概要
民族主義は特定の民族を中心とする政治思想。民族主義がよく国家主義と結び付くのは、民族的な共同体という概念と国家というシステムの親和性が高く、民族主義の理念から共通の利益のために民族を政治的に一つにしようとする運動が起こりやすいからである(国民国家)。
例えばナチス・ドイツは、汎ゲルマン主義と優生学に基づきゲルマン人の民族共同体としての一つの広大な国家を建設しようとした(大ゲルマン帝国)。また、ユーゴスラビアやオーストリア=ハンガリー帝国のように多民族によって形成される国家の場合、それぞれがそれぞれの民族主義を履行し民族自決を達成しようとするので、ユーゴ内戦やボスニア紛争など、いくつもの戦争が発生する悲惨な事態となったり、国家としてのまとまりを保ちにくいことが多い。特定の民族優遇策をとる多民族国家(フランコ独裁体制下のスペイン、ブミプトラ政策が敷かれたマレーシアなど)の場合は、優遇された民族の民族主義を支持基盤にするが、当然弾圧・冷遇される少数派側との対立が発生する。
愛国主義には patriotism の語があり、nationalism は民族の利益や主権の統一性を強調する語である(ナショナリズム)。ナポレオン戦争によるフランスの支配下では、ヨーロッパの各国民は民族主義を高揚させた。アジアにおいては、日露戦争での日本戦勝や1918年のウィルソン米大統領の十四か条の平和原則での民族自決原則で民族主義の高まりを見た。第二次世界大戦後には、多くのアジア・アフリカの国家が民族主義を高揚させて独立を果たした。
1960年代初頭にはアフリカ諸国の独立が相次いだために、アフリカの年とも呼ばれた。また、世界には国内に多民族を内包する国は多く、各地で少数派民族の独立運動が激化する場合がある。冷戦終結以降の欧州では地域主義や民族自決の推進などで、マケドニアやコソボなど小国が独立を志向する傾向が強まった。
特定民族による国家の形成・純化・拡大を主張し、対外的に自民族との差異と「優越性を主張」することがある。大国では、近隣諸国の自民族居住地域などの併合、少数民族にあっては分離独立や他民族の追放などを主張し、しばしば戦争や紛争が生じる。自民族居住地域が近隣にない場合も、領土を併合する前後において、被支配民族との近縁性・一体性を主張した。