概要
南半球に生息する現生のヒゲクジラでは最小種。
他のヒゲクジラ同様メスの方が大きくなり、オスは4~6m、メスは6.5m。体重3~3.5t程。
南半球の南緯30-52度の海域(アフリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸・タスマニア、ニュージーランド等の最南端水域)に生息し、北半球には分布しない。だが、琉球諸島や南イタリアで化石が発見された事から、これらの化石を残した主は氷河期で寒冷化していた頃に移動してきたものと考えられている(南半球と北半球のどちらで種族が生まれたのかは不明)。
なお近縁のケトテリウム(絶滅・化石種)は北半球に広く分布しており、ケトテリウム科のクジラは現生よりもかなり生息域が広かった模様。
回遊等の生息情報はほとんどが不明。タスマニア沖には定住グループが存在すると考えられている。
特徴
名前の「コセミ」は「蝉」ではなく「背美」。見事な流線型のアーチを描く背中を持つ「セミクジラ」というヒゲクジラがいて、セミクジラを思わせる口のアーチから「背美」。そしてセミクジラよりだいぶ小柄なことから「コ(小)」。
ただし見た目はまるっきり違っており、セミクジラ科ではなく、コククジラ科やナガスクジラ科に近い(とされていた)。
だが目撃例や標本の採取が非常に稀な事からなかなか研究が進まず、コセミクジラ科の一種として独立した種類と扱われていたところ、驚くべき事実が判明。
なんとこのクジラ、絶滅したはずのケトテリウム科に属す古代種だったのだ。
というわけで、コセミクジラはケトテリウム科コセミクジラ属の一種に編入され、コセミクジラ科は消えた。ちなみにケトテリウム類はナガスクジラ類の祖先につながる系列なので、一応ナガスクジラやシロナガスクジラといった面々の親戚にあたるのは変わらない。
しかしクジラ目は日進月歩で進化を続けている実に発展的なグループで、シャチのように属レベルにまで分化し続けたり、ハシナガイルカとスジイルカの雑種であるクライメンイルカのように他種との混血が定着したりと新種を輩出し続けている。その中で古代種の形質を今も保ち続けているコセミクジラは非常に稀有な存在ということになり、まさに古代からの生き証人、つまり生きた化石と呼ぶべき存在なのである。