作品解説
「ベルサイユのばら」の爆発的ヒットの後、「おにいさまへ…」を挟みながら準備を進め、1975年に満を持して連載開始した、作者がライフワークと称する長編である。20世紀初頭のヨーロッパを舞台とし、3人の若者を中心に激動の時代を生きた人々を描く。
時代背景としては産業革命後に君主制・貴族社会が勢力を弱め、新しい技術が生まれ、資本を持つものが勝ち残っていく過渡期である。やがて日露戦争、第一次世界大戦、ロシア革命と世界を揺るがす時代の波の中で彼らは己の生き方を模索する。
本編は第一部~第四部に分かれる
このほかに外伝2編がある。
1980年 日本漫画家協会賞優秀賞受賞
1983年 宝塚歌劇団星組により舞台化
あらすじ
第一部:ドイツ・レーゲンスブルク(1903年~1905年)
1903年。ドイツ、バイエルンの古都レーゲンスブルクにある聖ゼバスチアン教会付属音楽学校に二人の転入生がやってくる。
ひとりは貧困層の出身でありながらピアノの天才を認められ、奨学金を得て転入してきたイザーク。もう一人は街一番の古い貴族であるアーレンスマイヤ家の御曹司ユリウス。
男子校である音楽学校の一角にある古ぼけた塔の窓「オルフェウスの窓」を介して出会った二人は、同学年で同じピアノ科に入ったことから早速友人となるが、その窓には「男性が窓に立って初めて視界に入った女性と恋に落ちる。しかしそれは悲劇に終わる」という伝説があった。そしてアーレンスマイヤ家の跡取り息子であるユリウスは、実はアーレンスマイヤ家当主アルフレートの妾であった母の野望により男として育てられた女子だった。ユリウスはまた別の日にオルフェウスの窓の下に出てしまい、そこでバイオリン科の上級生クラウスと出会ってしまう。
真実の姿を隠し学校生活を謳歌する一方、アーレンスマイヤ家の中でもユリウスは腹違いの二人の姉と財産を巡る反目の渦中にいた。アーレンスマイヤ家を探る国家警察の男、身辺に潜んでいたスパイ、幾度も生命を狙われるなどする中で、かつて情報機関に属していた父親が残した隠された謎に、ユリウスは挑んでいく・・・。
一方、イザークは学校一のバイオリンの腕を持つクラウスとパートナーを組むが、街で最も力のある新興実業家の息子モーリッツに才能を妬まれ、様々な妨害を受ける。ユリウス、クラウスや教師たちの協力を得ながら、やがてウィーンへの留学を薦められるまでに認められるが、モーリッツの対抗心から奨学金を断たれ学費もままならない状況に追い込まれていく・・・。
第二部:オーストリア・ウィーン(1906年~1920年)
1906年。家族・恩師・友・そして初恋を失ったレーゲンスブルクを離れ、ウィーン音楽院でデビューを目指すイザークは逗留先の親族の娘・アマーリエと出会い、ユリウスへの想いを振り切るように彼女に惹かれていく。ほぼ同時期に音楽院の作曲科の学生ラインハルトと知り合うが、彼はイザークの演奏に隠されたほんのわずかなタッチの違和感に気づく。
新しい恋や心の拠り所となる先達との邂逅、そして懐かしい故郷の人々との交流を経て、ようやくデビューしたイザークはたちまちヨーロッパの音楽界で名を上げていくのだが、世界は戦争への道を進み始めていた。
第三部:ロシア・サンクトペテルブルク(1893年~1917年)
時を遡り1893年。サンクトペテルブルクの名門貴族・ミハイロフ侯爵家に、亡くなった前当主の庶子・アレクセイが引き取られる。母を失ってから天涯孤独だった少年は、このロシアの帝都で厳しい祖母からは貴族の子弟としての教育を、異母兄ドミートリィからはバイオリンへの興味とかつて正義のために体制と闘ったデカブリスト達の誇り高さ・情熱を教えられる。
数年後、自由闊達に成長したアレクセイは兄の婚約者アルラウネと出会い、彼女の行動に振り回されるようになるが、その真意はアレクセイをドミートリィの同志として育て上げることだった。彼らは逮捕された反体制派の救出を企てるが、ドミートリィに嫉妬する者たちの密告によって失敗し、ドミートリィは逮捕・処刑され、アレクセイはアルラウネの故国ドイツに亡命する。
1905年春、日露戦争でロシアは敗色濃厚となっていた。前年にロシアへ密かに帰国していたアレクセイ達はヨーロッパ各地から帰国する仲間たちを迎え入れていた。
そんな混乱するサンクトペテルブルクにクラウス=アレクセイを探すためにドイツを発ったユリウスが一人到着するが、市街戦に巻き込まれて負傷。運び込まれたのは皇帝の側近である親衛隊隊長・ユスーポフ侯爵の屋敷であった。そこでお尋ね者のアレクセイの名を出してしまったためにユリウスは侯爵邸に軟禁されてしまう。
一方、ユリウスへの愛を振り切り革命家として己の選択した道を突き進もうとするアレクセイは1905年のモスクワ蜂起に参加する。
