アメリカの政府専用機たるエアフォースワンの呼称であるが、実は明確に「あの機体がそうだ」ということではなく、アメリカ合衆国大統領が搭乗すれば、どのような機体でも「エアフォースワン」にと呼ばれる。軍の輸送機でもコールサインはエアフォースワンとなる。ちなみに副大統領が搭乗する場合はエアフォースツーとなる。
使われるのは大統領が搭乗している間だけで、大統領が搭乗していない時は後述する専用機であってもエアフォースワンというコールサインは使用されない。また大統領が専用機搭乗中に辞任するか任期が終わった場合もエアフォースワンのコールサインが使用されない。
逆に大統領ではない人物が搭乗中に大統領に昇格するとその時点からコールサインもエアフォースワンに変わる。
その例が第35代大統領ジョン・F・ケネディ暗殺事件である。ケネディの死を受けて、当時の副大統領リンドン・ジョンソンがケネディが乗るはずだった専用機の中で大統領宣誓を行い第36代大統領となったのだが、この宣誓が完了した瞬間からコールサインがエアフォースワンに変更されている。また、第37代大統領のリチャード・ニクソンが辞任の瞬間を迎えたのが専用機搭乗中だったので、飛行中にエアフォースワンから別のコールサインに変更されている。
ちなみに海軍機の場合は「ネイビーワン」、海兵隊機の場合は「マリーンワン」、陸軍機の場合は「アーミーワン」、沿岸警備隊機の場合は「コーストガードワン」、民間機の場合は「エグゼクティヴワン」となる。この中で「コーストガードワン」のみ歴史上一度も使用された事がない。
以下でエアフォースワンでおなじみのVC-25について記載する。
概略
ボーイング747-200をベースに改造された「空飛ぶホワイトハウス」の異名を持つアメリカ合衆国大統領専用機。ボーイングでの機種名は747-2G4B。
2機存在し、それぞれの機体記号は82-8000、92-9000。82-8000に大統領が搭乗することが多く、92-9000は82-8000が整備中の際の予備機、または副大統領や閣僚の搭乗機として使用される。海外渡航時にはトラブルに備えて2機一緒に飛んで来る。大統領と副大統領が別々の機体に搭乗するのは万が一の墜落事故に備えてのことである。
詳細は明かされていないが、機内設備は以下の様なことが判明している
コックピット
VC-25への改造が始まった時に747-400の製造も始まっていたので高度計などの一部計器にはグラスコックピットを装備。機長・副操縦士・航空機関士の他、航空士のためのブースもある。
内装
- 内部は2階建て構造で1階には以下の設備がある
- 大統領執務室
- 事務室
- 寝室(ソファーはベッドにもなり、長時間運航時には大統領搭乗前からベッドにされる。位置は機体前部)
- 会議室(密閉・防音でき、大統領の手術室にもなる。ホワイトハウス危機管理室や国防センターとリンクしたテレビ会議システムが導入されている)
- 医務室
- シークレットサービスの座席と事務室
- 一般客室(マスコミなどの同乗者用)
- ビジネスセンター
- キッチン(機内食の最終調理とドリンク類の準備用)
- 2階には通信室がある。電話回線・ブロードバンド回線・衛星テレビ回線は全てここを経由し、電話回線は一般電話回線と暗号化された盗聴防止回線の2つが設けられている。
ちなみに映画に登場するような脱出ポッドはないとされる。
収納式タラップ
ボーディングブリッジのない小規模空港やタラップが用意できない場合に備えての設備
空中給油受油装置および予備燃料タンク
滞空時間を延ばすため同じく747から改造された空中指揮機のE-4同様、空中給油用受油装置が設けられている。ただしエンジンオイルまでは補給できないので、燃料切れまで飛行できるような工夫がされている。公表値は72時間の飛行が可能。
緊急離陸に備えて予備燃料タンクを装備。このタンクに入っている燃料だけでも1600kmは飛行できる。
攻撃に対する各種防御装置
詳細は明かされていないが、ミサイル接近警報装置、赤外線誘導ミサイルの誘導を妨害するIRジャマーなどの装備が外部からでも確認できる
運航・整備
機体整備
- フライト前には徹底した点検・整備が行われる。エンジン・フラップ等の作動装置に関しては、金属腐食の兆候が見られたら交換される
- 機内には予備部品を積みこむための格納庫がある。例えばスペアタイヤは6本積まれる
機内食
- 機内で提供される機内食用の食材は出発前に全日程分をアメリカ国内で積み込む。毒物混入防止の為、訪問先での現地調達は禁止されており、事前調達の際も食材は給仕係自身が身分を隠して一般の店舗から購入する
- 出発前にアンドルーズ空軍基地の厨房で大まかな下ごしらえをして真空パックで保管。機内では最終的な調理のみする
- 機内にキッチンがあるのは先述の通り。キッチンには大統領・ファーストレディ・政権スタッフらの好みのコーヒーの入れ方のリストが貼られている
- 供される食事のメニューはそれなりの種類が用意されている。ハンバーガーもある
国外訪問時の対応
大統領が国外訪問する際、事前に空軍の人間やシークレットサービスの人間が空港の調査をする。空軍の人間が到着時の機体の位置などを事前に決めたり、補給する燃料のチェックをする。燃料は異物混入の可能性を排除するため、指定の業者に発注し他の航空燃料とは別で保管する。燃料は保管前に抜き打ちチェックを行い、それをクリアしてから保管される。クリアした場合はタンクの蓋には開封防止のタグをかけておき、使用までに開封防止タグが一つでも取られたりしていたら燃料は使われない。
シークレットサービスや空軍先遣隊は空港の設備で基準に達していない物がないかをチェックし、改善が必要なら空軍機を利用して取り寄せる。大統領専用リムジンビーストや警備に必要な銃火器なども事前に訪問地へ空軍機で送り、場合によってはヘリコプターも空輸する。
塗装
青色と白色の落ちついた塗装は第35代・ジョン・F・ケネディ大統領の発案により決定され、以後4代(SAM26000、SAM26000、ボーイング747-200、ボーイング747-8)にわたって踏襲されたが、現行機体の老朽化に伴い、2024年までに退役が予定されている。
新機体はこれまでの塗装を変更、赤・青・白を配したデザインになるとされている。
日本訪問時の対応
羽田空港へ着陸することが多いが、中部国際空港、伊丹空港への着陸経験もある。羽田へ着陸した場合、東貨物地区横にあるVIP専用スポットに駐機し、タラップはANAより借りる。
特にスケジュールが逼迫していない限り、横田基地へフェリーフライトを行い、そこで待機する。
用途
遊説、視察、外遊目的での移動など大統領が長距離を移動する目的に使われるが、常識の範囲内であれば自由に飛ばせる。例えば外国首脳との会談時に外国首脳を送迎したりすることも可能で、小泉純一郎や安倍晋三など日本の総理大臣も搭乗したことがある。トランプ大統領は2018年秋の中間選挙に、激戦地を遊説することに多用している。この辺りが日本の政府専用機との違い。