概要
かわぐちかいじの漫画「ジパング」に登場する架空の航空機である。本作に登場する護衛艦「みらい」の艦載機の一つであり、偵察を主任務とする。
正式名称は「MV/SA-32J 多目的偏向翼機『海鳥』」である。
要目
名称 | MV/SA-32J 多目的偏向翼機『海鳥』 |
全長 | 12.1m |
全幅 | 13.7m |
胴体幅 | 2.3m |
全高 | 3.8m |
空虚重量 | 3.7t |
基本運用重量 | 5.1t |
最大運用重量 | 7.9t |
最大速力 | 450km/h |
最大出力 | 1800ps×2 |
固定武装 | m197 3砲身20mmバルカン砲×1 |
追加武装 | 対空・対艦・対戦車誘導弾 無誘導爆弾 電波妨害装置 赤外線前方監視装置 |
レーダー | FCS APG-73D |
乗員 | 2名 |
特徴
本機は海上自衛隊の護衛艦に搭載するために、主翼をピッチ方向に回転させることで推力を変更し、垂直離着陸を可能とするVTOL機として設計されている。設計・開発は、同じ垂直離着陸機である「オスプレイ」を開発したベル社と三菱重工が共同で行った。
全体的なシルエット(翼・エンジンの配置や尾翼形状)はオスプレイに似ているものの、かなりの小型化がなされており、コックピット周辺(ガンナー・パイロットの座席配置など)は攻撃ヘリコプター「AH-64」そのままである。
エンジンには整備性向上のために「SH-60J」と同型のT700-IHI-701Cターボシャフトエンジンを機体中央部の両側に装備している。ここから発生する動力を、翼内のプロペラシャフトを介して、主翼中央部の5枚可変ピッチプロペラに伝えており、最大で450km/hを発揮可能。
機首にはF/A-18と同型のFCSを装備し、対潜哨戒に加えて対艦・対空任務も行うことができる。
固定武装として3連装20mmバルカン砲をコックピット直下に配置している。これは「AH-1」と同じく、視認照準装置を用いた射撃を行うことができる。
機体中央下部にウェポンベイを備え、最大で2tまでの武装を懸架することができる(劇中ではみらいが空対艦・空対空兵器を保有していなかったからなのか、使用することは無かった)。
艦上での運用を可能とするため、着艦拘束装置「ベアトラップ」が搭載されている(なお、21世紀初頭の時点で海自はSH-60J採用に伴って着艦拘束装置をRASTに更新している)。
活躍
小笠原偵察任務にて初登場。乗員はパイロットの佐竹一尉とガンナーの森二尉。
佐竹の判断ミスで父島上空にて高度を落としてしまった際に、二式水戦二機と遭遇。戦闘中に二式の7.7mm機銃を被弾してしまい森二尉が殉職。その後、草加少佐の助言により二式水戦のフロートを打ち落とし、二機がバランスを崩している内に離脱した。
草加少佐をトラックへ送る際に出撃。パイロットは佐竹一尉、ガンナー席に草加少佐を乗せて飛行した。トラックへ到着した際に、草加少佐の意見で戦艦大和へ無断着艦をする。
ガダルカナルの戦いにて、草加は大和に格納されていた「海鳥」の無線で角松に語りかけ、自身の理想「ジパング」について話した。
「みらい」が空母「ワスプ」の攻撃を受けた際に、米艦隊の様子を偵察機すべく出撃。ガンナーは林原二尉、パイロットは佐竹一尉。米艦載機発艦の探知、トマホークの中間誘導を行った。
その後、米潜水艦の拿捕、夜間強行偵察などを行った。
ダンピール海峡で日本軍輸送船団護衛中、米爆撃機の攻撃に晒されたみらいに対し、CIWSの給弾の時間を稼ぐために出撃。反跳爆弾をバルカン砲で迎撃していたが、被弾により射撃不能に陥る。佐竹は林原を脱出させた後、爆撃からみらいを守るべく、海鳥諸共爆弾群に突入し殉職した(この際、彼の遺品であるヘルメットが偶然にも回収された)。
余談
この海鳥については一つの大きな疑問が浮かぶ。
それはズバリ……
「この海鳥の存在意義とは何か?」
……という問題である(こんなもの、軍事系フィクションに登場する兵器に問うのは野暮ってもんだが)。
艦載ヘリに与えられる任務とは主に「対潜哨戒」「輸送・連絡」「観測」である。当たり前だが、狭い艦上においてこれら任務を遂行する上で、ヘリコプターとは非常に有用なメカである。事実、みらいも海鳥以外にSH-60Jを搭載している。では、これを踏まえた上で海鳥が開発された理由とは……
残念なことに、単刀直入に言って海鳥」は「海上自衛隊が保有するにはあまり意味が無い機体」である。
まず「対潜哨戒任務」についてであるが、海鳥はこの任務を全くもって遂行することができない。要目にもある通り、海鳥には吊下式ソナーやソノブイ、短魚雷を装備できず、現代潜水艦相手には手も足も出せないのである。
続いて「輸送・連絡任務」である。輸送任務については言うまでもなく不向きである。連絡任務は実際にT-4が行っているように海鳥もできるだろうが、海上において連絡機の存在が有用であるかどうかは不明である。
最後に「観測任務」についてだが、陸上自衛隊には実際に観測ヘリコプター「OH-1」という機体が存在し、敵の情報を低空から収集し、それを攻撃ヘリや陸上攻撃部隊に伝える任務を担っている。がしかし、対水上レーダーが発展した海上での存在価値はほぼ無い。
このように、護衛艦に搭載するにはあまりにも残念な機体であるが、これはあくまで海上で運用した場合でありる。
陸上で運用するとしたらこの「海鳥」、相当有用なのである。実際に「海鳥」の持つ以下の装備や性能は陸上で扱うには強力な代物ばかりである。
・20mmバルカン砲、各種ミサイル、電波妨害装置、などの強力な兵装
・最大450km/hという高速力
・行動範囲400kmという航続距離
・FCSや赤外線前方監視装置などの偵察装備
忘れがちだが、そもそも「みらい」を始めとする第一護衛隊群が派遣されたのは「南米エクアドルでの争乱に伴う邦人の生命安全を守るため」……つまりは陸上戦闘が想定されていたのである。そうなれば、「みらい」が陸上戦闘特化型の「海鳥」を搭載していたのも納得がいく。
つまり「海鳥」の存在意義とは「遠方の国において邦人の安全確保が困難となった場合、陸上自衛隊に代わって出動する海上自衛隊の陸戦隊を援護するための局地戦闘航空機」だったのである。
「20世紀末におおすみ型輸送艦が竣工していたのだから、それを用いれば良かったのでは?」「陸上戦闘特化の航空機を海自が持つのってアリなのか?」「F-35Bみたく陸自管轄にできなかったのか?」などなどツッコミが聞こえてきそうだが…………結局は物語進行のためのスーパーメカなので、行き過ぎたツッコミは程々にしよう。