水木(鬼太郎シリーズ)
みずき
概要
鬼太郎シリーズに登場するキャラクターで、鬼太郎の育ての親。前史である『墓場鬼太郎』及び、『ゲゲゲの鬼太郎』でも「鬼太郎誕生」のエピソードがリブートされた際は登場するが、作品ごとに独立した世界線を描いているため細かな設定等には違いがある。
原作者と区別するために水木青年などと呼称されることも多い。
なお、原作者の水木しげるは別キャラクターで作品内に登場しており、青年の水木=水木しげるではない。
キャラクターについて
基本設定
昭和30年前後の東京郊外に母一人子一人で暮らし、血液銀行に勤めている。
- この設定は登場するすべての作品で共通である。
原作での活躍
『墓場鬼太郎』
各シリーズで描かれる「鬼太郎誕生」の基となるエピソード。
勤務先に度々遅刻するなどいい加減な部分があるが、その分大らかで「自分に甘いが他人にも甘い」性格の持ち主。しかしその甘さが仇となって、想像もしなかった運命を辿ることになってしまう。
ある日、出社早々に社長に呼び出された水木は、自社製品に「幽霊の血」が混入していたことを聞かされ、その調査を命じられる。その血液を輸血された人は、意識があり、正常な人間のようにふるまうにもかかわらず、心臓は停止し体温はなく「医学的には死人」と言う状態になっていた。
水木が供血者のデータを調べたところ、その住所は水木の家と同じものであり、彼は最近隣の古寺に引っ越してきた怪しげな夫妻を疑う。
その夜、古寺を訪ねた水木は不気味な夫妻から事情を聴く。彼らは自身を幽霊族と名乗り、問題の血液は妻のもので、重病に罹った夫の治療費を捻出しようとしてのことだったと話す。
夫からは幽霊族の悲劇を聞かされ、また妻からは身ごもっている子供が生まれるまではと懇願された水木は、夫妻を恐れる一方で、同情の念も感じていた。そこで子供が生まれる8ヶ月後までという約束で、会社への報告を伏せる。
約束の期限が訪れ、改めて古寺を訪ねてみると夫妻は息絶えていた。哀れに思った水木は、溶け崩れた夫の方はあきらめて放置したものの、せめてもと妻の方は墓穴を掘り、埋葬した。
その3日後、産声を聞きつけて墓場に駆け付けた水木は、異様な雰囲気を持つ赤ん坊(鬼太郎)が墓穴から這い出してきたのを目撃する。その得体のしれない様子に恐怖を覚えた水木は、一度は見捨てて自宅へ逃げ帰った。しかし鬼太郎は目玉おやじとなった父に導かれて水木宅へ這ってくる。自分を頼りにする鬼太郎に情を覚えた水木は、それ以上突き放すことができなくなり、育てることを決心するのだった。
その後、水木はなんとか鬼太郎の養育を続けるが、次第に奇怪なふるまいを見せるようになる鬼太郎の面倒を見切れなくなり、普通の子供として暮らせないなら出ていくように言い渡す。仕方なく鬼太郎は、目玉おやじとともにあてどない放浪の旅に出ることとなる。
これ以降、水木の扱いは完全なサブキャラクターとなる。
『鬼太郎夜話』では、鬼太郎曰く「どうしたことか、ぼくたち(鬼太郎父子)を捕まえようと警官と一緒に追いかけてきた」ため、目玉おやじに罠にかけられ、生きながら地獄へ送られてしまう。
最終的には鬼太郎を育ててくれた恩があると言う理由で地上へ帰され、血液銀行にも復職できたものの、死者の世界で一定期間過ごした影響から、体は冷たく吐く息には死臭が漂うという、死人のような身体となってしまった。
その後は結局、自分の身の安全を図る目的で、鬼太郎父子と下宿「ねこや」で同居を始めることになる。
具体的な活躍はほぼこれで終了となり、水神に関わる物語の導入部分で物価高騰を理由にいきなり家賃を倍にされ、苦悩する姿が描かれたのを最後に、作品から姿を消す。
佐藤プロダクション版『おかしな奴』は、水木が冒頭で鬼太郎の誕生を改めて回想する形でストーリーが始まり、当時の鬼太郎の活躍譚も、同様に彼の語りで展開する。しかしそれ以降は作品から消え、雑誌連載となり『ゲゲゲの鬼太郎』と改題した後も、水木の消息は不明なままとなっている。
番外:竹内版での水木青年
水木しげると兎月書房の間に起きたトラブルから生まれた竹内版墓場鬼太郎での水木青年は、地獄から生還した後の動向が大きく異なる。
現世では血液銀行社長殺しの容疑者と目されていたことを知った彼は、追及を逃れるために名前を「成見七郎」と変え、なんと私立探偵に転身。鬼太郎親子と組んで、数々の奇妙な事件に挑んでいく。性格は小市民で大らかな水木版と違ってアグレッシブで、顔つきもきりりと上がった太い眉毛に三白眼と気合が入っており、私立探偵となってからは口調も伝法になる。暴れますぜ!
