概要
1939年から、ドイツ海軍ではZ計画という計画が進んでいた。
これは戦艦6隻、空母2隻、重巡5隻、軽巡44隻などを建造してイギリスと同等の海軍を整備、1948年に完了させるという気の長い計画で、この計画と相前後して建造を決定したのがH級戦艦だった。
仮称艦名H、J、K、L、M、Nとして計画され、実際にHとJの2隻が起工された。 この二隻の艦名は多くの場合Hがフリードリヒ・デア・グローセ、Jがグロース・ドイッチュラントだったとされている。
しかし直後に第二次世界大戦が勃発し、直ちに戦力となる潜水艦の建造に全力を注ぐ必要が出てきたため、10月には工事中止、翌年には解体されてしまった。 K以降の戦艦も起工することなく建造中止になっている。
なお、その後も設計作業自体は続けられており、各種戦訓や占領したフランスの技術調査等を経て改良設計が毎年のように行われ、後日の戦艦建造再開に備えて各種の設計案が検討されていた。 設計年に応じてH40、H41、H42・・・というように呼ばれており、HとJもH39と呼ばれていたらしい。
スペック
H級戦艦を語る際に必ず話題になるのが、年を追うごとに膨れ上がっていったスペックだろう。
陸軍でさえ超重戦車マウス・E-100、陸上巡洋艦P1000ラーテやP1500モンスターのような常軌を逸した兵器が計画されたり、カール自走臼砲や80cm列車砲が実際に作られ運用されたりとぶっ飛んだ面があったが、じゃあ海軍の設計者たちはまともだったのかというとやっぱりそんな事なかった。
まずH39ことフリードリヒ・デア・グローセのスペックがこちら。
全長 | 277.8m |
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全幅 | 36.0m |
基準排水量 | 41,700t |
武装 |
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機関出力 | 165,000馬力 |
速力 | 30.0ノット |
お分かりいただけただろうか。
最初の計画の全長の時点で既にあの戦艦大和よりデカいのである。
武装こそビスマルク級の流用なので大和の方が上、排水量も上回っているが、機関出力は大和の153,553馬力を上回っている。おかげで予定速力も大和より速い。(武装としてはドイツですらこの船体にビスマルクから引き継いだ40,6cm砲が限界だったあたり、大和の46cm三連装砲搭載は逆にそっちのほうがおかしいともいえる)
これが二年後のH41になるとこうなる。
全長 | 282.0m |
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全幅 | 39.0m |
基準排水量 | 62,992t |
武装 |
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機関出力 | 165,000馬力 |
速力 | 28.8ノット |
全長が5m伸びて排水量が大和に並んだ。 そして主砲がデカくなった。
しかしこんなものはまだまだ序の口、翌年のH42はというと、
全長 | 305.0m |
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全幅 | 42.8m |
基準排水量 | 83,268t |
武装 |
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機関出力 | 280,000馬力 |
速力 | 32.2ノット |
全長300m越え、排水量はニミッツ級原子力空母に匹敵、機関出力もアイオワ級戦艦を軽く超え、主砲口径が大和を凌駕した。
独ソ最大の決戦、クルスクの戦いのあった43年の設計、H43は、
全長 | 330.0m |
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全幅 | 48.8m |
基準排水量 | 103,346t |
武装 |
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機関出力 | 280,000馬力 |
速力 | 31.0ノット |
排水量がニミッツ級を抜き去って10万tを超え、全長もニミッツ級に肩を並べた。 タンカーかな?
太平洋戦線でレイテ沖海戦があった44年、H44はというと、
全長 | 345.0m |
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全幅 | 51.5m |
基準排水量 | 122,047t |
武装 |
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機関出力 | 280,000馬力 |
速力 | 30.1ノット |
超大和型戦艦に匹敵する50.8cm砲を搭載、全長も排水量もニミッツ級を超えた。 もう何を仮想敵にしているのかわかったものではない。
そして、1945年にドイツが敗北するその日まで設計が続けられた、H45のスペックがこちら。
全長 | 609.6m |
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全幅 | 91.44m |
基準排水量 | 492,702t |
武装 |
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機関出力 | 498,735馬力 |
速力 | 30.0ノット |
まず一言。
お前は一体何と戦うつもりだったんだ。
全長600mの時点で既に船としておかしい。 何せ戦艦土佐に似てるところから軍艦島と呼ばれた端島の南北長ですら480m、つまりその辺の島よりデカいのだ。
基準排水量も約50万t、50万トン戦艦に肩を並べるレベルである。
そして最大のツッコミどころが武装。 お察しだろうが主砲は80cm列車砲を連装で艦砲にしてしまうというものである。 仮にスペックが同じだった場合射程は徹甲弾で38km、榴弾で48kmにもなる。
副砲はなし...かと思いきや、24cm重高角砲なんてものを搭載している。 その辺の重巡洋艦の主砲よりもデカい砲なので、やろうと思えばこれが副砲代わりになるだろう。(というかどう考えても初めからそれが目的である)
挙句の果てにこれだけデカい設計のくせして魚雷発射管まで載せている。 こんなデカブツで接近戦をする気だったのか?
これでは最早戦艦ではなく海上移動要塞といった方が正しい。 ちなみに装甲は艦舷で380mm、ターレット部分は660mmで相当堅い。
え? もしH45が出来てたらドイツは勝っていたのかって?
島ぐらい巨大な船に紳士の爆弾をぶつけるのは簡単だろうから、制空権が取れなかったらランカスター重爆撃機が殺到してお陀仏である。
戦艦は制空権があってこそなのだ。
関連タグ
ビスマルク級戦艦:前級。
50万トン戦艦:日本の机上の異母兄弟。 ちなみに太平洋の波の影響を受けない船の幅が91m、全長が609m、排水量が50万tになったのがこの艦の始まりで、そういう意味でも(武装以外の)スペックがH45と非常に似通っている。
超大和型戦艦・モンタナ級・ソビエツキー・ソユーズ級戦艦:日米ソで真面目に計画されていた、大和を超えるサイズの戦艦たち。