概要
『墓場鬼太郎』及び『ゲゲゲの鬼太郎』の主人公である鬼太郎親子が属している(水木しげる御大によって創出された妖怪種族)。
現生の人類が誕生する遥か以前に、地球を支配していた先住民族で、作品内では『第一期人類』とも呼称されている。
目玉おやじが『続ゲゲゲの鬼太郎』で、自らが属している第一期人類について記した『幽霊族史』を執筆している。なお、彼は紀元前3800年頃、幽霊族の帝位にあった人物の子孫という事である。
妖怪・悪魔=第一期人類の歴史
幽霊族は、争いを好まず自然と共に生きる事を是としており、皇帝による緩やかな統治のもとで平和に過ごしていた。
しかし、その繁栄が頂点に達した紀元前2万年頃から現生人類が登場し、急激に増えて広がっていった事で、幽霊族は次第に生存圏を奪われていく事となる。
- 一度先史時代に飛ばされたぬらりひょんによると、幽霊族の先祖は自然を守るために人間(現生人類)の先祖と戦ったという。
やがて世界中で追い詰められた幽霊族は、仕方なく当初は森に逃れるが、紀元前1万5千年~1万年の間で更に凶暴な人間が増殖し、ますます追い立てられて地下に居住地を求める様になった。
しかし、そこも決して安全とは言えず、奥へ奥へと住処を変える内に「人間モグラ」の様な存在になっていった。
また、人目に立たぬよう夜に活動する様になり、食料を求めて彷徨う姿が幽霊と誤認されたという(貸本版『墓場鬼太郎』より)。
一方、第一期人類は現生人類にはない様々な超能力を持っているが、それが「幽霊の様な奇怪な力」と受け取られた事が『幽霊族』という種族名の元であるとも言われる。
いずれにせよ、圧倒的な能力を持ちながらその気質・性質ゆえに現生人類に対抗しえなかった第一期人類・幽霊族は、滅亡の一途を辿る事になった。
一方で、生き残った幽霊族はオオクニヌシの時代の日本の様子なども隠れ住みながら観察していて、出雲の神々が広く全国に散らばっていった光景を目撃していたりと、世界の中でも極東の島国であった日本の歴史を見守っていた。
目玉おやじの妻で鬼太郎の母、岩子のいくつかある設定(作中の言動)を含めれば、お岩さんも幽霊族に近縁だと思われる。
幽霊族の特徴
- 幽霊族は死ぬ時に、「霊毛」と呼ばれる一本の毛を残していく。鬼太郎が身に付けているちゃんちゃんこはこの霊毛で編まれているため、子孫を守ろうとする先祖の魂が宿り、彼に様々な加護を与えている。
- 文字通り「殺しても死なない」ほどの非常にタフな体質で、もはやギャグの領域に片足を突っ込んでいるレベルの不死性を誇る。体をバラバラにされようがトムとジェリーよろしく潰れてぺったんこにされようが絶対に死なず、例え食われても捕食者の身を内側から破って再生してしまう。通常の攻撃では倒す事が出来なかった敵を、結果的にこの方法で倒した事さえある。目玉だけで生きている目玉おやじは流石に奇跡とされているが、毛目玉の存在や150年ぶりに会った魔女ロンロンがその姿に驚かず普通に「久しぶりだな親父」と話を進めた事などから、ムック本『ゲゲゲの鬼太郎 謎全史』では「幽霊族の本体は眼球なのではないか」という考察までされている。そもそも種族が全滅ギリギリまで衰退したのも、食糧難による栄養失調及び餓死による所が大きいため、息の根を止めるなら実質それしか手段が無いと言える。
- 鬼太郎と仲間達は、敵妖怪との戦いで何度か体を溶かされかけたり(完全に溶かされて後で再生された事も)しているが、その中で鬼太郎とねずみ男が一緒に溶けかけた際などは、目玉おやじが「このまま溶けた鬼太郎がねずみ男と混ざってしまえば、血統がめちゃくちゃになるばかりか神通力までも失われてしまう」と危惧した事があった。ただし、これは「幽霊族が他種族と直接溶けて交る」場合、もしくは「幽霊族の個々が同族も含む他者と溶ける現象で交る」と生ずる弱点なのか、それともねずみ男の様なある意味で特殊とも言える数少ない『半妖怪』などの存在と直接混ざる事が、幽霊族にとって危険な現象なのか、その点は不詳である。
