれも棄却する。
理由 一 消費税の内容
2 消費税における納税義務者(請求原因1(二))
税制改革法一一条一項は、「事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする」と抽象的に規定しているに過ぎず、消費税法及び税制改革法には、消費者が納税義務者であることはおろか、事業者が消費者から徴収すべき具体的な税額、消費者から徴収しなかったことに対する事業者への制裁等についても全く定められていないから、消費税法等が事業者に徴収義務を、消費者に納税義務を課したものとはいえない。
また、消費税法附則三〇条は、消費税の転嫁に関し、一定の共同行為(カルテル)について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外を認めているが、右は、事業者の消費税転嫁が行いやすい環境を作っているものに過ぎず、消費税の円滑な転嫁を促進する趣旨のものであって、それ以上に消費者を納税者とする趣旨に出たものとは到底解されない。
原告の主張する、消費税に関する国税庁長官通達や、政府広報の説明内容は、消費税施行に伴う会計や税額計算について触れたものであって、法律上の権利義務を定めるものではない。
そこで述べられていることは、取引の各段階において納税義務者である事業者に対して課税がなされるが、最終的な負担を消費者に転嫁するという消費税の考え方と矛盾するものではなく、消費者が納税義務者であることの根拠とはなり得ない。
以上のとおりであるから、消費者は、消費税の実質的負担者ではあるが、消費税の納税義務者であるとは到底いえない。
~~~引用ここまで~~~
財務省の説明にある「実質負担者」は、この判決文の最後の「実質的負担者」に基づいているが、文中から明らかなように、その意味は納税者でも納税義務者でもない。
ポイントは『転嫁』である。ここで財務省の説明をよく見ると「事業者に課された消費税相当額は、コストとして販売価格に織り込まれ、最終的には消費者が負担」とある。消費税ではなく、消費税相当額なのである。「相当」とは「ほぼ等しい」つまり「完璧に同じではない」という意味だ。要するに転嫁されるのは「税」ではなく「金額のみ」なのだ。したがって、実質的負担者とは「税負担者」ではなく「価格支払者」という意味になる(もちろん、事業者が値上げした場合、家計の支出という「負担」は増えるから、買手が消費税の影響を受けないという話ではない)。
ここで、税が負債(借金。ただし税は貸付なし)であることを思い出して欲しい。国から売上に税を課されて負債者になった事業者は、借金返済のために商品を値上げ(価格転嫁)して販売する。その商品を買った消費者が「これは自分の借金の返済だ」と言ったらおかしいのだが、現実にはそう思い込まされている。つまり、財務省は下記のように国民をミスリードしている。
・消費者が実質負担者⇒消費者が「税負担者(納税義務者)」
・事業者は納税義務者⇒「納税」と「納付」を同一視して「納付義務者」と解させている
かくして税法の直接税が、見事に説明だけで納税義務者と納付義務者が分かれたインチキ間接税に仕立て上げられている。
「消費税が間接税」というミスリードに基づいた「預り金」という解釈は、幻想である。
そもそも、消費税が入湯税のように、事業者(売手)が消費者(買手)から消費税を「預かって」それを全額納付している「間接税」であれば、事業者の損益に税の影響はなく、免税事業者のように消費税を課されない存在や、簡易課税制度のような(事務負担の軽減という大義名分があるとはいえ)明らかに納税額を軽減可能な制度が存在することは、あり得ない。
免税事業者は「納付」を免除されているのか?(益税は存在するのか?)
