アナザーはな
あなざーはな
概要
『HUGっと!プリキュア』の終盤となる第46話で、ジョージ・クライが野乃はなに未来の世界が辿る悲劇を語るシーンがあるのだが、その時にジョージの脳裏に一瞬だけ自分の過去の思い出がフラッシュバックするシーンがある。
そこで映し出されたのは、ジョージに柔らかな笑顔を送る野乃はなに似た女性の姿であった。年齢は本編中のはなよリも大人で、前髪の形が異なっている。
ジョージはこの女性に対して強い思い入れを持っているが、何らかの形で別離してしまったようだ。ジョージが「世界の時間を止める」という凶行に取り憑かれたのも、彼女との思い出を永遠にしたいがゆえである様子。
これについての詳細はジョージ・クライの項目を参照。
作中ではこの女性の正体については最後まで明言されなかったが、視聴者からは別の歴史を辿ったパラレルワールドのはなではないかとの推測が放映直後からされていた。
そして『アニメージュ』2019年2月号で、キャラクターデザイナーの川村敏江女史から、この女性はこちらの状態で成長したはなの姿であり、本編中のはなとは別の世界線の未来の姿だと明言された。また、「はぐたんがこの世界線の鍵になっている感じ」「(はぐたんが来なかったらはなは)違う人生を歩んでいたのかな」との記述もある。
このことから、この女性は「第一話ではぐたんと出会わなかった場合の野乃はな」が大人になった姿であるようだ。
この「別の歴史を辿ったはな」の姿を描いたイラストへのタグとして作られたのがアナザーはなタグである。
もちろん、これは本編の主人公である野乃はなから見てアナザーという意味であり、ジョージからすればこの前髪が伸びているはなこそが『野乃はな』であり、本編の主人公である野乃はなの方がアナザーであろう。
人物像
姿がワンカットしか出てこない女性の人物像なんてわかるわけがない……のだが、実はある程度推測可能なヒントは作中に散りばめられている。
未来人であるジョージが未来史をを語るとき、多くの場合は「ある少女の物語」として語る。そしてジョージは、本編の主人公である中学生の野乃はなを「ある少女」と重ねて見ている様子が常に垣間見える。
このため「ある少女」とはジョージの世界における野乃はな、つまりアナザーはなと推測できる。
(ただし、作中で「ある少女」が誰なのかは最後までジョージは明言を避けている)
この「ある少女」については、ジョージの語る物語からそれなりの人物像がうかがえる。
まず、この少女は、輝く未来を信じ、みんなが幸せな未来を掴めればいいと願い続けていたことが示されている。
そういうと本編の野乃はなと同じであるが、本編の野乃はなが「みんなが自分で未来を掴めるように応援したい」というスタンスであるのに対し、アナザーはなは「わたしの力でみんなに幸せな未来を作ってあげたい」とより積極的なスタンスでいたようだ。
「ある少女」と本編のはなとの決定的な違いに、プリキュアの剣の存在がある。
ジョージの語る物語では「剣は”何も持たない少女”を選んだ」としている。一方、本編中のはながさあややほまれといった仲間、そしてはぐたんという愛しい娘をすでに得ていた時点で「何も持たない少女」ではなかったことも注意すべきだろう。
逆に言えば、第一話ではぐたんとの出会いがなかったアナザーはなは、さあややほまれと友人になることもなかったと言える。(はなが2人と出会うのは、はぐたんの声を追いかけたためである)
とにかく「ある少女」はプリキュアの剣に選ばれた。ということは、プリキュアとなったのだろう。
つまり、アナザーはなははぐたんとの出会いとは関係なく、「剣」に選ばれてプリキュアとなったようだ。
そして、”花咲き乱れる理想の王国”の実現を目指して、光を失いつつある世界を救うために民衆と共に戦い続けた。そして少女はその剣で世界を切り開き、革命していった。
ジョージはその姿をドラクロワの絵画『民衆を導く自由の女神』に例えている。
こうして人類の英雄となった少女が大人になったとき、ついに万人に夢と希望と笑顔が溢れる理想郷を実現させた。
だが楽園を手にした人類は急速に堕落してしまう。ひとつの夢が叶えばそのまた次へと。明日への希望は欲望へと変わり、人々は身の丈に合わぬ望みを持つようになり、そしてそれが得られないことに我慢できなくなる。その飢えと渇望がトゲパワワとなって世界をじわじわと覆っていき、王国は崩壊していった。
王国が狂って行く中で少女がどうなったかははっきりしない。ジョージの語る物語で少女が出てくるのは王国が建国されるまでなのである。
だから、少女はその身を犠牲にすることで王国を実現させたのではないかとも考えられるが、このあたりは不明。
ジョージは「人々はまっすぐに理想を語る少女のことを嘲笑い、やがて異端として排除しようとしした」と鬱エンドを思わせる言葉も述べている。
この王国は「未来を司る女神・マザー」なる存在によって守られていたとのことなので、もしかすると「人の身では不可能な理想ばかり言って民衆から異端とされた少女」が、人であることを捨て女神に昇華したことで、理想の王国を実現させたのかも知れない。
前髪について
本編のはなの前髪は斜めぱっつんとも言える独特のものだが、この女性の前髪はふんわり斜めに流した前髪である。だがこの「ふんわり斜めに流した前髪」とは、本編第1話の冒頭ではなが「超イケてる大人のお姉さん」のイメージとして妄想していたものなのである。
この第1話で、ふんわり斜めに流した前髪にヘアカットするつもりが失敗して斜めぱっつんになってしまったが、ほまれがこの髪型を「イケてる」と褒めてくれたため、その斜めぱっつんの前髪を自分の個性として貫くことにしたのだ。
つまり、このアナザーはなは、「第1話よりも前」の時点ではなが理想としていた大人の姿と全く同じなのである。
そして、はなが前髪を伸ばしているということは、はなが前髪を自分の個性として認めるというイベントが起こらなかったということである。
このイベントがないということは、はなはほまれやさあやとの出会いがなかったということだ。3人が出会えたのは、3人ともがはぐたんの鳴き声を追って屋上へ向かったという縁からである。
上述の川村氏へのインタビュー記事では、アナサーはなははぐたんとの出会いがなかったと明言している。はぐたんは「アナサーはなが作り出した理想の王国」からやってきたので、その王国を作り出すアナザーはなと出会うことはタイムパラドックスとなる。だから、はぐたんが未来から現れた時点で、本編主人公である『野乃はな』はアナザーはなとは異なる歴史を辿ることになったのだろう。
また、本編の物語においては、はなが前髪を自分の個性として認めることが自己肯定を獲得する最初のきっかけとなっている。
野乃はなは元気でお茶目な女の子だが、その心の奥は強い劣等感に苛まれていることは本編中でも示唆されている。彼女は心を苛むほどのいじめ体験を経てもなお、他人を嫌うことができず自分が悪かったのではと悩むような性格なのだ。そういう負の側面が普段は表立っては出なかったのは、さあややほまれが自分の良さを認めてくれたからというそのことに尽きる。
逆に言えば、そういう友との出会いを持てなかったアナザーはなは、自己肯定ができないままだったのかも知れない。
自分に自信が持てずに、他人を恨むようなこともできない。ならばできることは「誰かのために頑張ること」くらいしかない。いわゆるところのメサイアコンプレックスである。
だからアナザーはなは、世界を救うための「英雄」にならざるを得なかったのかも知れない。