幽霊族の容貌
原作には「人間と似た容姿」というもの以外にはっきりとした記述は無い。
「幽霊族は生まれつき不気味な容貌をしていたため人間に追われた」という説が一部のファンの間やネット上などでも流布しているが、実はこの説は
1.『鬼太郎誕生』で登場した鬼太郎の両親が、共に不気味な姿であった事
2.鬼太郎の父親が語った「『人間モグラ』の様になった」という言葉から、穴居生活を送る内に不気味な姿に変化していったという推測
3.初期作品である『墓場鬼太郎』での鬼太郎の容姿が、殊更醜く不気味に描かれていた事
から、殆ど読者の想像で作り上げられたもので、原作で確定した根拠があるものではない。
原作での描写という事実のみに基づくならば、
1.については、父母が登場時でそれぞれ重病に罹っており、「溶ける病」に冒された父親だけではなく、母親もその容姿が生来のものかについては不明
2.については、「『人間モグラ』とでもいうべき生活に追いやられた」と言う意味であって、その事で「餓え死にする者が大勢出た」とは語られたが、姿の変化については言及が無い
3.については、版により誕生時の鬼太郎の描写に差異があるため、まず論拠となるものが安定しない
- 鬼太郎が隻眼である事が、彼の容貌に薄気味悪さを出していた事は間違いないが、それが生まれつきというものと、事故によるものというバージョンがあり、更に事故の原因についても理由が異なるものが存在する(これらの違いは、『鬼太郎大百科』などの公式関連書籍でも「異説」として記述がある)。
- 主に怪奇性を前面に出していた貸本時代でも、後期には水木の幼い甥をモデルに鬼太郎のデザインが改変され、愛嬌のある顔立ちとなる。また、鬼太郎のヒーロー性が強められていった雑誌連載以降のシリーズでは、アニメ版の影響もあって、鬼太郎の容姿がより親しみやすく可愛らしいものへと変遷している。
以上の点から、鬼太郎の容姿(デザイン)すらも幽霊族全体の容貌の根拠とはならない
……という数々の反論が、むしろ成り立ってしまう。
結局、幽霊族の容貌について先述の「人間に近い容姿」という事以外は、原作ではっきりと言及されたものはなく、
「水木しげるの画風の進化、時代による作風やテーマの変遷につれ、表現や設定も変化し曖昧になっているため、これと決定づけるものはない」
というものが結論となる。
幽霊族の現在
原作で生存が確認できる幽霊族は、幽霊族の皇帝の末裔とされる鬼太郎父子を除けば『鬼太郎のベトナム戦記』で目玉おやじの従兄弟として“毛目玉”が登場した程度である。ただし、毛目玉は他の場合では、幽霊族との繋がりに関して言及されていない。また、『髪さま』/『髪の毛大戦』とそれを基にしたアニメ2期と5期では全くの別種として扱われている。
他には、かつて交流があった種族として『海の幽霊族』が登場するが、生き残りはおらず遺品が残るばかりとなっている。
『鬼太郎国盗り物語』で地上とムー(地球空洞説)の中ほどに幽霊族の親類に当たるという“モグラ人間”が登場するが、鬼太郎達と違い文字通り人型のモグラの様な姿で、戦力も特に持たない。
アニメでの幽霊族
アニメ5期では、『アマミ一族』が近い種族とされている。
海の幽霊族の実態が不明だが、アマミ一族に近かったまたは同一や近縁である可能性もある。
アマミ一族は、鬼界ヶ島にて『地獄の鍵』を地獄から託されていたが、(日本の)地獄の力を狙う悪の西洋妖怪軍団に絶滅寸前にまで追い込まれてしまった。