免税事業者とは、消費税法第5条の「納税義務者(課税対象者)」を、第9条で「免除(課税対象外)」された事業者である。主に個人事業主や小規模事業者のような、事業規模が小さい(消費税導入から2003年度までは課税売上高が3,000万円以下、2004年度以降は1,000万円以下かどうかで判定する)事業者に対して、担税力や申告納付の事務負担軽減のため、保護政策として設けられた制度である。実態は「免税事業者」というよりも「非課税事業者」と考えた方が良いだろう。
消費税導入時から暫くはこの免除が「課税された後、納付を免除」なのか「課税を免除」なのかが不明確であった。消費税を預り金と考えていると、前者を想定しやすく未だに「消費者から預かった消費税を国庫に納めていない」という、いわゆる益税との非難(濡れ衣)を浴びせられている。
法的に決着が付いたのは、免税事業者に課されるべき消費税が存在するかが争われた、いわゆる「張江訴訟」と呼ばれる裁判の最高裁判決が確定した2005年である。
・原告:存在する
・被告(税務署):存在しない
判決は被告の主張を認めた。敗訴した原告を支援したのは、湖東京至氏を始めとする税理士(特に税経新人会)で、それが為か、この裁判は「預り金」裁判に比べてほとんど知られていない。しかし、第4,5,9条の解釈が確定したという点も含めて、より重要な裁判と言える。
さて、当年度が免税事業者かどうかは、2年前(基準期間)の課税売上高で判断する。課税売上高とは税抜売上だが、例えば消費税率10%で2年前の売上高が1,100万円であった場合、2年前が
・免税事業者の場合 売上高1,100万円全額が課税売上高で、1,000万円超⇒当年度は課税事業者
・課税事業者の場合 税抜売上=課税売上高1,000万円で、1,000万円以下⇒当年度は免税事業者
となる。なお、国税庁は1995年12月25日付の消費税法基本通達1-4-5で、下記取扱いとしている。
~~~引用ここから~~~
1-4-5(基準期間が免税事業者であった場合の課税売上高)
基準期間である課税期間において免税事業者であった事業者が、当該基準期間である課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等については消費税等が課されていない。したがって、その事業者の基準期間における課税売上高の算定に当たっては、免税事業者であった基準期間中である課税期間中に当該事業者が国内において行った課税資産の譲渡等に伴って収受し、又は収受すべき金銭等の全額が当該事業者のその基準期間における課税売上高となることに留意する。
~~~引用ここまで~~~
すなわち、免税事業者は消費税の課税対象者ではなく、売上に消費税は「存在しない」ので、申告納付も不可能だし、ましてや「益税」なぞ存在しようが無いのである。
なお「課税対象者ではない」という事で、課税事業者に対して消費税額分、価格の優位性があるから、それが「益税」だとの主張があるが、そもそも免税点制度とは弱者救済のハンディキャップである。
財務省の国会答弁によると、免税事業者の平均売上は約550万円。粗利率は約28%で、粗利は約154万円(実質、年収)。事業規模(売上)が小さい免税事業者はスケールメリットによる安価な仕入なぞ望むべくもなく、粗利率は課税事業者に比して小さいのが普通である。もしも、この免税事業者が課税事業者とされた場合、消費税は粗利への課税なので、消費税納税額=154万円*消費税率/(消費税率+100)=154万円*10/110=14万円(消費税率10%時)で、月収分以上が吹き飛ぶ。この点からも免税事業者には価格優位性による「益税」も存在しないと言って良いだろう。
免税事業者からの仕入に係る仕入税額控除について
免税事業者の売上に消費税が「存在しない」という事は、免税事業者から仕入れた課税事業者は「仕入税額控除」が出来ない。しかし、それでは免税事業者は取引から排除されてしまう。
(1)消費税導入時、3,000万円の免税点で、免税事業者は事業者の6割強(ただし売上は3%未満)
(2)帳簿方式では、取引伝票に「課税事業者か免税事業者か」の区分記載が無い
以上の理由により、消費税導入時から「免税事業者(と消費者)からの仕入も税額控除を容認」する措置が設けられた(消費税法基本通達11-1-3)。
~~~引用ここから~~~
11-1-3(課税仕入れの相手方の範囲)
法第2条第1項第12号《課税仕入れ(※)の意義》に規定する「他の者」には課税事業者及び免税事業者のほか消費者が含まれる。
※消費税法第2条第1項第12号《課税仕入れ》事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(中略)を受けること(中略)をいう。
~~~引用ここまで~~~
これにより、免税事業者は取引から排除されず、課税事業者も消費税納税額を減らせる双方良しの運用が、30年以上続けられてきた。2023年10月からのインボイス制度の導入により、消費税の仕入税額控除(第30条第1項)には、この措置は原則として適用されなくなった。
