全天周囲モニター
リニアシートと併せて、第二世代モビルスーツの必須要項とされるMSコクピット周りを始めとする基本構造である。MSの操作性を劇的に向上させた。
本項ではこの「全天周囲モニター」と「リニアシート」を別個に解説する。
全天周囲モニター
「全天周モニター」あるいは「360度パネル」とも呼ばれる、グリプス戦役期からモビルスーツに本格採用された、コクピット・モニター方式。
球状(に近い)コクピット内壁をすべてモニターとし、パイロットの死角を無くす構造となっている。
一年戦争で稼働していたMSのモニターは、基本的に機体頭部のメインカメラから撮影された映像を、機体腹部に内蔵されたコクピット内の複数のコンソール(多くは3面)モニターにそのまま表示していた。つまり、モニター範囲外に死角が存在していたのはもちろんの事、パイロットが搭乗している位置と視点に差異が生じていたのである。
しかし、パイロットとインターフェイスを改善していく研究の途上で、固定されたモニター上に敵機を自動追尾する映像が表示されるよりも、その移動方向にパイロット自身が視点を巡らせることで視認する方が、MSの操縦においては絶対的に有利である事(機能的には当然ながら、任意ズーミングや追尾が可能であるとすること)が判明した。つまり、MS同士による戦闘は、彼我の位置関係が頻繁に変化しやすいため、感覚的にも「操縦する」というよりは「パイロット自身がその場に在って、敵機と直接戦闘している」と認識できた方が、生理的にもストレスが少ないと判断されたのである。
これを解消するため、地球連邦軍が一年戦争末期に開発したガンダムNT-1では、頭部メインカメラからだけでなく、機体各所に設置(内蔵)されたカメラによって撮影された周囲の映像を、上記のような球形モニターに隙間なく投影する方式の、プロトタイプが開発・採用された(が、本機は本格的に実戦へと投入される前に撃破されてしまっている)。またその後の宇宙世紀0083年においても、アナハイム・エレクトロニクスがロールアウトさせたガンダム試作3号機に同様のものが用いられている。
そして宇宙世紀0087年に地球連邦軍・アナハイム・エレクトロニクスがそれぞれ戦場へと投入したガンダムMk-Ⅱとリック・ディアスに、正式なシステムが導入されたのだった。
全天周囲モニターに表示されるのは、カメラで撮影された外界そのものではなく、それを元にコンピューターグラフィックスによって描画され直した画像である。
このCG画像は、腕部や脚部の陰になる位置の映像を“埋める”だけでなく、パイロットの戦闘判断に不必要な情報をカットし、敵機や作戦目標が認識しやすくしている。このほかにも、パイロットの恐怖心を抑えるために意図的に、あたかもゲームのようなチープさを感じさせる画像に変換してある(宇宙世紀における技術レベルは、当然ながら外界を完全再現する事は容易であり、実際に劇中世界では『現実そのもののようにリアルなMSシミュレーターゲーム』が家庭用ゲームとして販売されている)。
この他、パイロットの操縦補助として音声発振機能を有している。
MSという宇宙空間さえも行動領域に見据えた兵器の特性上、コクピット内は高度に外界から隔絶されており、完全防音となっている。また、宇宙空間では防音機能を搭載するまでもなく、“真空”という壁が接触体から発されるもの以外の音を完全に遮るため、本来はほぼ『無音』環境となる。
しかしながら、人間は周囲の状況を把握するために聴覚からも多くの情報を取り入れているため、コクピット内では操縦に伴うアポジモーターの「プシュン」という作動音や、CG画像処理に添った機動音(味方・敵機のスラスター音……近づいてくるものは大きく、遠のいていくものは小さく鳴る)が合成され、コクピット内に発振される。
演出
「全天周囲モニターに映っているのはCGである」という事を表現するため、[[]]以降の富野監督作品では実宇宙(MSと共に画面内に映る宇宙空間)と、モニター表示宇宙(パイロットと共に画面内に映る宇宙空間)の色彩を意図的に変えてある。
具体的には、実宇宙はダークブルー~黒に多段階のグラデーションをかけたもの、モニター表示宇宙はライトブルー一色または単純なグラデーションをかけて星々の数を極端に減らしたものが使用されている(映像の複雑さは、作品の製作年代および予算に依る)。このため、『機動戦士逆襲のシャアにおいてシャアがクェスをサザビーに受け入れるためや、『機動戦士Vガンダム』においてファラがザンネックから出るためにコクピットを開くシーンでは、コクピット搭乗口の部分のみ周囲(ライトブルーのモニター表示)よりも暗くなっている(実宇宙が見えている)。
また、全天周囲モニターの設定上はパイロットの視線外のモニターは非表示となるため、基本的には背後モニターは消えているはずだが、アニメーターにかかる負荷が大きいため常時宇宙空間が表示され続けている。
リニアシート
全天周囲モニターの後部(パイロットの臀部方向部)から伸びたア支柱によって、シートを支える機構。第二世代以降のMSの“乗り心地”を劇的に改善した。
一年戦争において運用されたMSのシートは、機体に直接据え付けられていた。しかし、MSの機動や格闘においてパイロットが被る加速や衝撃は旧世紀の戦闘機などの比ではなく、MS本体の損傷が軽微であっても機体内でパイロットが負傷した例が数多くあり、人間の搭乗する機動兵器としては、MSは「最悪の乗り心地」であった。
リニアシートを支える支柱には、機体を制御しているメインコンピュータとリアルタイムに連動するアクチュエータが内蔵されており、加えてこの支柱の基部は、コクピットブロックのリニアレール上に浮遊している構造となっている。これらが有機的に連動し、パイロットへの身体的な負担を激減させるのである。
更に、シートに対応した規格のパイロットスーツを着用していれば、スーツの腰部を中心に磁力のようなものでシートに対して固定されるため、シートベルトなどが不要となった。
逆に言えば、第二世代MS以降はパイロットスーツを着用しなければ衝撃対策が不十分となる事を意味しており、シーブックやウッソは劇中序盤に私服でMSに搭乗した際、「(パイロット)スーツがないと、身体が固定されないか……」と口にしている。