一般的な妖怪よりは人間に近いとされ、水中能力や回復、通信等以外は妖怪的な能力が目立たないとされていたこともあるが、実は幽霊族に劣らない(しかもちゃんちゃんこなどの霊力を得た鬼太郎と互角の)戦闘力を秘めており、高い身体能力、体内電気への耐性、ちゃんちゃんこをも瞬時に修復する回復能力、鋭い爪などを僅かの間に披露した。
その種族名および居住していた島からも、奄美群島と所縁のある種族の可能性も高い。
- 5期では、アマミ一族と鬼界ヶ島の住民、『地獄の鍵』、鬼界ヶ島を守る戦いのために鬼太郎は「幽霊族の秘術」こと指鉄砲を会得する事になる。
幽霊族に関係するキャラクター (親類を含む)
幽霊族
原作
- 鬼太郎(現代における一族の代表および皇族の末裔。主人公)
- 目玉の親父(皇族の末裔で鬼太郎の父親)
- 岩子(『地獄編』においてお岩さんの親戚筋の人間とされるが、鬼太郎の父親と結婚した時点で幽霊族の一員となっている。鬼太郎の母親)
- 雪姫(現行で存在は一旦リセットされているが、設定上は鬼太郎の妹)
- 毛目玉(一度『ベトナム戦記』で言及されたが、他作品でも共通してるかは不明)
- お岩さんとその親類(『地獄編』で、幽霊族と結婚した鬼太郎の母・岩子の出身一族と言及。概ね「妖怪に近い人間」とされている)
- メリー(別冊少年マガジン掲載『その後のゲゲゲの鬼太郎』に登場。幸福の島の酋長の娘だが、鬼太郎と夫婦になったため、所属を鬼太郎側に合わせるなら幽霊族に組み込まれる事となる。ただし、鬼太郎は後の作品で島を出て、関係および存在も設定上は一旦抹消されている)
- 鬼太郎の分身(一度肉体消滅した鬼太郎の魂がメリーの胎内で生まれ変わる形を取ったが、実際は完全に鬼太郎本人の再生であるため、正確な意味でも息子ではない)
- メリーの父を含む親類
アニメオリジナル
- ミウの母親(アマミ一族の先代酋長)
- ミウ(アマミ一族の現酋長)
- カイ(ミウの弟)
その他
- 地獄童子(一部のバージョンでは幽霊族と推測されている。アニメ3期では人間とのハーフとされている)
- ムー人(地下に帝国を作っている種族。幽霊族とは交流があった様で目玉の親父は王族の顔を知っていた)
- 寝太郎(当初は兄として登場したが、正体はムー人の王子)
- モモ子 (東京のおばさんの娘だと称して接触してきたが、正体は吸血鬼)
原作ではメリーとの結婚、目玉の親父が鬼太郎の結婚相手としてルーマニアのドラキュラ伯爵の御令嬢を推していたこと、また、海の幽霊族やアマミ一族の様に親類も確認されている事から、幽霊族が他の種族と交わってきた可能性がある。
アニメの3期では一度髪の毛を奪われて「もうお嫁に行けない」と嘆くネコ娘に、鬼太郎が「行くところが無いなら、僕が貰ってやるよ」と言った事があるが、これは慰める意味もあり、その後猫娘の髪が戻った後は言及を引っ張っていないため、プロポーズ(婚約)とは言い難い。また、5期でも目玉おやじが鬼太郎に「ネコ娘を嫁に貰ってはどうじゃ」と本気で言うが、鬼太郎は悪気無く「冗談はやめて下さいよ」と笑いながらバッサリ切り捨ててしまっている。
これらの描写から、幽霊族の血を引く存在や幽霊族以外の出自を持つ幽霊族が他にも存在する可能性も否定出来ない。異種族同士の交配はこれまでも少なくなく、「半妖怪」を始めとする人間の親戚がいる妖怪などを考えると、その可能性は決して低くないと思われる。
余談
- 鬼太郎が登場する一連のシリーズは、貸本版から幾度か掲載誌を変えながら発表され続けた。そのため登場キャラクターの設定にも変遷があり、幽霊族の記述にも作品ごとで異なる部分がある。
- アニメ6期放送に伴い2018年に講談社より刊行された、『少年マガジン』初連載時分収録の『ゲゲゲの鬼太郎』新書サイズコミックスでは、『幽霊族』という呼称が使われずに総じて『妖怪族』という表現に改められている。