……ここまでならなんだか格好いいかもしれないが、やっぱり物語の途中でその存在がフェードアウトしてしまう。つくづく気の毒なキャラクターである。
TVアニメでの活躍
アニメ版『墓場鬼太郎』
大らかで自分にも他人にも甘く、小市民な性格は原作通り。
前半のうちはメインキャラクターとして描かれ、全体的な出番も増えた。しかし何かと鬼太郎に苦しめられ金づる扱いされたうえ、最後にはあっさり見捨てられるといった、酷い役回りである。また、佐藤プロダクション版がベースであるため、鬼太郎が隻眼になった理由が水木の行動によるものとなっている。
- 生まれて早々、墓から這い出てきた(人間の赤ん坊には不可能な行動)鬼太郎に脅えた水木が、恐怖のあまり振り払った(あるいは突き飛ばした)ために墓石に目をぶつけてしまった。貸本版およびガロ掲載のリライト版では、生まれつき左目は欠損している。
設定についても多少の変更が行われている。
放送コードの関係上、患者が幽霊のようになった原因を売血とすることができなかった。そのため、幽霊族の妻が病院を訪れた折、激痛に苦しむ患者を見かねて苦しみを和らげようと妖力を使ったことが原因とされた。これに伴い、水木の勤務先も「病院の系列会社」とぼかされている。
原作での水木は、勤務先への遅刻を繰り返す、だらしない面のある男として描かれている。これが原因で、たびたび社長からお小言をいただいていたために顔を覚えられており、「幽霊の血液」について内密の調査を命じられるのだが、アニメではこの部分がカットされている。
第6話『水神様』で水神の高波に襲われ、鬼太郎に助けを求めるが、僅かな間の後に「じゃ!」との一言で見捨てられ、そのまま物語からフェードアウトする。
- 明確に溶かされた描写こそないが、スーツが溶けていくような場面が一瞬だけ映る。また、BD版でははっきり骨まで溶かされている。その他関連書籍では「原作にはない最期」とある。
TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(6期)
6期1話において、目玉おやじのセリフとして「水木という青年が昔鬼太郎を育ててくれた」と言及され、ワンカットのみ登場。アニメ『ゲゲゲ』シリーズにおいて、水木の存在(と鬼太郎の出生)について具体的に描写されたのはこれが初となる。
33話では、鬼太郎が「(依頼に応えて人間を救うのは)約束みたいなもの……だからな」とも語っており、水木青年と鬼太郎の間に、原作とは異なる絆のようなものがあることが示唆された。
42話では、百々爺の策略により妖怪大裁判で有罪判決を受けた鬼太郎を救うべく、目玉おやじが刑執行を引き延ばすために語る思い出話に、水木青年が登場する。
- 「ワシらは水木と共に店の二階に間借りして」=ねこやで居候していた時の事(参照)。
- 「その時ワシらに大水がドバーっと」=水神襲撃の様子。
裁判長である大天狗に遮られたため話は途中で終わってしまい、その後の消息ははっきりとしない。
なお、最終回において、第1話の「水木青年が赤ん坊の鬼太郎を抱いたカット」が再び登場。
自分自身妖怪である鬼太郎が、人間を守って仲間であるはずの妖怪と戦う理由、その根底に水木青年との絆があることが改めて強調され、それこそが「死よりも辛い地獄」と閻魔大王が語った状態にあった鬼太郎を救う事につながるという展開を見せた。
彼らが共に過ごした時間について、作中で具体的に語られることは結局なかったが、きっと水木青年の魂も浮かばれたことだろう。
番外:6期小説版
TVアニメ6期のスピンオフノベライズである「ねずみ男ハードボイルド」(講談社キャラクター文庫『ゲゲゲの鬼太郎 〜朱の音〜』収録)では故人として名前が登場。
鬼太郎やねこ娘らが水木の命日に墓参りのため西調布の覚證寺へ向かう描写があり、命日は11月30日(ゲゲゲ忌。原作者水木しげるの命日。)となっている。
亡くなった時期についての言及はなく、水神の事態に巻き込まれた後どのような経過を辿ったかはやはり不明のままである。
ねずみ男は水木のことを「赤ん坊だった鬼太郎の命を救った奇特な人間」で、「死してなお目玉おやじと鬼太郎とは固い絆で結ばれている」と評している。
また、後に製作された世界観を共有すると思しき別作品において年老いた姿で登場している。詳細は「ゲスト出演」を参照。
劇場アニメ『鬼太郎誕生ゲゲゲの謎』での活躍
上述の6期TVアニメ版のエピソード0として2023年に公開された本作では鬼太郎の父の相棒役を務め、物語の主役級として登場。
