マラリア
まらりあ
マラリアは、マラリア原虫をもった蚊(ハマダラカ)に刺されることで感染する感染症(節足動物媒介感染症)である。
主に東南アジア・アフリカ・中南米などの熱帯・亜熱帯地域で流行しており、世界では毎年約2億人がマラリアに感染し、60万人が死亡している。AIDS・結核と並ぶ世界三大感染症の一つとされる。
マラリア原虫に感染してから症状が出るまでには1週間以上かかる。主な症状は40℃近い高熱、悪寒、震え、頭痛、筋肉痛。嘔吐や下痢を伴うこともある。
マラリアには4種類(熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア)あり、その中でも特に熱帯熱マラリアは重症化しやすく、発症から24時間以内に治療しないと脳・肺・腎臓・血液などに重い合併症を起こし、死亡することもある。
流行地では長袖・長ズボンなどを着用し、肌の露出を控え、蚊に刺されないようにする。虫よけスプレーや蚊取り線香なども活用したい。
なお、ワクチンを買うための募金を行う際に、ワクチンの対象としてよく挙げられるが、その理由は「一度接種したからと言って長期間効果は持続しない」ためであり「原虫という生物の構造が人間の根本的生体構造に似ているために全く免疫が通用しない」ためでもある。そう、物凄く量がいるのである。
かま状赤血球
かま状赤血球症は、遺伝性の貧血病で、赤血球の形状が鎌状になり酸素運搬機能が低下して起こる貧血症である。
これは、元々マラリア原虫に対抗するためにマラリア流行地帯(主にアフリカ・中近東・インド北部・地中海沿岸)の人々が身に着けた生体的防御術である。普通の赤血球では原虫はわっほいわっほいとぬくぬく育つが、かま状になられると話は別、バッタバッタ死んでいく。
マラリアに罹らない・罹っても症状が軽いというメリットはあるものの、酸素運搬能力が大幅に低い。この赤血球を持つ人は貧血や脳卒中になりやすく、手足が腐ったりすることもある。このためこの遺伝的体質を持つ人は、体が弱く激しい運動はできない。
また、鎌状赤血球を作る遺伝子は致死遺伝子のため、ホモ接合体の遺伝子を持っている人は骨の壊死や細菌感染、脾臓萎縮による激痛などの重篤な溶血性貧血症状を起こす。
グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症
なじみのない病名だが、とてもおおざっぱに説明するとソラマメやその花粉で溶血や黄疸・発熱などの中毒を起こす体質。(最悪の場合死に至る)
ALDH2欠乏症(いわゆる下戸遺伝子)に次いで2番目に大きな酵素疾患であり、患者は実に4億人にも達する。
はた迷惑な特性に思えるが、患者の赤血球にマラリア原虫が侵入しづらいというメリットもある。上述の鎌状赤血球と同じく、マラリアに対抗して獲得した特性と見られている。
このためマラリア流行地の地中海沿岸においてソラマメは主要な食材だが、しばしば不吉なもの、死の象徴として扱われた。
例えば
- エジプトでは神官が忌避し、次第に民衆も食べなくなった。
- ギリシャやローマでは葬儀の時の食べ物であり、ソラマメが死者にささげられた。
- ソラマメに死者の魂が入っていると考えたピタゴラスは大のソラマメ嫌いであり、門徒にはソラマメを食べるなと厳命している。さらに政敵(弟子入りを希望したがテストで落第し門前払いをくらって逆恨みしていた政治家)にソラマメ畑の前に追い詰められたときは「ソラマメ畑に入るよりは死ぬほうがましだ」とみすみす殺されたという。
- 3000〜2000万年前の琥珀に閉じ込められた蚊からマラリア原虫が発見されており、マラリアは人類誕生より前から地球上に存在していたことが分かっている。ヒトに感染するマラリアは、獲物であった霊長類がヒトへ進化していくのに合わせて共進化したと考えられている。
- ツタンカーメン、アレクサンドロス3世、平清盛、ダンテ・アリギエーリ、マザー・テレサ、一休宗純、オリバー・クロムウェルなどの死因はマラリアではないかと推測される。(ただしツタンカーメンについては諸説あり)
- 5世紀にローマ帝国で流行した「ローマ熱」もマラリアとされており、帝国崩壊の一因となった可能性がある。また当時の建物が丘の上に多いのは、ローマ人はマラリアが小さな虫によって起こる病気だと気づいており、風が強い場所なら蚊が飛びにくいだろうと考えたためという説もある。
- 日本において、古くは瘧(おこり)といわれた。
- 太平洋戦争中、ガダルカナル島の戦いでは1万5000人、インパール作戦では4万人、ルソン島の戦いでは5万人以上の日本兵がマラリアによって死亡した。また沖縄戦ではマラリアの多発地帯だった西表島へ強制的に疎開させられた住人が多数感染した。
- 2021年、世界初のマラリアワクチンの接種推奨が開始された。
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