「税込経理方式」と「税抜経理方式」
消費税の導入に伴い、消費税の課税事業者は、所得税または法人税の所得金額の計算に当たり、消費税について、税抜経理方式または税込経理方式のどちらを選択してもよいこととされている。いずれの方式によっても、消費税納税額は同額となる。
・消費税導入前 売上=仕入+粗利(利益+人件費等)
・消費税導入後 税込売上=税込仕入+税込粗利(税込利益+税無し仕入)
一方、所得税または法人税は利益から算出する「所得」に課税される税制だが、消費税導入前と同様に売上総額に基づいて計算すると、売上総額が消費税込みとなっているため、消費税込利益(税抜利益+消費税納税額)が算出されてしまう。
【税抜経理方式】
そこで、期中においても消費税を抜いた「税抜利益」を把握するため、
・売上税額=税込売上*消費税率/(消費税率+100)、税抜売上=税込売上-売上税額
・仕入税額=税込仕入*消費税率/(消費税率+100)、税抜仕入=税込仕入-仕入税額
で算出して、消費税額を「抜く」のが「税抜経理方式」である。こうすることで、税抜利益は
・税抜利益=税抜売上-税抜仕入-税無し仕入(非課税仕入)
で求められる。また、消費税納税額は、抜いた2つの税額を差し引くことで求められる。
・消費税納税額=売上税額-仕入税額
なお、抜いた税額は、
・売上税額 ⇒ 仮受消費税等
・仕入税額 ⇒ 仮払消費税等
として会計処理するが、各々の名称は消費税導入時に「消費税は預り金」という前提の政府広報「消費税って何でしょう。」の指導内容によるものである。この名称をもって「消費税は預り金」または「預り金的性格を有する」とする主張が未だに存在するが、『平成元年(ワ)5194号』判決で示された通り、消費税施行に伴う税額計算について触れたものであって、法律上の権利義務を定めるものではない。
【税込経理方式】
消費税を抜かずに、消費税導入前と同様に「総額」に基づくのが「税込経理方式」である。消費税等の納付税額は租税公課として必要経費または損金の額に算入する。
免税事業者は消費税の課税対象者ではなく、売上に消費税が存在しないため、所得税または法人税の所得金額の計算には必然的に「税込経理方式」しか適用できない。名称は「税込」となっているが「総額」と考えた方が良いだろう。
益税の有無
ここまで読んで、まだ「益税は存在する」と主張する者がいたら、其の者はザイム真理教に洗脳されているのだろう。
輸出免税と輸出戻し税
付加価値税を採用している国同士の「仕向け地主義」ルールにより消費税(売上税)が免除され(消費税率0%扱い)、輸出先の輸入国で輸入品となった際に課される(国境調整と呼ばれる)。
消費税法では、第7条(輸出取引)と第8条(輸出物品販売)で消費税(売上税)が免除されている。
消費税納税額は上記の通り、売上税額-仕入税額なのだが、消費税(売上税)の免除で、納税額は必ずマイナス仕入税額になるので、この金額を「還付申告」して還付(輸出戻し税)を受けられる。
還付された仕入税額を含めたトータルの納税額=0-仕入税額+還付された仕入税額=0で、実質、納付していない。
また、還付された仕入税額は、元の売上とは別の新たな収益であり、事実上の補助金に相当する。
1954年にフランスが付加価値税を導入した際に「仕向け地主義」ルールも導入した理由が、自国の輸出企業への補助を行いたかったからとされている。
輸出免税の不公平性
輸出免税が問題となる理由は、下記の不公平性にある。
輸出免税が無い国内取引のみの課税事業者は、赤字という担税力を失った状態でも消費税の納付義務があり、滞納、引いては事業継続が不可能になるリスク(国税庁の差し押さえ)を負っているのに対し、輸出免税ではそのリスクが皆無になるため、不公平である。
輸出戻し税の不公平性
輸出戻し税が問題となる理由は、下記の不公平性にある。
輸出取引および免税店での輸出物品販売は、事業者規模の大小を問わず、個人事業者でも法人でも還付申告で、還付を受けられるが(もちろん法人の方が件数も金額も大きい)、問題は、
還付申告の金額=仕入税額
=仕入先の売上税額
=仕入先の消費税納税額+仕入先の仕入税額
=仕入先の消費税納税額+仕入先の仕入先の売上税額
=仕入先の消費税納税額+仕入先の仕入先の消費税納税額+仕入先の(以降省略) であるから商流上の課税事業者からの事実上の「富の移転」が起こっているという不公平性。
商流上の課税事業者からすれば「納税したと思ったらいつの間にか輸出企業に献納していた」状態である。
輸出取引額が巨大な大企業が会員で属している日本経済団体連合会(経団連)は、以前から消費税増税を主張しており、輸出免税による還付メリットを享受しているためという批判がある。
以上の他にも問題点はあるが、総じて税法としても財政政策としても日本という国家の仕組みとしてもあらゆる点で批判されてしかるべき悪税ないし残酷税と言えよう。
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