概要
代役専門俳優で泥棒の七色いんこを主人公とする物語。「週刊少年チャンピオン」で連載され、後に稲垣吾郎主演で舞台化された。各話のサブタイトルは戯曲や小説から取られており、それを下敷きにしたストーリーが展開される。
登場キャラクター
七色いんこ
本作の主人公。代役専門の俳優で、出演料は受け取らないが、代わりに客席の金持ちから金目の物を盗み取る。観客の誰も代役に気づかないほどの演技力を見せるが、当人はモノマネに過ぎないと語る。普段はおかっぱのカツラにサングラスという格好。変装の達人であり、カツラやサングラスの下にある素顔すらも変装とされており、本当の彼の姿は謎に包まれている。アニメ化はされていないが、手塚スターシステムで他作品のアニメに登場した際には、富山敬や子安武人が声を担当した。
物語の終幕において自身が書き連ねた『自伝』において彼がいかにして演劇の世界に足を踏み入れ七色いんこが誕生したか描かれた。
そして、彼の行動の本当の目的とは…?
演劇に関しては並々ならぬ情熱を持っており、自らの演技力に自信は持ってはいるが、時には演劇界の名優の迫真の演技力を目の当たりにした時は弟子入りまで考えたことも。
警視庁捜査二課の女性刑事。泥棒であるいんこを追うが、次第に惹かれていく。大の鳥アレルギーで、鳥を見ると体が縮んでしまう。学生時代は有名なスケバンで、刑事となってからも格闘や拳銃の名人。
実は彼女にはある人物の人生をも一変させた隠された過去があった。当然、彼女は知らなかったのである。いんこのアジトを漁った時に出てきた「いんこの自伝」を目にするまでは…
玉サブロー
ある出会いにより、いんこの相棒となった犬。優れた知能や演技力を持ち、盗みの手伝いをこなすが、トラブルを起こすこともしばしば。
番外編ではいんこの元をどのようにして離れたのかは不明であるが、野良犬同然となっている。
だが、彼にはとてつもない冒険の旅が待ち受けていた。
鍬潟隆介
いくつもの会社の会長社長職を兼務し、政財界とも太いパイプを持つ、日本政財界の黒幕(フィクサー)「政界のキング」とも称される男。その男手ひとつ力にモノを言わせて自らがトップを務める企業群を帝国と呼ばれるまでに築き上げた立身出世に関しては、贈賄に裏社会との繋がりや国際的な裏取引など、かなりドス黒い噂もつきまとう。まさに清濁を併せ呑んで現在の地位に就いた本作屈指の大悪党。
その良くも悪くも「漢の浪漫」を地で行く来歴からも、非常に強権的な性格の持ち主で「自らが思い通りにならない事はなく、一時的に障害が起ころうとも全て叩き潰して意のままにしてきた」と豪語するレベル。その愛情も支配欲の発露で現れるため、おおよそ身内に対してもそのような関わりしか持てない人物。
しかし、そんな彼をもってしても、思い通りにできなかったのが、米国留学中に蒸発し死亡したとされる息子の陽介であり、現在でも息子への執着は並大抵ではない。(しかし息子への関わりに関しては、なぜ我が子が蒸発したのかという事に理解が及ばず、当然の事ながら後悔などもするはずはなく、むしろ「馬鹿な子ほど可愛い」「まだ子どもなのだから、きちんと教育すれば解る」という考えで、ぶっちゃけ毒親以外の何者でもない)そのために、一度は自社開発の自動運転車のテストダミードライバーの顔をコンピュータ合成で予測させた息子の顔にしている。(ちなみに、この自動運転車はAIのプログラムミスによって積極的に人間を跳ねる殺人カーと化した)
なぜか、いんことは因縁深いらしき描写があり、いんこは彼に苦悩を与える事を人生の目的のひとつとしているフシがある。
男谷マモル
万里子の見合い相手として登場した青年。
心優しく折り目正しい青年で、万里子の仕事にも理解を示す。
アメリカをはじめとした外国において複数の大学で心理関係の博士号を多数取得したエリート。
ただし、そのインテリゆえに万里子からは毛嫌いされる羽目に陥るも、それすらも大らかに受け入れる大した度量の持ち主。普通に考えたなら「結婚相手としては超優良物件」の青年ともいえる。
ただ、その容姿は鍬潟隆介の息子である陽介(の成長予測シミュレーションによって描かれたモンタージュ画像)に瓜二つであり、また時には「いんこが男谷に変装している」らしき描写も時折あり、その存在には謎と影がつきまとっている。
ピエロのトミー
いんこの命の恩人であると同時に演劇の師匠。アメリカの裏寂れた小さな劇場でセリフがなく動きだけで演技するパントマイム役者。普段からピエロのメイクを外す事なく素顔は修業中のいんこでさえも同居の間は知らなかった。演劇の厳しさと奥深さを徹底して叩き込み、いんこを役者として育て上げた。いんこの芸名を与えたのも彼である。
だが、ある舞台で自身の人生を狂わせた者への復讐を込めたパントマイム劇の後に非業の死を遂げ、その生き様はいんこの心に深く刻まれその後の役者人生に大きく影響を与えた。
最終章「終幕」で判明する登場人物
ネタバレがあります!
