概要
物事の習得・学習を行なうには、その習得内容に関する一定の知識や経験、興味、そして心身の成熟といった素地が必要であり、これら条件をまとめて「レディネス」と呼ぶ。これが満たされない状態での訓練は効率が悪く、時にマイナス効果すら生んでしまうとされる。主な提唱者はアメリカの心理学者ゲゼルであり、彼は実験である一卵性の双子の赤ん坊に対し、片方には階段を上る訓練を多く施し、もう片方には先に練習を始めた方がある程度登れるようになってから訓練を施した。しかし、両者が階段を登れるようになった時期は後者のほうがむしろ早かったことから、「レディネス」が提唱されるに至った。
心理学において子供の学習は「成熟優位説」と「学習優位説」の二つの主な立場があり、レディネスは「成熟優位説」に基づいている。教育は早ければ早いほど良いとする「学習優位説」に対し、「成熟優位説」は一定の成熟(つまりレディネス)がなければ教育は無意味であるとした。この論理は過剰な早期教育に待ったをかけたが、消極的な「待ちの教育」を生み出す結果にも至ってしまった。また、一定以上の成熟があれば(つまりレディネスがあれば)年齢に関係なく効率的な学習ができるわけではなく、ある時期を過ぎてしまうと学習が困難、もしくはほぼ不可能になるものも存在するため、後に学習可能性と学習適時性を概念の中に取り入れる必要性に迫られることとなった。
現在においても「レディネス」という言葉は使われるが、ソ連の心理学者・レフ・ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」の提唱以後、それに対する解釈はやや異なってきている。「発達の最近接領域」とは、「自分ひとりでできること」の範囲と「一人ではできないが周囲の助けを借りればできること」の範囲の差の部分を意味する言葉であり、このズレの解消は周囲の環境や援助によって左右されるとした。そのため、現在は「成熟優位説」を前提として自然に形成されるのを待つことよりも、「学習優位説」に基づいて形成するための教育を行うことが重視されるようになってきている。