逆噴射
ぎゃくふんしゃ
航空機における逆噴射
スラストリバーサー、逆推力装置と呼ばれる。
今日の旅客機は多くがジェットエンジンで飛んでるが、ジェットエンジンは加速が早い分減速はもの凄く困難である。特に着陸する場合は最低でも時速300km程度で接地しなければならず、なおかつ余裕を持って滑走路内で停止する必要がある。しかし制動するにはスポイラーだけでは足りず、ギアブレーキも力を入れ過ぎると制動時の摩擦で燃えてしまう可能性があり全部任せっきりにするわけにはいかない。そこでエンジン推力を進行方向とは逆向きにして運動エネルギーを相殺して制動距離を短縮しよう!というのがざっくりとした概要である。
主な用途は上述したように着陸初期に減速して滑走距離を短縮するためだが、空中減速用のスポイラーがないDC-8などは減速のために使用することがある(この場合内側の第ニ、第三エンジンのみを用いる)。またIl-62は接地直前に逆噴射を行う。ただ空中で逆噴射を行えば下手すりゃ失速して墜落しかねない(日本航空350便墜落事故やラウダ航空004便墜落事故など。いずれも飛行中の逆噴射が原因で墜落している)ため、基本は接地してからしか使用できないよう安全装置が付いている。
また、地上で後退(パワーバック)するときにも使用できるが逆噴射時は燃料消費量が多くなるため経済性が悪くなる上、塵や雪、異物を巻き上げてエンジンや機体が損傷する恐れがあるため原則として禁止されている(エア・フロリダ90便墜落事故は地上で行った逆噴射が墜落原因の一つとされた)。
逆推力装置の構造は低バイパス比ターボファンエンジンとターボジェットエンジンの場合、排気口に可動式の蓋のようなノズルを付け、作動すると燃焼ガスを前方斜めに反射させて機体を制動する。これはクラムシェル方式、またはバケット方式、ターゲット方式と呼ばれる。効率はいいが排気熱を直で受け止めるためチタンなど高熱に強い素材が求められる。高バイパス比ターボファンエンジンの場合、コアエンジンを覆っているバイパス空気流の噴射方向を斜め前方へ偏向し、エンジンコアを通過してきた燃焼ガスについてはそのまま機体後方に噴射し続けて機体を制動する。逆推力とはいうが反射されてるのはバイパス流の推力の余弦成分のみであり燃焼ガスはそのままであるため一部についてはそのまま前方への推進力として残っている。これはカスケード方式、もしくはコールドストリーム方式と呼ばれ、高温にさらされないので、アルミニウムなどでも耐えられ、軽量化が可能となるため現在の航空機ではこちらが主流である。
軍用機(特に戦闘機などの超音速機)では搭載されないことが多く、着陸時の制動はドロークシュートという減速用のパラシュートを用いるほか、空母の着艦にはアレスティングフックを甲板上のワイヤーに引っ掛けて制動する。
宇宙船における逆噴射
同じく減速で用いられる。万有引力の法則に基づき、周回軌道を回るというのは重力に引き寄せられて落ちているのと同じ状態で、速度がありなおかつ地球が丸いからいつまでも落ち続けてるだけというものである。そのため加速すれば起動を飛び出すし減速すれば重力に従い落下する。もし地球から月に行きたければざっくりいうとまずは加速して周回軌道を月に合わせ、重なった時点で減速する必要がある。しかし宇宙には大気がないため減速するためには進行方向と逆向きに噴射する必要がある。これが逆噴射である。このように逆噴射は遷移(軌道から軌道に移動すること)するときや周回軌道から大気圏に突入する際に減速する時に用いられる。また大気がない、もしくは薄い環境の惑星や衛星に着地する際も逆噴射で減速しつつ着陸する。なお地球の環境では着地にパラシュートが用いられているがこれは逆噴射のみで着陸するには技術的に困難であるからである。
それ以外の逆噴射
装甲車などを空中投下する際パラシュートだけでは減速が不十分な場合があるためパラシュートのワイヤー部分にロケットブースターなどを取り付けて接地直前に噴射し、減速するという用途でも用いられる。
余談
前述した日本航空350便墜落事故は機長が精神分裂症(現在で言うところの統合失調症)だった状態で作動させたことにより墜落してしまったため、世間から逆噴射のイメージが悪くなり逆推力に置き換えられたという経緯がある。