『若大将シリーズ』とは、東宝が1961年から1971年まで製作した加山雄三主演の青春映画シリーズである。
クレージー映画、社長シリーズ、駅前シリーズと並ぶ1960年代の東宝を代表するシリーズ作品である。
概要
高度経済成長期の大学生の恋とスポーツを描いた青春活劇。
1960年に『男対男』でデビューした加山雄三は、『独立愚連隊西へ』、『暗黒街の弾痕』と主役級の役柄に次々と挑戦し、着実にスターへの道を歩み出していた。しかし加山の演技はお世辞にも演技と呼べるレベルのものではなかった。
そこで東宝の藤本真澄プロデューサーは本格的に加山を売り出すため、戦前の松竹蒲田が製作した藤井貢主演の『大学の若旦那』のリメイク企画に加山を起用することとした。
加山を主演に起用するにあたりその生い立ちを聞き、主人公のプロフィールにもおばあちゃんっ子であるところや1日5食の大食いなどの要素を取り入れている。
第1作『大学の若大将』ではマンホールの蓋で焼き肉を焼くというギャグを田波靖男が考案したが、藤本プロデューサーから「人が落ちたらどうするんだ」と反発され、大学構内の浄化槽の蓋に変更し、さらに管理人が足を踏み外すという2重のギャグにした。これが大いにウケたことから藤本プロデューサーは手のひらを返して「この次もマンホールの蓋で肉を焼くようなギャグを考えてくれ」と田波に注文したという。
ストーリーは概ね以下のテンプレである。
- 若大将が何かのきっかけでマドンナと出会い恋に落ちる
- 青大将もマドンナに惚れて横槍を入れる、モテモテの若大将にマドンナが嫉妬するなどの事件で二人の関係に亀裂が入る
- 最終的に仲直りしてスポーツの大会で優勝(大学生編)、商談が成立する(社会人編)
当初は第3作『日本一の若大将』でシリーズを終了させるつもりだったが、人気は衰えずシリーズを継続。続く第4作『ハワイの若大将』は海外ロケも行われた。
しかしこの後加山は黒澤明監督の『赤ひげ』に起用されることとなりシリーズはおよそ1年のブランクができることになった。流石に人気の衰えも覚悟したが実際にブランク明けに公開された『海の若大将』は前作を上回る興行成績を出した。
『エレキの若大将』は加山の音楽性を押し出した音楽映画として人気となり、挿入歌「君といつまでも」は加山の代表作となった。幸せだなぁ。
加山の年齢が30歳を超えたこともあって1968年『リオの若大将』を最後に若大将は大学を卒業。東宝お得意のサラリーマン喜劇路線へと路線変更。マドンナ(ヒロイン)役も星由里子から酒井和歌子へと交代した。
当時の花型産業である自動車メーカーを舞台とし、新入社員の若大将とコネで副社長になった青大将のコンビが活躍する様は前作をも上回る大ヒットを記録した。
『ブラボー!若大将』では久しぶりに若大将がスポーツに挑むが、実業団の試合では辛勝、彼女に振られて会社も辞めてしまうなどシリーズでは異色ともいえる暗い展開の作品になった。高度経済成長の陰りが見え始めた時局を反映したような作品だった。
東宝も若大将の世代交代も考えるようになり、『ゴー!ゴー!若大将』から登場していた大矢茂扮する太田茂夫が『若大将対青大将』でついに2代目若大将となる。しかしかつての大人気シリーズの面影はなく、配給収入は1億円を下回ったことからシリーズは終了した。
その後1975年頃にオールナイト興行で若年層の間で人気となったことから、今度は草刈正雄を主演にした新若大将シリーズが2作品作られた。
1981年には加山雄三のデビュー20周年を記念して『帰ってきた若大将』が製作され、配給収入10億円の大ヒットを記録した。
前身?東宝若旦那シリーズ
加山のデビューにさかのぼること2年、東宝は1958年に『若旦那は三代目』という作品を瀬木俊一主演で製作している。酒屋の三代目でスポーツの花型選手という設定は後の若大将に類似している。
