概要
円周の半径に対する比。ある円の円周が、半径の何倍であるかを表す値である。
広く知られている円周率πは、円の直径に対する比である。
したがって、τ=2π=6.283…である。
一部の数学者が、円周に関する数学定数はτの方が自然であると主張している。
円の定義は「任意の点からの距離(=半径)が等しい点の集合」であり、数学で円を議論する際は半径を基本にすることが多く、直径は工学などを除けば円周率を決めるときぐらいしか出てこない。
円が絡む数学公式には多くの場合係数2がつく。
τを用いれば、多くの公式が簡単に(そして主張者によれば「本質的に」)書けるという主張である。
現在の数学においてτを用いることはあまり一般的ではない。
πの代わりにτを使っても性質が変わるものではないため、使いたいなら(断りを入れた上で)使えばよいし、それでは混乱するような場合は適宜πに置き換えればいいだろう。
τを用いることの利点
円に関する公式には2πが頻繁に登場する。τを用いることでその公式群を簡潔にすることができる。
弧度法
- 1周=τで表せる。
- 円と扇形の比が係数と一致する。
- 例えば、中心角45°の扇形は円を1/8にした図形である。τを用いると45°=1/8τ(ラジアン)となり、見た目と係数が一致して直感的に理解しやすくなる。
- 0°≦θ≦360°の範囲においてτの係数が真分数となる。
- πを用いた場合、例えば250°は弧度法で25/18π(ラジアン)となり、1周未満なのに仮分数となってややこしいが、τを用いると25/36τ(ラジアン)となり、真分数となる。
孤の長さ
- τの定義により、円周はτr、扇形の孤はθr。
- 扇形の弧の長さの公式はπを用いた場合と変わらないが、中心角が1/6τ(ラジアン)と表記されていれば「円周の1/6だから円周を6で割ればいい」と直感的になる。
面積
- 円の面積は1/2τr²、扇形の面積は1/2θr²。
- 円の面積だけは係数の1/2がつくが、一次式を積分しているのだから係数1/2がつくのはむしろ自然である。
- 小学校レベルで言うなら、面積の公式は多くの場合「÷2」があるので、今更1つ増えたぐらいで覚える手間はさほど変わりない。 ---算数の教科書をひもとけば、円の面積を導出する際、途中で「円の面積=半径×円周÷2」という表現が出てくる。これは、アルキメデスが導出した円の面積の公式と同じ表現であり、「なぜ円の面積がこの公式になるのか」を考える上ではこちらの方がより本質的である。
※上記の公式は、円周/円の面積を中心角が360°(τラジアン)の扇形と同じ形で表記することができる。公式の統一化ができる。
球
- 表面積は2τr²、体積は2/3τr³。
- τr³は球に外接する円柱の体積、2τr²はその側面積なので、アルキメデスが導出した「球の表面積は、それに外接する円柱の側面積に等しい」「球の体積は、それに外接する円柱の体積の2/3である」という性質が係数として端的に示される。
- 球の中心を通る直線を引き、球の表面との交点の一方を「北極」とする。以下、地球のそれと同様に「緯度」「緯線」を定義する。いま緯度θの緯線に沿って球を切断し、さらに緯度θ+dθで切断した輪切りを考える。この輪切りの側面を長方形と見なせば、縦rdθ、横τrcosθと表せる。よって、面積dSはτr²cosθdθとなる。よって、球の表面積Sは2∫0(τ/4)τr²cosθdθ=2τr²[sinθ]0(τ/4)=2τr²となる。cosθの積分はsinθであり、sin(τ/4)=1なのでこの部分が綺麗に消える。係数の「2」は半球から2倍した分であることが途中式からわかる。
