概要
事件を大勢が目撃していながら、「他の誰かが何とかするだろう」というもたれ合いにより誰一人動かない現象。
漫画『しあわせアフロ田中』第37話の火事シーンで爆発的に有名になり、多くのコラ画像が作られた。野次馬どころか家主までも「誰かがもう呼んでいるだろう」と消防車を呼ばず、怒号が虚しく響き渡る中、家は焼け落ちていく…。
そう!!! まだ消防車は来ないのだ!!! なぜなら!!!
誰も!!! 消防車を呼んでいないからである!!!
起源
作中でも触れられているが、元となった事件は全く笑えない。
1964年3月13日未明、ニューヨークでキティことキャサリン・ジェノヴィーズ(Catherine Susan Genovese)が執拗な暴行を受け殺害された。大勢の近隣住民が事件に気づいており、うち一人は窓から顔を出して犯人を怒鳴りつけたにもかかわらず、キティが死ぬまで誰も通報しなかった。この事件で傍観者効果が提唱され、以後社会心理学の常識となった。
なお犯人のウィンストン・モースリー(Winston Moseley)は強姦殺人の常習犯で、「なぜ人に見られたのに犯行を続行したのか?」という問いに「どうせすぐに窓を閉めて寝るとわかってたからな」と答えるなど、傍観者の心理を見透かしていた。その後モースリーは脱獄してまたも強姦事件を起こしたが、2017年に老衰死するまで「自分は更生した。世の中の役に立ちたいから保釈してくれ」と訴え続けたという。無論、信じる者は誰もいなかった。
何でこんなことが起きるの?
このようなことが起きるのは、現代の人間が思いやりを忘れ、他人に冷淡になったから……ではない。
この効果は心理学的に立証された、誰にでも起こりえる普遍的なものである。
具体的には、以下の三つの要素により起きるものとされている。火事を例に挙げて説明しよう。
1.多元的無知
他者が積極的に行動しないことによって、事態は緊急性を要しないと考えるためである。
火事が起きて家が燃え盛っているにもかかわらず、消防車のサイレンが一向に聞こえない。
「さすがに何かおかしい、もしかして呼ばれていないのでは」と思って周囲を見回すが……他の人は誰も騒いでいないのである。
すると、「もしかしておかしいと思っているのは自分だけで、単なる勘違いなのではないか」と思ってしまう。
かくして、その場にいる全員がおかしいと思いながらも、全員が勘違いかと誤認して行動できないという事態に陥ってしまうのである。
2.責任分散
他者と同調することで責任や非難が分散されると考えるためである。
人間の行動原理としては、正と負の二種類が考えられる。
負の行動原理とは、要するにそれをやらないことで責められたり責任を問われたりしたくないというものである。
自分だけが火事を見つけたとして、それを通報しなかったことが後でばれたらどうなるか?
もちろん社会的に非難されるのは間違いなく、それ故に見過ごすということはできなくなる。
しかし、見つけたのが100人だとしたら?
自分一人が責められるいわれは無くなるのである。
そのため、その分責任が軽くなり、行動が鈍ってしまうのだ。
例・『赤信号、みんなで渡れば怖くない』
3.評価懸念
行動を起こした時、その結果に対して周囲からのネガティブな評価を恐れるためである。
もちろん、人間の行動原理は負の理由だけではない。
純粋に他人を助けたいという気持ちだってもちろんある。
故に、火事を見た時に通報せねばと誰もが思うのである。
しかし、通報といってもどうやればいいのか?
電話をかけるのは簡単だが、上手く説明ができるだろうか?
もしかしたら説明に失敗して、到着が遅れてしまうかもしれない。
それどころか、いたずらと判断されて来るものも来なくなってしまうかもしれない。
いや、そもそも誰かがもう通報していて、消防署に余計な迷惑をかけてしまうかもしれない。
これだけ人がいるのだから、自分より上手く通報できる人がいるのではないか?
