ラン科

らんか

美しく、独特の形の花を咲かせる単子葉植物。種数が極めて多く、菌類との共生に強く依存する種が多い。

概要

被子植物単子葉類キジカクシ目に属する科の一つ。全ての種類が虫媒花で、草本。花をはじめ、茎、根などの形態が特徴的である（後述）。

植物の中ではキク科に次いで種数が多い。世界に存在するのは700属、15000種以上、日本に75属230種がある。進化の速さと未記載の種の多さのために種数は流動的で、一説によるとキク科を超える26000種があるともいう。

一般的な草本植物のように林の中や草原などの地面に根をはる地生ランと、樹木や岩の上などにくっついている着生種に分けられる。地生ランは地球上の様々な場所に見られるが、着生種は熱帯を中心に分布している。ランといえば深山幽谷に生えるイメージがあるが、ネジバナのように街中に雑草として生えるランもなくはない。

花粉を媒介するのが特定の種類の昆虫に限られることが多く、種数の多さに比較して個体数が極めて少ないことも特徴である。園芸愛好家に珍重されている希少ランの中には、乱獲で絶滅に瀕している種も多い。

単子葉類の中では最も種の分化が進んでいるラン科は、かつては単子葉類の進化の頂点に位置すると考えられ、種数の多さと種分化の速さのために「地球上で最後に現れた植物」ともいわれていた。分子系統解析が発達すると、白亜紀の1億年以上前にキジカクシ目のメイングループとラン科が分岐していたことがわかった。

現在は、単子葉類の中でツユクサ類が中核的なグレードに位置付けられており、その中でもイネ目のイネ科が最も進化し繁栄しているグループとされている。

形態的特徴

ラン科の花は2枚の萼片と2枚の側花弁、1枚の唇弁で構成され、雄しべと雌しべは融合して蕊柱という構造をつくる。

花粉は普通の植物のようにバラバラになっておらず、花粉塊と言われる大きな塊をつくる（他に花粉塊をつくる植物としてキョウチクトウ科ガガイモ亜科がある）。花粉塊は属によって形が異なるため、分類の重要な形質の一つとなっている。

ラン科植物の種子は粉のように小さく、「ほこり種子」と呼ばれる。種子があまりに小さいために養分を貯めておらず、風に乗って飛んで行った先で共生菌から栄養を供給してもらわないと発芽することすらできない。中には光合成能力を失い、栄養を共生菌類に完全に依存している腐生ランというものもある。

茎はしばしば肥大化し、偽鱗茎（バルブ）といわれる構造をつくる。これはしばしば株分けに利用される。根は太くて本数が少ない。根には担子菌類（一部子嚢菌）が共生し、特徴的な構造からラン菌根と呼ばれる。既知のラン科植物は例外なくラン菌根を形成する。

生理的特徴

植物の中でも、花粉を媒介する昆虫および菌根を形成する菌類(菌根菌)との共生関係をとりわけ高度に発達させた分類群である。このため移植や繁殖がとても難しい種が多い。コチョウランやデンドロビウムが一般に多く出回っているのは、これらの種はランの中では比較的育てやすいという理由が大きい。ブナ科・マツ科などの樹木の外生菌根に依存しているキンランなどは、栽培が極めて困難であった（近年は栄養培地上で発芽させた無菌培養苗を利用することで繁殖する手法が開発されている）。

また、地中海地域やオーストラリアにはビーオーキッドやハンマーオーキッドといった花の一部を蜂などの虫に擬態させて受粉を促す種も存在する。