- 同様に、中心からの距離xの面で切断し、さらにそれに平行な距離x+dxの面で切断した輪切りを考え、これを円柱と見なす。この「円柱」の底面積は半径√(r²-x²)の円のそれである。高さをdxと置けば、体積dVは(1/2)τ{√(r²-x²)}²dxとなる。よって、球の体積Vは2×(1/2)τ∫0r(r²-x²)dx=τ[r²x-(1/3)x³]0r=τ(r³-(1/3)r³)=(2/3)τr³となる。なぜ係数が2/3などという中途半端な数なのかと言えば、3行目に「1-(1/3)」が出てくるからで、この「1/3」は二次式を積分したからである。τを用いると、円の面積の公式に登場する「1/2」が半球から2倍した分を相殺するので、これが端的に示される。
三角関数
- sinxとcosxの周期はτ、tanxの周期はτ/2。
- sinとcosは1周、tanは半周すると元に戻ることが端的に示される。
割三角関数
- secxとcscxの周期はτ、cotxの周期はτ/2。(secx=1/cosx、cscx=1/sinx、cotx=1/tanx)
- secとcscは一周、cotは半周すると元に戻ることが端的に示される。
オイラーの等式
- e^iτ=1
- 元々の式はe^iπ+1=0。これは座標平面上において、点(1,0)から単位円を半周してx座標を+1すると原点に戻ることを表す。それに対し、この式は点(1,0)から単位円を一周してまた点(1,0)に戻ることを表している。
- オイラーの等式は、オイラーの公式e^iθ=cosθ+isinθにおいて、偏角θに「キリのよい数」を代入したものだ。θにπを代入した場合、偏角に「半周」を代入したことになる。θにτを代入した場合、偏角に「1周」を代入したことになるので、より「キリがよい」。すなわち、「偏角が1周だから、コサインは1でサインは0」と納得しやすい。
定数
- hをプランク定数とすれば、ディラック定数ℏはh/τ
- 角周波数など、「1周」で割ったりかけたりするものは、τに置換することによって係数2を省略できる。
- ただし、クーロン力定数のように、2πにさらに係数がかかっている場合、あまり手間は変わらない。
その他
- ガウス積分
- ∫(-∞→∞)exp(-ax²)dx=√(π/a)=√(τ/2a)
- ガンマ関数
- Γ(1/2)=√π=√(τ/2)
- 断面係数
- Z=2Z₀=πd³/32=τd³/64=τ(d/4)³=τ(r/2)³
- 断面二次極モーメント
- I₀=I/2=πd⁴/128=τd⁴/256=τ(d/4)⁴=τ(r/2)⁴
- 球面調和関数
- Yₙⁿ=(-1)⁽ᵐ⁺ˡᵐˡ⁾ᐟ²×√{(2n+1)/(4π) ×(n-|m|)!/(n+|m|)!}×Pₙˡᵐˡ(cosθ)exp(imφ)=(-1)⁽ᵐ⁺ˡᵐˡ⁾ᐟ²×√{(2n+1)/(2τ) ×(n-|m|)!/(n+|m|)!}×Pₙˡᵐˡ(cosθ)exp(imφ)
- 逆格子ベクトル
- |G|=2π/d=τ/d
- フーリエ変換
- ∫[f(x)e^(-2πixξ)dx, x, -∞, ∞]=∫[f(x)e^(-τixξ)dx, x, -∞, ∞]
- フーリエ逆変換
- ∫[f(x)e^(2πixξ)dξ, ξ, -∞, ∞]=∫[f(x)e^(τixξ)dξ, ξ, -∞, ∞]
- 自然数の無限積
1×2×3×4×5×6×7×8×…=√(2π)=√τ
- 素数の無限積
2×3×5×7×11×13×17×…=4π²=(2π)²=τ²
余談
プログラミング言語によっては標準でτが使える。
- C#(.NET Framework): Math.Tau(5.0から)
- Processing: TAU (3.0から)
- Python: math.tau(3.6から)
- RUST: Constant std::f32::consts::TAU、Constant std::f64::consts::TAU(ともに1.47.0から)