その後瀬木の引退に伴い高島忠夫主演の『噛みついた若旦那』、『若旦那奮戦す』の2本を1960年に製作した。高島若旦那2部作はいずれも高島の年齢に合わせて社会人という設定になっていた。
幻の平成若大将
1970年代後半に草刈正雄主演で復活した若大将だったが、実は1990年代にも復活企画があった。
1991年に高嶋政伸主演で復活させる計画があり、その準備段階として当時のローソンのCMで高嶋が若大将に扮したが、映画そのものは実現には至らなかった。
登場人物
田沼雄一
演:加山雄三
通称若大将。明治時代から続くすき焼き屋「田能久」の息子で大学運動部のエース。
大食漢で頼まれたら断れない気の良い性格。母親は早世し父、妹、祖母の3人と暮らしている。
好物は肉まん。
名前の由来は「田能久」と加山雄三。
石山新次郎
演:田中邦衛
通称青大将。若大将の同級生で彼のライバルを自称している。
大企業の社長の御曹司で若大将に対抗意識を抱くが、スポーツでも人望でも全く敵わない。
交通違反の常習犯で、澄子に無茶を頼まれてはいつもパトカーや白バイに追いかけられている。
大学生編の後期では挑戦するスポーツが団体競技になったこともあってチームメイトとして若大将を助ける場面もある。
名前の由来は東宝とは因縁のある石原慎太郎・石原裕次郎兄弟。ニックネームは実は黒澤明が企画していた映画のタイトルをヘビ嫌いだった藤本が借用したもの。黒澤の企画していた映画は『椿三十郎』となった。
田沼久太郎
演:有島一郎
若大将の父親。大正生まれの頑固親父で事あるごとに雄一を勘当する。
逆に社会人編では未亡人に一目ぼれをしては家の女性陣に反発され、若大将に庇われることもあった。
基本的にはりきとは血のつながった親子という設定だが、『日本一の若大将』のみ婿養子という設定だった。
田沼りき
演:飯田蝶子
若大将の祖母。明治生まれの新しい物好きで若大将の良き理解者。
ぎっくり腰が悩み。
田沼家は3世代で生まれた元号が異なり、それぞれの世代の価値観の違いが現れている。
演じた飯田が1972年に他界したため『帰ってきた若大将』では写真のみの登場。
江口敏
若大将の所属する運動部のマネージャー。作品によっては他の運動部のマネージャーで若大将を助っ人として勧誘する。
シリーズを経るごとに照子との関係が深まり、『日本一の若大将』では婚約、『フレッシュマン若大将』ではとうとう結婚を果たした。
意外と常識外れな行動をとることもあり、浄化槽の蓋で焼き肉をした張本人。他にも肉の缶詰の代わりにドッグフードを買ってきたこともある。
カナヅチで泳げない。『ハワイの若大将』で二瓶が代役を務めているのは演じた江原が本当に泳げないため。
田沼照子
演:中真千子
若大将の妹。家事を手伝いながら洋裁学校に通っている。
シリーズを経るごとに江口との関係が深まり、『フレッシュマン若大将』では結婚し江口姓となった。
演じた中は江原とは頻繁に夫婦役で出演していた。
澄子
演:星由里子
学生編のマドンナ(メインヒロイン)。作品ごとに勤務先は違うが社会人という設定。
非常に嫉妬心が強い。
節子
演:酒井和歌子
社会人編のマドンナ。若大将の同僚だったり取引先の社員だったり。
澄子とは対照的にあっさりした性格で、誤解から嫉妬することはあれど若大将から理由を聞くとすぐに納得する。
太田茂夫
演:大矢茂
2代目若大将。『ゴー!ゴー!若大将』から登場し、『若大将対青大将』でついに若大将のニックネームを継承した。
ドライブインを経営している母親がいる。
2代目青大将
演:高松しげお
『若大将対青大将』に登場。青大将のニックネームを継承した学生だが劇中で本名が一切登場しない。
皆川純子
演:坂口良子
『帰ってきた若大将』のマドンナ。ヘリコプターから転落したところをスカイダイビングをしていた若大将に助けられた。