概要
レイ・ブラッドベリが、親友であり特撮マンであるレイ・ハリーハウゼンをモデルにして執筆したと思しき短編。
映像作家の主人公が、恐竜を題材とした特撮映像を注文する映画会社の横暴なプロデューサーに対し、とんでもないティラノサウルス・レックスの映像を撮影してしまう、という一編である。
内容
60年代、ハリウッド。
ジョン・ターウィリジャーは、人形アニメ映画の映像作家だった。映画会社の重役にしてプロデューサー、ジョー・クラレンスの映画会社の募集に応募し、恐竜ティラノサウルス・レックスが登場する短いフィルムを撮影し、映写室へと赴く。
恐竜が暴れまわる映像が、試写室に流れる。クラレンスは安い金額を提示し「悪くはないが、もうちょっとマシなのを作ってこい。嫌なら帰れ」と突き放した。
ターウィリジャーは新たに映像を撮り直し、数日後にクラレンスに持ってくる。
評価は上向きになったが、まだ完全なOKは貰えない。そしてクラレンスは、恐竜を気に入ったのか、「撮影に使用した恐竜のモデルを寄越せ」と言い出してきた。流石にそれは契約違反のために、断ったターウィリジャー。
だがクラレンスは、主役の恐竜であるティラノサウルス・レックスに対し、「こいつの外見に気概が足りない、ガッツやパンチを効かせろ」と言い出してきた。
それから一週間、新たな特撮映像は更によくなったが、まだクラレンスは「何かが足りない。最初からやり直せ」とリテイク。更に一週間後に提出した映像も、「惜しいな、いまいち。まだ物足りない。もう一度かかれ」とリテイク。
そして、ようやくOKが。クラレンスはパーフェクトだと絶賛したが、一緒にこのテスト映像を見ていた会社の老弁護士グラースは、映像内の恐竜に何かを感じていた。妙な『既視感』があったのだ。
とにもかくにも、ターウィリジャーのもとで恐竜映画の特撮シーンが撮影される事に。
そして、本格的に撮影が開始され、フィルムが半分以上完成すると、ラッシュ試写会が行われる事に。
だが、その試写会にて。ティラノサウルス・レックスが大暴れするシーンで、クラレンスは「そこで止めろ!」と言い放った。
画面内の恐竜を指し示し、クラレンスは叫んだ。
ターウィリジャーは自分でも知らぬ間に、とんでもないティラノサウルス・レックスを作り出してしまっていたのだ。
クラレンスはグラースを引きつれ「お前はクビだ。お前を告訴してやる」と息巻くが……。
解説
ブラッドベリが、親友のハリーハウゼンをモデルにして執筆したと言われている一編。
当時のハリウッドにて、特撮技術者や映像作家に対する横暴な経営陣に対する想いを、筆に乗せている。
1981年当時ブラッドベリは、ハリーハウゼンが特撮マンとして成功するまで
「たくさんの無責任かつ、無神経かつ軽薄、しかも常に独善的で、常にピント外れのプロデューサーに耐えなければならなかった」
と語っていた。
そしてそのプロデューサーの一人がハリーハウゼンを処遇したやり方には、腹に据えかね、自らの正気を取り戻さんと書いたのが「ティラノサウルス・レックス」だという。
横暴なプロデューサーの象徴的な人物・クラレンスに当初は翻弄されるターウィリジャーだが、ターウィリジャー自身も知らぬ間に復讐してしまっていた。だが、ある機転により、クラレンスもターウィリジャーも、納得する形でオチがつく。
そして、クラレンスは映画業界での恐竜=暴君竜たるティラノサウルス・レックスであり、そんな彼がティラノサウルスの映画を配給するという意味合いも兼ねている。
登場人物
- ジョン・ターウィリジャー
本編の主人公。優れた特撮マンで、恐竜の人形アニメの映像をクラレンスへと売り込んだ。それが気に入られ、何度かの撮り直しを経て正式に特撮を担当する。
恐竜の特撮映像を撮ること以外には興味が無いらしく、貯蓄はもちろん、家も無く結婚もしておらず、財産らしい財産は有していない。
クラレンスのうるさすぎる注文に辟易し、とんでもないティラノサウルスを作ってしまった(ただし、悪意はなく、気が付いたら作ってしまっていたらしい)。一度は腹に据えかねて、ティラノサウルスの口の動きを「卑猥な言葉を喋っている」ように動かしたらしい。
自分が作り出し、撮影に使用した恐竜のモデルには、愛情と思い入れを込めている。それ故に、他者へ譲る事はしていない。
- ジョゼフ・J・クラレンス
ターウィリジャーが特撮映像を売り込んだ、大手映画会社の重役でプロデューサー。小柄らしく、少年のようにも見える短躯の男らしい。横暴かつ傲慢で、常に命令口調で上から目線。ターウィリジャーの恐竜の映像を見て、自身の出資した特撮恐竜映画の特技監督に任命させる。
ただし、テスト映像を「自分がなんとなく気に入らないから」という理由だけで、何度もリテイクさせた。
ターウィリジャーの作った恐竜のモデルを、自分の所有物として譲らせようとする。
感情的で、自分がけなされると感じたら烈火のごとく怒り狂うが、口が上手い相手から言いくるめられると、それを信じ込んでしまう単純な所も存在する。若い頃は、俳優になる事が夢だったらしい。
- グラース
老弁護士。クラレンスとは長く一緒に仕事をしてきたらしい。クラレンスの仕事上における法律関係の仕事を一手に引き受けている。職業柄、様々な映画のラッシュ映像をクラレンスとともに何度も見続けていた。
クラレンスとは異なり、穏やかで機転が利く人物。やらかしてしまったターウィリジャーに助け舟を出し、クラレンスの怒りを収めさせた。
刑事と同じで、一度見た人物の顔を忘れずに覚える特技を有する。また、妻帯者で子供も何人かいる様子。