——— 平気で斬れる。無頼の徒さ。 ———
「眠狂四郎 女妖剣」より
概要
封建の世に、転びバテレン(拷問等によって改宗したキリシタン)のサタン信仰「黒ミサ」の儀式により、生贄として捧げられた武士の娘との間に生まれた栗毛の髪を持つ混血の浪人。浪人ながら端正な身嗜みで、怪しく、危うく、それでいて色気のある美丈夫。
平然と人を斬り捨て、その危険な色気で時に女性をかどわかし、時には女性から憎しみを抱かれるようなことも平気で行うという残虐性を持つ一方で、自ら望んで殺しをしたことは無く、狂四郎を貶めようとした輩、剣客としての狂四郎との戦いを望むもの以外を斬る事はあまり無い。「相手が斬らねばいつまでも待つ」とは本人の言葉。時折虐げられている人を気まぐれに助けたりもするが、自身は外道であると認識している。
その生い立ちを背負い、「明日のために今日を生きてはいない」と語る虚無感を持ち、刹那的な生き方をしつつ「円月殺法」という剣術を用いて無敵の活躍をし、以後剣豪ブームを巻き起こした。
ちなみに眠狂四郎という名は、入水自殺した後で偶然助けられた時、咄嗟に名乗ったデタラメな偽名である。
腰に差した愛刀の名は『無想正宗』。あの豊臣秀頼の佩刀で希代の名刀と謳われるが、手入れをした江戸の名工曰く「斬り癖が付いていて剣呑な刀で、好きになれない」。徳川将軍家の息女・菊姫とのいざこざや、権力を笠に着る輩を嫌う本人の気質から徳川幕府側の人間と相対する事があり、ある意味豊臣と徳川の因縁を纏う刀とも言える。(なお、現実には存在しない架空の刀である。)
1956年5月から『週刊新潮』にて「眠狂四郎無頼控」の毎週読み切りという形の連載で初登場し、新潮文庫で出版されていたが近年長編全点が改版され、後半3作品は1巻本だったが上下巻になった。
円月殺法
眠狂四郎が師匠にも隠れて編み出した技。剣の切っ先で「まる」を描く動作を行って相手を挑発し、焦りのある相手をカウンターで仕留める『後の先を取る』必殺技である(必ず相手を殺す技)。円を描き切るまでの間に必ず敵を討つ、と言われており、作中で円を描き切ったことは数少ない。(2周目に入ったことや、どちらも相手の受けを待ったために円を描き切り「これ(互いに後手狙い)では勝負にならない」と刀を収めた事が合計で2度ほどある。)
弱点として「元から盲目で、心眼で戦う剣豪」には全く通用しなかった。狂四郎自身に薬が盛られて精神統一が出来なかった時にも、円月殺法を仕掛ける事は出来なかった。他、強靭な精神と類稀なる集中力を持つ剣の達人であれば、口を噛むなどの気付けを行うことで耐え切る事もできる。
上記の通り『受け』の技であり、相手が斬りかからなければ決して斬りかかりはしない。つまり相手に斬るつもりが無ければこちらも斬らない。繰り出されればまず死人が出る文字通りの『必殺技』ながら、その本質は殺しを望んでいない。
映画化された時に、この設定がアレンジされた殺陣が採用された。その後現代でも「まるを描いてから斬る技」を円月殺法と呼ぶ事もある。
映像化作品主演
テレビドラマ:江見俊太郎、平幹二朗、田村正和、片岡孝夫(現・片岡仁左衛門)