ならばその人に任せた方が、良い結果が出るのではなかろうか。
……と、その場にいる人間みんなが考えてしまい、行動に出なくなるのである。
以上のように、この現象は周囲に群衆がいるために起きるものである。
このため、周囲の人間が少ないと、この効果は起こりにくい。
また、群集とは違った位置づけにいる人にも起こりにくいことが知られている。
例えば警備員は、周囲に何人いようと見過ごせば自分の責任が問われるため、この効果を受けにくくなる。
また、その場に応じたプロ(火事場の消防士や急病人が出た時の医師など)は他の人より知識・経験が豊富という自負があるため、この効果を受けにくくなる。
どうすれば防げるの?
まずは何と言っても、この効果があることを知ることが重要である。
自分の行動が鈍った時に、この効果があることを知っているだけで、ある程度客観視ができるからだ。
次に、人助けをしようとしての失敗や通報の重複などは、基本的に罪に問われないことを知っておくこと、むしろ多角的な情報が得られるので対応しやすくなる(1番初めに通報したAさんは火事ということしか伝えられていたかったが、Bさんは「そういえば天麩羅をやるって言ってたぞ?」という情報から油火災である可能性が伝えられるし、Cさんは「出掛けるって言ってたから放火かもしれない」という情報を渡せたので警察にも情報共有が行く等)
無論重複情報は信憑性高と受け取られるし同件通報が多ければそれだけ大規模という認識にも伝わる、この様にイタズラでなければ一切デメリットがないのである
仮に自分より上手くやれる人がいたら途中で変わってくれるはずなので、思い切ってやって良い。
最後に、知識や経験を蓄えておくこと。
あらかじめ通報の際に伝えなくてはいけないことを予習しておいたり、応急処置の講習に参加したりしておけば、評価懸念の効果を受けにくくなるのである。
まさかの公式
本編
本編のジェネレーター
ちなみに
この傍観者効果によって大惨事になった例が現実世界の日本で発生している。
1973年に熊本市の百貨店であった大洋デパートで原因不明の出火によって瞬く間に燃え広がり、死者104人を出す大惨事となった。被害が大きくなった原因は増築工事をしながら営業をしており防火設備が機能しなかったのもさることながら、客は勿論店員も工事関係者も店内で火事を伝えたが肝心の消防への通報をまったくせず、第一通報者はデパートから火が噴出したのを見た向かい側にあった理髪店の店主であった。通報時点の様子だと店内ではかなり火が回っており、ここから消防が現場に到着するまでの時間も考慮すると残念ながら手遅れである。
当時は携帯電話がなかったのもあるが、燃え広がる前に無事1階から出れた人は公衆電話(当時は繁華街だと百メートル範囲内に数台はあった)や近隣店舗・住宅に駆け込んで知らせるなど通報できる状況であったにもかかわらず「誰も…消防車を呼んでいないのである!!!」を地で行くことをやってしまい、いつまでたっても消防車が来ない状況を不思議に思っていた。また、デパートには電話交換室があったが主任は上層部への連絡に追われ、そうこうしているうちに煙が交換室まで来てしまい、通報しないまま避難してしまったのも一因とされている。ちなみに大洋デパートは「主任を通じて消防へは通報した」と主張したが、消防機関の記録には一切残っていなかったことが判明している。
大洋デパートは火災翌年に営業を再開したが、補強工事で店が狭くなったことや火災のイメージを拭うことができず、1976年に倒産している。
関連タグ
連帯責任、彼らが最初共産主義者を攻撃したとき:傍観者効果の代償。
ロールシャッハ(『ウォッチメン』):キャサリン・ジェノヴィーズの暴行事件をヒーロー活動のきっかけとしている。
SCP_Foundation:傍観者効果をテーマとしたアイテム"SCP-668"が登場する。
逃走中:「対応しなければ不利だが、参加するかは自由」というタイプのミッションが課されるのだが、いずれかの逃走者は必ずといっていいほど「誰かがやるだろう」と零し参加を辞退する流れがある。ただし、「参加し成功すれば好感度アップ」という金には代えられない特典もあるためか、2022年1月現在、本当に誰も参加しないという事態は未だ発生していない。