終幕の人物(ネタバレ)
鍬潟陽介(くわがたようすけ)
日本の財界のドンこと鍬潟隆介の子息。子供の頃に富豪の家庭に生まれるも窮屈な生活に嫌気を持ち、密かな楽しみとして秘密の場所としていた空き家にあった衣装で様々な人物に変装しては他人に自分だと気付かれない事を喜びとしていたが、父が雇った家庭教師によってその楽しみさえ奪われる。しかし、家庭教師を彼なりの手段で追放した。
年頃になり、朝霞モモ子という少女と心を通わせる仲となるもその幸せな日々は長くは続かなかった。
彼女の父親が新聞記者であり、鍬潟隆介に纏わる黒い噂を追っていたが鍬潟の雇った鷹匠によってモモ子並びにモモ子の両親は交通事故を装った暗殺で帰らぬ人となった・・・。
そして鍬潟親子はついに親子関係がこれにより悪化してしまい、陽介は強制的に渡米させられる。その後陽介のアメリカでの消息は不明となってしまった。
・・・いつしか彼は寒波を襲ったアメリカの裏路地で倒れていた。そして彼を助けたのはパントマイム役者のピエロ。そう、あのいんこの師匠であるトミーである。
七色いんこの正体こそこの鍬潟陽介だった。師のピエロのカツラを被り、舞台で務めた陽介の悪役の象徴である小道具のサングラスを付けた姿が七色いんことしての役者人生が始まったのである。
師との悲劇の別れを経て帰国。自ら、父の悪事を暴き、その帝国を崩壊させ、父の犠牲となった人々の魂を弔い、その悲劇に報いる事こそが、あのトミーの弟子として自らがやるべき事であると定めた。
そのための調査過程の中で、陽介は実はあのモモ子が生きていた事を知る事となる。記憶を失ったまま成長したモモ子に陽介はいんこを含む様々な者に変装し度々接触を試み、いんこの姿では父・隆介に対する復讐を遂げる為に泥棒稼業を行いつつある計画を進めていた。
ある時は男谷マモルという青年になり、モモ子の養父と接触して信頼を得る事に成功し、またある時は男谷としても万里子の前に現れて関わりを持とうと努めた。
第一の計画は無事に果たしたが、その次の計画で彼の本当の戦いが始まる。泥棒稼業で稼いだ全財産を費やして隆介の悪事を白日の元に晒すための復讐の手段としてのパントマイム劇「鍬潟の悪魔」・・・それはかつてトミーが生涯最後の舞台としたのと同様の暴露劇である。千里刑事の協力で万が一の事に備えてはいるものの、七色いんこの命懸けの舞台が幕を上げるところでこの物語は終わる。その後、どうなったのかは明らかにされずに物語は終幕を迎えた。
朝霞モモ子
陽介のガールフレンドであり、心を通わせる仲であったが事故に見せかけた暗殺に巻き込まれ死んだと思われたが…実は生存していた。しかし、事故の影響でモモ子としての人格や記憶を失っていた。
時が経ち千里万里子として第二の人生を送っていた彼女は思わぬ形で失われた過去を目の当たりにする。
アジトに潜入して発見したいんこの自伝を読み進めた万里子はモモ子に関する記述で自身の本当の名前と過去、陽介とは昔から繋がりがあった事を知る。当然、彼女は信じられなかった。
いんこの自伝はいんこの正体である陽介の過去だけではなく、モモ子の失われた過去を綴ったものだった。
そして、いんこは荒療治だがかつての事故を再現させるショック療法を行う事によりついに彼女の記憶が蘇っていく。彼女がよく知る七色いんこは目の前で変装を解いていき男谷マモルの姿を経て本当の正体である鍬潟陽介の姿を現す事で完全に記憶を取り戻したのだった。
自分の鳥アレルギーの特異体質の正体は事故に見せかけた殺害計画の手段である鷹に車を襲われる状況がショックとして強く残ってしまったが為である。背が縮むと当時の体格に戻ってしまっているのはそのせいである。
全てを思い出した後、陽介が命懸けの舞台へ向かう後ろ姿を舞台袖からの彼女の視点でラストとなる。