『ゲゲゲ』シリーズにおいては初めて水木に本格的なスポットが当てられる。『墓場』を含めた長年に渡る不遇がついに報われたと言うべきか。
原作漫画とほぼ同じ昭和30年代を舞台に、ある密命を帯び、人間ではない謎の男『ゲゲ郎』と共にある村に隠された秘密を追う姿が描かれる。
原作の「墓場鬼太郎」をベースにしているものの、性格や鬼太郎誕生に至るまでの経緯などは大胆にアレンジされている。
本作では徴兵により参加した戦争が原因で左目に疵があるうえ、左耳の上部が少し欠落している。
性格も原作ののんびりとしたお人好しから、栄達の野心を抱きながらも非情になりきれない男へと変更された。
「水木」のイントネーションもこれまでの作品とは異なっている(水樹奈々や水木一郎と同じではなく『水着』と同じ)。
以降、ネタバレ注意
終盤、鬼太郎の父との出会いや、村で起こった全ての記憶を無くしてしまう(この際、髪の色も若干白く変色している)。
エンドロールでは、ある理由でミイラ男の姿になったゲゲ郎とその妻と再会するも、記憶を無くしていたことと、ゲゲ郎の見た目も変わっていたことから恐怖しその場を逃げ去ってしまった。
しかし、再びゲゲ郎夫婦が暮らしていたボロ屋を訪れ、亡くなった夫婦を哀れみ、妻の亡骸を墓に埋葬したが、その直後に産まれた鬼太郎が墓穴から這い出てくる。
瞬時に鬼太郎が化け物だと感じた水木は、墓石に鬼太郎を叩きつけて殺そうと考えるも、その瞬間、脳裏に今はもう名前も姿もはっきりとは覚えていないはずのゲゲ郎との記憶が僅かに過り、産まれたばかりの鬼太郎を抱きしめ、自分の手で育てる決意を抱いたところで本作は幕を閉じた。
本作は基本的にゲゲ郎=鬼太郎の父との出会いと交流こそ明かされたが、産まれた鬼太郎とのその後の様子は不明で、鬼太郎も最後まで水木について語ることもなかったので、水木と鬼太郎がどのように暮らしていたのかは、今作でも明かされることはなかった。
- ただし、入場者特典の書き下ろしイラストでは、幼い鬼太郎を肩車して笑っている水木が描かれており、鬼太郎に対して愛情を持っていたことは確かであろう。
そして、彼のお陰で鬼太郎の母親は救われて鬼太郎も産まれる事ができ、鬼太郎にとっては原典以上に命の恩人と言っても過言ではない大切な存在となっている事もまた確かな事実であり、鬼太郎が人間の醜さを理解しながら、それでもなお人間を守りたいと思うようになったのは、水木と言う存在があったからこそであろう。
余談
- 基本的には「キャラクターの水木≠原作者の水木しげる」であるが、小学館の「鬼太郎大百科」における「鬼太郎誕生」エピソードの記述では、水木しげるとの関係も暗示されていた。また、上述のスピンオフ小説「ねずみ男ハードボイルド」で言及された命日や埋葬場所の設定は、水木しげるご本人と同じものとなっている。
- 原作「墓場鬼太郎」初登場時の姓は「秋山」であった。
ゲスト出演
Netflixで配信されている令和悪魔くんの10話「祝事」に登場。
スタッフロールで水木老人と記載されているように老いた姿をしている。
調布で「アミーゴパンケーキ」というホットケーキ屋を営んでいる。CVは大塚明夫。
私にも息子がいるんだ
と言っても 親友の息子なんだが
以下は鬼太郎誕生ゲゲゲの謎視聴後に閲覧推奨。
「鬼太郎誕生」はTVアニメ版6期をベースとしていることが公式で明言されており、左目の傷、左耳の欠損、さらに上述の台詞などから「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」及び「6期TVシリーズ」の水木と同一人物の可能性がある。6期TVシリーズで水神の事件に巻き込まれた水木が、何らかの形で生き延びた後の姿なのかもしれない。
ただし、鬼太郎誕生の舞台である昭和31年の時点で30代前後であったと仮定した場合、2023年時点で100歳近い年齢であることになってしまい風貌がそれより若く見えること、上述のスピンオフ小説では亡くなった時期は不明であるものの既に故人であるとされていることなど、やや不自然な部分も発生してしまう。
一応、令和悪魔くんの舞台設定は前作から三十数年後ではあるようだが、はっきりといつ頃であるかは明言されていないので、「令和悪魔くんの舞台が平成〜令和の間のどこかである」「『鬼太郎誕生』の時系列が令和悪魔くんよりも後」などと仮定すれば辻褄が合わないわけではないが…。
実際に同一人物なのか、スターシステムやパラレルワールドのようなファンサービスの一環であるかは視聴者の想像に委ねられている。