原作マンガ・アニメ・その他の派生作品をふくむ「聖闘士星矢」の劇中世界では、女神アテナに仕える聖闘士、またはその他の神の配下である戦士たちは、人間の体内に宿る生命の力「小宇宙(コスモ)」を爆発させることで超人的なパワーを獲得し、物体の根本である原子を砕き、敵を殲滅する。
この小宇宙は破壊的パワーだけではなく、傷病の治癒、遠距離での救命行為などにも用いられるが、その「戦い以外の使用法」のひとつが、ここで述べる「小宇宙による聖闘士同士の遠距離テレパシー会話」である。
ただしこれは第六感を越える感覚・第七感(セブンセンシズ)以上に覚醒している者、すなわち黄金聖闘士または女神アテナ自身でなければ使いこなせないようで、白銀聖闘士、青銅聖闘士ともに劇中での使用例は見当たらない。主人公とその盟友である青銅一軍メンバーですら、第八感(エイトセンシズ)にまで覚醒した後も、会話シーンは互いに顔を合わせている時のみである。
どういう理屈で黄金聖闘士とアテナしか使いこなせないのかは作中ではいっさい説明されていないので不明であるが、その彼らにしても、話しかけたい相手の所在が明確でなければ使えず、使用できるシチュエーションは非常に限られている。原作が執筆された当時は1980年代後半であり、まだ携帯電話や電子メールは現実社会に登場しておらず、「電話機を用いない通信手段」には「すごい超能力」感があったが、2020年代となった現在では「互いにスマホ持ってたほうがよっぽどマシなんじゃないの」という程度のものとなってしまっている。(ただし地上にある聖域はともかく、海底神殿や冥界で電子機器による通話が可能かどうかは、現代においても未知数であるが。)
この能力が劇中に登場した理由のひとつとして考えられるのは、「聖域十二宮においては黄金聖闘士は行動の自由を持たない」という設定である。
それと明確には語られていないが、アテナに仇なす敵が襲来している間は、それぞれの宮を守護する黄金聖闘士は原則として自分の宮から動いてはならないという不文律があるらしく、彼らはたとえ最寄りの宮で戦闘行為が行われていても、加勢に出向いたりはしない。(例外として、弟子の氷河を制止するために宝瓶宮から天秤宮にまで出向いたカミュや、冥王ハーデスに寝返ったかつての黄金聖闘士たちに激怒して天蝎宮を放棄し処女宮にまで降りてきたミロがいるが、どちらの行為も褒められたものではないらしく、他の黄金聖闘士からたしなめられたり咎められたりしている。)
十二宮に置き電話があるというのも景色として締まらないので、互いに離れた宮にいる黄金聖闘士同士が情報のすりあわせや話し合いをするためには、必然的にテレパシー会話をするしかなくなる。そうすると「常時第七感に目覚めている黄金聖闘士同士なら、小宇宙を通じて会話できるんじゃないか」という設定が生まれることになり、青銅一軍が真の女神アテナである城戸沙織を擁して偽教皇と戦った「聖域十二宮戦」において、初めてこの通信シーンが描かれた。(天蝎宮のミロから宝瓶宮のカミュに「お前の弟子がこんなこと言ってるぞ」という内容の通信が行われたほか、戦闘がひととおり終わった後、生き残った黄金聖闘士、ムウ・アルデバラン・アイオリア・ミロの間で、「お前、教皇が偽物だって知ってたのか!?」的な会話がリモート会議のように展開されている。事前にミーティングくらいしておけよという気もするが、この場面に限らず、黄金聖闘士たちはなぜか互いにあまりコミュニケーションを取りたがらない傾向があるので、事後報告が常態化しているのかもしれない。)
このように原作においてはあまり用いられなかった「小宇宙を使ったテレパシー」だが、派生作品またはファンアートの書き手にとっては非常に魅力的な能力であるため、むしろ原作ファンの手によって発展、または拡大解釈されて描かれることとなった。そしてファンによって命名された「能力名」が「小宇宙通信(こすもつうしん)」であり、原作またはアニメなどの公式媒体にはこの名称はいっさい登場しない。
派生作品中での使用例として、「聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話」外伝14巻において、五老峰にいる天秤座の童虎から、はるかギリシャの聖域にいる教皇シオンに対し、冥闘士の魔星を封じた塔から邪悪なものが聖域に向けて飛び立ったという警告の小宇宙通信が行われている。このときふたりの間ではかなり綿密かつ長時間の通信が行われており、会話の内容としては、現代においてスマホで国際通話をするのと遜色がない(LCの時代設定は18世紀後半)。
ただし、小宇宙通信を行っている最中は、傍目には「ひとりでブツブツ独り言をしゃべっている痛い人」に見えてしまう可能性がある。この点を突っ込んだギャグ作品がpixivに多いのは必然であろう。