概要
『ゲゲゲの鬼太郎』などの作品で知られる妖怪漫画家・水木しげるの漫画作品のあちこちに登場する、特徴的なビンタ(平手打ち)の表現のこと。「水木ビンタ」などとも呼ばれる。
おおむね、以下のような特徴がある。
- 片手で繰り出される。振り下ろされた手が連続写真のように分裂し、一振りのビンタで往復ビンタが表現されている。
- 擬音は「ビビビビン」「ビビビビビ」など。
- ビンタを見舞う側・食らう側ともに、興奮や痛みの表現として鼻息を噴いていることが多い。
水木がこのビンタ表現を多用したのは、彼が太平洋戦争中に陸軍の下級兵士としてラバウル戦線に送られ、持ち前のマイペースな性格が災いして上官や古兵に目をつけられ、しょっちゅう往復ビンタを食らっていた経験が背景にある。その上、所属部隊が壊滅し、敵軍の機銃掃射や現地住民の日本兵狩りをくぐり抜け、九死に一生を得て別部隊に合流しても、上官からは「なぜ玉砕しなかったか」と言い捨てられ、マラリアの高熱で死の淵をさまよった上に、負傷から左腕を麻酔なしで切断するという目に遭っている。
戦後、漫画家になった水木は戦争漫画も数多く手がけているが、こうした経験を元に徹底した反戦主義者であった。もちろん、それらの作品には数多くのしげるビンタが登場する。
なお、「しげるビンタ」という呼び方の初出は、小川雅史の漫画『速攻生徒会』に登場する女子高生漫画家・酒井綾が用いていた同名の必殺技(明らかに水木しげるのビンタ表現をオマージュしたものだった)ではないかと思われる。
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