同じく侯爵家に生まれながら、皇帝を守る体制派の立場から国を守ろうとするユスーポフ侯と革命家として体制派を倒し国を生まれ変わらせようとするアレクセイを対比しながら、やがてロシアは第一次世界大戦と2度の革命を経てこの世になかった全く違う国へと変貌していく。
第四部:ドイツ・レーゲンスブルク(1923年)
第一次大戦後、指を故障したイザークは幼い息子を連れてウィーンからレーゲンスブルクに戻ってきた。
ユリウスも既にロシアから戻ってきていたが、記憶も感情も全てを失った状態となっていた。姉のマリア・バルバラはユリウスを迎え入れ、何とか記憶や精神状態を取り戻せないか奮闘する。
相談を受けたイザークが学生時代の先輩ダーヴィトの協力を得て動き出す中、ユリウスの身の回りに不穏な出来事が起こり始める。
ユリウスが反応したロシアに関する新聞記事を手掛かりに、ダーヴィトはかつてユリウスが調べていたアーレンスマイヤ家の秘密に近づいていくが・・・。
主人公たち
ユリウス・レオンハルト・フォン・アーレンスマイヤ
ドイツ、レーゲンスブルクの名家アーレンスマイヤ家の御曹司(のちに当主)。登場時15歳
前当主の妾であった母との間に生まれ、後妻となった母と共にアーレンスマイヤ家に迎えられた。唯一の男子として母違いの姉達と反目するが、実は財産相続のために性別を偽らされている。
聖ゼバスチアン教会付属音楽学校のピアノ科5年生として転入。(変声期を迎えていないことから)教会聖歌隊のソプラノに抜擢。また透けるような金髪を持つ「美少年」であることから、カーニバル恒例の音楽学校の出し物である「ニーベルンゲンの歌」でヒロイン、クリームヒルトに選ばれる。
幼少期から男として育ってきたため身のこなしや言葉遣いなどは完全に男子。喧嘩っ早く、同年代の男子と渡り合える頭の回転や機敏さを持つが、思春期に入り本人は徐々に体格や声などに二次性徴による差を感じており、心の奥では女子に戻りたいと思っている。
聖ゼバスチアンにある塔の古い窓「オルフェウスの窓」で同じ転入生のイザークと、また上級生であるクラウスと出会う。
イザーク・ゴッドヒルフ・ヴァイスハイト
ユリウスと同じ日に聖ゼバスチアン教会付属音楽学校のピアノ科5年生に転入。登場時15歳。貧困層出身であり、ピアノの才能を認められて教会からの奨学金を得た。両親は他界しており、フリデリーケという妹と暮らす。堅物で真面目な苦学生。
才能を認める教師たちの後押しにより学内演奏会でクラウスのパートナーとなるが、それまでピアノ科一番を自負していたモーリッツの嫉妬にあい様々な嫌がらせを受ける。
ユリウスやクラウスなど友人たち、教師たち、アルバイト先の人々など周囲の助けも得ながら、その才能を開花させていく。
ユリウスとは転入手続きの日に「オルフェウスの窓」で出会っており、やがて女性として惹かれていく。
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クラウス・フリードリヒ・ゾンマーシュミット (アレクセイ・ミハイロヴィチ・ミハイロフ)
聖ゼバスチアン教会付属音楽学校のバイオリン科7年生に在籍する上級生。登場時17歳。
イザークとの喧嘩にユリウスが加勢してきたことがきっかけで、2人と出会う。その後「オルフェウスの窓」でユリウスと再会するが、それが初めて窓から見下ろした女性であった。
寄宿生でバイオリン科では一番の奔放で天才的な腕を持つ。規則破りもするが下級生には兄貴気質で慕われており、上級生や教師達にも一目置かれている。
アルラウネという婚約者がおり長期休暇の際は行動を共にしているが、時々いるはずのないところで目撃されるなど謎の部分がある。
実はロシアからの亡命者で、革命家の兄の志を継ごうとしている。
その他登場人物(第一部)
アーレンスマイヤ家
レナーテ・フォン・アーレンスマイヤ
マリア・バルバラ・フォン・アーレンスマイヤ
アネロッテ・フォン・アーレンスマイヤ
アルフレート・フォン・アーレンスマイヤ
ヤーコプ・シュネーバーディンゲン
ゲルトルート・プランク
ゲルハルト・ヤーン
執事
イザーク周辺
フリデリーケ・ヴァイスハイト
ヴァイスハイト夫妻
カタリーナ・フォン・ブレンネル
セダン先生
ロベルタ・ブラウン
デアヴァルト
聖ゼバスチアン
ヘルマン・ヴィルクリヒ
ハインツ・フレンスドルフ
ダーヴィト・ラッセン
モーリッツ・カスパール・フォン・キッペンベルク
その他
ベルンハルト・ショルツ
ベッティーナ・ハンゼマン
ヨアヒム・シュワルツコッペン
国家警察の男
レオノーレ・フォン・ベーリンガー
ローゼンホーニヒ
その他登場人物(第二部)
その他登場人物(第三部)
ミハイロフ家関連
ユスーポフ家関連
革命家関連
その他登場人物(第四部)
関連作品
ゲストキャラとして、ユリウス・イザーク・クラウス・ヴィルクリヒが登場
関連イラスト
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