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——— 平気で斬れる。無頼の徒さ。 ———

「眠狂四郎 女妖剣」より

概要

 眠狂四郎とは、作家・柴田錬三郎の手掛けた剣豪小説シリーズ、およびその主人公である剣客である。

 ニヒル剣士の系譜とダンディズムが融合した複雑な造形がなされており、また歌舞伎の伝統では恋愛するのは二枚目で、立役は恋愛しないという事が鉄則になっているのが西洋の騎士道と違うところで、このシリーズは明らかにその伝統を破っている。

 サディズムとマゾヒズムの加味されたエロティシズムを含み、スピード感と、ドンデン返しのある刺激的な構成によって人気を集め、以後剣豪ブームを巻き起こした。

 1956年5月から『週刊新潮』にて「眠狂四郎無頼控」の毎週読み切りという形の連載で初登場し、新潮文庫で出版されていたが近年長編全点が改版され、後半3作品は1巻本だったが上下巻になった。

 小説家された1956年に映像化もされているが、この作品を最も有名にしたのは1963年より歌舞伎役者・市川雷蔵を主役にして制作された映画シリーズ。市川雷蔵の美しい殺陣と、凛とした気品と清洌さ、内面からにじみ出る知性をもった狂四郎の演技は非常に高く評価され、「雷蔵の前に狂四郎なく、雷蔵の後に狂四郎なし」と語られている。

 俳優仲間の勝新太郎は市川雷蔵の殺陣を絶賛すると同時に、「雷蔵の狂四郎は剣で斬らずに顔で斬っていた殺陣でもセリフでもなく、顔で狂四郎を演じていた。」とも評している。

人物としての眠狂四郎

 徳川家斉の治める封建の世に、転びバテレン(拷問等によって改宗したキリシタン)のサタン信仰「黒ミサ」の儀式により、生贄として捧げられた武士の娘との間に生まれた栗毛の髪を持つ混血の浪人。浪人ながら端正な身嗜みで、怪しく、危うく、それでいて色気のある美丈夫。

 平然と人を斬り捨て、その危険な色気で時に女性を誘い、時には女性から憎しみを抱かれるようなことも平気で行うという残虐性を持つ一方で、自ら望んで殺しをしたことは無く、狂四郎を貶めようとした輩、剣客としての狂四郎との戦いを望む者以外を斬る事はあまり無い。「相手が斬らねばいつまでも待つ」とは本人の言葉。

 時折権力者に虐げられている人を気まぐれに助けたりもするが、自身は外道であると認識している。唯一子供に対してだけは厳しくも優しく接しており、境遇に負けず健気に強く生きようとする子供が窮地に立たされているのを見ると、積極的に手助けをしたりする一面もある。

 誰にも望まれずに生を受けたと言われるその生い立ちを背負い、「明日のために今日を生きてはいない」と語る虚無感を持ち、刹那的な生き方をしつつ「円月殺法」という剣術を用いて無数の敵を瞬く間に斬り倒す無敵の活躍で見る人を魅了する。

 腰に差した愛刀の名は『無想正宗』。あの豊臣秀頼の佩刀で希代の業物と謳われ、狂四郎の剣の腕と合わさり無類の切れ味を誇るが、手入れをした江戸一番の研師曰く「斬り癖が付いていて剣呑な刀で、好きになれない」。徳川将軍家の息女・菊姫とのいざこざや、権力を笠に着る輩を嫌う本人の気質から徳川幕府側の人間と相対する事があり、ある意味豊臣と徳川の因縁を纏う刀とも言える。(なお、現実には存在しない架空の刀である。)

 普段は江戸・吉原の裏にある浄閑寺を塒としているが、女性の家や宿屋で遊女と泊まったりすることも多い。物語によっては遠出の旅に出ることも。

 浄閑寺は吉原の遊女らの供養を行ってきた実在する寺。安政2年(1855年)の大地震で犠牲となった新吉原の遊女たちの遺体が投げ込み同様に葬られたことから、通称「投込寺」とも呼ばれている。

 生活費は博打で稼いでおり、身寄りがなく遊女として売られた娘の身請け金をあっさり支払うなど相当裕福なようで、金銭関係で不自由したことは無い模様。博打も強く、恐ろしいまでの勝負強さを持っている。

 ちなみに眠狂四郎という名は、入水自殺した後で偶然助けられた時、咄嗟に名乗ったデタラメな偽名である。

 眠狂四郎が師匠にも隠れて編み出した技。剣の切っ先で「まる」を描く動作を行って相手を挑発し、焦りのある相手をカウンターで仕留める『後の先を取る』必殺技である(ず相手を)。円を描き切るまでの間に必ず敵を討つ、と言われており、作中で円を描き切ったことは数少ない。(2周目に入ったことや、どちらも相手の受けを待ったために円を描き切り「これ(互いに後手狙い)では勝負にならない」と刀を収めた事が2度ほどある。)

 弱点として「元から盲目で、心眼で戦う剣豪」には全く通用しなかった。狂四郎自身に薬が盛られて精神統一が出来なかった時にも、円月殺法を仕掛ける事は出来なかった。他、強靭な精神と類稀なる集中力を持つ剣の達人であれば、口を噛むなどの気付けを行うことで耐え切る事もできる。

 上記の通り『受け』の技であり、相手が斬りかからなければ決して斬りかかりはしない。つまり相手に斬るつもりが無ければこちらも斬らない。繰り出されればまず死人が出る文字通りの『必殺技』ながら、その本質は殺しを望んでいない。

 映画化された時に、この設定がアレンジされた殺陣が採用された。その後現代でも「まるを描いてから斬る技」を円月殺法と呼ぶ事もある。

関連タグ

時代劇 小説 柴田錬三郎 剣客 剣士 着物

廻狂四郎:漫画「狂四郎2030」の主人公でオマージュキャラ。

居眠り狂死郎:漫画「ONEPIECE」に登場するオマージュキャラ。

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